死神さんと恋する条件~天国に行くはずだったのに何故か死神さんと同居しています~

みづき

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 ミチの部屋に戻ると、もう夕方になっていた。
「ミチさん、夕飯食べますか? 僕、簡単なものなら作れます」
 部屋に入り、少しの重力を感じた途端、千沙樹のお腹がか細く鳴いて、千沙樹はミチに聞いた。けれどミチは、いや、と首を振った。
「おれはもう仕事だから」
 どっちの、と聞く前にミチが指をパチン、と鳴らす。ミチの着ていたものが昨日見たスーツに変わり、それだけで死神の仕事に行くのだと分かった。
「千沙樹はこの部屋から出るな。一応護衛として……」
 ミチがそこまで言った時だった。部屋のインターホンが鳴り、ミチがため息を吐きながら玄関ドアを開ける。
「遅い。もう出掛けるところだっただろ」
「しょうがないでしょ、昼の仕事長引いたんだもん」
 玄関ドアの向こうから顔を出したのは、背の低い女の子だった。長い黒髪を一つに結っていて、フリルのたっぷり付いた黒いワンピースを着ている。いわゆるゴシックロリータという類の服だろう。年齢は小学生にも見えるが、きっともう少し上なのかもしれない。
 そんな彼女にミチはもう一度ため息を吐いてからこちらを振り返り、千沙樹、と呼んだ。
「一応同僚のアンだ。おれが仕事で留守をする間、コレが居てくれるから」
「え、あ、はい……よろしくおねがいします、アンさん」
 千沙樹がアンに頭を下げると、やだー、とけらけら笑う声が響いた。
「さん付けなんてやめてよー。アンって呼んで。一応みっちゃんの同僚のアンだよ。君がちさきくんだね。じゃあ、さきちゃんだ」
「さ、き、ちゃん?」
 突然呼ばれたこともない愛称を付けられ、千沙樹がミチを見上げる。ミチは眉を下げ、諦めろ、と口を開いた。
「アンはすぐ独特な愛称をつけたがる。直そうとしても無駄だから、受け入れておけ。じきに慣れる」
 ミチもきっと『みっちゃん』という呼称に随分抵抗したのだろう。それでも無駄だと感じて受け入れたに違いない。千沙樹は少しだけ笑ってから、分かりました、と頷いた。
「なにそれ、仮にも先輩に酷くない? 私は、その方がなじみやすいかなと思ってニックネームつけてるのに」
 不機嫌に唇を尖らせたアンがミチを見上げる。ミチは、はいはい、と適当にあしらってから、千沙樹に視線を戻した。
「少し留守にするけど、この部屋にいる限り安心だから。部屋から出ずにアンの相手でもしててくれ」
 行ってくる、とミチは千沙樹の髪に触れてから部屋を出ていった。残された千沙樹が慌てて、どうぞ、とアンを部屋の中へと案内する。
「うわ、あんな過保護なみっちゃん初めて見た!」
 いっつも仏頂面なのに、とアンが部屋に入る。千沙樹はその反応に首を傾げた。
「ミチさん、ずっと優しいですけど……」
「ふーん……さきちゃんは特別ってことか」
 まあそうだよね、とアンは勝手にクッションを手に取り、テーブル前にそれを置くと、飛び込むようにそれに座った。勝手知ったるという感じだが、実際そうなのかもしれない。
「えっと……何か飲みますか?」
 ミチが淹れていたからコーヒーくらいはあるだろうと、千沙樹はキッチンへと向かった。戸棚を開けるとインスタントコーヒーの瓶が見え、千沙樹はそれを手に取った。
「お気遣いなくーって言いたいところだけど、私カフェオレがいいな。甘いやつ」
「はい。今淹れますね」
 千沙樹が冷蔵庫を開け、牛乳を取り出す。それを鍋に入れ火にかけていると、背後から小さな笑い声が聞こえ、千沙樹が振り返る。
「さきちゃんって、生きてる間もいい子だったでしょ?」
「いい子、かどうかは……ひとに迷惑を掛けてばかりいたので」
 叔父たちにも苦労を掛けてしまっていたし、佑だってあんなことをするほど千沙樹のことを疎ましく思っていた。決していい子とはいえないだろう。
「そう? いきなりカフェオレとか言われて面倒だな、とか思わないの?」
「……まあ、コーヒーが苦手な人もいるだろうし、幸い牛乳もあったし」
 ミチのものなのだから勝手に淹れたら怒られるかもしれないが、それはアンには関係ないことだし、そこは千沙樹がなんとかすればいい。
「そっかー、きっとそういうところだね、死神候補に上がった理由って」
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