死神さんと恋する条件~天国に行くはずだったのに何故か死神さんと同居しています~

みづき

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「おはようございます、ミチさん。何か食べますか?」
「……元気だね、千沙樹」
 ベッドから這い出てきたミチが、ほとんど開いていない目で千沙樹を捉え、眉根を寄せる。千沙樹はその様子に死神というよりゾンビみたい、と思いながらも、はい、と笑顔で答えた。
「もう昼過ぎですよ。この体、寝なくても平気みたいで、目が覚めちゃって」
 多分生きていた時の名残だと思うのだが、夜になれば一応眠気は感じる。けれどそれも数時間で解消されてしまうようで、前日寝たのが朝方でも午前中には起きてしまっていた。
「そっか、千沙樹は霊体だもんな」
「……もしかして、死神は疲れたりとかするんですか?」
「まあ、それなりに。でも、魂を送る時にちゃんとそこは補ってるから」
 だから基本休息もエネルギーも要らない、とミチが大きく伸びをする。それを聞いて千沙樹は首を傾げた。
「魂を送る時に補うって、どういうことですか?」
 ミチがカウチソファに腰を下ろし、千沙樹を見上げる。余計な事を言ったとでも思っているのだろう。小さくため息を吐く。
 千沙樹はそんなミチの隣に座り込み、質問の答えを待った。
「……基本的に死神は人を殺すわけじゃない。でも、魂にはほんのわずかに生命力が残ってて、死神はそれを対価として貰うんだ。それで形を維持している。まあ、つまり、他人の命を食ってるわけだよ」
 まさに死神だろ、とミチが笑う。その笑顔はどこか痛々しかった。
 きっとミチは優しいのだろう。優しすぎるから、そんなことで罪悪感に胸を痛め、自分を卑下している。
「……仕事の対価なら、人間だって貰います。動物を殺してその肉も食べます。でもそれをほとんどの人が当然と思って食べてる。死神にとって、魂の欠片ってそういうものなんじゃないですか?」
 僕はちなみにジンギスカンが大好きです、と千沙樹が真剣にミチを見つめると、ミチが一瞬驚いた顔をしてから、すぐに笑い出した。
「まあ、そうだな」
 ミチの手が千沙樹の髪に触れる。ぐしゃぐしゃと髪を乱し子どもにするように頭を撫でられても千沙樹はそれを嫌だと思わなかった。
 きっと他の人なら、やめて、とその手を止めるだろう。けれど今、千沙樹はミチに触れられることが嬉しいと思えた。
「ミチさん、カフェオレ淹れますか?」
 頭を撫でられたまま、千沙樹がミチを見上げる。ミチはそれに頷いてからそっと手を離した。
「悪い。なんだか、触り心地良くて……」
「いえ。僕の好きな甘さでいいですか?」
 千沙樹が微笑むと、ミチはそれに頷いた。その顔は優しくて、なんだか少し胸の奥がふわりと暖かくなる気がする。ミチの傍はなんだか心地がいい。
 千沙樹はその居心地のいい場所から立ち上がり、キッチンに向かった。カップにインスタントコーヒーを入れながら、千沙樹が、あの、と口を開いた。
「今日から、ミチさんの仕事について行ってもいいですか?」
 千沙樹が振り返ると、ミチが、え、と声にして驚いていた。その顔を見ながら、千沙樹がさらに言葉を繋ぐ。
「ちゃんと考えるって決めたからには、自分で見て決めたいんです。死神になるか、次に進むのか」
 昨日ミチの仕事を見てから、ずっと考えていたことだった。
 ミチは自分の仕事をあまりよく思っていないみたいだったけれど、千沙樹が見たミチはとてもカッコよくて、仕事に真摯に向き合っているのだと感じた。
 アンが言うように優しく背中を押して送り出す、そんな仕事はミチだからこそ出来るのだろう。だからこそ、ちゃんと見たいと思った。同じことが自分にもできるのか、それよりも次の命へと生まれ変わった方がいいのか、ちゃんと真剣に考えたい。
 千沙樹のそんな思いが伝わったのだろう。ミチがゆっくりと頷いた。
「いいよ。ただし、おれから離れるな。おれがダメだと言った現場には来るな。それが条件だ」
 いつもよりも厳しい表情のミチがこちらをまっすぐに見つめる。千沙樹はそれに頷いて、ありがとうございます、と微笑んだ。
「……物好きだな、お前」
「それを言ったら、ミチさんだって。きっと死神さんは物好きばかりなんじゃないですか?」
 カフェオレが入ったカップを二つ手にした千沙樹がミチの傍に寄る。千沙樹からカップのひとつを受け取ったミチが、違いない、と小さく笑った。
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