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後日談 「きみの瞳に恋してる」2

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「誕生日、ケーキ……」
「子どもの頃、俺たちのケーキを見て、羨ましそうにしていたからな。去年はここまで手が廻らなくて悪かった」
 宮廷で迎える誕生日はこれで二度目だが、去年はアサギがちょうど公務で遠方へと出かけている時だったので、祝宴は開かれなかった。母と近しい使用人だけでささやかに祝っただけなので、当然ケーキなんて考えもつかなかったのだ。
 確かに、小さい頃は王族の子の誕生会が羨ましかった。自分だって、直系の血を継いでいるのに、と何度も思った。ケーキだけじゃなくて、おめでとうという言葉も羨ましかったのだろう。あの頃の自分は何度も『生まれてこなければよかった』と思っていたから。
「ありがとう、アサギ」
「ああ……生まれて来てくれて、ありがとう。ユズハ」
 アサギがケーキにナイフを入れ、切り分けたケーキを皿にのせて微笑む。それを持ったまま、アサギはユズハの隣に座った。
「ほら、食べてみろよ」
 きっと美味しいはずだ、とケーキをひとくちサイズにして、フォークに刺したアサギが、それをこちらに向ける。それからユズハの顔を見て、驚いた顔をした。
「どうして泣く?」
 優しく眉を下げたアサギが羽織の袖でユズハの頬を拭った。ユズハが、ごめん、とアサギを見上げた。
「嬉しいんだ。アサギにありがとうって言われて……ここに居られることが、嬉しい」
「そうか……俺もこうしてユズハと誕生日を祝えることが嬉しいよ」
 奇跡みたいな時間を重ねて今がある――そう思うと、ユズハの涙は余計に止まらなくなっていた。アサギがそんなユズハに小さく笑い、手にしていた皿とフォークを傍のテーブルに置く。
「俺は、ユズハのその瞳が好きなんだ。あまり潤ませて隠してしまうな」
 もう一度目元を袖口で拭ってくれたアサギを見上げ、ユズハが首を傾げる。瞳、とはどういうことだろう。
「ユズハの名の由来だろう? そのキレイな柚葉色」
 確かにユズハの目の色は、母親譲りで深い緑だ。誰からもそんな話を聞いたことがなくて、ユズハはそれに驚いて、そうなの? と聞き返した。
「王家の一族は、遡っていくと『日本』から妃を娶ったとあって、それから日本の古い色の呼び名を選んで子に付けるようになったんだ。アサギも浅葱色という色から付けられている」
 へえ、とユズハが頷く頃には、涙も止まっていた。アサギがそんなユズハを抱き寄せる。
「ねえ、アサギの色ってどんな色?」
「今着ている、その服の色だ」
 アサギがそっとユズハの腿に触れる。ひらひらと軽い素材のそれは、明るいブルーだった。この色はアサギが時々好んでユズハに買う服の色だった。初めてのデートで買ってくれた服もこんな色だった気がする。よく似合う、とアサギが喜ぶので、ユズハも好んで着ている色だ。
「この、色……?」
「そう。ユズハによく似合う色だし、俺のものだと主張もできる」
「何それ……恥ずかしい人だね」
 ユズハの頬が赤くなったのは自分でも分かった。アサギがくれたこともあって、この色を着て過ごすことが多かったけれど、そんな意味も込められていたと分かると、やっぱり少し恥ずかしい。
「それだけユズハが魅力的で心配ということだ」
 アサギが微笑み、ユズハにキスをする。ふわりと香るアサギの香りは、まさに独占欲なのだろう。
「香り、出さないで」
 くらくらとして、体が熱くなってしまう。しかもこのところ、アサギに触れていないのだ。アサギを求める体は奥から疼いてしまう。
「誘ってるんだ。今夜はスオウもいない。人払いもしている」
 アサギはユズハの耳元でささやきながら、するりと羽織を肩から下ろし、胸で結んでいる紐を解いた。
 誘っている、なんて言われたら、ユズハに拒む理由は何も残っていない。あとは素直にアサギに身を任せる選択しかなかった。
「アサギ……好き。ホントは、こうして抱かれたかった」
 ユズハがアサギに手を伸ばし、その肩に廻す。アサギはそれを受け止めながら、ユズハをそのまま抱き上げた。
「俺だってずっと抱きたかった。これからは時々、こういう時間を持とう」
 母と父でもなく、国王と王妃でもなく、愛し合う二人の時間、ということだとすぐに分かった。アサギの香りが一層濃くなっていき、アサギもユズハを求めていると感じたからだ。
 ベッドに降ろされたユズハはアサギの香りに酔ったまま、頷いた。
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