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しおりを挟む「え? お腹が変ってどんな感じ?」
その日の夜、優と部屋に帰った明は昼からの体の不調を優に話した。
昼休みに結局あまり食事を食べられなかったのに、午後になっても体が重くて、腹部の奥がなんとなく熱い気がしてあまり仕事も進まなかった。
狐高は明の不調を察したのか、終わらないなら仕方ないです、と優と共に帰してくれたのだが、それは夜になっても続いていて、夕飯を残してしまったのだ。こんなことは明には珍しいことだ。
「痛いとかじゃなくて、熱いっていうか重いっていうか……とにかく変なんです」
「そうか……今日はもう片付けとかはいいから、シャワーを浴びて寝てしまうといい。辛くなったら言いなさい。病院へ連れて行くから」
優はそう言うと、明を柔らかく抱き寄せ、ゆっくりと背中を擦ってくれた。それだけで不思議と症状が和らぐ。
「優さん……もう少し、こうしててください」
「いいよ。じゃあもう、一緒に横になろうか。明が眠るまで、傍に居るよ」
優はそう言うと、するりと明の体を抱え上げた。そのまま寝室へと歩き出す。
「ありがとう、優さん……大好き」
明は優の首筋に腕を廻し、その肩に頬をすり寄せた。体の不調なんて滅多にないから少し弱気になっていたのだろう。優の傍に居ると安心して呼吸が出来る気がする。
「慣れない仕事で疲れが出たんだろう。明日は休みで構わないよ」
優が明をベッドに丁寧に下ろしながらそう言う。明はそれに首を振った。
「優さんと居たいから、行く」
「俺も半休とって早く帰るから」
明の隣に潜り込み、明を抱き寄せた優が子どもを諭すように言う。それでも明は首を振った。
「ずっと一緒がいい……」
優の胸に顔を埋め深く呼吸をする。優の香りがして、明はゆっくりと目を閉じた。
俺もだよ、と聞こえた気がしたけれど、明の意識は泥の様な眠りの中へと落ちて行ってしまった。
翌朝も明の調子はよくはなかった。けれど仕事を休めない優と一緒に居るには出勤した方がいい。
「おはよう、明。調子はどう?」
既に出勤の準備が出来ている優がキッチンからそう声を掛けた。明は腹に力を入れてから、おはよう、と優に笑顔を向けた。
「きっともう大丈夫です。ぼくも着替えて来ますね」
「そう……準備ができたら朝食にしよう」
それに笑顔のまま頷いて、明は再び寝室へと戻る。くらくらとめまいがして、明はベッドに縋る様に座り込んだ。体に力が入らない。
「何これ……」
自分の体なのに上手く動いてくれない。こんなことは初めてで、明はそれに動揺しながら、それでもなんとか朝の準備を終えて、優と家を出た。
「今日は昼で帰ってそのまま病院に行くから、そのつもりで仕事していて」
助手席に明を乗せ、車を運転する優は、そう明に言い放った。出かける準備は出来たものの、朝食は一口も食べられず、玄関でもふらついたのだから仕方ない。休みたくないという明の気持ちを汲んでくれたのだから、ここは優の言う通りにするべきだろう。
隣では既に狐高と電話をしている仕事モードの優がいる。スケジュールの調整の話をしているその姿を見ると、胸が痛い。
優を幸せにしたくて傍に居るのに、これでは迷惑なままだ。それが辛い。
「明、今日は資料のデータ化だけでいいと狐高が言っている。休みながらやるといい」
電話を終えた優が前を見たまま言う。また気を遣わせてしまったと思うと、なんだか悲しくて、腹の奥の気持ち悪さが増すようだった。
「ごめんなさい、優さん……」
「謝ることはない。それよりも明が心配だよ。無理はしないで欲しい」
優の左手が伸び、明の頭を撫でていく。明はその温かくて大きな手が嬉しくて、素直に頷いた。
「やっぱり、優さんは優しい」
「え? 何だ、突然」
明の言葉に優が小さく笑う。明はその横顔を見つめ、言葉を繋いだ。
「……冷酷社長って、聞いたんです」
「ああ……社員にでも聞いたか? まあ、その通りだよ」
「そんなことないです! 優さんは優しいです!」
「ありがとう、明。明がそう思ってくれているなら、それでいいよ」
優はそれだけ言うと、明の頭をもう一度撫でてから黙って運転に集中してしまい、明にはこれ以上何も言うことが出来なかった。
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