3 / 31
1-2
しおりを挟むまだお互いに小さい時は、本当の兄弟のように仲が良かった。
佑も千沙樹のことを『お兄ちゃん』と言ってよく懐いてくれたし、千沙樹が両親を思い出して悲しくなっていると、『俺がいるよ』と傍にいてくれた。
本当の佑は、もっと優しい、とてもいい子なのだ。
佑との関係が壊れ始めたのは、千沙樹が高校二年の時だったと思う。千沙樹が好きだと告白してくれたクラスメイトの女の子と学校から一緒に帰った日、中学校から帰宅途中の佑に会った。
あの日から避けられることが増え、彼女と何もないまま関係が終わった後も、佑は千沙樹を無視し続けた。大学生になり、卒業後の一人暮らしのためにバイトを始めた時から、佑は千沙樹を認識する代わりに敵意を向けるようになった。叔母はそんな佑の態度を『思春期だから気にすることないわ』なんて笑っていたけれど、本当は千沙樹の存在が佑にとってストレスになっているのかもしれない――千沙樹はそんなことを思っていた。
体の関係を持ったのは今年の初めからで、そこに特別な感情はなく、あえて言うのなら佑からは憎悪しか感じなかった。千沙樹が苦しむ姿とか痛みに泣き喘ぐ様子を見ることで、佑はストレスを発散しているのかもしれない。
「これも子どものワガママとは言い難いし……」
千沙樹は先ほど買った、佑指定のジュースの入ったビニール袋に視線を移す。直線距離にすればそう遠くはないコンビニだが、大きな道路を渡るためには大きく遠回りをするか、歩道橋を渡るしかない。佑との行為で体力のほとんどをそがれた今の千沙樹にとって、どちらもかなり辛い。
この時の千沙樹はゆっくりと歩道橋を渡ることに決め、その階段を一歩ずつ上っていた。
木々の騒めきと下の道を走る車の走行音しか聞こえていなかったところに、人の声が混ざり、千沙樹が顔を上げる。歩道橋を、数人の男性が騒がしく歩いていた。きっと千沙樹と同じ年頃だろう。飲んだ帰りなのか、楽しそうに声を響かせている。
階段を上り切った千沙樹は、邪魔にならないよう端に体を寄せようとした。
その時だった。
その男性たちの一人と肩がぶつかり、千沙樹はバランスを崩した。きっといつもなら手摺に縋ってでも落ちることを回避していただろう。けれど、この時の千沙樹はやっとのことで四肢を動かしている状態で、自分の体が落ちていくことを止めることは出来なかった。
千沙樹の記憶は、そこでぷつりと途絶えていた。
11
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話
雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。
諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。
実は翔には諒平に隠している事実があり——。
諒平(20)攻め。大学生。
翔(20) 受け。大学生。
慶介(21)翔と同じサークルの友人。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
【R18】奴隷に堕ちた騎士
蒼い月
BL
気持ちはR25くらい。妖精族の騎士の美青年が①野盗に捕らえられて調教され②闇オークションにかけられて輪姦され③落札したご主人様に毎日めちゃくちゃに犯され④奴隷品評会で他の奴隷たちの特殊プレイを尻目に乱交し⑤縁あって一緒に自由の身になった両性具有の奴隷少年とよしよし百合セックスをしながらそっと暮らす話。9割は愛のないスケベですが、1割は救済用ラブ。サブヒロインは主人公とくっ付くまで大分可哀想な感じなので、地雷の気配を感じた方は読み飛ばしてください。
※主人公は9割突っ込まれてアンアン言わされる側ですが、終盤1割は突っ込む側なので、攻守逆転が苦手な方はご注意ください。
誤字報告は近況ボードにお願いします。無理やり何となくハピエンですが、不幸な方が抜けたり萌えたりする方は3章くらいまでをおススメします。
※無事に完結しました!
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる