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しおりを挟む翌日の昼、玄関へ向かうミチの背中を追いかける千沙樹が不機嫌に口を開いた。
「今日も置いていくつもりですか?」
「当然だ。もう死神になることもないのだから現場見学も要らないだろう。もうここは本当に安全な場所になったのだから、ここで残りの時間をゆっくり過ごすといい」
「もう残り少ないから、ミチさんと居たいんですけど」
「……おれを心残りにするな」
ミチはそれだけ言うと、玄関ドアを開け出掛けて行った。
「心残りにされたくないなら、連れていってくれればいいのに」
ミチと過ごせる時間は有限だというのなら、めいっぱい一緒に居たい。けれど、ミチは連れていってくれないし、だからといって千沙樹に嫌いだとも言わない。
どっちつかずのままの感情が一番未練になるのではないかと思う。
千沙樹はため息をついて、それでも一人で外へ出ていく勇気もなくて部屋に戻りカウチソファに座り込んだ。膝を抱え背もたれに体を預ける。静寂に包まれるとなんだか少し怖かった。誰かを待つ時間は千沙樹にとってあまり好きな気持ちではない。
「……ここに来てからは平気だったのにな……」
ミチは死神だから絶対に帰ってくる。その確信があったから、何も不安はなかった。だからこそ、ミチのことを想っていられた。
だけど今はこんなにも不安で寂しい。やっぱり無理にでもミチについていけばよかっただろうかーーそんなことをぼんやりと考えていた時だった。
部屋のインターホンが鳴り、千沙樹が驚いて顔を上げる。また昨日の死神でも来たのでは、と思った千沙樹はそっとインターホンの画面を覗いた。
「……アン、ちゃん?」
その画面に映っていたのはアンだった。千沙樹が急いで玄関へと向かう。
ドアを開けると、アンは眉を下げて千沙樹を見つめた。
「さきちゃん居てくれた! あのね、少し手を貸して欲しいの」
「手を貸すって……僕は何もできないです、けど……」
死神になれていない自分は、なんの役にも立てないのだとミチから聞いている。現場に行ったところで足手まといになるだけなら、ここでミチを待って、仕事を終えたミチを労う方がいい。
千沙樹が視線を足元に向け小さく首を振ると、アンがしゃがみ込んで強引に千沙樹の視界に入り、何も出来なくないよ、と千沙樹の目をまっすぐに見つめた。
「普段の仕事はそうかもしれないけど、今回は絶対役に立てるから! 来て!」
アンが真剣な顔でこちらに手を差し出す。役に立てる、それはきっとミチの役に立てるということだろうか。
「さきちゃんなら絶対大丈夫。みっちゃんの仕事の手伝い、したいんでしょ?」
だったら行こうよ、とアンが笑顔を向ける。ミチの手伝いが出来ると言われたら、千沙樹に迷いはなかった。
「……行きます!」
千沙樹がアンの手を取る。アンはそれを握ってから、ありがとう、と駆け出した。
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