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「望月さん、いいんですか? あんなこと言って」
あいつめっちゃ期待してますよ、と滝口が眉を下げ、円の方を振り返った。円がそれに頷く。
「これから広報部長に報告するので、外注先が変わりますから。二度と会うことはありません」
「……うわ、広報怖いですね」
言葉では怯えたふうだが、滝口の表情は少し楽しそうだ。正義のヒーローか、勧善懲悪の時代劇でも見ている気分なのかもしれない。とはいえ、その登場人物の中には滝口も含まれている。
「それを言うなら、滝口さんだって……あれ、嘘ですよね」
想生と出会ってからは当然、その前も誰にどこに誘われても一人でついていくことはなかった。仕事で二人きりで会うこともあるが、必ずパブリックスペースを使うようにしているし、そもそも騙されて連れ出された記憶もない。
「ええ。同期は今日も元気に働いてましたよ。でも、あなたをアイドルみたいに崇めているのは本当なので、望月さんのピンチだと言えば、落ちぶれたニートだって演じてくれるはずです」
滝口が自信に満ちた顔で言うので、円はそれに思わず笑ってしまった。その顔を見た滝口が、よかった、と優しい顔をする。
「ずっと、顔が強張ったままだったので。よくあるんですか? こういうこと」
滝口は心配してくれたのだろうと思うと、やっぱり心が温かくなる。助けてくれた人に、関係ないです、と言う気にはなれず、今はほとんどないんですけど、と円は、以前自宅の傍までつけられてしまったことを話した。
そうすると、露骨に怪訝そうな顔をする滝口が予想通り過ぎて、円が笑う。想生とまだ付き合う前に同じことを話したら、同じ顔をしたことを思い出したのだ。
「そりゃ、会社の待遇もよくなりますね、そんなリスクがあるんじゃ」
「今は守りたい生活もあるので、気を付けてるのでそれほどでもないんですが……今日はちょっと予想外で」
想生との生活は誰にも壊されたくない。守るために出来ることはなんだってやるつもりでいる。円の想いはそれだけ強かった。
「強いんですね、望月さん」
「そんなことは……あ、でも、そういうことなので、もし滝口さんも僕をつけてきていたのだとしたら……」
円が少し眇めた目で滝口を見やると滝口は、まさか、と首を振り、慌てた様子で持っていたカバンの中を探り始めた。
「リノベーション物件がこの通りの先なんです! オレの担当で、今日は明日の内覧会の打ち合わせで……」
滝口が円に差し出したのはタブレットの画面だった。そこに物件の内部資料が映し出されていて、記載されている住所は確かに滝口の言う場所と合致する。
「そうだったんですね。お疲れさまでした」
円が頭を下げるとそれに釣られたのか、いえいえ、と滝口も頭を下げる。
「よかったら、この後、食事しませんか? 助けていただいたお礼も兼ねて」
「うわ……今のセリフ、社員全員に嫉妬されるセリフですね。もちろんお供しますけど」
「確かに僕から食事に誘う方は少ないですが、そんなことないでしょう」
滝口の大袈裟な言葉に、円が笑いながら歩き出す。
家には向かっていないが、この近くにある中華料理店に向かおうとしていた。そこはいわゆる街中華で、たまに想生と二人で行く店だった。いつも店の奥の半個室のような席を使わせてもらい、食事を楽しんでいる。
「望月さんを食事に誘う人の数だけ、誘われたいと思ってるんですから、社内で言うならほぼ全員ですよね。統計取ります? オレ、マーケティング得意なんですよ」
滝口の言葉に円が、そんなデータ要らないですよね、と眉根を寄せる。
「それだけ、望月さんに対する危険があるのだとしたら、ナイト役としては準備もしなきゃいけないので」
純粋に自分のことを心配してくれているのだと思うと円はその言葉を笑い飛ばすことが出来なくて、ただ、ありがとうございます、と頭を下げた。
