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おまけ@短編バージョン
◆短編バージョン
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◆一番最初に書いた、短編バージョンです(なろうにも短編で載っています。)
◆一万四千文字あります、長いです。
◆最初にこちらの連載をUPした時に一緒に載せようとして、載せ忘れたので入れさせてください。
――――――――――――――――――――――
「ちょっと! 昨日頼んだ刺繍ができてないじゃない!」
「ごめんね。昨日は疲れてて……」
豪華な内装の屋敷に大きく響き渡るのは、少女の怒鳴り声。
それに対して小さな声で謝罪する違う少女の声。
このハミルトン男爵家において、これは日常の光景だった。
「それでも正統な血筋の……お父様とお母さまの本当の娘なの!?」
「そ、そんなこと言われても」
責められているのは、茶髪で同じ色の瞳をした素朴な印象の少女。
名前はミューラ=ハミルトン。
ハミルトン男爵家の次女だ。
そして、彼女を怒声を浴びせているのは金髪碧眼の少女で、長女のエレナ。
彼女たちは同じ年齢、同じ誕生日だが、血のつながった姉妹ではない。
2人は産まれた時に、産院で取り違えられた。
出産間近だった男爵夫人が、王都で暮らす自分の父が亡くなってしまい、無理をして馬車に揺られ葬式に出席したところ、そこで産気づいてしまい、そこから一番近い平民用の産院へ運ばれ、出産した。
それが原因だった。
取り違えが発覚したのは、ミューラが10歳になった頃だった。
しかし、両親はエレナを、それはもう溺愛していた。
それまで実の子だと思っていたのだから、当然といえば当然だった。
さらに、エレナは金髪碧眼に抜けるような白い肌、容姿も愛らしい――天使のような少女だ。
両親たちは二人共、ブラウン系の髪をしており碧眼でもない。
ただ、親戚に金髪や碧眼がいなかったわけではないので、その縁から自分たちの間に天使が生まれたと信じて疑っていなかったのだ。
だがエレナは、ミューラと同じ日に同じ産院で、彼女を産み捨てて姿を消した素性も知れない女性の子だったのだ。
そして、本当の子供であるミューラは孤児院で育っていると発覚した。
発覚した理由は――エレナの自慢が多すぎる男爵夫人への、周囲の貴族女性の嫉妬だった。
彼女たちはエレナが両親にあまりにも似ていない為に、夫人が陰で浮気したのじゃないか? と噂するところから始まり、その陰口はエスカレートし、産院での調査へと至り――最終的には取り違え発覚までに至った。
両親は慌てて孤児院にミューラを迎えに行ったが、会ってみると、自分たちに似た素朴な色合いの子で、顔も平凡だった。
孤児院支給のみすぼらしい服だったことも、余計にミューラがエレナより『劣る』と彼らに思わせた。
両親はミューラを迎え入れたが、どうにも愛情が湧かなかった。
逆に、自分たちは天使を授かったと思っていたのに……と気持ちが沈んだ。
さらに――。
「あの子が本当の子供ってどういうこと? お父様、お母様! 私はあなた達の子供ではなくなってしまうの!? そんなの……いや!」
それまで10年以上溺愛してきた、愛らしいエレナが涙ながらに2人に訴えた。
本来ならば、エレナは孤児院に引き渡すべきだ。
しかし、今更どうしてこの愛らしい天使を手放すことができるだろう。
両親達の心は決まっていた。
「いいえ、エレナ。お前は変わらず私達の子どもよ。ね、あなた」
「もちろんだ。いつまでも私達の子どもでいてくれ……お前は今までと変わらずハミルトン家の長女で跡取り娘だよ」
本物の娘、ミューラが見ている前で、この家族愛は上演された。
ミューラは、両親が見つかったと聞いた時は、とても嬉しかった。
しかし、迎えにきた両親は、自分を見て落胆し、連れて行かれる馬車の中は静まり返り、ため息を何度もつかれた。
そして着いたらば、血のつながっていない美少女が姉として溺愛されている。
――私はどうしてこの家に引き取られたのだろう。
私がここへ来る意味はあったのかしら……。
こんなことなら、両親は見つからなくて良かった。
孤児院で仲良しで大好きだったエドガーという名の男の子もいた。
きっと彼も自分を好いていてくれたと思う。
『ミューラ。両親が見つかったんだってな。良かったな。手紙くれよな』
『エド……。うん。絶対会いに来るからね。手紙も出すから』
『オレも、手紙書く。会いにも行くから門前払いしないでくれよ? 男爵令嬢さま』
『やだ、そんなの絶対しないよ!』
彼の最後の笑顔はどこか寂しそうだった。
思い出して涙が滲(にじ)む。
できるなら孤児院にいたかった。そこそこ幸せだった。
両親が見つかったほうが不幸せになるなんて。
孤児院での人間関係は切りなさい、と手紙の約束も果たせない。
会いに行くなどもってのほかだった。
それから――。
なにかにつけて、ミューラはエレナにいじめられた。
いじめを見た両親もミューラが悪いからとエレナを庇った。
「エレナは……ずっと私達の子だと思われてきたのに、急にこんな事実が発覚して……可哀想な子なのよ。あなたが我慢しなさい、ミューラ」
「そうだ、エレナは可哀想なのだぞ……おまえも優しくしてあげなさい」
それはおかしい……と思いつつもミューラには頷く以外の選択肢はない。
両親も名前も跡目も、本来自分が享受すべきものは全てエレナのものになっている。
両親のさらに深まった溺愛のせいで、エレナは急速に増長した。
ミューラがエレナの都合の良い奴隷のようになるのは、あっと言う間だった。
ミューラはエドガーのことを考えることだけが心の支えだった。
彼は冒険者になると言っていた。
いつかこの屋敷を出ていけますように……そして彼を探しに行けますように。
そんなことを願いながらも、きっとそれは叶わないだろう……と心のどこかで諦めてはいたが。
◆
年月が経ち、貴族学校に通うようになったらば、エレナの分の宿題や荷物持ちまでやらされた。
それが冒頭での刺繍の件である。
「おとうさま、おかあさま、ひどいの! ミューラが私の宿題をやってくれなかったの!」
「なんだって。ミューラ。どうしてやってあげなかったんだ」
「まあ、エレナ、可哀想に。提出は何時限目なの?」
「午後の授業よ」
「じゃあミューラ。午前中は家でそれを仕上げてエレナに届けてあげなさい。もちろん間に合うようによ」
「私にも授業があります……」
「あなたには授業は必要ないでしょう。跡継ぎじゃないのだから」
「そうだな、そもそも跡継ぎはエレナなのだから」
「でも」
「エレナの補助すらできない頭の悪さなら、学校に行く必要もないな」
エレナの宿題のために授業を休まされたり、エレナの買い物のために授業を休んで使い走りをさせられたり――まともに授業が受けられる日がアンバランスで、ミューラは思うように勉学に取り組めなかった。
そのせいで、頭まで悪いと思われている。
「そうね、家で侍女について仕事を学ぶといいわ。そのうち貴女(あなた)はどこかへ奉公へ出したいし」
ひどい言葉を浴びせられているが、その母親の言葉にミューラはハッとした。
「……(それ、悪くないかも)」
ミューラは考えた。
貴族の子どもが集まる学校へ通い始めたものの、貴族令嬢としての振る舞いが不十分なミューラは、学校でも浮いていた。
勉強もまともにできない、友達ができるわけでもない。学校も実は行きたくなかった。
「わかりました。それでお願いします。私、侍女になってどこかへ奉公へ出ます」
「なんですって!?」
エレナが鬼の形相になった。
それもそうだろう。
学校でミューラと比較され、もてはやされるのが心地良くてミューラを連れ歩いていたのだから。
しかも、ミューラが最低限授業を受けていなければ、宿題を代わりにやらせることもできない。
エレナはコロリと態度を変えて、ミューラを気遣うように口を挟む。
