恋するうさぎは溺愛社長と番いたい

藤吉めぐみ

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 その日の夜、ただいま、と優の声がして、明は慌ててソファから立ち上がった。一人で家事をすることも、昼間のテレビを眺めることにも慣れてきたけれど、やっぱり優が帰ってくると嬉しい。
 明が玄関まで行くと、優はもう一度、ただいま、と明に微笑みかける。
「おかえりなさい、優さん」
 ただいま、おかえり。
 村に居る時は、家族と当たり前に交わしていた挨拶だというのに、優と交わすそれは、心の奥がふんわりと温かくなるような気がした。
「今日はカレー? ようやくカレーが一番失敗しないって気づいたか」
 笑いながらリビングに向かう優の後ろを歩きながら、明は曖昧に頷いた。
「今、用意しますね」
「ああ、ありがとう」
 優が寝室に着替えに行っている間に、明はキッチンへと向かった。累が作ったキーマカレーを皿によそう。見た目も良く、きっと味も美味しいそれを、明は出したくなくて、トレーに乗せたカレーをじっと見つめてしまう。
「明くん?」
 そんな明に、寝室から出てきた優が声を掛ける。明はその声に顔を上げ、なんでもない、とかぶりを振って笑顔を作った。
「へえ、キーマか。楽しみだな」
 優がダイニングチェアに着いたのを見計らって、明が目の前に皿を置く。嬉しそうな優の笑顔は、ずっと見たかったものなのに、明の気持ちは全然晴れなかった。
 優がカレーを口に運ぶ。その様子を明はテーブルを挟んで向かい側に座り、見守っていた。
 きっと美味しいと言われてしまう。もういいよ、これで貸し借りは何もない、そう言われてしまう。
 そんな気持ちで優を見ていたせいか、優がカレーを食べてすぐにこちらを見やった。
 その目が冷たい。
 どういうことか、と明は不安なまま優を見つめた。
「……そんなに出ていきたいなら、そう言って構わない」
 優のその言葉に、明は首を傾げた。それを見て、優がため息を吐く。
「これ、明くんが作ったものじゃないだろう? そのくらい、俺にだって分かる。こんな……誰かの手を使ってまで出ていきたいのなら、いつでも出て行っていい」
 優はそう言うと、静かにスプーンを置いて立ち上がった。
 優にそう言われ、明は初めて自分がしたことの意味を理解した。確かに優の言う通りの意味に取られてもおかしくない。
 明は慌てて立ち上がり、叫んだ。
「違う!」
 けれどその言葉に優は反応を見せず、リビングを出ていこうとする。明はその背中に思い切って抱きついた。
「違うんです……累のところに行かなきゃ……ぼく、村に連れ戻されちゃうから……でも、優さんと、居たくて……ご飯、美味しいの、食べて欲しくて……」
 言いたいことがたくさんありすぎて、言葉がまとまらないまま、明は優の背中に話した。そうしているうちに、涙が零れてきて、更に言葉は出なくなる。
「……もっと、優さんと居たいよ……」
 明がそう言ったその時だった。優が明の体を引きはがし、次の瞬間には、ぎゅっと抱きしめた。その驚きで明の耳がぴょこん、とうさぎの形になる。
 ただ抱きしめられているだけなのに、ぐんぐんと体温が上がっている気がした。いつもの優の香りを嗅ぐだけで、とろりと溶けそうな気分になる。
「明くん……随分熱いけど……」
 優が明の体の異変に気付き、そう問いかけて抱きしめる手を緩める。背中を撫でる手を感じただけで、明の体はびくりと過剰に反応した。心地良くて、めまいがする。
「明くん……その……当たってるんだが……」
 優が控えめに言うその言葉に、明が足元に視線を向ける。自分の股間部分がふっくらしていることに気付いて明は慌てた。
「あ、ど……しよ……優さん……」
 明だって男の子だ。自分で処理することだって何度もあった。けれど、今はそれまでとは全然違うもので、気持ちいいことがすごく怖く感じてしまう。自分のものに触れたら、自分じゃなくなってしまうのではないかと思うくらい、体が熱くておかしい。
「どうしよう、と言われても……」
「怖い……ぼくの体……溶けちゃう……」
 初めての熱に、明はどうしたらいいか分からなくなり、泣き出してしまう。体の一番奥に大きな熱の塊が眠っているのに、それを上手く外側に吐き出せなくて熱くて苦しい、そんな感じたことのない感覚がとにかく怖かった。
「……明くん……後で泣くなよ」
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