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しおりを挟む最後のエスプレッソのカップが空になる頃、ごちそうさまでした、と満足そうに波音が向かい側を見つめた。
「たっくん、また連れて来てね」
「もちろん、波音ちゃんのお供ならいくらでも。じゃあ、ここからは別れた方がいいかな?」
少し悪戯めいた目で波音の客が隣を見やる。黛はそれに頷いた。
「お前の方で払っておいてくれ。後日清算する。僕は、碧くんを送って行くよ」
黛が立ち上がり、碧に手を差し伸べる。
「もう遅い時間だから、近くまで送るよ」
碧は黛を見上げ、おずおずと手を差し出した。黛がそれを掴む。
碧が立ち上がると、波音が嬉しそうにこちらを見上げて、今度話聞かせてね、と微笑む。波音はこのまま黛と碧が付き合い出せばいいと思っているのだろう。確かに黛は碧にはもったいないくらいの人ではある。
「行こうか、碧くん」
黛がそのまま手を引いて店の入口へと歩き出した。
碧がその振る舞いに動揺しているうちに、クロークに預けていたカバンと上着を代わりに受け取ってくれて、上着を肩に掛けてくれる。こんなに姫扱いされたことはなくて碧は少し戸惑いながら、ありがとうございます、とカバンを受け取った。
「ここから碧くんの家は遠いのかな?」
タクシーの方がいいかな、と店を出る。
「そうですね。この時間なら乗り継ぐ電車も微妙ですし」
もう十一時を過ぎている。ここから駅に向かって、その後乗り継いで、と考えるとタクシーの方が早い。
「……それか、俺と一晩過ごす気はないかな?」
黛の言葉に驚いて碧がその顔を見上げる。真剣な目は、一晩だけの付き合いというものではないと告げている。
「ちょっと気が早いと自分でも分かってるから、碧くんが嫌なら手は出さない。でももし、少しでも僕に興味を持ってくれたなら、僕と居てほしい」
帰したくない、と黛の手が碧に触れる直前だった。
「碧」
自分を呼ぶ声が響いて驚いて碧が振り返る。そこには知温が立っていた。
予想もしていなかったことに、碧はじっと知温を見やった。
「梶田くん……どうして、ここに……」
「昨日ここに来るって聞いたから。出てくるの待ってた」
知温がこちらに近づく。当然のように黛が怪訝な顔をして知温の前に立ちはだかった。
黛から見れば、知温は突然現れた不審者だ。
「碧くん、彼は?」
「えっと……同僚です。今、同じ店で働いていて……」
元カレ、という程の関係でもない。たった2ヶ月ほど弄ばれただけの関係に名前なんてないのだろう。
「そんな人が、何か? 悪いけど今は邪魔しないで貰えるかな?」
見てわかるだろう、と黛が碧の肩を抱き寄せる。それを見た知温が気色ばんだ顔を見せ、口を開いた。
「碧、俺……」
「知くん!」
知温が碧に何か伝えようとしたところに後ろから声が響いた。顔を上げると、そこには優菜が立っている。そういえば今日は優菜とデートだと言っていた。優菜も楽しみにしていたはずだ。一緒にいて当然だろう。
走ってここまで来たらしい優菜が息を切らせ、こちらに近づく。
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