「お父様お母さま、それはさすがにミューラが可哀想です……本来なら跡取り娘なのに……。まるで私が泥棒猫のようですわ」
「(……っ)」
余計なこと言わないで……。お願いだから、学校をやめさせて……。
神様どうか、お願いします……。
ミューラは、神に祈りながら成り行きを見守った。
「ああ、なんて優しいのエレナ!」
――ああ、だめだ。またエレナの希望が通ってしまう。
そんな風にミューラが、目を伏せた時、
「……でも、そうね。ミューラが珍しく良いことを言ったのだから……」
男爵夫人が、夫に目配せした。
それに頷(うなず)く男爵。
「エレナ、優しいね。だが、ミューラ、お前もよく言った。その望みは叶えてやろう。侍女としての勉強に励みなさい」
実は、男爵家はそれほど裕福ではなかった。
両親は、跡取りではないミューラを、学校へ行かせるお金が惜しかったのだ。
貴族令嬢として育てる、となると貴族の付き合いが発生する。
学校へ支払うお金だけでは済まない。
例えば、パーティなどがあると、エレナとミューラの2人分のドレス代金が発生する。
――男爵家の娘が侍女になるのは普通のことだ。
それを本人が目指すと言うならば、学校をやめさせる理由には十分だった。
「(良かった……初めて希望が叶った……)」
ミューラはホッとした。
「ええ~。そんなあ」
エレナは不満そうだったが、ミューラを学校に行かせないぶん、次にドレスを作る時にその分豪華になるよ、と説明したら機嫌が治った。
侍女の仕事を得てからは、半日以上エレナと離れていられたので、ミューラは少しだけだが気が軽くなった。
◆
侍女の仕事は、年配のマアラ侍女長が教えてくれた。
マアラ侍女長は、ミューラに優しかったうえに、今まで機会がなかったからお話できませんでしたが、と言い、
「私もエレナ様が小さなころからお仕えしてますから、エレナ様のことは可愛いです。ですが……嘆かわしいことです、その髪色、瞳、お顔も紛れもなく旦那様と奥様のお子様だというのに……。負うた子より抱いた子とは言いますが……旦那様も奥様もあなたが生まれるまで、毎日お腹を撫でられて過ごされていたというのに……忘れてしまわれたよう」
と、涙ながらにこっそり話してくれた。
「ミューラお嬢様。私がしっかりと仕事を教えて差し上げます。そして良い仕事先を知っておりますのでそれとなく旦那様にお話しますからね」
とてもありがたい上に、希望が出てきた。
ミューラは侍女の仕事をするようになってから、使用人たちと話をするようになり、彼らが内心では、自分に同情していることを知った。
それからも、両親とエレナにはひどく扱われたが、屋敷の中にも、まともな人たちを見つけることができて、ミューラは少しだけ安堵できるようになった。
◆
2年ほど経過し、15歳になり、ミューラの奉公先が決まりそうになった頃。
エレナも婚約者が決まり、その幸せをミューラに見せつけるようにしていた。
ミューラは羨ましいとは欠片(かけら)も思わなかったが、エレナはそれをすることにより、優越感を覚えているようだった。
わざわざミューラを指定して、庭園で睦み合う2人のところにティーセットを運ぶように命令し、待機させる。
「美しいよ、エレナ。君は天使だ……」
「そんな。私なんてこの家の本当の子供じゃないのに……」
目を潤ませて、婚約者のバートンの前で胸を痛めた様子を見せる。
バートンは、エレナのお眼鏡に適(かな)った美しい容姿の子爵家次男だ。
天使のようなエレナに選ばれたい男性は多かった。
ただし、高位貴族の男性から声がかかることは、身分的に少なかったが。
その中でバートンは一番条件の良い相手だった。
「なんて健気なんだ。いじめられてはいないかい?」
「いえ……両親には可愛いがってもらってるわ。……でも私、ミューラに申し訳なくて」
「君のほうが優れているのだから、君が継ぐのは当然だ。そうだな? ミューラ」
「仰せの通りでございます」
エレナにひたすら甘い言葉を捧げる婚約者は、同時にミューラに自分の立場を弁(わきま)えるような発言をさせる。
帰り際にも、見送りで控えているミューラにバートンは言うのだ。
「ミューラ、知っているぞ。君が陰でエレナをいじめていることを。いくら正統な血筋とはいえ、君は後継者ではないのだからもっと慎(つつ)ましくあるべきだろう」
それはとても冷たい瞳で、ミューラのことを人として認めない雰囲気だった。
ミューラは黙って会釈(えしゃく)するのみだった。
「謝ることもできないのか。生意気な――侍女だ。僕がこの家に入る頃にはいなくなっていろ」
バートンはエレナにすっかり騙され、彼の中でミューラは悪人だった。
訪ねてくるたびにきつく窘(たしな)められた。
一方、そんなエレナにとって都合の良い婚約者がいるのにも関わらず、エレナは伯爵家以上の貴族令息を諦められずに、陰で物色する毎日だった。
「私なら第一王子からでも婚約のお話があってもいいのに!」
エレナはそう言ってはいるが。
伯爵以上の高位貴族達は、そもそも男爵家など相手にしていないし、ハミルトン男爵家の内情も調べがついていた。
いくらエレナが美しくても。
正統な子であるミューラを跡目としていないのは、貴族の血をないがしろにする行為で、さらに裕福な財政でもない。
そんなハミルトン家に家門の大事な血筋を流すつもりはない――つまり、見下されていた。
また、高位貴族にはエレナクラスの美少女など当たり前のように存在した。
しかし、エレナはそんな令嬢たちを見かけても、自分のほうが美しいと自負していたのである。
何故なら、夜会へでかける際、たまに高位貴族男子に声をかけられていたからだ。
もちろん、遊び相手、としてでだ。
遊ばれているとも知らずに。
彼女はバートンの目を盗んでよく浮気をしていた。
彼女は彼らのピロートークを真に受けて、婚約の釣書が舞い込んでくると、ずっと思っている。
◆
そんなある日、男爵が両扉を開け放ち、歓喜して帰宅した。
「勇者ジーク様の御一行が、宿泊されるぞ!」
勇者ジークとその一行は、この国の第一王子が戦場で命を落としかけた時に現れ、救った英雄である。
この国にも国境の小競り合いがある。
そこへ現国王が、第一王子を国の精鋭で固めて向かわせた。
次期国王である第一王子の名声を高めるため、戦争に参加し指揮した経歴を作ろうとしたのだ。
長く続く小競り合いの戦場に第一王子の投入である。
それを知った隣国は、本気の侵攻があると思ったのか、それとも王子を討ち取る作戦か、もしくは捕虜として捕らえようとしたのか――戦力を増強したのである。
そして両国の精鋭と精鋭がぶつかり、護衛から離され追い詰められた王子が討ち取られそうになったところ、冒険者たちが助太刀に入り、助けた。
最初に失態を犯した王子ではあったが、そこから冒険者たちの力を借りて戦線復帰し、軍の態勢を建て直し、国境制圧に成功した。
その冒険者たちのリーダーが、ジークという青年なのだという。
平民の彼には『勇者』という称号が、その場で王子によって与えられた。
そして彼らは戦争が終わるとしばらく放浪していたのだが、報奨(ほうしょう)が準備できたと王都に呼び出されたのである。
その旅の途中にハミルトン男爵家に立ち寄るという。
なんでも勇者ジークが、ハミルトン家を訪ねたい、と言ったそうだ。
「屋敷内を埃一つなく掃除して、磨け! そして最高級の食事と部屋をご用意しろ!」
屋敷内はにわかに慌ただしくなった。
「ま、まあ勇者様が!?」
エレナがポッと頬を染めた。
勇者が王から高位の爵位と領地を賜る予定があるのを、情報の早い貴族たちは既に知っている。
「これはチャンスだわ。ミューラ、いつも以上に念入りに支度してよ! でもどうして我が家に? ひょっとしてどこかで私を見初めたのでは……?」
「はい(……婚約者のバートン様がいらっしゃるのに)」
ミューラにとっては忙しくなっただけだが、エレナにとっては千載一遇(せんさいいちぐう)のチャンスなのである。
勇者に見初められれば、一発逆転、高位貴族の仲間入りになれる!
……と本人が考えているのが、手に取るようにわかる。
「(でもそうなると、この家の跡取りがいなくなるわよね。それも困るわ)」
エレナが爵位ある相手に嫁いで出ていく、ということは男爵家の跡目を放り出すということだ。
そうなるとせっかくこの屋敷から去れそうなミューラが跡取りになりかねない。
それは今更困る。
ミューラとしては、どうか勇者がエレナを見初めませんように、と祈るばかりだった。
◆
勇者一行が到着し、エントランスで屋敷の全員が集まり頭を下げて迎える。
彼らは屈強そうな男性たちばかりだった。
その中でも、端正な顔立ちに濃紺の髪。そして髪と同じく青い瞳の青年がいた――それが勇者ジークだった。
名声に加えて素晴らしい容姿の彼に、エレナはひと目で食いついた。
「勇者ジーク様ぁ! よくいらっしゃいましたあ!!」
父親が口を開く前に黄色い声を出すエレナが、勇者の腕にまとわりつく。
「ああ、エレナ。お行儀が悪いよ。すみませんね、勇者様」
「だって……!」
「いえ、お世話になります。ところで……ご家族はここにいらっしゃる三人だけですか?」
「えっ」
急に勇者が思ってもみなかったことを男爵に聞き始めた。
「あー……っとそうですね……」
「そ、そうですわね。三人……ですわね」
男爵と夫人は歯切れが悪くなった。
「そうですか……。ミューラ、という娘さんはいらっしゃいませんでしたか?」
勇者が、ミューラの名前を口にした。
ミューラは思わず頭をあげた。
「(どうして、勇者が私のことを?)」
男爵たちの後方で控え、頭を下げていたミューラが顔をあげると、対面していた勇者と目が合った。
「……ミューラ!!」
勇者はエレナの手を振りほどき男爵たちの横をすり抜け、ミューラの傍へ駆け寄り抱きしめた。
ミューラはしばらく何が起こったのかと目を白黒したが――勇者からは懐かしい匂いがした。
そして脳内に浮かんだ幼い頃に別れた孤児院の想い人。
その顔と抱きしめてきた彼の顔が合致する。
「……エドガー?」
「そうだ! 俺だ! 会いたかった!!」
ずっと会いたかった幼馴染。
いつか会いたいと夢を持ちながら、諦めていた相手。
それが、今ここにいる。
あまりの出来事に、ミューラは呆然(ぼうぜん)とした。
思い出の中の彼よりも、背もずっと高くなり、声も低くなった。
すっかり大人の男性になった――確かに彼だ。
「でも勇者ジークって」
「いや、エドガーって名前で広がったら暮らしにくくなりそうだったから偽名にしてくれ、と無理矢理頼んだ。平民の名前なんてあってないようなものだしな」
「そっか……」
ミューラは、いっぱい話がしたかった。
でも、泣き出して喋れなくなりそうだったので、それを言うのが精一杯だった。
2人だけの世界が続きそうになったが、そこに割って入る声があった。
「あの!! どういうことですか!? 2人はどういう関係なの!」
エドガーに腕を外されて、恥をかかされたと思ったエレナが顔を真っ赤にし大声で怒鳴った。
「あ……。孤児院にいたときの友達で……」
とミューラが説明仕掛けた時、エドガーがそれを止めて言った。
「――ところでお伺いしたいことがあるんですが」
エドガーの声がスッと低くなり男爵達を振り返った。
「どうしてミューラが侍女の格好をしているんですか? 俺はこの男爵家の本当の娘だと判明したから引き取られたと聞いたのですが?」
「そ、それはその!」
男爵は言い淀んだが、エレナはこういう場合、機転が利く娘で口を挟んだ。
「勇者さま、誤解なさってますよね!? ミューラが望んで侍女になりたいと仰ったのよ! 自分に当主は務まらないから侍女になって奉公に出たいって!」
「この男爵家の跡取り娘はミューラになるんだ、とオレは孤児院の先生から聞いていたんだが……ところで君は誰だ」
「ミューラと取り違えられはしましたが、そのままこの家門の跡取り娘になりました、姉のエレナですわ」
勇者が自分をまっすぐ見たのでここぞとばかり、微笑むエレナ。
「……君が跡取り娘なのか? その話だと、この家の血を引いていないんじゃないか?」
「はい!! ですが……別に跡取りじゃなくても私は……」
頬を染めるエレナ。
「血は引いておりませんが、長年愛してきて、手放すことができませんでしたの……でも、勇者さまがお望みになるならば、エレナをあなたの花嫁にしても……」
と、夫人もエレナの援護に回ろうとした。
「どうして急に縁談の話になるのですか……。それは、お断りです」
そんな彼らに、きっぱり言い放ったエドガーは男爵に向き直った。
「侍女だというのなら、ここにいる間、オレにミューラをつけてください」
◆
エドガー付きにするという約束をしたのにも関わらず、その場を解散して以降、ミューラの姿は見えなくなった。
その後、晩餐の席にもミューラは顔を出さず、エドガーはその奇妙な状態に食が進まなかった。
「あの、ミューラがいないのですが」
「ああ、ミューラでしたら体調を崩しまして!」
エレナが明るい笑顔で言葉をかぶせ気味に答える。
「なんだって。部屋はどこですか」
立ち上がろうとしたエドガーを男爵が止める。
「ああ、いくら幼馴染とはいえ、あの子も年頃ですので、部屋を訪ねるのはご遠慮いただけますか」
「……」
そう言われてしまっては、引き下がるしかなかった。
扱いがどうもおかしいと感じつつも、ミューラは男爵令嬢なのだ。
しかも、自分は現時点でまだ平民、しかも孤児院出身だ。
今回の訪問だって功を立てたから叶ったのだ。
ミューラに手紙を何度出しても返事が来ず、貴族の生活が楽しくて自分のことなど忘れたのだろうと思いかけた時もあったが、彼女は返事を一通も出さないような性格ではない。
何かがおかしいと感じて何度か訪問したことがあったが、門前で追い返され、最後に訪問したときは通報されかけた。
あまりしつこいとミューラに迷惑がかかるかもしれないと、諦めていたのだが――。
「(あの時、王子を助けに飛び込んで良かった。身分をもうすぐ得られる今なら、彼女をここから救い出せる。この家門は……おかしい)」
エドガーはため息をついた。
「(今回は様子見で立ち寄り、身分を得た後で、婚約を申し込もうと思っていたが、我慢ならない。なんとかして連れ出さないと)」
そして、エドガーは先程から馴れ馴れしいエレナに警戒心を抱き、仲間の部屋にソファでいいからと泊まらせてもらった。
案の定、エレナが夜這いにやってきたようだったが、エドガーが部屋に不在では、陥れることはできなかった。
◆
勇者たちが宿泊した日から、ミューラは地下牢に閉じ込められていた。
そのミューラに、エレナは癇癪(かんしゃく)を起こし、鞭を振るっていた。
「ああ! もうむかつく!! なんで勇者様があんたの幼馴染なのよ!!」
ティーカップより重たいものが持てなさそうな、その華奢な容姿からは想像できない手さばきで鞭を振るうエレナ。
「う……!」
ミューラは顔をしかめ、涙を浮かべて耐えるのみだった。
ミューラを牢に入れることは、両親も承諾していた。
――エレナの邪魔になるから、と。
そして、エレナは今まで越えていなかった一線を越えた。
両親は鞭を振るうところまでは、了承してなかった。
「ちょっと、あんた。ジーク様にエレナが婚約者としてふさわしい、とおすすめしなさいよ!」
「え……」
エレナをエドガーの婚約者に……?
それは――できない!
今まで数々の暴力に耐えてきたミューラだったが、それは譲ることができなかった。
「い、いやです」
「なんですって!?」
「それだけは絶対いや! たとえ私が勧めたとしても、あなたみたいな人、エドガーが好きになるはずがない!!」
いやだ、エドガーだけはいや。
孤児院の思い出、彼のことだけはエレナに踏み荒らされたくない!!
今まで我慢して耐え、一言も逆らわなかったミューラだったが、エレナを軽蔑している本音をともなって断った。
「この……!!」
「うあ……っ」
エレナはミューラを殴り、蹴りあげ、鞭をふるった。
「あんた目障りよ! もう死んじゃえばいいのに!! ああそうよ、あんたがいる限り、いつまでたっても私はこの家の本物の娘になれた気がしない! あんたが死ねば完璧なのよ! どうして気が付かなかったのかしら!」
エレナは、鞭を放りだし、ミューラの首を締め始めた。
ミューラは驚愕(きょうがく)した。
嘘でしょう!?
殺人まで厭(いと)わないの!?
