恋するうさぎは溺愛社長と番いたい

藤吉めぐみ

文字の大きさ
41 / 61

7-4

しおりを挟む

「え? お腹が変ってどんな感じ?」
 その日の夜、優と部屋に帰った明は昼からの体の不調を優に話した。
 昼休みに結局あまり食事を食べられなかったのに、午後になっても体が重くて、腹部の奥がなんとなく熱い気がしてあまり仕事も進まなかった。
 狐高は明の不調を察したのか、終わらないなら仕方ないです、と優と共に帰してくれたのだが、それは夜になっても続いていて、夕飯を残してしまったのだ。こんなことは明には珍しいことだ。
「痛いとかじゃなくて、熱いっていうか重いっていうか……とにかく変なんです」
「そうか……今日はもう片付けとかはいいから、シャワーを浴びて寝てしまうといい。辛くなったら言いなさい。病院へ連れて行くから」
 優はそう言うと、明を柔らかく抱き寄せ、ゆっくりと背中を擦ってくれた。それだけで不思議と症状が和らぐ。
「優さん……もう少し、こうしててください」
「いいよ。じゃあもう、一緒に横になろうか。明が眠るまで、傍に居るよ」
 優はそう言うと、するりと明の体を抱え上げた。そのまま寝室へと歩き出す。
「ありがとう、優さん……大好き」
 明は優の首筋に腕を廻し、その肩に頬をすり寄せた。体の不調なんて滅多にないから少し弱気になっていたのだろう。優の傍に居ると安心して呼吸が出来る気がする。
「慣れない仕事で疲れが出たんだろう。明日は休みで構わないよ」
 優が明をベッドに丁寧に下ろしながらそう言う。明はそれに首を振った。
「優さんと居たいから、行く」
「俺も半休とって早く帰るから」
 明の隣に潜り込み、明を抱き寄せた優が子どもを諭すように言う。それでも明は首を振った。
「ずっと一緒がいい……」
 優の胸に顔を埋め深く呼吸をする。優の香りがして、明はゆっくりと目を閉じた。
 俺もだよ、と聞こえた気がしたけれど、明の意識は泥の様な眠りの中へと落ちて行ってしまった。


 翌朝も明の調子はよくはなかった。けれど仕事を休めない優と一緒に居るには出勤した方がいい。
「おはよう、明。調子はどう?」
 既に出勤の準備が出来ている優がキッチンからそう声を掛けた。明は腹に力を入れてから、おはよう、と優に笑顔を向けた。
「きっともう大丈夫です。ぼくも着替えて来ますね」
「そう……準備ができたら朝食にしよう」
 それに笑顔のまま頷いて、明は再び寝室へと戻る。くらくらとめまいがして、明はベッドに縋る様に座り込んだ。体に力が入らない。
「何これ……」
 自分の体なのに上手く動いてくれない。こんなことは初めてで、明はそれに動揺しながら、それでもなんとか朝の準備を終えて、優と家を出た。
「今日は昼で帰ってそのまま病院に行くから、そのつもりで仕事していて」
 助手席に明を乗せ、車を運転する優は、そう明に言い放った。出かける準備は出来たものの、朝食は一口も食べられず、玄関でもふらついたのだから仕方ない。休みたくないという明の気持ちを汲んでくれたのだから、ここは優の言う通りにするべきだろう。
 隣では既に狐高と電話をしている仕事モードの優がいる。スケジュールの調整の話をしているその姿を見ると、胸が痛い。
 優を幸せにしたくて傍に居るのに、これでは迷惑なままだ。それが辛い。
「明、今日は資料のデータ化だけでいいと狐高が言っている。休みながらやるといい」
 電話を終えた優が前を見たまま言う。また気を遣わせてしまったと思うと、なんだか悲しくて、腹の奥の気持ち悪さが増すようだった。
「ごめんなさい、優さん……」
「謝ることはない。それよりも明が心配だよ。無理はしないで欲しい」
 優の左手が伸び、明の頭を撫でていく。明はその温かくて大きな手が嬉しくて、素直に頷いた。
「やっぱり、優さんは優しい」
「え? 何だ、突然」
 明の言葉に優が小さく笑う。明はその横顔を見つめ、言葉を繋いだ。
「……冷酷社長って、聞いたんです」
「ああ……社員にでも聞いたか? まあ、その通りだよ」
「そんなことないです! 優さんは優しいです!」
「ありがとう、明。明がそう思ってくれているなら、それでいいよ」
 優はそれだけ言うと、明の頭をもう一度撫でてから黙って運転に集中してしまい、明にはこれ以上何も言うことが出来なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。 ----------------------------------------- 0時,6時,12時,18時に2話ずつ更新

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

処理中です...