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しおりを挟む父の車、そして優の車と乗り継ぎ家に戻って来た明は大きく息を吐きながらソファに沈み込んだ。その瞬間にどっと疲れが出たのか、体が重くなる。
「疲れただろう、明。今日はゆっくり休んでいなさい」
家に着くとすぐにシャワーを浴びに行った優が、新しいシャツに腕を通しながら言う。その様子を見ていた明は首を傾げた。
「優さんは?」
「仕事に行ってくるよ。昨日一日狐高に任せきりだったし……なるべく早く戻るつもりだ」
しゅるりとネクタイを結び、明の傍に寄った優が明の頭を撫でる。明はそんな優を見上げ心配で眉を下げた。
「優さんこそ、疲れてるのに……」
横になることもないまま一晩過ごしたのだ、疲れているに決まっている。
「俺も片づけなければいけない仕事だけしてくる。帰ったらゆっくり食事をして二人で眠ろう」
行ってくるよ、と優は明の額にキスを落としてからきびすを返し、部屋を出て行った。それを見送ってから明はそのままソファに横になる。
「ここに帰って来れてよかった……」
櫂に閉じ込められた時は、ここにはもう戻れないかもしれないと思った。でもこうして二人で帰ってきて、両親の承諾は得ることが出来た。櫂は認めてはくれなかったけど、父の言う通り、これから二人で櫂に認めさせればいいことだ。もう、一人で怯えなくてもいいのだ。
そう思うと、明は今自分がとても幸せだと感じた。
「あ、累兄にメッセージ送らなきゃ」
戻って来たことと、両親は認めてくれたこと、それを早く累に言いたくて、明は体を起こした。その時だった。
インターホンの音が響いて、明は立ち上がった。こんな朝早くに訪ねて来る人は居ないだろうし、明が誘拐まがいのことをされて以来、優は来客は出なくていいと言っている。それでも気になって明はモニターを覗いた。映っていたのは累だった。
「累兄?」
『明? 戻ってたか。ちょっと朝飯がてら、話しないか?』
累の言葉を聞いて、きっと明が村に戻った時のことを知っているのだろうと察した。でなければこんなタイミングで話をしようなんて言うはずがない。
「うん。そこで待ってて」
明はそう答えるとソファに掛けたままだった上着を手に、玄関へと向かった。
「母さんから聞いた。父さん、認めてくれたって?」
「うん……優さんのおかげ」
マンションの近くのファミレスに入り、テーブルを挟んで座ると、累は優しい顔で明に聞いた。明はその言葉にほっとして笑顔で頷く。
「母さん、優さんのこと、気に入ったみたいだな」
母さんメンクイだしな、と累がため息を吐く。それを見て明は、違うよ、と唇を尖らせた。
「母さんは、優さんのやさしいところと、覚悟を見てくれたんだよ」
今朝、父から聞いた言葉を思い出して累にそう言い返す。挨拶なんかしなくても、家族に認められなくても勝手に番えるのに村にまで足を運んだこと、上等なスーツもブランド靴ももう二度と使えないものになっていたのにそれを厭わずに来てくれたことを父と母は評価してくれたのだ。
「まあ、優さんがカッコいいのは間違いないけど」
明が答えると、累が笑う。
「仲が良いようで結構なことだよ。あ、そうだ。それで、こっちで暮らすなら仕事をするだろう? 明」
累がそう話題を変える。明は頷いた。
こちらに来た目的は番を見つけるのもそうだが、生活の基盤である仕事をするためでもあった。
「それで、櫂と話をしたんだ。うちの店の裏方で働かないか? 店の掃除と衣装の管理とか……できるようになったら、酒の注文管理も任せてもいいって櫂が言ってた」
これなら明でもできるだろ、と言われ、明は首を傾げた。
確かに仕事は必要だ。優の番になるとはいえ、自立した一人の大人になりたいのは変わっていない。優がどこにでも自慢できるパートナーになりたいと以前より強く思うのだ。
「……優さんと相談してみるね」
「そうだな。いい返事、待ってる」
累に言われ、明は笑顔で頷いた。
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