「……っ」
数日ろくに食事をとらせてもらっていないミューラは、エレナに抵抗できる力が出ず、朦朧(もうろう)としてきた。
――走馬灯だろうか。
エドガーの姿が、幻が、浮かんだ。
「(せっかく会えたのに。屋敷の中にいるのに……)」
視界が揺れ、エドガーの幻も揺れる。
目を閉じかけた時、誰かが階段を駆け下りる音が耳についた。
その足音が止まると同時に――。
「――やめろ!!!」
「エ、エドガー様!? 何故ここに……!!」
少し怯えたようなエレナの声。
揺れるエドガーの幻に本物のエドガーの顔が重なる。
「……っ」
ミューラはそれに目を見開いた。
エドガーは、エレナをミューラから引き剥がした。
「きゃあ!!」
引き剥がされ、強い力で床に転がされるエレナ。
「……まさか、こんな、こんなことが……! なんて悪女だ」
エドガーは意識朦朧(いしきもうろう)とするミューラの傍に膝をつく。
「ミューラ!!」
実は、このことを知っていた侍女長が密告をしたのだ。
ミューラを助けてやってほしい、と。
全容を知ったエドガーはもう躊躇(ちゅうちょ)せず、教えてもらった地下牢へ駆け込んだのだ。
「(あと一歩遅ければ、ミューを殺されていた!!)」
「あ、悪女!? 私が!?」
心外だ、といった顔を浮かべるエレナは無視し、エドガーはミューラを抱きかかえる。
「大丈夫か!! ミュー!」
「え、エド……」
「……お前をここから連れ出す。お前がいやだっていっても、連れて行く。オレはお前が幸せに暮らしてると思っていたんだ。……だから邪魔になりたくなくてずっと諦めてたんだ。だが……なんだよ、これは。お前をここに置いておいたら死んでしまう! こんなことになってるなんて!!」
「ごめん、私も、手紙が書けなくて……」
「会いに来るのが、遅くなってごめん……」
ミューラは首を横に振り、ガタガタと震えている手でエドガーの首に手を回した。
「な、なによ!! なにが勇者よ!! 孤児院出身の平民のくせに!! あんたなんかこっちから願い下げだわ! 私を突き飛ばした罪で通報してやるんだから!!」
エレナが真っ赤な顔で、エドガーに怒鳴る。
そんなエレナにエドガーは軽蔑の瞳を向け、言った。
「いいだろう。だがこの件は、オレも通報する。いいかエレナ嬢、この状況を通報しても不利になるのは君だ。君は必ず逮捕される」
「な、なんですって!?」
◆
「通報は、ご勘弁ください……! エレナ、謝りなさい!!」
「どうして私が!!」
「もう、どうしてあなたはそんなに我が儘なの!?」
男爵夫妻は、通報というと珍しくエレナに謝罪するよう促したが、それを聞くエレナではなかった。
「では、通報しないかわりに、ミューラをオレにください」
エドガーは譲歩のつもりでそう言った。しかし男爵は一瞬笑顔になった。
「そ、それで良いのでしたら! ミューラ、粗相(そそう)の無いようにするのだぞ!!」
今後、高位貴族になる勇者とのつながりができる、と思ったようだった。
だが、エドガーはそれも一刀両断した。
「二度と俺達に近寄るな。それも通報しない条件に含む」
男爵は苦い顔だったが、事情を知ったエドガーの仲間たちにも、凄まじい形相で睨まれ――萎縮(いしゅく)し了承するしかなかった。
その間、ミューラはエドガーの仲間に治療を受け、その様子を見ていたが、
「(こんなに私が酷い状態になっても……結局、私の心配ひとつ……してくれなかった)」
ほんの少しだけ、両親にすがる気持ちが、まだあったなど自分でも思わなかったが、それを限りに両親への思いはすべて消え去ったミューラだった。
◆
エドガーの仲間の治癒魔法でミューラは、すぐに元気になった。
ミューラが治るとすぐに、勇者一行は男爵領地を旅立った。
「エドガー、その、ありがとう……」
「ずっとその言葉ばっかりだな」
しかし、ミューラは落ち着くと気恥ずかしかった。
婚約するという言葉で連れ出されたものの、それはつまりエドガーと結婚するということだ。
「その、その……。エドガー、助けてもらってありがたいのだけど、その、婚約って……」
「その、が多すぎだろ。いやか? オレと……結婚するのは」
「そ、そんなことはない、よ。だってずっと……」
「……」
そこで2人は無言になった。
エドガーの仲間にニヤニヤされながら、馬車に揺られて、ミューラは男爵家をあとにした。
◆
その後、数ヶ月経った男爵家では――。
「どういうことだ! その腹は!!」
結婚前だというのに妊娠し、その腹の膨らみが隠せなくなったエレナが、婚約者のバートンに責められていた。
「僕を裏切っていたのか……エレナ!」
婚約者のバートンが絶望と怒りを浮かべた顔で怒鳴る。
「だって……みんなやってることだって……知り合いの令嬢も、誘ってきた令息も言ってたし……」
「やってるわけないだろう! 他の貴族の口車に乗せられたな! 何も知らない令嬢を誘ったり陥れる時によく使う言葉だ! ……そんな事もわかってなかったのか!?」
怒りで頭がおかしくなりそうだ、とバートンは、髪をぐしゃぐしゃとかきむしる。
「バートン様の子じゃなかったのか!?」
「誰の子なの!?」
両親にも詰め寄られる。
エレナがこんなに追い詰められるのは初めてのことだった。
いつもなら、誰しもが自分を笑って許してくれるというのに。
「わ、わからないわ……だって、結婚前にみんな恋は楽しむものだって……」
「あなたはもう婚約していたのよ!? 常識でしょう!?」
「エレナ、私達にはバートン様の子だって言っただろう!」
「つまり、確信犯だということか! 気持ち悪いな! それに僕たちはまだ、そういう関係には至ってない。僕の子でないことは明らかだ!!」
顔を真っ赤にしたバートンが怒り狂う。
「良くもバカにしてくれたな! こんな淫乱な女、願い下げだ!! 婚約は破棄させてもらう!!」
「そんな、お待ちくださいバートン様……!」
ハミルトン男爵家全員で、バートンにすがる。しかし――。
バートンは神経質すぎるほど生真面目かつ完璧主義で、大切なものは異様に大切にするが、自分に汚点をつけたものを絶対に許さない、気位の高い男だった。
「……婚約破棄だけで済むと思うな。賠償金、払ってもらうからな!! 僕をバカにした分と、僕の人生計画が狂う分全てだ!!」
――かくして。
大した財産のない男爵家であるハミルトン家は、賠償金とそれを払うための借金で破産した。
バートンはバートンで金は吸い上げたものの、完璧だと思っていた自分の経歴に傷がついたことに病み、引きこもり生活になったという。
勇者は約束通り通報しなかったが、ミューラの虐待・暴行の件をこのタイミングで使用人から通報され、親子3人、牢屋行きとなった。
さらに借金返済のために、知人の屋敷から盗みを働こうとしたことがばれ、さらに罪は重なった。
裁判中、牢屋暮らしになった3人は、同じ牢に入れられた。
彼らは、お互いを責め合い、かなりの喧騒を響かせていたという。
「なんで私達がこんなところに閉じ込められなきゃいけないの!」
「ああ……もうなんて事だ。きっと爵位返上になる。私達はエレナ、お前に甘すぎた」
「そうですわね。厳しく育てたミューラは……いえ、私達の本当の子だけあって、慎ましかったわ」
そう言ってエレナを見る目が冷ややかな両親にエレナは、自分の全てが崩れていくのを感じた。
「ああ、ミューラ……。あの子は大人しくて良い子だった。やはり本当の血を受け継いたミューラを跡取りにしておくんだった!」
「そうね……エレナはいつも我が儘ばかりで……。ああ、ミューラ。私の本当の娘……」
「な……! お父様、お母さま! どうしてそんなことを急に言い出すの!? 私のことを愛してるっていつも言ってくれてたじゃない! ミューラよりも!!」
「そうだ。それなのにお前は……だらしのない令嬢に育ってしまった。この、親不孝ものが……!」
「私達の愛を受け続けてきたのに、あなたが望むことを、なんでも与えてきたのに……いくら見た目が良くても、やはり平民の血はだめね」
「そうよ! いっぱい愛してもらってたわよ! でも、これからもそうなんでしょう? お父様なら、ここから私を出してくれるんでしょう!?」
「この状態で、できるわけないだろう! そんなこともわからないのか、この娘は」
「ああ、もう……。こんな薄汚い衣でできた服を着るなんて屈辱だわ……。エレナ、あなたどうしてバートン様で我慢しなかったの?」
「私を責める前に、お父様とお母さまだって無能なんじゃない!」
――愛し合って強い絆で結ばれていたはずの3人は、最後まで自分の事ばかり訴え、その親子愛はひび割れた。
その後、裁判が終わり刑が決定すると、父親は炭鉱へ、母親は厳しい労働がある収容所へ送られた。
両親は厳しい労働に栄養不足でしだいにやせ細り、その後はそれほど長い人生ではなかった。
被害者のミューラなら刑を軽くできるだろうと思い、それを頼む手紙も書いたようだったが、それはエドガーが握りつぶしていた。
母親とは別の収容所に送られたエレナは、妊婦だった為に、出産までは労働を免れたが――。
「なにこの食事!! 豚のエサじゃないんだから!!」
と食事を拒否し続け、次第に体が弱り、その上でなんとか出産した。
「こんなの……おかしいわ……私は王妃になるような人間なのよ……助けてお父様! お母さま!!」
そして発狂したエレナは牢で叫び続け、看護を受けられずに、日々弱り死んだ。
そのエレナの子どもは、いずこかの孤児院へと預けられた。
ミューラは、両親やエレナがどうなったのか、その結末は知らない。
知りたくなかったし、知っていたエドガーも、口にすることはなかった。
◆
◆
勇者ジークは、結局爵位は受け取らず、その分、報奨金を上乗せしてもらい王都の外れに土地と屋敷、そして使用人を賜(たまわ)った。
「爵位受け取らなくてよかったの?」
「オレが貴族とか、無理だよ。ここで静かに過ごすので十分だ。貴族夫人になりたかったか?」
悪戯(いたずら)っぽくエドガーが笑う。
「ううん。私も貴族はまっぴら。ここであなたと何か仕事を始めたいわ」
「小さい商店でもするか」
「いいわね」
貯金は潤沢だったが何もしないなどできない気質の2人は小さい商売をいくつか始め、いつしか商家になっていた。
屋敷には、たまにエドガーの気の良い仲間たちが訪れ、ほどほどに賑やかで。
また、商売が軌道にのって色々と人手が必要になった頃、エドガーがハミルトン男爵家で実はスカウトしてたのだ、とミューラと懇意にしてくれていた使用人たちを連れてきた。
良好な人間関係に恵まれ、子どもも何人か生まれて、順風満帆(じゅんぷうまんぱん)な結婚生活だった。
◆
◆
◆
――そんな日々の中、ミューラが孤児院の奉仕活動に参加すると、金髪の可愛らしい天使のような子がいるのが目についた。
可愛らしいためか、まわりにチヤホヤされ、世話を焼かれている。
なんとなく――もう思い出すこともなくなっていたエレナの顔が頭に浮かび、思わず見つめてしまった。
孤児院の院長がそれに気がついて、言った。
「天使みたいに可愛いでしょう、あの子。……引き取りたいって人が多いんですよ。あなたも引き取りたいと思われました?」
引取り先に立候補しませんか? という院長に、
「……いいえ」
言葉短く、ミューラは断った。
その後、もう一度その孤児院を訪ねることはあったが、その時、もうその子はいなかった。
その子がどこへ行ったかは調べるつもりもないが、ただ間違った道を歩みませんように、とミューラは祭壇でささやかに祈るのだった。
◆一万四千文字あります、長いです。
◆最初にこちらの連載をUPした時に一緒に載せようとして、載せ忘れたので入れさせてください。
――――――――――――――――――――――
「ちょっと! 昨日頼んだ刺繍ができてないじゃない!」
「ごめんね。昨日は疲れてて……」
豪華な内装の屋敷に大きく響き渡るのは、少女の怒鳴り声。
それに対して小さな声で謝罪する違う少女の声。
このハミルトン男爵家において、これは日常の光景だった。
「それでも正統な血筋の……お父様とお母さまの本当の娘なの!?」
「そ、そんなこと言われても」
責められているのは、茶髪で同じ色の瞳をした素朴な印象の少女。
名前はミューラ=ハミルトン。
ハミルトン男爵家の次女だ。
そして、彼女を怒声を浴びせているのは金髪碧眼の少女で、長女のエレナ。
彼女たちは同じ年齢、同じ誕生日だが、血のつながった姉妹ではない。
2人は産まれた時に、産院で取り違えられた。
出産間近だった男爵夫人が、王都で暮らす自分の父が亡くなってしまい、無理をして馬車に揺られ葬式に出席したところ、そこで産気づいてしまい、そこから一番近い平民用の産院へ運ばれ、出産した。
それが原因だった。
取り違えが発覚したのは、ミューラが10歳になった頃だった。
しかし、両親はエレナを、それはもう溺愛していた。
それまで実の子だと思っていたのだから、当然といえば当然だった。
さらに、エレナは金髪碧眼に抜けるような白い肌、容姿も愛らしい――天使のような少女だ。
両親たちは二人共、ブラウン系の髪をしており碧眼でもない。
ただ、親戚に金髪や碧眼がいなかったわけではないので、その縁から自分たちの間に天使が生まれたと信じて疑っていなかったのだ。
だがエレナは、ミューラと同じ日に同じ産院で、彼女を産み捨てて姿を消した素性も知れない女性の子だったのだ。
そして、本当の子供であるミューラは孤児院で育っていると発覚した。
発覚した理由は――エレナの自慢が多すぎる男爵夫人への、周囲の貴族女性の嫉妬だった。
彼女たちはエレナが両親にあまりにも似ていない為に、夫人が陰で浮気したのじゃないか? と噂するところから始まり、その陰口はエスカレートし、産院での調査へと至り――最終的には取り違え発覚までに至った。
両親は慌てて孤児院にミューラを迎えに行ったが、会ってみると、自分たちに似た素朴な色合いの子で、顔も平凡だった。
孤児院支給のみすぼらしい服だったことも、余計にミューラがエレナより『劣る』と彼らに思わせた。
両親はミューラを迎え入れたが、どうにも愛情が湧かなかった。
逆に、自分たちは天使を授かったと思っていたのに……と気持ちが沈んだ。
さらに――。
「あの子が本当の子供ってどういうこと? お父様、お母様! 私はあなた達の子供ではなくなってしまうの!? そんなの……いや!」
それまで10年以上溺愛してきた、愛らしいエレナが涙ながらに2人に訴えた。
本来ならば、エレナは孤児院に引き渡すべきだ。
しかし、今更どうしてこの愛らしい天使を手放すことができるだろう。
両親達の心は決まっていた。
「いいえ、エレナ。お前は変わらず私達の子どもよ。ね、あなた」
「もちろんだ。いつまでも私達の子どもでいてくれ……お前は今までと変わらずハミルトン家の長女で跡取り娘だよ」
本物の娘、ミューラが見ている前で、この家族愛は上演された。
ミューラは、両親が見つかったと聞いた時は、とても嬉しかった。
しかし、迎えにきた両親は、自分を見て落胆し、連れて行かれる馬車の中は静まり返り、ため息を何度もつかれた。
そして着いたらば、血のつながっていない美少女が姉として溺愛されている。
――私はどうしてこの家に引き取られたのだろう。
私がここへ来る意味はあったのかしら……。
こんなことなら、両親は見つからなくて良かった。
孤児院で仲良しで大好きだったエドガーという名の男の子もいた。
きっと彼も自分を好いていてくれたと思う。
『ミューラ。両親が見つかったんだってな。良かったな。手紙くれよな』
『エド……。うん。絶対会いに来るからね。手紙も出すから』
『オレも、手紙書く。会いにも行くから門前払いしないでくれよ? 男爵令嬢さま』
『やだ、そんなの絶対しないよ!』
彼の最後の笑顔はどこか寂しそうだった。
思い出して涙が滲(にじ)む。
できるなら孤児院にいたかった。そこそこ幸せだった。
両親が見つかったほうが不幸せになるなんて。
孤児院での人間関係は切りなさい、と手紙の約束も果たせない。
会いに行くなどもってのほかだった。
それから――。
なにかにつけて、ミューラはエレナにいじめられた。
いじめを見た両親もミューラが悪いからとエレナを庇った。
「エレナは……ずっと私達の子だと思われてきたのに、急にこんな事実が発覚して……可哀想な子なのよ。あなたが我慢しなさい、ミューラ」
「そうだ、エレナは可哀想なのだぞ……おまえも優しくしてあげなさい」
それはおかしい……と思いつつもミューラには頷く以外の選択肢はない。
両親も名前も跡目も、本来自分が享受すべきものは全てエレナのものになっている。
両親のさらに深まった溺愛のせいで、エレナは急速に増長した。
ミューラがエレナの都合の良い奴隷のようになるのは、あっと言う間だった。
ミューラはエドガーのことを考えることだけが心の支えだった。
彼は冒険者になると言っていた。
いつかこの屋敷を出ていけますように……そして彼を探しに行けますように。
そんなことを願いながらも、きっとそれは叶わないだろう……と心のどこかで諦めてはいたが。
◆
年月が経ち、貴族学校に通うようになったらば、エレナの分の宿題や荷物持ちまでやらされた。
それが冒頭での刺繍の件である。
「おとうさま、おかあさま、ひどいの! ミューラが私の宿題をやってくれなかったの!」
「なんだって。ミューラ。どうしてやってあげなかったんだ」
「まあ、エレナ、可哀想に。提出は何時限目なの?」
「午後の授業よ」
「じゃあミューラ。午前中は家でそれを仕上げてエレナに届けてあげなさい。もちろん間に合うようによ」
「私にも授業があります……」
「あなたには授業は必要ないでしょう。跡継ぎじゃないのだから」
「そうだな、そもそも跡継ぎはエレナなのだから」
「でも」
「エレナの補助すらできない頭の悪さなら、学校に行く必要もないな」
エレナの宿題のために授業を休まされたり、エレナの買い物のために授業を休んで使い走りをさせられたり――まともに授業が受けられる日がアンバランスで、ミューラは思うように勉学に取り組めなかった。
そのせいで、頭まで悪いと思われている。
「そうね、家で侍女について仕事を学ぶといいわ。そのうち貴女(あなた)はどこかへ奉公へ出したいし」
ひどい言葉を浴びせられているが、その母親の言葉にミューラはハッとした。
「……(それ、悪くないかも)」
ミューラは考えた。
貴族の子どもが集まる学校へ通い始めたものの、貴族令嬢としての振る舞いが不十分なミューラは、学校でも浮いていた。
勉強もまともにできない、友達ができるわけでもない。学校も実は行きたくなかった。
「わかりました。それでお願いします。私、侍女になってどこかへ奉公へ出ます」
「なんですって!?」
エレナが鬼の形相になった。
それもそうだろう。
学校でミューラと比較され、もてはやされるのが心地良くてミューラを連れ歩いていたのだから。
しかも、ミューラが最低限授業を受けていなければ、宿題を代わりにやらせることもできない。
エレナはコロリと態度を変えて、ミューラを気遣うように口を挟む。
「お父様お母さま、それはさすがにミューラが可哀想です……本来なら跡取り娘なのに……。まるで私が泥棒猫のようですわ」
「(……っ)」
余計なこと言わないで……。お願いだから、学校をやめさせて……。
神様どうか、お願いします……。
ミューラは、神に祈りながら成り行きを見守った。
「ああ、なんて優しいのエレナ!」
――ああ、だめだ。またエレナの希望が通ってしまう。
そんな風にミューラが、目を伏せた時、
「……でも、そうね。ミューラが珍しく良いことを言ったのだから……」
男爵夫人が、夫に目配せした。
それに頷(うなず)く男爵。
「エレナ、優しいね。だが、ミューラ、お前もよく言った。その望みは叶えてやろう。侍女としての勉強に励みなさい」
実は、男爵家はそれほど裕福ではなかった。
両親は、跡取りではないミューラを、学校へ行かせるお金が惜しかったのだ。
貴族令嬢として育てる、となると貴族の付き合いが発生する。
学校へ支払うお金だけでは済まない。
例えば、パーティなどがあると、エレナとミューラの2人分のドレス代金が発生する。
――男爵家の娘が侍女になるのは普通のことだ。
それを本人が目指すと言うならば、学校をやめさせる理由には十分だった。
「(良かった……初めて希望が叶った……)」
ミューラはホッとした。
「ええ~。そんなあ」
エレナは不満そうだったが、ミューラを学校に行かせないぶん、次にドレスを作る時にその分豪華になるよ、と説明したら機嫌が治った。
侍女の仕事を得てからは、半日以上エレナと離れていられたので、ミューラは少しだけだが気が軽くなった。
◆
侍女の仕事は、年配のマアラ侍女長が教えてくれた。
マアラ侍女長は、ミューラに優しかったうえに、今まで機会がなかったからお話できませんでしたが、と言い、
「私もエレナ様が小さなころからお仕えしてますから、エレナ様のことは可愛いです。ですが……嘆かわしいことです、その髪色、瞳、お顔も紛れもなく旦那様と奥様のお子様だというのに……。負うた子より抱いた子とは言いますが……旦那様も奥様もあなたが生まれるまで、毎日お腹を撫でられて過ごされていたというのに……忘れてしまわれたよう」
と、涙ながらにこっそり話してくれた。
「ミューラお嬢様。私がしっかりと仕事を教えて差し上げます。そして良い仕事先を知っておりますのでそれとなく旦那様にお話しますからね」
とてもありがたい上に、希望が出てきた。
ミューラは侍女の仕事をするようになってから、使用人たちと話をするようになり、彼らが内心では、自分に同情していることを知った。
それからも、両親とエレナにはひどく扱われたが、屋敷の中にも、まともな人たちを見つけることができて、ミューラは少しだけ安堵できるようになった。
◆
2年ほど経過し、15歳になり、ミューラの奉公先が決まりそうになった頃。
エレナも婚約者が決まり、その幸せをミューラに見せつけるようにしていた。
ミューラは羨ましいとは欠片(かけら)も思わなかったが、エレナはそれをすることにより、優越感を覚えているようだった。
わざわざミューラを指定して、庭園で睦み合う2人のところにティーセットを運ぶように命令し、待機させる。
「美しいよ、エレナ。君は天使だ……」
「そんな。私なんてこの家の本当の子供じゃないのに……」
目を潤ませて、婚約者のバートンの前で胸を痛めた様子を見せる。
バートンは、エレナのお眼鏡に適(かな)った美しい容姿の子爵家次男だ。
天使のようなエレナに選ばれたい男性は多かった。
ただし、高位貴族の男性から声がかかることは、身分的に少なかったが。
その中でバートンは一番条件の良い相手だった。
「なんて健気なんだ。いじめられてはいないかい?」
「いえ……両親には可愛いがってもらってるわ。……でも私、ミューラに申し訳なくて」
「君のほうが優れているのだから、君が継ぐのは当然だ。そうだな? ミューラ」
「仰せの通りでございます」
エレナにひたすら甘い言葉を捧げる婚約者は、同時にミューラに自分の立場を弁(わきま)えるような発言をさせる。
帰り際にも、見送りで控えているミューラにバートンは言うのだ。
「ミューラ、知っているぞ。君が陰でエレナをいじめていることを。いくら正統な血筋とはいえ、君は後継者ではないのだからもっと慎(つつ)ましくあるべきだろう」
それはとても冷たい瞳で、ミューラのことを人として認めない雰囲気だった。
ミューラは黙って会釈(えしゃく)するのみだった。
「謝ることもできないのか。生意気な――侍女だ。僕がこの家に入る頃にはいなくなっていろ」
バートンはエレナにすっかり騙され、彼の中でミューラは悪人だった。
訪ねてくるたびにきつく窘(たしな)められた。
一方、そんなエレナにとって都合の良い婚約者がいるのにも関わらず、エレナは伯爵家以上の貴族令息を諦められずに、陰で物色する毎日だった。
「私なら第一王子からでも婚約のお話があってもいいのに!」
エレナはそう言ってはいるが。
伯爵以上の高位貴族達は、そもそも男爵家など相手にしていないし、ハミルトン男爵家の内情も調べがついていた。
いくらエレナが美しくても。
正統な子であるミューラを跡目としていないのは、貴族の血をないがしろにする行為で、さらに裕福な財政でもない。
そんなハミルトン家に家門の大事な血筋を流すつもりはない――つまり、見下されていた。
また、高位貴族にはエレナクラスの美少女など当たり前のように存在した。
しかし、エレナはそんな令嬢たちを見かけても、自分のほうが美しいと自負していたのである。
何故なら、夜会へでかける際、たまに高位貴族男子に声をかけられていたからだ。
もちろん、遊び相手、としてでだ。
遊ばれているとも知らずに。
彼女はバートンの目を盗んでよく浮気をしていた。
彼女は彼らのピロートークを真に受けて、婚約の釣書が舞い込んでくると、ずっと思っている。
◆
そんなある日、男爵が両扉を開け放ち、歓喜して帰宅した。
「勇者ジーク様の御一行が、宿泊されるぞ!」
勇者ジークとその一行は、この国の第一王子が戦場で命を落としかけた時に現れ、救った英雄である。
この国にも国境の小競り合いがある。
そこへ現国王が、第一王子を国の精鋭で固めて向かわせた。
次期国王である第一王子の名声を高めるため、戦争に参加し指揮した経歴を作ろうとしたのだ。
長く続く小競り合いの戦場に第一王子の投入である。
それを知った隣国は、本気の侵攻があると思ったのか、それとも王子を討ち取る作戦か、もしくは捕虜として捕らえようとしたのか――戦力を増強したのである。
そして両国の精鋭と精鋭がぶつかり、護衛から離され追い詰められた王子が討ち取られそうになったところ、冒険者たちが助太刀に入り、助けた。
最初に失態を犯した王子ではあったが、そこから冒険者たちの力を借りて戦線復帰し、軍の態勢を建て直し、国境制圧に成功した。
その冒険者たちのリーダーが、ジークという青年なのだという。
平民の彼には『勇者』という称号が、その場で王子によって与えられた。
そして彼らは戦争が終わるとしばらく放浪していたのだが、報奨(ほうしょう)が準備できたと王都に呼び出されたのである。
その旅の途中にハミルトン男爵家に立ち寄るという。
なんでも勇者ジークが、ハミルトン家を訪ねたい、と言ったそうだ。
「屋敷内を埃一つなく掃除して、磨け! そして最高級の食事と部屋をご用意しろ!」
屋敷内はにわかに慌ただしくなった。
「ま、まあ勇者様が!?」
エレナがポッと頬を染めた。
勇者が王から高位の爵位と領地を賜る予定があるのを、情報の早い貴族たちは既に知っている。
「これはチャンスだわ。ミューラ、いつも以上に念入りに支度してよ! でもどうして我が家に? ひょっとしてどこかで私を見初めたのでは……?」
「はい(……婚約者のバートン様がいらっしゃるのに)」
ミューラにとっては忙しくなっただけだが、エレナにとっては千載一遇(せんさいいちぐう)のチャンスなのである。
勇者に見初められれば、一発逆転、高位貴族の仲間入りになれる!
