27 / 38
9-1
しおりを挟む翌日の昼、玄関へ向かうミチの背中を追いかける千沙樹が不機嫌に口を開いた。
「今日も置いていくつもりですか?」
「当然だ。もう死神になることもないのだから現場見学も要らないだろう。もうここは本当に安全な場所になったのだから、ここで残りの時間をゆっくり過ごすといい」
「もう残り少ないから、ミチさんと居たいんですけど」
「……おれを心残りにするな」
ミチはそれだけ言うと、玄関ドアを開け出掛けて行った。
「心残りにされたくないなら、連れていってくれればいいのに」
ミチと過ごせる時間は有限だというのなら、めいっぱい一緒に居たい。けれど、ミチは連れていってくれないし、だからといって千沙樹に嫌いだとも言わない。
どっちつかずのままの感情が一番未練になるのではないかと思う。
千沙樹はため息をついて、それでも一人で外へ出ていく勇気もなくて部屋に戻りカウチソファに座り込んだ。膝を抱え背もたれに体を預ける。静寂に包まれるとなんだか少し怖かった。誰かを待つ時間は千沙樹にとってあまり好きな気持ちではない。
「……ここに来てからは平気だったのにな……」
ミチは死神だから絶対に帰ってくる。その確信があったから、何も不安はなかった。だからこそ、ミチのことを想っていられた。
だけど今はこんなにも不安で寂しい。やっぱり無理にでもミチについていけばよかっただろうかーーそんなことをぼんやりと考えていた時だった。
部屋のインターホンが鳴り、千沙樹が驚いて顔を上げる。また昨日の死神でも来たのでは、と思った千沙樹はそっとインターホンの画面を覗いた。
「……アン、ちゃん?」
その画面に映っていたのはアンだった。千沙樹が急いで玄関へと向かう。
ドアを開けると、アンは眉を下げて千沙樹を見つめた。
「さきちゃん居てくれた! あのね、少し手を貸して欲しいの」
「手を貸すって……僕は何もできないです、けど……」
死神になれていない自分は、なんの役にも立てないのだとミチから聞いている。現場に行ったところで足手まといになるだけなら、ここでミチを待って、仕事を終えたミチを労う方がいい。
千沙樹が視線を足元に向け小さく首を振ると、アンがしゃがみ込んで強引に千沙樹の視界に入り、何も出来なくないよ、と千沙樹の目をまっすぐに見つめた。
「普段の仕事はそうかもしれないけど、今回は絶対役に立てるから! 来て!」
アンが真剣な顔でこちらに手を差し出す。役に立てる、それはきっとミチの役に立てるということだろうか。
「さきちゃんなら絶対大丈夫。みっちゃんの仕事の手伝い、したいんでしょ?」
だったら行こうよ、とアンが笑顔を向ける。ミチの手伝いが出来ると言われたら、千沙樹に迷いはなかった。
「……行きます!」
千沙樹がアンの手を取る。アンはそれを握ってから、ありがとう、と駆け出した。
21
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
初夜の翌朝失踪する受けの話
春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…?
タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。
歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
初恋を諦めるために惚れ薬を飲んだら寵妃になった僕のお話
トウ子
BL
惚れ薬を持たされて、故国のために皇帝の後宮に嫁いだ。後宮で皇帝ではない人に、初めての恋をしてしまった。初恋を諦めるために惚れ薬を飲んだら、きちんと皇帝を愛することができた。心からの愛を捧げたら皇帝にも愛されて、僕は寵妃になった。それだけの幸せなお話。
2022年の惚れ薬自飲BL企画参加作品。ムーンライトノベルズでも投稿しています。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる