死神さんと恋する条件~天国に行くはずだったのに何故か死神さんと同居しています~

みづき(藤吉めぐみ)

文字の大きさ
上 下
24 / 38

8-1

しおりを挟む

 翌日、千沙樹が起きるとミチは出掛けていた。昨夜はあのまま眠ってしまったので、どうしてミチがあんなことを言ったのか、本当に千沙樹のことを拒んでいるのかも聞くことができていない。
 まだミチと出会って三日しか経っていないのに、こんなにも好きだと思う。きっと自分はこうしてミチに恋する運命だったのかもしれない――そこまで考えてから、千沙樹は自分の考えがばからしく思えて一人で小さく笑った。
「死んでから恋する運命なんてないよな」
 千沙樹がベッドの上で膝を抱えてうずくまる。
 好きだと気づいてしまった以上、上手くいかなければ幽霊だろうとなんだろうと落ち込んでしまう。しばらくぼんやりと何もせずにいた千沙樹だったが、やっぱりミチが帰ってきた時にご飯が出来ている方がいいだろうと思い、ふらふらと立ち上がった。
「……といっても、基本ミチさんも僕もあまり食べないからな……」
 この部屋で過ごしているとお腹は空くのだが、外に出て霊体になっていると空腹は感じなくなる。死んでるのだから栄養は要らないよな、と当たり前のことを思うが、それ故、ストックしている食材は多くなかった。
 オムライスくらいなら作れるだろうか、と考えて千沙樹は冷凍されていたミックスベジタブルを取り出した。千沙樹がベーコンエッグが好きと言ったら、翌日ミチが買ってきてくれたベーコンと、卵、昨日の残りのご飯もある。千沙樹はさっそくその調理を始めた。
 死神の為に幽霊がご飯を作るって、なんだかシュールだなと千沙樹が小さく笑いながらフライパンでご飯を炒める。味付けをしようと、振り返ったそこに、人影があり、千沙樹は驚いて固まった。
「……お前、誰?」
 そこには知らない男が一人立っていた。自分よりは年上だろうが、若い男だった。その険しい顔つきに千沙樹は怖くなって後退りをする。
「誰って……その……」
「霊体だよな? どうしてミチの部屋にいるんだ? 送られ損ねた?」
 男がこちらに近づく。千沙樹は訳が分からないまま首を振り、シンクの端を掴んで横に動いた。
「ミチがそんなヘマするわけないか……でも、見つけたからには送ってやらなきゃな」
 送る、ということはこの人もきっと死神なのだろう。このままでは自分はミチにさよならも言わないまま送られてしまう。それだけは嫌だった。
「いや、です……!」
 千沙樹は男の体の横をすり抜け、玄関へと向かった。そのまま部屋を飛び出す。一人で外に出てはいけないとミチに言われていたけれど、部屋の中で送られそうになったのなら逃げるしかない。
 マンションから抜け出し、大きな通りを走る。路地を曲がって入り組んだ住宅街を駆け抜けながら千沙樹が後ろを振り返った。まだ死神は追いついていない。
 そもそもどうしてあの死神が部屋にいるのか分からなかった。あの部屋にいれば安全だったのではないか。ミチと自分だけの空間ではなかったのか。
 そこまで考えてから、千沙樹はふと、足を止めた。
「……ミチさんが、頼んだ……?」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

処理中です...