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ミチの家を出ると、なんだか少し体が軽く感じた。
あの部屋はやはりミチが言うように特別なのだろう。見ている景色は変わらないのに、自分はここにいないのだと分かる。
「空を飛ぶとか、瞬間移動するとかはないんですね」
「死神も万能じゃない。でも常に少しだけ浮いてるだろ? この世の何物にも干渉できないってことなんだろうな」
確かに足元はふわふわと浮いている。街を歩く人と目が合うこともないし、どこでも簡単にすり抜けられる。それはもう、千沙樹がここにいないと実感するには十分な事だった。
幽霊とかお化けの創作は見たり読んだりしたけれど、こんな感じなのだと分かると、やっぱり見える人というのは存在するのかもしれない、なんて余計なことも思ってしまう。
「……不安か? 千沙樹」
千沙樹が歩きながらそんなことを考えていると、不意に隣から声が届いた。
「どうして、そんなこと?」
「急に黙って足元見つめだしたから」
「あ、え、えっと、本で見たお化けは飛んでたな、なんてことを……」
「その方が夢があるからな。尾びれも背びれも腹びれだってつけるだろうな」
誰が書いたかまでは知らないが、とミチが呆れたように小さく笑う。
「も、もしかして、その類のものも死神さんたちが……」
「現代社会を生き抜くためには、死神であろうとも身の回りを切り売りしてでも稼がないといけないんだよ」
全部が全部ではないだろうけどな、と言われ千沙樹は思わず、大変ですね、と感嘆のため息を零してしまった。それを見たミチが、ふふ、と笑う。
「そう、死神は大変なんだ。だから、千沙樹は早く次の人生へ行くといい。千沙樹がやらないと言っても、誰も責めたりしないから」
この人は自分が責任感から『考える』と答えたと思っているようだ。
それは、もちろんそういうのもある。指名されたのだから応えるべきなのでは、とも思う。けれど千沙樹が考えると答えたのはそれだけが理由ではなかった。
「……僕、多分本当に考えたいんだと思うんです。死神になるかだけじゃなくて、きっと、他のことも」
どうして自分が生まれてきたのか。こんなに早く死ぬなら自分なんて要らなかったのではないか。短い人生で、何か残せたものがあったのだろうか――ただそんなことをとめどなく考える時間が欲しかった。
「それなら、一週間はちょうどいいな」
ミチはそれだけ言うと、千沙樹の気持ちを察したのかそれ以上何も言うことなく、黙々と歩き続けた。
あの部屋はやはりミチが言うように特別なのだろう。見ている景色は変わらないのに、自分はここにいないのだと分かる。
「空を飛ぶとか、瞬間移動するとかはないんですね」
「死神も万能じゃない。でも常に少しだけ浮いてるだろ? この世の何物にも干渉できないってことなんだろうな」
確かに足元はふわふわと浮いている。街を歩く人と目が合うこともないし、どこでも簡単にすり抜けられる。それはもう、千沙樹がここにいないと実感するには十分な事だった。
幽霊とかお化けの創作は見たり読んだりしたけれど、こんな感じなのだと分かると、やっぱり見える人というのは存在するのかもしれない、なんて余計なことも思ってしまう。
「……不安か? 千沙樹」
千沙樹が歩きながらそんなことを考えていると、不意に隣から声が届いた。
「どうして、そんなこと?」
「急に黙って足元見つめだしたから」
「あ、え、えっと、本で見たお化けは飛んでたな、なんてことを……」
「その方が夢があるからな。尾びれも背びれも腹びれだってつけるだろうな」
誰が書いたかまでは知らないが、とミチが呆れたように小さく笑う。
「も、もしかして、その類のものも死神さんたちが……」
「現代社会を生き抜くためには、死神であろうとも身の回りを切り売りしてでも稼がないといけないんだよ」
全部が全部ではないだろうけどな、と言われ千沙樹は思わず、大変ですね、と感嘆のため息を零してしまった。それを見たミチが、ふふ、と笑う。
「そう、死神は大変なんだ。だから、千沙樹は早く次の人生へ行くといい。千沙樹がやらないと言っても、誰も責めたりしないから」
この人は自分が責任感から『考える』と答えたと思っているようだ。
それは、もちろんそういうのもある。指名されたのだから応えるべきなのでは、とも思う。けれど千沙樹が考えると答えたのはそれだけが理由ではなかった。
「……僕、多分本当に考えたいんだと思うんです。死神になるかだけじゃなくて、きっと、他のことも」
どうして自分が生まれてきたのか。こんなに早く死ぬなら自分なんて要らなかったのではないか。短い人生で、何か残せたものがあったのだろうか――ただそんなことをとめどなく考える時間が欲しかった。
「それなら、一週間はちょうどいいな」
ミチはそれだけ言うと、千沙樹の気持ちを察したのかそれ以上何も言うことなく、黙々と歩き続けた。
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