41 / 46
【40】天使の行きつく場所を幸せになった彼女は知らない。
しおりを挟む
エドガーは、結局爵位は受け取らず、その分、報奨金を上乗せしてもらい王都の外れに土地と屋敷、そして使用人を賜たまわった。
その使用人のうち何人かは、男爵家の仕事を失って行く宛のなかった人たちだ。
エドガーの冒険者仲間も、同じようにして、近所の土地を得て、よく遊びに来ていた。
だが、その中には定住しないで、旅立ってしまった仲間もいて、エドガーは少し寂しそうだったが――。
「(ミューラとこれから住むのだから、冒険者は廃業する)」
と、プロポーズのタイミングを見計らっていた。
また、エドガーの腐れ縁のセベロは、隣の土地を購入して、しょっちゅう遊びに来ていたが、相変わらず女癖が悪く、たまに鬼のような顔になった女に追いかけられているのを見かけた。
「あいつは将来、女に刺されて死ぬな……」
エドガーが遠い目をしてそう言ってるのを、ミューラは苦笑しながら聞くのだった。
◆
エドガーの屋敷に住み始めてしばらく経った頃。
「今日は貴族っぽいお茶会をしよう」
……とエドガーが謎のお茶会を催した。
やたらと豪華なケーキや菓子が並び、さらに花が飾られていた。
「えっ。とても豪華。2人じゃ食べきれないよ? ……誰かあとでくるの?」
「いや、2人だけだ」
悪戯いたずらっぽくエドガーが笑う。
「うーん? 今日は何かお祝いだったっけ」
エドガーが、貴族のように改まったスーツを着ている。
そして、ミューラも先程何故か使用人に、青いドレスを着せられた。
「これから、多分そうなる」
「??」
着席して、使用人がティーセットを整えると、エドガーが緊張した顔をして話し始めた。
「あー。ミュー。一緒に住み始めたワケだが」
「うん」
「ただ一緒に住むだけじゃなくて、その、結婚して欲しいんだが……」
と、指輪を取り出し見せた。
「えっ」
ミューラは、ビックリして、指輪を見てフリーズした。
そしてエドガーも動揺した。
「……えっ。(まさか、本当に幼馴染止まりだったのか!? 俺は恋愛沙汰が考えられる状態じゃないだけだと思っていたのだが……)」
――エドガーが焦っている前で、ミューラはしばしポカン、とした顔のままだったが、そのうちそれは笑顔に変わった。
指輪を持つエドガーの手にミューラの手が重なる。
「……ありがとう。嬉しいです」
と、涙を浮かべて答えた。
エドガーの思っている通り、男爵家を出た頃のミューラは、恋愛事を考えられる状態ではなかった。
でも、エドガーと過ごすうちに、心も健康を取り戻していった。
そして、エドガーのことを改めて男性として意識するようになっていたのだが、幼馴染として見られていると思っていて、迷惑をかけてはいけないと気持ちを隠していたのだった。
それを聞いたエドガーは、救われたような笑顔を浮かべてミューラの手を取り――指輪をはめた。
◆
その後、2人は結婚したあと、小さい商店を始めた。
貯金は潤沢だったが何もしないなどできない気質の2人は、その小さな商店から事業の手を広げ、いつしかそれなりの商家になっていた。
良好な人間関係に恵まれ、子どもも何人か生まれて、順風満帆(じゅんぷうまんぱん)な結婚生活だった。
◆
◆
◆
――そんな日々の中、ミューラが孤児院の奉仕活動に参加すると、金髪の可愛らしい天使のような子がいるのが目についた。
可愛らしいためか、まわりにチヤホヤされ、世話を焼かれている。
なんとなく――もう思い出すこともなくなっていたエレナの顔が頭に浮かんだ。
新しい孤児院の院長がそれに気がついて、言った。
「天使みたいに可愛いでしょう、あの子。……引き取りたいって人が多いんですよ。あなたも引き取りたいと思われました?」
引取り先に立候補しませんか? という院長に、
「……いいえ」
言葉短く、ミューラは断った。
その後、もう一度その孤児院を訪ねることはあったが、その時、もうその子はいなかった。
その子がどこへ行ったかは調べるつもりもないが、ただ間違った道を歩みませんように、とミューラは祭壇でささやかに祈るのだった。
【FIN】
その使用人のうち何人かは、男爵家の仕事を失って行く宛のなかった人たちだ。
エドガーの冒険者仲間も、同じようにして、近所の土地を得て、よく遊びに来ていた。
だが、その中には定住しないで、旅立ってしまった仲間もいて、エドガーは少し寂しそうだったが――。
「(ミューラとこれから住むのだから、冒険者は廃業する)」
と、プロポーズのタイミングを見計らっていた。
また、エドガーの腐れ縁のセベロは、隣の土地を購入して、しょっちゅう遊びに来ていたが、相変わらず女癖が悪く、たまに鬼のような顔になった女に追いかけられているのを見かけた。
「あいつは将来、女に刺されて死ぬな……」
エドガーが遠い目をしてそう言ってるのを、ミューラは苦笑しながら聞くのだった。
◆
エドガーの屋敷に住み始めてしばらく経った頃。
「今日は貴族っぽいお茶会をしよう」
