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「僕、今どうなってるんでしょうか」
「……昨日の夜のことだから、体は病院か家か、斎場か、だろうな」
 そういえば父と母が亡くなったのも夜だった。台風が近づいていた日で、母は危ないからと千沙樹だけを家に残して出張から帰る予定の父を駅まで迎えに行った。事故はその帰り道に起きた。
 千沙樹は先に寝ていなさいと言われてベッドに入って、朝目が覚めて家にいたのは両親ではなく、叔父だった。それから千沙樹は両親が亡くなったことを知る。
 そのせいかもしれないが、今でも時々朝が来ることが怖いことがあるのだ。
「そう、ですか。確かに両親に会ったのも、病院だった気がします」
「ああ……親、亡くしてるんだったな」
「そっか、ミチさんには僕の人生全部知られてるんですよね」
 走馬灯っていうんでしたっけ、と千沙樹が笑うとミチは、無理しなくていい、と千沙樹の髪を優しく撫でた。
「何がどうなってるのか分かんねえって気持ちは、おれも経験してるから分かる。今はとにかく何も考えずにいろ。その内、頭が追いついてくれるから」
 ミチは一瞬だけ千沙樹を片腕で抱き寄せると、飯にするぞ、と言って再び離し、トーストを皿に乗せた。
「顔、洗ってきます」
「ん、行ってこい」
 ミチが優しく答える。
 その声と柔らかな仕草に、千沙樹が小さく息を吐いた。そうしてから、自分は昨日からずっと今まで息を詰めて硬くなっていたのだと気づく。
「ミチさん、ありがとうございます」
「お礼言われるほどの飯は出ない」
 いいから早く行け、と怪訝な顔をされ、千沙樹は慌てて洗面台へと向かった。


「様子を見たい?」
 朝食の後、片づけを買って出た千沙樹は、思い切って今思っていることをミチに言ってみた。その反応がこれである。
 理解できないのか嫌なのかは分からないが、随分機嫌が悪くなってしまった。
「はい……別に自分の体を見たいわけじゃなくて、叔父たちがどうしてるかな、と……」
「自分が死んで悲しんでくれてるかとか、見たいってこと?」
 やめとけよ、とミチが機嫌の悪いまま答える。千沙樹はその言葉に対し、首を横に振った。
「いえ、それとも違って……伝わらないと思うけど、せめて近くで謝りたいというか……」
 突然こんなことになって迷惑を掛けていると思う。
 一人暮らしをするために貯めていた資金で色々掛かる費用がまかなえていればいいのだが、煩雑な手続きをさせてしまっているのではないかと思うと、やはり心苦しい。
「昨日会ったばっかりの奴に言われたくないとは思うけど……千沙樹って、たまにバカとか言われないか?」
「い、言われないです! これが初めてです!」
 ただ叔父たちの様子を見たいと言っただけなのに『バカ』だなんて言われると思ってなくて、千沙樹はつい大袈裟に反応してしまう。
 千沙樹は随分不機嫌な顔をしていたのだろう、それを見ていたミチが驚いた顔をしてからすぐに小さく笑った。
「初めて貰って悪いな。でもまあ……そういう理由なら連れていってもいい」
「え、行けるんですか?」
 千沙樹が表情を明るく変えミチを見つめると、その顔が優しく笑んで頷いた。
「おれと一緒ならな」
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