あいつめっちゃ期待してますよ、と滝口が眉を下げ、円の方を振り返った。円がそれに頷く。
「これから広報部長に報告するので、外注先が変わりますから。二度と会うことはありません」
「……うわ、広報怖いですね」
言葉では怯えたふうだが、滝口の表情は少し楽しそうだ。正義のヒーローか、勧善懲悪の時代劇でも見ている気分なのかもしれない。とはいえ、その登場人物の中には滝口も含まれている。
「それを言うなら、滝口さんだって……あれ、嘘ですよね」
想生と出会ってからは当然、その前も誰にどこに誘われても一人でついていくことはなかった。仕事で二人きりで会うこともあるが、必ずパブリックスペースを使うようにしているし、そもそも騙されて連れ出された記憶もない。
「ええ。同期は今日も元気に働いてましたよ。でも、あなたをアイドルみたいに崇めているのは本当なので、望月さんのピンチだと言えば、落ちぶれたニートだって演じてくれるはずです」
滝口が自信に満ちた顔で言うので、円はそれに思わず笑ってしまった。その顔を見た滝口が、よかった、と優しい顔をする。
「ずっと、顔が強張ったままだったので。よくあるんですか? こういうこと」
滝口は心配してくれたのだろうと思うと、やっぱり心が温かくなる。助けてくれた人に、関係ないです、と言う気にはなれず、今はほとんどないんですけど、と円は、以前自宅の傍までつけられてしまったことを話した。
そうすると、露骨に怪訝そうな顔をする滝口が予想通り過ぎて、円が笑う。想生とまだ付き合う前に同じことを話したら、同じ顔をしたことを思い出したのだ。
「そりゃ、会社の待遇もよくなりますね、そんなリスクがあるんじゃ」
「今は守りたい生活もあるので、気を付けてるのでそれほどでもないんですが……今日はちょっと予想外で」
想生との生活は誰にも壊されたくない。守るために出来ることはなんだってやるつもりでいる。円の想いはそれだけ強かった。
「強いんですね、望月さん」
「そんなことは……あ、でも、そういうことなので、もし滝口さんも僕をつけてきていたのだとしたら……」
円が少し眇めた目で滝口を見やると滝口は、まさか、と首を振り、慌てた様子で持っていたカバンの中を探り始めた。
「リノベーション物件がこの通りの先なんです! オレの担当で、今日は明日の内覧会の打ち合わせで……」
滝口が円に差し出したのはタブレットの画面だった。そこに物件の内部資料が映し出されていて、記載されている住所は確かに滝口の言う場所と合致する。
「そうだったんですね。お疲れさまでした」
円が頭を下げるとそれに釣られたのか、いえいえ、と滝口も頭を下げる。
「よかったら、この後、食事しませんか? 助けていただいたお礼も兼ねて」
「うわ……今のセリフ、社員全員に嫉妬されるセリフですね。もちろんお供しますけど」
「確かに僕から食事に誘う方は少ないですが、そんなことないでしょう」
滝口の大袈裟な言葉に、円が笑いながら歩き出す。
家には向かっていないが、この近くにある中華料理店に向かおうとしていた。そこはいわゆる街中華で、たまに想生と二人で行く店だった。いつも店の奥の半個室のような席を使わせてもらい、食事を楽しんでいる。
「望月さんを食事に誘う人の数だけ、誘われたいと思ってるんですから、社内で言うならほぼ全員ですよね。統計取ります? オレ、マーケティング得意なんですよ」
滝口の言葉に円が、そんなデータ要らないですよね、と眉根を寄せる。
「それだけ、望月さんに対する危険があるのだとしたら、ナイト役としては準備もしなきゃいけないので」
純粋に自分のことを心配してくれているのだと思うと円はその言葉を笑い飛ばすことが出来なくて、ただ、ありがとうございます、と頭を下げた。
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