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事務所に入って三ヶ月、憧れていた職場は何もかもが新鮮で楽しくて、この日も匠は残業をしていた。
大学の頃からからこの事務所に入りたいと思っていた。在学中には二級建築士の資格を取ることが出来なくて、二年アルバイトしながら勉強し、ようやく就職試験を受けることが出来て、さらに採用して貰えた。
匠にとっては、本当に一日全てを仕事に使ってもいいと思うくらい、充実していたのだ。
この日も時間は既に夜の十一時、他に残っているのは克彦だけという日だった。
作りつけの収納のデザインを克彦から任された匠は、はりきってパソコンに考えたデザインを描いていた。その作業が中盤に差し掛かった頃、突然オフィスのドアが乱暴に開き、一人の男が大股で歩きながら入ってきた。
その音に驚いて顔を上げた匠は、男の顔を見て更に驚いた。
「……哲《てつ》、どうしたの……?」
匠は立ち上がり、男に近づいた。その人は、当時の匠の恋人だった。少し甘えたがりで、それでも自分をいつも引っ張ってくれるそんな人だった。
「どうしたのじゃねえよ! お前、ふざけんなよ、オレが帰るまでに家にいるって約束、何度破んだよ!」
そう言うと哲は、匠の髪を掴んで引いた。
哲は少し……ほんの少しだけやきもち焼きで、強引なだけなんだ――こんなことを日常的にされても、その頃の匠はそう思っていた。今冷静に考えれば、これは立派にDVなのだが、それは認めたくなかったのだと思う。
「ごめん……でも、俺、仕事してたんだし……」
「仕事なら約束破ってもいいってのかよ」
空いている手で今度は胸倉を掴まれる。匠はそれでも、ごめん、と謝った。
「ご飯、作れなかったからだよね……ごめん。明日から、ちゃんと哲との時間大事にするから、今度の休みは絶対、哲と過ごすから」
きっと哲は寂しいだけなんだ、こんなふうに不安で乗り込んでくるくらい自分を愛してくれているんだ――そう思った次の瞬間、哲からため息が零れた。
「お前は飯作って部屋の掃除して家政婦になってりゃいいんだよ。何、恋人気取ってんだよ、バーカ」
哲の吐いた言葉には、優しさなんかひとつもなかった。匠はそれを受け止めきれなくて、でも、と言葉を返す。
「俺のこと必要って……」
「愛美、あいつの飯くそまずいし、片付けとか超ヘタだからな。体は最高なのによ。だから、オレが生活するためにお前が要るんだよ」
「愛美って、誰……?」
初めて聞く名前に匠の意識が零れそうになる。でもまだダメだ。話は終わっていないと思い、匠は両足に力を入れた。
「お前に話すとうるせーからな。彼女だよ、まあそのうち結婚とかすんじゃね? お前、当然連れてくから――心配すんな、お前の相手もしてやっからよ」
わかったら帰るぞ、と哲は匠の胸倉を引き寄せ、歩き出した。
「そんなの、できない……!」
できるはずがない。哲と彼女がいる場所で自分は家事をして、慰め程度に哲に相手をされるなんて考えられない。そんな惨めな毎日なんか送れるはずがない。
「あ? できないじゃねえよ、やるんだよ! オレのこと好きなんだろ? 愛してるんだろ? この間も言ってたよな、ベッドで」
極プライベートな時間に告げたことを口にされ、匠の頬が染まる。
「でも……」
「でもじゃねえんだよ!」
哲の拳が飛んでくるのが見えて、匠は目を閉じた。すぐに手が出るのはいつものことだ。自分がワガママや、どうしようもないことを言うから殴られるのだ。哲は悪くない――この頃の匠はそう思っていたし、ぐっと奥歯を噛み締めれば、軽症で済むことも知っていた。
全身に力を入れ拳を待ったが、しばらくしても衝撃が来ない。おそるおそる目を開くと、拳を止めている克彦の背中が見えた。
「悪いな。目の前で部下が殴られるところを黙って見ていられるタチではなくて」
克彦はそう言うと力を抜いたらしい哲の拳から手を離した。
「これはオレとコイツの話だ、おっさんは引っ込んでな」
「そうはいかないだろう。大体、まだおっさんという歳でもない。訂正してもらおうか」
克彦がそう言うと、哲は露骨に面倒そうな顔を見せた。それから、もういいや、と口を開いた。
「もうウチ帰ってこなくていいから、匠」
「帰ってこなくてって……あそこは俺の部屋だし……」
「うっせーな、オレも住んでんだよ、オレは引っ越す気はねえよ」
「どういう、こと?」
匠の心臓がばくばくと大きく鳴る。最悪の言葉を告げられる予感はしていた。それでも怖くて匠は唇を噛み締める。
「もう要らないって言ってんだよ。うぜーの嫌いなんだよ。じゃあな」
「じゃあって……哲!」
匠が哲の背中を追いかける。それでも大きく手を払われてしまっては、それ以上追いかけることは出来なくて、匠はその場に崩れるように座り込んでしまった。
「うそ……ふられ、た……?」
あんなに毎日尽くしていたのに。嫌なことも我慢したのに。大事にしてきたのに……自分は大事にされていなかった――そう思うと、匠の目にあっという間に涙が溢れてきてしまった。
「すまない」
そんな匠の背中に、短い言葉が掛かる。克彦の沈んだ声に匠は振り返り、かぶりを振った。
「市原主任のせいじゃありません。これは俺が……悪かっただけで……」
「君と彼がどんな毎日を過ごしていたのかはわからない。けれど、何があっても恋人を殴るのだけは最低だ」
克彦はそう言うと、匠に手を差し出した。それを掴み立ち上がると、そのまま克彦が自分の体を抱きしめてくれた。哲と付き合っていても、こんなふうに抱きしめてくれることなんてなかった。ただ温かく優しい体温が心地よくて嬉しくて、匠は目を閉じた。額に柔らかなキスが落ちる。
「……主任は同性同士の恋愛に寛容なんですね」
哲のことも自然に対応し、こうして自分を慰めてくれる克彦が、匠には不思議に思えた。普通、こんなに優しく出来る人なんて少ないだろう。
「自分でも不思議に思っているんだよ」
克彦の言葉に匠は首を傾げる。そんな匠に克彦は笑んで口を開いた。
「……仕事の締め切りまで時間はある。今日はもう、上がろうか」
克彦の言葉に匠は小さく頷いた。
それから一緒に酒を飲みに行って、気づいたらホテルのベッドの上で、それでも匠は、いいか、と思ってしまった。好きとか嫌いとかそういう感情よりも、この時はただ優しい人に寄りかかっていたいと思ってしまったのだ。
大学の頃からからこの事務所に入りたいと思っていた。在学中には二級建築士の資格を取ることが出来なくて、二年アルバイトしながら勉強し、ようやく就職試験を受けることが出来て、さらに採用して貰えた。
匠にとっては、本当に一日全てを仕事に使ってもいいと思うくらい、充実していたのだ。
この日も時間は既に夜の十一時、他に残っているのは克彦だけという日だった。
作りつけの収納のデザインを克彦から任された匠は、はりきってパソコンに考えたデザインを描いていた。その作業が中盤に差し掛かった頃、突然オフィスのドアが乱暴に開き、一人の男が大股で歩きながら入ってきた。
その音に驚いて顔を上げた匠は、男の顔を見て更に驚いた。
「……哲《てつ》、どうしたの……?」
匠は立ち上がり、男に近づいた。その人は、当時の匠の恋人だった。少し甘えたがりで、それでも自分をいつも引っ張ってくれるそんな人だった。
「どうしたのじゃねえよ! お前、ふざけんなよ、オレが帰るまでに家にいるって約束、何度破んだよ!」
そう言うと哲は、匠の髪を掴んで引いた。
哲は少し……ほんの少しだけやきもち焼きで、強引なだけなんだ――こんなことを日常的にされても、その頃の匠はそう思っていた。今冷静に考えれば、これは立派にDVなのだが、それは認めたくなかったのだと思う。
「ごめん……でも、俺、仕事してたんだし……」
「仕事なら約束破ってもいいってのかよ」
空いている手で今度は胸倉を掴まれる。匠はそれでも、ごめん、と謝った。
「ご飯、作れなかったからだよね……ごめん。明日から、ちゃんと哲との時間大事にするから、今度の休みは絶対、哲と過ごすから」
きっと哲は寂しいだけなんだ、こんなふうに不安で乗り込んでくるくらい自分を愛してくれているんだ――そう思った次の瞬間、哲からため息が零れた。
「お前は飯作って部屋の掃除して家政婦になってりゃいいんだよ。何、恋人気取ってんだよ、バーカ」
哲の吐いた言葉には、優しさなんかひとつもなかった。匠はそれを受け止めきれなくて、でも、と言葉を返す。
