21 / 38
6-4
しおりを挟む
佑のことは嫌いではない。義理だとしても、たった一人の弟だ。佑が自分のことを好きでいてくれたことは嬉しいと思うし、こんなに泣かせてしまっていることに胸は痛む。
でもこのまま佑のところへ帰るために『相川千沙樹』の時間を終わらせたいと思えなかった。
千沙樹にとって佑は大切な家族ではあるけれど、共に幸せになる相手ではない。
もし幸せになる相手を選べるのなら――そう思った千沙樹は少しずつ離れていくミチの背中にちらりと視線を向けた。
「……ちゃんと勉強して、立派な大人になって、佑。僕も……好きだったよ、家族として」
千沙樹はそれだけ言うと、ミチの元へと駆け出した。後ろからその手を掴み、ぎゅっと握る。
「……いいのか、見守らなくて」
「……ミチさんは意地悪です。今の僕には、この手が必要なのに……置いていくなんて」
下を向いていたら泣いてしまいそうで、千沙樹は顔を上げた。驚いた表情のミチと目が合う。すると、その表情はすぐに優しいものに変わり、悪かった、と空いた手で千沙樹の髪を撫でた。
「置いてくつもりはなかったが……今、千沙樹が望むなら送ってやってもいいとは思った」
だから手を離したのだろう。千沙樹が、佑のところに行きたいからいますぐ送ってくれ、なんて言ったらミチは簡単に千沙樹を手放して送ってくれるつもりだったということだ。
つまり、ミチにとって千沙樹はその程度の存在ということ。
千沙樹はそれがすごく寂しくて、ミチの手を強く握った。
「まだ、嫌です。まだ、ミチさんの傍に居たい」
千沙樹がミチの腕に体を摺り寄せると、ミチはそんな千沙樹を抱き寄せた。
「千沙樹は頭いいのにバカだよな」
耳元でミチが小さく笑う。千沙樹はそれを聞いて、バカって、と怪訝な顔でミチを見上げた。
「……死神に魅入られるなんて、そうとしか言えないだろ」
ミチが千沙樹にキスをする。前にした唇を合わせる程度のものではなく唇を食むように吸いつかれ、そのまま開いた隙間を埋めるように舌を入れられる。こんなキスは誰ともしたことがなくて、千沙樹の頭はすぐに真っ白になってしまった。
体に力も入らなくて、ミチがしっかりと支えてくれなかったら膝から崩れていただろう。
「どうせ誰にも見えないんだからここでこのまま続きをしてもいいが、千沙樹が嫌だろうから帰ろうか」
ミチが千沙樹の体を抱き上げ、そのまま歩き出した。千沙樹はその状況に驚いて手足をばたつかせたが、落とすぞ、と言われ、今度はしっかりとミチの首に腕を廻した。
きっと落とされても痛みもないのだろうけれど、こうしてミチの一番近くに居られる時間がとても嬉しかった。
ミチが好き。
自分にはこの世に何も未練はないと思っていたけれど、ちゃんとあったのだと今気づいた。
恋をしたかった。誰かを強く想って、想われる、そんな恋をしてみたいと思っていた。
死神に恋をするなんて、バカな話だと思う。
本当は芽生えてはいけない気持ちだと分かっていても、それをなくす術を千沙樹はまだ知らなかった。
でもこのまま佑のところへ帰るために『相川千沙樹』の時間を終わらせたいと思えなかった。
千沙樹にとって佑は大切な家族ではあるけれど、共に幸せになる相手ではない。
もし幸せになる相手を選べるのなら――そう思った千沙樹は少しずつ離れていくミチの背中にちらりと視線を向けた。
「……ちゃんと勉強して、立派な大人になって、佑。僕も……好きだったよ、家族として」
千沙樹はそれだけ言うと、ミチの元へと駆け出した。後ろからその手を掴み、ぎゅっと握る。
「……いいのか、見守らなくて」
「……ミチさんは意地悪です。今の僕には、この手が必要なのに……置いていくなんて」
下を向いていたら泣いてしまいそうで、千沙樹は顔を上げた。驚いた表情のミチと目が合う。すると、その表情はすぐに優しいものに変わり、悪かった、と空いた手で千沙樹の髪を撫でた。
「置いてくつもりはなかったが……今、千沙樹が望むなら送ってやってもいいとは思った」
だから手を離したのだろう。千沙樹が、佑のところに行きたいからいますぐ送ってくれ、なんて言ったらミチは簡単に千沙樹を手放して送ってくれるつもりだったということだ。
つまり、ミチにとって千沙樹はその程度の存在ということ。
千沙樹はそれがすごく寂しくて、ミチの手を強く握った。
「まだ、嫌です。まだ、ミチさんの傍に居たい」
千沙樹がミチの腕に体を摺り寄せると、ミチはそんな千沙樹を抱き寄せた。
「千沙樹は頭いいのにバカだよな」
耳元でミチが小さく笑う。千沙樹はそれを聞いて、バカって、と怪訝な顔でミチを見上げた。
「……死神に魅入られるなんて、そうとしか言えないだろ」
ミチが千沙樹にキスをする。前にした唇を合わせる程度のものではなく唇を食むように吸いつかれ、そのまま開いた隙間を埋めるように舌を入れられる。こんなキスは誰ともしたことがなくて、千沙樹の頭はすぐに真っ白になってしまった。
体に力も入らなくて、ミチがしっかりと支えてくれなかったら膝から崩れていただろう。
「どうせ誰にも見えないんだからここでこのまま続きをしてもいいが、千沙樹が嫌だろうから帰ろうか」
ミチが千沙樹の体を抱き上げ、そのまま歩き出した。千沙樹はその状況に驚いて手足をばたつかせたが、落とすぞ、と言われ、今度はしっかりとミチの首に腕を廻した。
きっと落とされても痛みもないのだろうけれど、こうしてミチの一番近くに居られる時間がとても嬉しかった。
ミチが好き。
自分にはこの世に何も未練はないと思っていたけれど、ちゃんとあったのだと今気づいた。
恋をしたかった。誰かを強く想って、想われる、そんな恋をしてみたいと思っていた。
死神に恋をするなんて、バカな話だと思う。
本当は芽生えてはいけない気持ちだと分かっていても、それをなくす術を千沙樹はまだ知らなかった。
21
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ブラッドフォード卿のお気に召すままに~~腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する~~
ゆうきぼし/優輝星
BL
異世界転移BL。浄化のため召喚された異世界人は二人だった。腹黒宰相と呼ばれるブラッドフォード卿は、モブ扱いのイブキを手元に置く。それは自分の手駒の一つとして利用するためだった。だが、イブキの可愛さと優しさに触れ溺愛していく。しかもイブキには何やら不思議なチカラがあるようで……。
*マークはR回。(後半になります)
・ご都合主義のなーろっぱです。
・攻めは頭の回転が速い魔力強の超人ですがちょっぴりダメンズなところあり。そんな彼の癒しとなるのが受けです。癖のありそうな脇役あり。どうぞよろしくお願いします。
腹黒宰相×獣医の卵(モフモフ癒やし手)
・イラストは青城硝子先生です。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる