ギャルゲーの幼馴染ヒロインに転生してしまった。

ぷり

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未完成の楽譜

未完成の楽譜【2】

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 ――『前世』のオレは、ピアノに置いてあった楽譜を手に取った。

 ……これは、『前世』のオレが作った曲だ。

 「さて、行くか」

 どこへ行くのか、と見ていると屋敷を出た後、街にある一軒家へ向かった。
 勝手に家にあがり、廊下を進み、花飾りが下げてあるドアをノックする。

「どうぞ」

 無用心だな。泥棒だったらどうするんだ。
 オレはドアを開けた。

 ベッドで夜着にカーディガンを羽織り、本を読んでいる――花音がいた。
 いや、正確には花音ではない。違う姿だ。だがわかる、花音だ。
 顔がやつれている。

 オレを見ると、彼女は本を閉じた。

「弾きに来てくれたの?」

「ああ」


 彼女の部屋にはアップライトピアノが置いてあった。

 オレは持ってきた楽譜で奏で始める。


「――やだ、完成してないじゃない」

 その花音は笑っていった。
 オレも笑ったが、心中……胸が痛い。

 前世のオレは、目の前の彼女がもう長くない、と知っていた。

 だから曲が未完成でも毎日ここに来て、出来ているとこまで弾いてそのあとはアドリブで終わらせていた。

 頭の中にはもう完成した楽譜があるのに、わざとそうしていた。
 このやり取りがしたかったから。


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