「俺のこと必要って……」
「愛美、あいつの飯くそまずいし、片付けとか超ヘタだからな。体は最高なのによ。だから、オレが生活するためにお前が要るんだよ」
「愛美って、誰……?」
初めて聞く名前に匠の意識が零れそうになる。でもまだダメだ。話は終わっていないと思い、匠は両足に力を入れた。
「お前に話すとうるせーからな。彼女だよ、まあそのうち結婚とかすんじゃね? お前、当然連れてくから――心配すんな、お前の相手もしてやっからよ」
わかったら帰るぞ、と哲は匠の胸倉を引き寄せ、歩き出した。
「そんなの、できない……!」
できるはずがない。哲と彼女がいる場所で自分は家事をして、慰め程度に哲に相手をされるなんて考えられない。そんな惨めな毎日なんか送れるはずがない。
「あ? できないじゃねえよ、やるんだよ! オレのこと好きなんだろ? 愛してるんだろ? この間も言ってたよな、ベッドで」
極プライベートな時間に告げたことを口にされ、匠の頬が染まる。
「でも……」
「でもじゃねえんだよ!」
哲の拳が飛んでくるのが見えて、匠は目を閉じた。すぐに手が出るのはいつものことだ。自分がワガママや、どうしようもないことを言うから殴られるのだ。哲は悪くない――この頃の匠はそう思っていたし、ぐっと奥歯を噛み締めれば、軽症で済むことも知っていた。
全身に力を入れ拳を待ったが、しばらくしても衝撃が来ない。おそるおそる目を開くと、拳を止めている克彦の背中が見えた。
「悪いな。目の前で部下が殴られるところを黙って見ていられるタチではなくて」
克彦はそう言うと力を抜いたらしい哲の拳から手を離した。
「これはオレとコイツの話だ、おっさんは引っ込んでな」
「そうはいかないだろう。大体、まだおっさんという歳でもない。訂正してもらおうか」
克彦がそう言うと、哲は露骨に面倒そうな顔を見せた。それから、もういいや、と口を開いた。
「もうウチ帰ってこなくていいから、匠」
「帰ってこなくてって……あそこは俺の部屋だし……」
「うっせーな、オレも住んでんだよ、オレは引っ越す気はねえよ」
「どういう、こと?」
匠の心臓がばくばくと大きく鳴る。最悪の言葉を告げられる予感はしていた。それでも怖くて匠は唇を噛み締める。
「もう要らないって言ってんだよ。うぜーの嫌いなんだよ。じゃあな」
「じゃあって……哲!」
匠が哲の背中を追いかける。それでも大きく手を払われてしまっては、それ以上追いかけることは出来なくて、匠はその場に崩れるように座り込んでしまった。
「うそ……ふられ、た……?」
あんなに毎日尽くしていたのに。嫌なことも我慢したのに。大事にしてきたのに……自分は大事にされていなかった――そう思うと、匠の目にあっという間に涙が溢れてきてしまった。
「すまない」
そんな匠の背中に、短い言葉が掛かる。克彦の沈んだ声に匠は振り返り、かぶりを振った。
「市原主任のせいじゃありません。これは俺が……悪かっただけで……」
「君と彼がどんな毎日を過ごしていたのかはわからない。けれど、何があっても恋人を殴るのだけは最低だ」
克彦はそう言うと、匠に手を差し出した。それを掴み立ち上がると、そのまま克彦が自分の体を抱きしめてくれた。哲と付き合っていても、こんなふうに抱きしめてくれることなんてなかった。ただ温かく優しい体温が心地よくて嬉しくて、匠は目を閉じた。額に柔らかなキスが落ちる。
「……主任は同性同士の恋愛に寛容なんですね」
哲のことも自然に対応し、こうして自分を慰めてくれる克彦が、匠には不思議に思えた。普通、こんなに優しく出来る人なんて少ないだろう。
「自分でも不思議に思っているんだよ」
克彦の言葉に匠は首を傾げる。そんな匠に克彦は笑んで口を開いた。
「……仕事の締め切りまで時間はある。今日はもう、上がろうか」
克彦の言葉に匠は小さく頷いた。
それから一緒に酒を飲みに行って、気づいたらホテルのベッドの上で、それでも匠は、いいか、と思ってしまった。好きとか嫌いとかそういう感情よりも、この時はただ優しい人に寄りかかっていたいと思ってしまったのだ。
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