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エピローグ
しおりを挟む寄せては返す波の音が常にする小さな町は、夜になると本当に海に包まれているような感覚になる。これまで過ごしていた街から比べて静かすぎるとは思うが、千沙樹にとってはとても落ち着く場所だった。
とはいえ、これが都会だとしても隣に彼が居れば千沙樹にとっては幸せな場所に変わりは無い。
海沿いの道から石段を少し上がった先の小さな一軒家。それが、今の千沙樹とミチの住まいだった。
「充瑠さん、ただいまですー。やっぱり僕この仕事向いてないですー」
玄関のドアを開け千沙樹が部屋に入る。ソファに座っていたミチがそれを見て立ち上がり優しい笑みを浮かべた。
「おかえり、千沙樹。それは半年前からおれがずっと言ってることだ」
両腕を広げたミチの胸に、千沙樹は素直に収まり、その背中に腕を廻す。
死神になったあの日から千沙樹も仕事をするようになった。ミチに倣い、優しく穏やかに送ろうと頑張っているが、そう全てが上手くいく訳ではない。
今日もさんざん罵られた上に、最後は一緒にこちらに移動してきたシマに手伝ってもらい、バッサリと送って貰ってしまった。
「そうなんですけどー……でも、こうやって充瑠さんが甘やかしてくれるから頑張ります」
今千沙樹はミチのことを人間だった時の名前で呼んでいる。仕事の時は『ミチ』『サキ』と呼び合っているので、プライベートとの切り替えにしようとミチが提案した。ミチのことを充瑠と呼べるのは自分だけだと思うと千沙樹はそれだけで嬉しかった。
「……カフェオレ、飲むか?」
少しだけ体を離したミチが千沙樹の頬を撫でながら微笑む。千沙樹はそれに笑顔で頷いた。
「少し甘めでお願いします」
「いいよ。それを飲んだら風呂に入ってゆっくり休もう」
明日も仕事があるよ、とミチが千沙樹の傍を離れキッチンへ向かう。千沙樹はその後を追い、その背中に抱きついた。
「千沙樹、この仕事に就いてから、随分甘えたになったんじゃないか?」
言葉は迷惑そうだが、千沙樹を振り解いたりせずにお湯を沸かし始めたミチがちらりと振り返る。
「充瑠さんが甘やかすからじゃないですか?」
「……そうかもな。もう少し厳しくしようか?」
言いながらミチがこちらを向き、優しく千沙樹を抱き寄せる。千沙樹はそれに、嫌です、と首を振った。
「生きてる間に出来なかったこと、全部今取り戻そうと思っているので」
「受け止めるのはおれだけか」
くく、と小さな笑い声が聞こえて千沙樹が顔を上げる。少し重いとでも思われたかとその様子を窺うと、優しいキスが額に落ちてきた。
「悪くないな。千沙樹を受け止めるのはおれだけって」
「そうですよ。充瑠さんしかいないんです」
今一緒に居るのはミチしかいない、というだけではなくて、千沙樹の願いを叶えられるのはミチだけだと、ミチもすぐに理解してくれたのだろう。ミチが千沙樹に微笑みかける。
「だったらもっと甘やかしてやる。カフェオレは後だ」
ミチがコンロの火を止め、千沙樹の体を抱え上げる。驚いた千沙樹がミチの肩に腕を廻すと、ミチが嬉しそうに笑って、愛してるよ、と真っすぐな目を向けた。
それに千沙樹が同じ様に笑い、ミチにこちらからキスをする。
「僕も愛してます。文字通り、永遠に、です」
おしまい
最後までありがとうございました!
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完結お疲れ様です。
不慮の事故で死んでしまったけれど残された家族を思う千沙樹はほんとに心優しいと思いました。そんな彼が死神、ミチと出会いゆっくり育まれていく感情がとてもピュアでした。したくても出来なかったこと、初めてのこと、それらをミチと叶えていく。ミチも辛い過去がありましたが千沙樹と共に生き直していくように感じました。死後の世界、切ないようだけど純真さが心をあたたかくしてくれるお話でした。
ありがとうございます!
ゆーちさん、最後までありがとう❣️
テーマが重くて、書いてる自分も悩みながら進めてたけど読んで貰えて嬉しいです!
千沙樹はあまり恵まれた人生ではなかったけど、その後に幸せな出会いがあって、今までを取り返して欲しいなと。
それはゆーちさんが言うようにミチも一緒で、今度こそ大事な人と生きていくことが出来るんじゃないかなと思ってる🫶
いつも優しい感想ありがとう!
とても力になったよ!
ミチさんも離れたくないって思ったんだね。前と同じことは繰り返したくないって臆病になったけど好きな気持ちの方が大きかったね。よかった!
未練になっちゃうようなトラウマはどうしても臆病にさせてしまうよね。
きっと相手が千沙樹だからミチも前に進めてるのかなと思うよ。
次はミチが気持ちを話す番だよ!
このままお別れは寂しいね。どうなるんだろう。続きが気になるよー。
千沙樹は自分の気持ちを自覚して伝えて、後悔のないように頑張ったけど、ミチの方は後悔ないのかな?って感じだよね。
ミチの答えを千沙樹と一緒に待ってて!