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【17】近隣の貴族学校へ
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それから1年近く、次の家庭教師は決まらなかった。
ミューラとエレナは12歳になった。
先生が他の家庭教師にハミルトン男爵家で受けた侮辱を仲間に話したからだ。
そして――やっと家庭教師が決まりそうになった時、エレナが言い出した。
「もう家庭教師はいや!! 学校へ行きたい!!」
ハミルトン男爵は可愛いエレナが心配で、自分の目の届かない学校は行かせたくはなかったが、将来の跡取り娘に人との関わりを学ばせないわけにもいかない、そして娘達はちょうど中等部に通わせるのに良い時期だとも思った。
王都の学院がいい、とエレナは言い張ったが、ハミルトン男爵家は王都に屋敷をもっていなかった。
また、学院の寮のパンフレットを見たエレナが、男爵家が使用できる部屋が他の上位貴族の部屋に比べて華やかさがなかったために、気に入らない、と渋々諦めた。
従って、屋敷から通える近隣の大きな街に貴族学校があった為、そこへ通うことになった。
王都の学院には劣るが、レベルは低くない学校だ。
理由は様々だが、王都までは通えない近隣貴族の子たちが通う。
「ところで、なんでミューラまでこの席にいるの」
「この子も学校へ行かせるからだよ」
「いやよ!! なんでこの子まで! 跡取りでもないのに!」
「この子もいずれどこかへ嫁がせる。お前に比べたら容姿は劣るがこれは男爵家として必要なことだ。ひょっとしたらミューラを気に入る令息が現れるかもしれないだろう。うん、金持ちがいいな。金持ちの令息を捕まえれば、我が家も潤うからね。ミューラ、がんばりなさい」
「……」
ミューラは聞きながら吐き気がしそうだった。
完全にモノ扱いだ。
「ミューラがお嫁に行くなんて……。お父様、私寂しいわ?」
その時エレナが、やはり反対をした。
「(……エレナは、私が出ていったほうが良いはずなのに、余程一緒に学校に行きたくないのね)」
「おお、エレナ。妹思いだね。けれど、貴族の姉妹はいつか別れるものだよ。ミューラ、お返事は?」
「……はい」
「ええ~!! そんなぁ!!」
この件はエレナも不服だったようで、むくれていた。
「(……きっと知らない人と結婚させられるんだ。そうか、結婚も自分で決められないんだ……貴族って)」
結婚、という言葉にミューラは気が重たかった。
◆
しかし、学校に通い始めると、ミューラにとっては幸いなことに、令息にはまったく興味をもたれなかった。
隣に並ぶエレナが美しすぎた。
学校でもエレナは1・2位を争うような容姿だったにも関わらず、ミューラを時々連れ歩くことによって、男爵家姉妹の美しさの違いを見せつけるようにした。
エレナがもともとは平民だと言うことは広まってしまっているが、美しいうえに男爵家の跡取り娘である彼女は、年頃の――特に、跡目を継がない他家の令息にとって、魅力的だった。
そして学校でもエレナは、ミューラを利用して可哀想な自分を演じるのだった。
『私が本当の娘じゃないから、家ではミューラばっかり褒められる』
『私が跡目なのは、私が可哀想だからなのと、平民の血筋だから良い縁談が望めないだろうからという両親の気遣い』
――などと。
美しいエレナの嘘にコロッと騙された令息は、エレナの取り巻きになり、侍るようになった。
エレナに比べて平凡、かつ孤児院暮らしが長く、貴族教育もそこそこに学校に来たミューラは見下されていた。
エレナも身のこなしは洗練されるレベルまでは行っていなかったが、その美貌で誤魔化されていた。
しかし、そんなエレナも令嬢達からは嫌われていた。
だからといって、孤児院育ちのミューラが仲間に入れてもらえる訳でもなかったが。
学校ではエレナとクラスも別れたのは、運が良かったが、それでもエレナの我が儘な要求は止むことはなかった。
荷物持ちをさせられたり、自分が教師に頼まれた用事をミューラに押し付けたり。
また授業中に、近くの街へ買い物に行かせたりすることも多かった。
断れば、男爵夫婦に泣きついて理不尽にもミューラが叱られる。
エレナも買い物は自分で行きたかったのだが――それはミューラに授業を受けさせないための姑息な手段だった。
「(ミューラが良い成績をとるなんて許さない)」
授業がまばらになったミューラは学校でダメ人間の噂が流れる。
授業をサボって、テストの点数も下位。
あれでは、男爵家の跡目などとても無理だ――などと。
そのうちミューラは学校でも軽蔑の目で見られるようになっていった。
そして、授業についていけないのに、エレナは宿題を押し付けてくるようになった。
「授業を受けてないから、わからないところがあるのよ、無理だわ」
と断っても、いつものパターンだった。
「姉の言うことが聞けないの? それとも私が本当の姉じゃないからそんな事言うのね!」
そしてそれを聞きつけた両親に怒られるのである。
「(どうして授業を受けられているエレナが、自分の宿題をできないの……?)」
そんな疑問を頭がかすめることもあったが、どうでもいいか、と思い直してとりあえず彼女の宿題をこなす。
ミューラはこの頃にはだいぶん疲弊(ひへい)して考えることを放棄していた。
ミューラとエレナは12歳になった。
先生が他の家庭教師にハミルトン男爵家で受けた侮辱を仲間に話したからだ。
そして――やっと家庭教師が決まりそうになった時、エレナが言い出した。
「もう家庭教師はいや!! 学校へ行きたい!!」
ハミルトン男爵は可愛いエレナが心配で、自分の目の届かない学校は行かせたくはなかったが、将来の跡取り娘に人との関わりを学ばせないわけにもいかない、そして娘達はちょうど中等部に通わせるのに良い時期だとも思った。
王都の学院がいい、とエレナは言い張ったが、ハミルトン男爵家は王都に屋敷をもっていなかった。
また、学院の寮のパンフレットを見たエレナが、男爵家が使用できる部屋が他の上位貴族の部屋に比べて華やかさがなかったために、気に入らない、と渋々諦めた。
従って、屋敷から通える近隣の大きな街に貴族学校があった為、そこへ通うことになった。
王都の学院には劣るが、レベルは低くない学校だ。
理由は様々だが、王都までは通えない近隣貴族の子たちが通う。
「ところで、なんでミューラまでこの席にいるの」
「この子も学校へ行かせるからだよ」
「いやよ!! なんでこの子まで! 跡取りでもないのに!」
「この子もいずれどこかへ嫁がせる。お前に比べたら容姿は劣るがこれは男爵家として必要なことだ。ひょっとしたらミューラを気に入る令息が現れるかもしれないだろう。うん、金持ちがいいな。金持ちの令息を捕まえれば、我が家も潤うからね。ミューラ、がんばりなさい」
「……」
ミューラは聞きながら吐き気がしそうだった。
完全にモノ扱いだ。
「ミューラがお嫁に行くなんて……。お父様、私寂しいわ?」
その時エレナが、やはり反対をした。
「(……エレナは、私が出ていったほうが良いはずなのに、余程一緒に学校に行きたくないのね)」
「おお、エレナ。妹思いだね。けれど、貴族の姉妹はいつか別れるものだよ。ミューラ、お返事は?」
「……はい」
「ええ~!! そんなぁ!!」
この件はエレナも不服だったようで、むくれていた。
「(……きっと知らない人と結婚させられるんだ。そうか、結婚も自分で決められないんだ……貴族って)」
結婚、という言葉にミューラは気が重たかった。
◆
しかし、学校に通い始めると、ミューラにとっては幸いなことに、令息にはまったく興味をもたれなかった。
隣に並ぶエレナが美しすぎた。
学校でもエレナは1・2位を争うような容姿だったにも関わらず、ミューラを時々連れ歩くことによって、男爵家姉妹の美しさの違いを見せつけるようにした。
エレナがもともとは平民だと言うことは広まってしまっているが、美しいうえに男爵家の跡取り娘である彼女は、年頃の――特に、跡目を継がない他家の令息にとって、魅力的だった。
そして学校でもエレナは、ミューラを利用して可哀想な自分を演じるのだった。
『私が本当の娘じゃないから、家ではミューラばっかり褒められる』
『私が跡目なのは、私が可哀想だからなのと、平民の血筋だから良い縁談が望めないだろうからという両親の気遣い』
――などと。
美しいエレナの嘘にコロッと騙された令息は、エレナの取り巻きになり、侍るようになった。
エレナに比べて平凡、かつ孤児院暮らしが長く、貴族教育もそこそこに学校に来たミューラは見下されていた。
エレナも身のこなしは洗練されるレベルまでは行っていなかったが、その美貌で誤魔化されていた。
しかし、そんなエレナも令嬢達からは嫌われていた。
だからといって、孤児院育ちのミューラが仲間に入れてもらえる訳でもなかったが。
学校ではエレナとクラスも別れたのは、運が良かったが、それでもエレナの我が儘な要求は止むことはなかった。
荷物持ちをさせられたり、自分が教師に頼まれた用事をミューラに押し付けたり。
また授業中に、近くの街へ買い物に行かせたりすることも多かった。
断れば、男爵夫婦に泣きついて理不尽にもミューラが叱られる。
エレナも買い物は自分で行きたかったのだが――それはミューラに授業を受けさせないための姑息な手段だった。
「(ミューラが良い成績をとるなんて許さない)」
授業がまばらになったミューラは学校でダメ人間の噂が流れる。
授業をサボって、テストの点数も下位。
あれでは、男爵家の跡目などとても無理だ――などと。
そのうちミューラは学校でも軽蔑の目で見られるようになっていった。
そして、授業についていけないのに、エレナは宿題を押し付けてくるようになった。
「授業を受けてないから、わからないところがあるのよ、無理だわ」
と断っても、いつものパターンだった。
「姉の言うことが聞けないの? それとも私が本当の姉じゃないからそんな事言うのね!」
そしてそれを聞きつけた両親に怒られるのである。
「(どうして授業を受けられているエレナが、自分の宿題をできないの……?)」
そんな疑問を頭がかすめることもあったが、どうでもいいか、と思い直してとりあえず彼女の宿題をこなす。
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