……と本人が考えているのが、手に取るようにわかる。
「(でもそうなると、この家の跡取りがいなくなるわよね。それも困るわ)」
エレナが爵位ある相手に嫁いで出ていく、ということは男爵家の跡目を放り出すということだ。
そうなるとせっかくこの屋敷から去れそうなミューラが跡取りになりかねない。
それは今更困る。
ミューラとしては、どうか勇者がエレナを見初めませんように、と祈るばかりだった。
◆
勇者一行が到着し、エントランスで屋敷の全員が集まり頭を下げて迎える。
彼らは屈強そうな男性たちばかりだった。
その中でも、端正な顔立ちに濃紺の髪。そして髪と同じく青い瞳の青年がいた――それが勇者ジークだった。
名声に加えて素晴らしい容姿の彼に、エレナはひと目で食いついた。
「勇者ジーク様ぁ! よくいらっしゃいましたあ!!」
父親が口を開く前に黄色い声を出すエレナが、勇者の腕にまとわりつく。
「ああ、エレナ。お行儀が悪いよ。すみませんね、勇者様」
「だって……!」
「いえ、お世話になります。ところで……ご家族はここにいらっしゃる三人だけですか?」
「えっ」
急に勇者が思ってもみなかったことを男爵に聞き始めた。
「あー……っとそうですね……」
「そ、そうですわね。三人……ですわね」
男爵と夫人は歯切れが悪くなった。
「そうですか……。ミューラ、という娘さんはいらっしゃいませんでしたか?」
勇者が、ミューラの名前を口にした。
ミューラは思わず頭をあげた。
「(どうして、勇者が私のことを?)」
男爵たちの後方で控え、頭を下げていたミューラが顔をあげると、対面していた勇者と目が合った。
「……ミューラ!!」
勇者はエレナの手を振りほどき男爵たちの横をすり抜け、ミューラの傍へ駆け寄り抱きしめた。
ミューラはしばらく何が起こったのかと目を白黒したが――勇者からは懐かしい匂いがした。
そして脳内に浮かんだ幼い頃に別れた孤児院の想い人。
その顔と抱きしめてきた彼の顔が合致する。
「……エドガー?」
「そうだ! 俺だ! 会いたかった!!」
ずっと会いたかった幼馴染。
いつか会いたいと夢を持ちながら、諦めていた相手。
それが、今ここにいる。
あまりの出来事に、ミューラは呆然(ぼうぜん)とした。
思い出の中の彼よりも、背もずっと高くなり、声も低くなった。
すっかり大人の男性になった――確かに彼だ。
「でも勇者ジークって」
「いや、エドガーって名前で広がったら暮らしにくくなりそうだったから偽名にしてくれ、と無理矢理頼んだ。平民の名前なんてあってないようなものだしな」
「そっか……」
ミューラは、いっぱい話がしたかった。
でも、泣き出して喋れなくなりそうだったので、それを言うのが精一杯だった。
2人だけの世界が続きそうになったが、そこに割って入る声があった。
「あの!! どういうことですか!? 2人はどういう関係なの!」
エドガーに腕を外されて、恥をかかされたと思ったエレナが顔を真っ赤にし大声で怒鳴った。
「あ……。孤児院にいたときの友達で……」
とミューラが説明仕掛けた時、エドガーがそれを止めて言った。
「――ところでお伺いしたいことがあるんですが」
エドガーの声がスッと低くなり男爵達を振り返った。
「どうしてミューラが侍女の格好をしているんですか? 俺はこの男爵家の本当の娘だと判明したから引き取られたと聞いたのですが?」
「そ、それはその!」
男爵は言い淀んだが、エレナはこういう場合、機転が利く娘で口を挟んだ。
「勇者さま、誤解なさってますよね!? ミューラが望んで侍女になりたいと仰ったのよ! 自分に当主は務まらないから侍女になって奉公に出たいって!」
「この男爵家の跡取り娘はミューラになるんだ、とオレは孤児院の先生から聞いていたんだが……ところで君は誰だ」
「ミューラと取り違えられはしましたが、そのままこの家門の跡取り娘になりました、姉のエレナですわ」
勇者が自分をまっすぐ見たのでここぞとばかり、微笑むエレナ。
「……君が跡取り娘なのか? その話だと、この家の血を引いていないんじゃないか?」
「はい!! ですが……別に跡取りじゃなくても私は……」
頬を染めるエレナ。
「血は引いておりませんが、長年愛してきて、手放すことができませんでしたの……でも、勇者さまがお望みになるならば、エレナをあなたの花嫁にしても……」
と、夫人もエレナの援護に回ろうとした。
「どうして急に縁談の話になるのですか……。それは、お断りです」
そんな彼らに、きっぱり言い放ったエドガーは男爵に向き直った。
「侍女だというのなら、ここにいる間、オレにミューラをつけてください」
◆
エドガー付きにするという約束をしたのにも関わらず、その場を解散して以降、ミューラの姿は見えなくなった。
その後、晩餐の席にもミューラは顔を出さず、エドガーはその奇妙な状態に食が進まなかった。
「あの、ミューラがいないのですが」
「ああ、ミューラでしたら体調を崩しまして!」
エレナが明るい笑顔で言葉をかぶせ気味に答える。
「なんだって。部屋はどこですか」
立ち上がろうとしたエドガーを男爵が止める。
「ああ、いくら幼馴染とはいえ、あの子も年頃ですので、部屋を訪ねるのはご遠慮いただけますか」
「……」
そう言われてしまっては、引き下がるしかなかった。
扱いがどうもおかしいと感じつつも、ミューラは男爵令嬢なのだ。
しかも、自分は現時点でまだ平民、しかも孤児院出身だ。
今回の訪問だって功を立てたから叶ったのだ。
ミューラに手紙を何度出しても返事が来ず、貴族の生活が楽しくて自分のことなど忘れたのだろうと思いかけた時もあったが、彼女は返事を一通も出さないような性格ではない。
何かがおかしいと感じて何度か訪問したことがあったが、門前で追い返され、最後に訪問したときは通報されかけた。
あまりしつこいとミューラに迷惑がかかるかもしれないと、諦めていたのだが――。
「(あの時、王子を助けに飛び込んで良かった。身分をもうすぐ得られる今なら、彼女をここから救い出せる。この家門は……おかしい)」
エドガーはため息をついた。
「(今回は様子見で立ち寄り、身分を得た後で、婚約を申し込もうと思っていたが、我慢ならない。なんとかして連れ出さないと)」
そして、エドガーは先程から馴れ馴れしいエレナに警戒心を抱き、仲間の部屋にソファでいいからと泊まらせてもらった。
案の定、エレナが夜這いにやってきたようだったが、エドガーが部屋に不在では、陥れることはできなかった。
◆
勇者たちが宿泊した日から、ミューラは地下牢に閉じ込められていた。
そのミューラに、エレナは癇癪(かんしゃく)を起こし、鞭を振るっていた。
「ああ! もうむかつく!! なんで勇者様があんたの幼馴染なのよ!!」
ティーカップより重たいものが持てなさそうな、その華奢な容姿からは想像できない手さばきで鞭を振るうエレナ。
「う……!」
ミューラは顔をしかめ、涙を浮かべて耐えるのみだった。
ミューラを牢に入れることは、両親も承諾していた。
――エレナの邪魔になるから、と。
そして、エレナは今まで越えていなかった一線を越えた。
両親は鞭を振るうところまでは、了承してなかった。
「ちょっと、あんた。ジーク様にエレナが婚約者としてふさわしい、とおすすめしなさいよ!」
「え……」
エレナをエドガーの婚約者に……?
それは――できない!
今まで数々の暴力に耐えてきたミューラだったが、それは譲ることができなかった。
「い、いやです」
「なんですって!?」
「それだけは絶対いや! たとえ私が勧めたとしても、あなたみたいな人、エドガーが好きになるはずがない!!」
いやだ、エドガーだけはいや。
孤児院の思い出、彼のことだけはエレナに踏み荒らされたくない!!
今まで我慢して耐え、一言も逆らわなかったミューラだったが、エレナを軽蔑している本音をともなって断った。
「この……!!」
「うあ……っ」
エレナはミューラを殴り、蹴りあげ、鞭をふるった。
「あんた目障りよ! もう死んじゃえばいいのに!! ああそうよ、あんたがいる限り、いつまでたっても私はこの家の本物の娘になれた気がしない! あんたが死ねば完璧なのよ! どうして気が付かなかったのかしら!」
エレナは、鞭を放りだし、ミューラの首を締め始めた。
ミューラは驚愕(きょうがく)した。
嘘でしょう!?
殺人まで厭(いと)わないの!?
「……っ」
数日ろくに食事をとらせてもらっていないミューラは、エレナに抵抗できる力が出ず、朦朧(もうろう)としてきた。
――走馬灯だろうか。
エドガーの姿が、幻が、浮かんだ。
「(せっかく会えたのに。屋敷の中にいるのに……)」
視界が揺れ、エドガーの幻も揺れる。
目を閉じかけた時、誰かが階段を駆け下りる音が耳についた。
その足音が止まると同時に――。
「――やめろ!!!」
「エ、エドガー様!? 何故ここに……!!」
少し怯えたようなエレナの声。
揺れるエドガーの幻に本物のエドガーの顔が重なる。
「……っ」
ミューラはそれに目を見開いた。
エドガーは、エレナをミューラから引き剥がした。
「きゃあ!!」
引き剥がされ、強い力で床に転がされるエレナ。
「……まさか、こんな、こんなことが……! なんて悪女だ」
エドガーは意識朦朧(いしきもうろう)とするミューラの傍に膝をつく。
「ミューラ!!」
実は、このことを知っていた侍女長が密告をしたのだ。
ミューラを助けてやってほしい、と。
全容を知ったエドガーはもう躊躇(ちゅうちょ)せず、教えてもらった地下牢へ駆け込んだのだ。
「(あと一歩遅ければ、ミューを殺されていた!!)」
「あ、悪女!? 私が!?」
心外だ、といった顔を浮かべるエレナは無視し、エドガーはミューラを抱きかかえる。
「大丈夫か!! ミュー!」
「え、エド……」
「……お前をここから連れ出す。お前がいやだっていっても、連れて行く。オレはお前が幸せに暮らしてると思っていたんだ。……だから邪魔になりたくなくてずっと諦めてたんだ。だが……なんだよ、これは。お前をここに置いておいたら死んでしまう! こんなことになってるなんて!!」
「ごめん、私も、手紙が書けなくて……」
「会いに来るのが、遅くなってごめん……」
ミューラは首を横に振り、ガタガタと震えている手でエドガーの首に手を回した。
「な、なによ!! なにが勇者よ!! 孤児院出身の平民のくせに!! あんたなんかこっちから願い下げだわ! 私を突き飛ばした罪で通報してやるんだから!!」
エレナが真っ赤な顔で、エドガーに怒鳴る。
そんなエレナにエドガーは軽蔑の瞳を向け、言った。
「いいだろう。だがこの件は、オレも通報する。いいかエレナ嬢、この状況を通報しても不利になるのは君だ。君は必ず逮捕される」
「な、なんですって!?」
◆
「通報は、ご勘弁ください……! エレナ、謝りなさい!!」
「どうして私が!!」
「もう、どうしてあなたはそんなに我が儘なの!?」
男爵夫妻は、通報というと珍しくエレナに謝罪するよう促したが、それを聞くエレナではなかった。
「では、通報しないかわりに、ミューラをオレにください」
エドガーは譲歩のつもりでそう言った。しかし男爵は一瞬笑顔になった。
「そ、それで良いのでしたら! ミューラ、粗相(そそう)の無いようにするのだぞ!!」
今後、高位貴族になる勇者とのつながりができる、と思ったようだった。
だが、エドガーはそれも一刀両断した。
「二度と俺達に近寄るな。それも通報しない条件に含む」
男爵は苦い顔だったが、事情を知ったエドガーの仲間たちにも、凄まじい形相で睨まれ――萎縮(いしゅく)し了承するしかなかった。
その間、ミューラはエドガーの仲間に治療を受け、その様子を見ていたが、
「(こんなに私が酷い状態になっても……結局、私の心配ひとつ……してくれなかった)」
ほんの少しだけ、両親にすがる気持ちが、まだあったなど自分でも思わなかったが、それを限りに両親への思いはすべて消え去ったミューラだった。
◆
エドガーの仲間の治癒魔法でミューラは、すぐに元気になった。
ミューラが治るとすぐに、勇者一行は男爵領地を旅立った。
「エドガー、その、ありがとう……」
「ずっとその言葉ばっかりだな」
しかし、ミューラは落ち着くと気恥ずかしかった。
婚約するという言葉で連れ出されたものの、それはつまりエドガーと結婚するということだ。
「その、その……。エドガー、助けてもらってありがたいのだけど、その、婚約って……」
「その、が多すぎだろ。いやか? オレと……結婚するのは」
「そ、そんなことはない、よ。だってずっと……」
「……」
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◆
その後、数ヶ月経った男爵家では――。
「どういうことだ! その腹は!!」
結婚前だというのに妊娠し、その腹の膨らみが隠せなくなったエレナが、婚約者のバートンに責められていた。
「僕を裏切っていたのか……エレナ!」
婚約者のバートンが絶望と怒りを浮かべた顔で怒鳴る。
「だって……みんなやってることだって……知り合いの令嬢も、誘ってきた令息も言ってたし……」
「やってるわけないだろう! 他の貴族の口車に乗せられたな! 何も知らない令嬢を誘ったり陥れる時によく使う言葉だ! ……そんな事もわかってなかったのか!?」
怒りで頭がおかしくなりそうだ、とバートンは、髪をぐしゃぐしゃとかきむしる。
「バートン様の子じゃなかったのか!?」
「誰の子なの!?」
両親にも詰め寄られる。
エレナがこんなに追い詰められるのは初めてのことだった。
いつもなら、誰しもが自分を笑って許してくれるというのに。
「わ、わからないわ……だって、結婚前にみんな恋は楽しむものだって……」
「あなたはもう婚約していたのよ!? 常識でしょう!?」
「エレナ、私達にはバートン様の子だって言っただろう!」
「つまり、確信犯だということか! 気持ち悪いな! それに僕たちはまだ、そういう関係には至ってない。僕の子でないことは明らかだ!!」
顔を真っ赤にしたバートンが怒り狂う。
「良くもバカにしてくれたな! こんな淫乱な女、願い下げだ!! 婚約は破棄させてもらう!!」
「そんな、お待ちくださいバートン様……!」
ハミルトン男爵家全員で、バートンにすがる。しかし――。
バートンは神経質すぎるほど生真面目かつ完璧主義で、大切なものは異様に大切にするが、自分に汚点をつけたものを絶対に許さない、気位の高い男だった。
「……婚約破棄だけで済むと思うな。賠償金、払ってもらうからな!! 僕をバカにした分と、僕の人生計画が狂う分全てだ!!」
――かくして。
大した財産のない男爵家であるハミルトン家は、賠償金とそれを払うための借金で破産した。
バートンはバートンで金は吸い上げたものの、完璧だと思っていた自分の経歴に傷がついたことに病み、引きこもり生活になったという。
勇者は約束通り通報しなかったが、ミューラの虐待・暴行の件をこのタイミングで使用人から通報され、親子3人、牢屋行きとなった。
さらに借金返済のために、知人の屋敷から盗みを働こうとしたことがばれ、さらに罪は重なった。
裁判中、牢屋暮らしになった3人は、同じ牢に入れられた。
彼らは、お互いを責め合い、かなりの喧騒を響かせていたという。
「なんで私達がこんなところに閉じ込められなきゃいけないの!」
「ああ……もうなんて事だ。きっと爵位返上になる。私達はエレナ、お前に甘すぎた」
「そうですわね。厳しく育てたミューラは……いえ、私達の本当の子だけあって、慎ましかったわ」
そう言ってエレナを見る目が冷ややかな両親にエレナは、自分の全てが崩れていくのを感じた。
「ああ、ミューラ……。あの子は大人しくて良い子だった。やはり本当の血を受け継いたミューラを跡取りにしておくんだった!」
「そうね……エレナはいつも我が儘ばかりで……。ああ、ミューラ。私の本当の娘……」
「な……! お父様、お母さま! どうしてそんなことを急に言い出すの!? 私のことを愛してるっていつも言ってくれてたじゃない! ミューラよりも!!」
「そうだ。それなのにお前は……だらしのない令嬢に育ってしまった。この、親不孝ものが……!」
「私達の愛を受け続けてきたのに、あなたが望むことを、なんでも与えてきたのに……いくら見た目が良くても、やはり平民の血はだめね」
「そうよ! いっぱい愛してもらってたわよ! でも、これからもそうなんでしょう? お父様なら、ここから私を出してくれるんでしょう!?」
「この状態で、できるわけないだろう! そんなこともわからないのか、この娘は」
「ああ、もう……。こんな薄汚い衣でできた服を着るなんて屈辱だわ……。エレナ、あなたどうしてバートン様で我慢しなかったの?」
「私を責める前に、お父様とお母さまだって無能なんじゃない!」
――愛し合って強い絆で結ばれていたはずの3人は、最後まで自分の事ばかり訴え、その親子愛はひび割れた。
その後、裁判が終わり刑が決定すると、父親は炭鉱へ、母親は厳しい労働がある収容所へ送られた。
両親は厳しい労働に栄養不足でしだいにやせ細り、その後はそれほど長い人生ではなかった。
被害者のミューラなら刑を軽くできるだろうと思い、それを頼む手紙も書いたようだったが、それはエドガーが握りつぶしていた。
母親とは別の収容所に送られたエレナは、妊婦だった為に、出産までは労働を免れたが――。
「なにこの食事!! 豚のエサじゃないんだから!!」
と食事を拒否し続け、次第に体が弱り、その上でなんとか出産した。
「こんなの……おかしいわ……私は王妃になるような人間なのよ……助けてお父様! お母さま!!」
そして発狂したエレナは牢で叫び続け、看護を受けられずに、日々弱り死んだ。
そのエレナの子どもは、いずこかの孤児院へと預けられた。
ミューラは、両親やエレナがどうなったのか、その結末は知らない。
知りたくなかったし、知っていたエドガーも、口にすることはなかった。
◆
◆
勇者ジークは、結局爵位は受け取らず、その分、報奨金を上乗せしてもらい王都の外れに土地と屋敷、そして使用人を賜(たまわ)った。
「爵位受け取らなくてよかったの?」
「オレが貴族とか、無理だよ。ここで静かに過ごすので十分だ。貴族夫人になりたかったか?」
悪戯(いたずら)っぽくエドガーが笑う。
「ううん。私も貴族はまっぴら。ここであなたと何か仕事を始めたいわ」
「小さい商店でもするか」
「いいわね」
貯金は潤沢だったが何もしないなどできない気質の2人は小さい商売をいくつか始め、いつしか商家になっていた。
屋敷には、たまにエドガーの気の良い仲間たちが訪れ、ほどほどに賑やかで。
また、商売が軌道にのって色々と人手が必要になった頃、エドガーがハミルトン男爵家で実はスカウトしてたのだ、とミューラと懇意にしてくれていた使用人たちを連れてきた。
良好な人間関係に恵まれ、子どもも何人か生まれて、順風満帆(じゅんぷうまんぱん)な結婚生活だった。
◆
◆
◆
――そんな日々の中、ミューラが孤児院の奉仕活動に参加すると、金髪の可愛らしい天使のような子がいるのが目についた。
可愛らしいためか、まわりにチヤホヤされ、世話を焼かれている。
なんとなく――もう思い出すこともなくなっていたエレナの顔が頭に浮かび、思わず見つめてしまった。
孤児院の院長がそれに気がついて、言った。
「天使みたいに可愛いでしょう、あの子。……引き取りたいって人が多いんですよ。あなたも引き取りたいと思われました?」
引取り先に立候補しませんか? という院長に、
「……いいえ」
言葉短く、ミューラは断った。
その後、もう一度その孤児院を訪ねることはあったが、その時、もうその子はいなかった。
その子がどこへ行ったかは調べるつもりもないが、ただ間違った道を歩みませんように、とミューラは祭壇でささやかに祈るのだった。
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