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 昔から、ナギサはキレイだったし、とても優しかった。けれど今日久しぶりに会ったナギサは記憶の中よりもずっとキレイで幸せそうだったように思う。ギンシュにしても、以前から顔立ちは聡明そうで整っていて、子どもの頃から王妃になる方はとんでもない美人じゃないと並べないだろう、なんて言われていたけれど、今のギンシュは、その整った容姿ももちろんだけれど、なんだか少し可愛らしくも見えた。ナギサがそうしているのだと思うと、二人は互いに影響し合うほど傍に居て、愛し合っているのだろうと思った。
 その日の夜、ユズハは部屋のソファにぼんやりと座って、昼間会ったナギサとギンシュのことをそんなふうに思い返していた。今日もユズハは安静を命じられている。
 ママからも体を気遣えと言われ、今日は緩いワンピースを着ている。まだお腹が出ているわけでもないのに、と思いながらも、それが負担の少ないものなのなら、とあっさり着てしまっているあたり、ユズハもお腹の子を大事に思い始めているのだろう。
 ナギサに羨ましいと言われたこともユズハの中の意識が変わった言葉の一つだった。欲しくても手に出来ない人がいる。自分はそれを手にしている。それは、きっととても幸運なことなのだろう。そう思うと、やっぱり子どもが宿るというのは奇跡だと思えたのだ。一度は決心したくせに、もう薬で殺してしまおうなんて、思わなくなっていた。
「……君が生まれてきたら、おれとアサギもギンシュさまとナギサみたいになれるかな……」
 アサギと自分もいつか互いに影響し合う仲になれるのか、それはやっぱり傍に居なければできないものなのか、と考え、ユズハは大きくため息を吐いた。
「どこか具合が悪いのか?」
 背後からそんな声が響き、ユズハはびくりと肩を揺らしてから振り返った。そこにはアサギが立っていた。三つ揃えのスーツを着ているところを見ると、仕事の後すぐにここに来てくれたのだろう。
「どこも……平気」
「そうか? 俺が入って来たことにも気づかないくらい、何か考えていたようだが」
 アサギがゆったりとした足取りでユズハの隣へと腰掛ける。
「昼間、ギンシュさまとナギサがここに来てくれたんだ。二人の事、考えてた」
「……そうか。まだ国を出てなかったのか」
 早く行けと言ったのに、とアサギが小さく呟く。それを聞いてユズハが、おれのためなんだ、とアサギを見上げた。
「アサギは知らなかったと思うけど、おれをここに逃がしてくれたのはあの二人で……おれが売り物になる前に一緒に連れて行くつもりだったみたいで」
 ユズハの言葉に、アサギが表情を変える。このことは初めて知ったようで、随分驚いている。
「……あいつら……俺が必死に探してるのを知ってて隠してたんだな」
 ホントに嘘の上手い奴らだ、とアサギがため息を吐く。
「二人は、おれをシコンさまから隠すために黙っててくれたんだよ。アサギも知ってるだろ? おれがあの場に留まってたらどうなってたのか」
 ユズハがギンシュとナギサを庇うように言葉を返すと、アサギはそっとユズハを抱きしめた。
 あの時、あのまま王宮にいたら、きっと無事ではいなかった。アサギもそれを分かっている。だからこそ、こうして抱きしめてくれたのだろう。ここに居てくれて良かった、と。
「知ってる。だからこそ、あの時自分は無力だと痛感した。何が『王子の番にしてやる』だよな。父に歯向かうことすらできなかったのに……でも今ならユズハを幸せに出来る。この子と一緒に」
 アサギがそっとユズハの腹に触れる。その手は大きくて暖かかったが、ユズハの不安は増してしまう。
「ねえ、アサギ……この子がいなかったら、おれとは家族になれない?」
 軽くアサギの胸を押し、アサギを見上げる。その顔は少し不思議そうなものになっていた。
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