38 / 46
【37】救出
しおりを挟む
――ミューラの姿が見えない。
メイド長のマァラはじめ、他の使用人も、ミューラの姿が見えないので、仕事の隙間時間に探していた。
男爵が病気だと言っていたので、心配して部屋を見に行った使用人が何人かいたのだが、ミューラが部屋にいないのだ。
使用人の間に心配と不安が広がっていた。
探してないのは、あとこの廊下と――
ミューラを探して、人通りが少ない地下室への通路階段前をメイド長が通りかかった時――ちょうどガエルが地下から上がって来た。
地下には地下牢と、めったに使用されない道具が置かれているだけだ。
普段、訪れることはまずない。
不審に思ったメイド長のマァラが声をかけた。
「あら、ガエルさん、地下になんの御用だったの?」
「メイド長……」
「……どうしたの?」
「……」
ガエルは俯いて黙った。
「……まさか、地下にミューラお嬢様が?」
「――っ」
ガエルの目からポタポタと涙が落ち――罪の意識に押しつぶされた彼は、地下で起こっていることをマァラに話した。
「なんてこと……!」
マァラは、ミューラがメイドになってから、彼女の孤児院の話しなどをよく聞いていて、エドガーのことも知っていた。
「(私達では止められない……!)」
マァラは、血相を変えてエドガーに知らせに行った。
◆
「……っ(あと一歩遅ければ、ミューを殺されていた!!)」
「エド……」
「もう、大丈夫だ」
「判断が甘かった……。ここまでひどかったなんて。もっと警戒する必要があった……。ごめん、ミュー……準備整え次第、すぐにこの屋敷から出ていこう。お前をここに置いておいたら殺されてしまう……!」
ミューラはガタガタと震えている手でエドガーの首に手を回した。
それは、肯定の返事だった。
「そんなこと、勝手にできないわよ! その子はこの家の本当の子なんだから!!」
エレナが身を起こしながらそう叫んだ。
そのエレナにエドガーは侮蔑の視線を送る。
「そうか。だが、この件は通報する。――君の両親も含めてだ。ただでは済ませない」
「私は領主の娘よ! 逮捕されるわけないじゃないの! なにが勇者よ! 孤児院出身の平民のくせに!! あなたなんかこっちから願い下げだわ! 困るのはあなたの方よ! 私を突き飛ばした罪で通報してやるんだから!! 」
「そうか。言えばいい。ただお前がやった、殺人目的の暴力の救助の為だ。罪になったとしても大した罪にはならんと思うがな。ミューラの治療を急ぐから失礼する」
エドガーには響くことのない誹謗中傷を喚き散らすエレナを置いて、エドガーはミューラを仲間たちのところへ連れて行った。
◆
「通報は、ご勘弁ください……! エレナ、謝りなさい!!」
「どうして私が!!」
「もう、どうしてあなたはそんなに我が儘なの!?」
男爵夫妻は、通報というと珍しくエレナに謝罪するよう促したが、それを聞くエレナではなかった。
「では、通報しないかわりに、ミューラをオレにください」
エドガーは譲歩のつもりでそう言った。しかし男爵は一瞬笑顔になった。
「そ、それで良いのでしたら! ミューラ、粗相(そそう)の無いようにするのだぞ!!」
今後、高位貴族になる勇者とのつながりができる、と思ったようだった。
だが、エドガーはそれも一刀両断した。
「二度と俺達に近寄るな。それも通報しない条件に含む」
男爵は苦い顔だったが、事情を知ったエドガーの仲間たちにも、凄まじい形相で睨まれ――萎縮(いしゅく)し了承するしかなかった。
その間、ミューラはエドガーの仲間に治療を受け、その様子を見ていたが、
「(こんなに私が酷い状態になっても……結局、私の心配ひとつ……してくれなかった)」
ほんの少しだけ、両親にすがる気持ちが、まだあったなど自分でも思わなかったが、それを限りに両親への思いは今度こそ、すべて消え去ったミューラだった。
メイド長のマァラはじめ、他の使用人も、ミューラの姿が見えないので、仕事の隙間時間に探していた。
男爵が病気だと言っていたので、心配して部屋を見に行った使用人が何人かいたのだが、ミューラが部屋にいないのだ。
使用人の間に心配と不安が広がっていた。
探してないのは、あとこの廊下と――
ミューラを探して、人通りが少ない地下室への通路階段前をメイド長が通りかかった時――ちょうどガエルが地下から上がって来た。
地下には地下牢と、めったに使用されない道具が置かれているだけだ。
普段、訪れることはまずない。
不審に思ったメイド長のマァラが声をかけた。
「あら、ガエルさん、地下になんの御用だったの?」
「メイド長……」
「……どうしたの?」
「……」
ガエルは俯いて黙った。
「……まさか、地下にミューラお嬢様が?」
「――っ」
ガエルの目からポタポタと涙が落ち――罪の意識に押しつぶされた彼は、地下で起こっていることをマァラに話した。
「なんてこと……!」
マァラは、ミューラがメイドになってから、彼女の孤児院の話しなどをよく聞いていて、エドガーのことも知っていた。
「(私達では止められない……!)」
マァラは、血相を変えてエドガーに知らせに行った。
◆
「……っ(あと一歩遅ければ、ミューを殺されていた!!)」
「エド……」
「もう、大丈夫だ」
「判断が甘かった……。ここまでひどかったなんて。もっと警戒する必要があった……。ごめん、ミュー……準備整え次第、すぐにこの屋敷から出ていこう。お前をここに置いておいたら殺されてしまう……!」
ミューラはガタガタと震えている手でエドガーの首に手を回した。
それは、肯定の返事だった。
「そんなこと、勝手にできないわよ! その子はこの家の本当の子なんだから!!」
エレナが身を起こしながらそう叫んだ。
そのエレナにエドガーは侮蔑の視線を送る。
「そうか。だが、この件は通報する。――君の両親も含めてだ。ただでは済ませない」
「私は領主の娘よ! 逮捕されるわけないじゃないの! なにが勇者よ! 孤児院出身の平民のくせに!! あなたなんかこっちから願い下げだわ! 困るのはあなたの方よ! 私を突き飛ばした罪で通報してやるんだから!! 」
「そうか。言えばいい。ただお前がやった、殺人目的の暴力の救助の為だ。罪になったとしても大した罪にはならんと思うがな。ミューラの治療を急ぐから失礼する」
エドガーには響くことのない誹謗中傷を喚き散らすエレナを置いて、エドガーはミューラを仲間たちのところへ連れて行った。
◆
「通報は、ご勘弁ください……! エレナ、謝りなさい!!」
「どうして私が!!」
「もう、どうしてあなたはそんなに我が儘なの!?」
男爵夫妻は、通報というと珍しくエレナに謝罪するよう促したが、それを聞くエレナではなかった。
「では、通報しないかわりに、ミューラをオレにください」
エドガーは譲歩のつもりでそう言った。しかし男爵は一瞬笑顔になった。
「そ、それで良いのでしたら! ミューラ、粗相(そそう)の無いようにするのだぞ!!」
今後、高位貴族になる勇者とのつながりができる、と思ったようだった。
だが、エドガーはそれも一刀両断した。
「二度と俺達に近寄るな。それも通報しない条件に含む」
男爵は苦い顔だったが、事情を知ったエドガーの仲間たちにも、凄まじい形相で睨まれ――萎縮(いしゅく)し了承するしかなかった。
その間、ミューラはエドガーの仲間に治療を受け、その様子を見ていたが、
「(こんなに私が酷い状態になっても……結局、私の心配ひとつ……してくれなかった)」
ほんの少しだけ、両親にすがる気持ちが、まだあったなど自分でも思わなかったが、それを限りに両親への思いは今度こそ、すべて消え去ったミューラだった。
27
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。
ラディ
恋愛
一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。
家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。
劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。
一人の男が現れる。
彼女の人生は彼の登場により一変する。
この機を逃さぬよう、彼女は。
幸せになることに、決めた。
■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です!
■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました!
■感想や御要望などお気軽にどうぞ!
■エールやいいねも励みになります!
■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。
※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。
ご令嬢は一人だけ別ゲーだったようです
バイオベース
恋愛
魔法が有り、魔物がいる。
そんな世界で生きる公爵家のご令嬢エレノアには欠点が一つあった。
それは強さの証である『レベル』が上がらないという事。
そんなある日、エレノアは身に覚えの無い罪で王子との婚約を破棄される。
同じ学院に通う平民の娘が『聖女』であり、王子はそれと結ばれるというのだ。
エレノアは『聖女』を害した悪女として、貴族籍をはく奪されて開拓村へと追いやられたのだった。
しかし当の本人はどこ吹く風。
エレノアは前世の記憶を持つ転生者だった。
そして『ここがゲームの世界』だという記憶の他にも、特別な力を一つ持っている。
それは『こことは違うゲームの世界の力』。
前世で遊び倒した農業系シミュレーションゲームの不思議な力だった。
辺境の薬師は隣国の王太子に溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
一部の界隈でそれなりに有名だった薬師のアラーシャは、隣国に招かれることになった。
隣国の第二王子は、謎の現象によって石のように固まっており、それはいかなる魔法でも治すことができないものだった。
アラーシャは、薬師としての知識を総動員して、第二王子を救った。
すると、その国の第一王子であるギルーゼから求婚された。
彼は、弟を救ったアラーシャに深く感謝し、同時に愛情を抱いたというのだ。
一村娘でしかないアラーシャは、その求婚をとても受け止め切れなかった。
しかし、ギルーゼによって外堀りは埋められていき、彼からの愛情に段々と絆されていった。
こうしてアラーシャは、第一王子の妻となる決意を固め始めるのだった。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
果たされなかった約束
家紋武範
恋愛
子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。
しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。
このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。
怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。
※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる