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しおりを挟むまだお互いに小さい時は、本当の兄弟のように仲が良かった。
佑も千沙樹のことを『お兄ちゃん』と言ってよく懐いてくれたし、千沙樹が両親を思い出して悲しくなっていると、『俺がいるよ』と傍にいてくれた。
本当の佑は、もっと優しい、とてもいい子なのだ。
佑との関係が壊れ始めたのは、千沙樹が高校二年の時だったと思う。千沙樹が好きだと告白してくれたクラスメイトの女の子と学校から一緒に帰った日、中学校から帰宅途中の佑に会った。
あの日から避けられることが増え、彼女と何もないまま関係が終わった後も、佑は千沙樹を無視し続けた。大学生になり、卒業後の一人暮らしのためにバイトを始めた時から、佑は千沙樹を認識する代わりに敵意を向けるようになった。叔母はそんな佑の態度を『思春期だから気にすることないわ』なんて笑っていたけれど、本当は千沙樹の存在が佑にとってストレスになっているのかもしれない――千沙樹はそんなことを思っていた。
体の関係を持ったのは今年の初めからで、そこに特別な感情はなく、あえて言うのなら佑からは憎悪しか感じなかった。千沙樹が苦しむ姿とか痛みに泣き喘ぐ様子を見ることで、佑はストレスを発散しているのかもしれない。
「これも子どものワガママとは言い難いし……」
千沙樹は先ほど買った、佑指定のジュースの入ったビニール袋に視線を移す。直線距離にすればそう遠くはないコンビニだが、大きな道路を渡るためには大きく遠回りをするか、歩道橋を渡るしかない。佑との行為で体力のほとんどをそがれた今の千沙樹にとって、どちらもかなり辛い。
この時の千沙樹はゆっくりと歩道橋を渡ることに決め、その階段を一歩ずつ上っていた。
木々の騒めきと下の道を走る車の走行音しか聞こえていなかったところに、人の声が混ざり、千沙樹が顔を上げる。歩道橋を、数人の男性が騒がしく歩いていた。きっと千沙樹と同じ年頃だろう。飲んだ帰りなのか、楽しそうに声を響かせている。
階段を上り切った千沙樹は、邪魔にならないよう端に体を寄せようとした。
その時だった。
その男性たちの一人と肩がぶつかり、千沙樹はバランスを崩した。きっといつもなら手摺に縋ってでも落ちることを回避していただろう。けれど、この時の千沙樹はやっとのことで四肢を動かしている状態で、自分の体が落ちていくことを止めることは出来なかった。
千沙樹の記憶は、そこでぷつりと途絶えていた。
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