……とエドガーが謎のお茶会を催した。
やたらと豪華なケーキや菓子が並び、さらに花が飾られていた。
「えっ。とても豪華。2人じゃ食べきれないよ? ……誰かあとでくるの?」
「いや、2人だけだ」
悪戯いたずらっぽくエドガーが笑う。
「うーん? 今日は何かお祝いだったっけ」
エドガーが、貴族のように改まったスーツを着ている。
そして、ミューラも先程何故か使用人に、青いドレスを着せられた。
「これから、多分そうなる」
「??」
着席して、使用人がティーセットを整えると、エドガーが緊張した顔をして話し始めた。
「あー。ミュー。一緒に住み始めたワケだが」
「うん」
「ただ一緒に住むだけじゃなくて、その、結婚して欲しいんだが……」
と、指輪を取り出し見せた。
「えっ」
ミューラは、ビックリして、指輪を見てフリーズした。
そしてエドガーも動揺した。
「……えっ。(まさか、本当に幼馴染止まりだったのか!? 俺は恋愛沙汰が考えられる状態じゃないだけだと思っていたのだが……)」
――エドガーが焦っている前で、ミューラはしばしポカン、とした顔のままだったが、そのうちそれは笑顔に変わった。
指輪を持つエドガーの手にミューラの手が重なる。
「……ありがとう。嬉しいです」
と、涙を浮かべて答えた。
エドガーの思っている通り、男爵家を出た頃のミューラは、恋愛事を考えられる状態ではなかった。
でも、エドガーと過ごすうちに、心も健康を取り戻していった。
そして、エドガーのことを改めて男性として意識するようになっていたのだが、幼馴染として見られていると思っていて、迷惑をかけてはいけないと気持ちを隠していたのだった。
それを聞いたエドガーは、救われたような笑顔を浮かべてミューラの手を取り――指輪をはめた。
◆
その後、2人は結婚したあと、小さい商店を始めた。
貯金は潤沢だったが何もしないなどできない気質の2人は、その小さな商店から事業の手を広げ、いつしかそれなりの商家になっていた。
良好な人間関係に恵まれ、子どもも何人か生まれて、順風満帆(じゅんぷうまんぱん)な結婚生活だった。
◆
◆
◆
――そんな日々の中、ミューラが孤児院の奉仕活動に参加すると、金髪の可愛らしい天使のような子がいるのが目についた。
可愛らしいためか、まわりにチヤホヤされ、世話を焼かれている。
なんとなく――もう思い出すこともなくなっていたエレナの顔が頭に浮かんだ。
新しい孤児院の院長がそれに気がついて、言った。
「天使みたいに可愛いでしょう、あの子。……引き取りたいって人が多いんですよ。あなたも引き取りたいと思われました?」
引取り先に立候補しませんか? という院長に、
「……いいえ」
言葉短く、ミューラは断った。
その後、もう一度その孤児院を訪ねることはあったが、その時、もうその子はいなかった。
その子がどこへ行ったかは調べるつもりもないが、ただ間違った道を歩みませんように、とミューラは祭壇でささやかに祈るのだった。
【FIN】
51
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ご令嬢は一人だけ別ゲーだったようです
バイオベース
恋愛
魔法が有り、魔物がいる。
そんな世界で生きる公爵家のご令嬢エレノアには欠点が一つあった。
それは強さの証である『レベル』が上がらないという事。
そんなある日、エレノアは身に覚えの無い罪で王子との婚約を破棄される。
同じ学院に通う平民の娘が『聖女』であり、王子はそれと結ばれるというのだ。
エレノアは『聖女』を害した悪女として、貴族籍をはく奪されて開拓村へと追いやられたのだった。
しかし当の本人はどこ吹く風。
エレノアは前世の記憶を持つ転生者だった。
そして『ここがゲームの世界』だという記憶の他にも、特別な力を一つ持っている。
それは『こことは違うゲームの世界の力』。
前世で遊び倒した農業系シミュレーションゲームの不思議な力だった。
辺境の薬師は隣国の王太子に溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
一部の界隈でそれなりに有名だった薬師のアラーシャは、隣国に招かれることになった。
隣国の第二王子は、謎の現象によって石のように固まっており、それはいかなる魔法でも治すことができないものだった。
アラーシャは、薬師としての知識を総動員して、第二王子を救った。
すると、その国の第一王子であるギルーゼから求婚された。
彼は、弟を救ったアラーシャに深く感謝し、同時に愛情を抱いたというのだ。
一村娘でしかないアラーシャは、その求婚をとても受け止め切れなかった。
しかし、ギルーゼによって外堀りは埋められていき、彼からの愛情に段々と絆されていった。
こうしてアラーシャは、第一王子の妻となる決意を固め始めるのだった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる