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■2■ 幼馴染ヒロインルートなの?
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私は食堂できつねうどんを頼んだ。
空いている席に座って、ちゅるちゅるする。
窓側に座ったので外が見える。
中庭で食べてる子たちが見える。
昨日までは奏と中庭だったり屋上だったりで食べてたっけ。
そこへクラスの子やら、奏狙い(狙ってるわけじゃないけどヒロインだから現れる)がやってきたりで騒がしい昼だった。
ゲームは既に始まっているんだよね。
私は今日からは静かにすごす。
スマホがある世界でよかった。
生まれ変わったのが異世界ファンタジーだったら、スマホがなくてつらい思いをしたと思う。
異世界ファンタジーに生まれ変わった人ってスマホ中毒はどうやって克服してるんだろう。
慣れるもんなのかな。などと、くだらないことを考えながら、うどんをすすっていると。
「今日は、一人なんだな。音鳴」
となりに誰かが座ってきた。
見ると、クラス委員の吉崎君だった。
そういえば私はクラス副委員だった。
この人とは作中で絡みが多い。
私はそれには答えなかった。
一人なのは当たり前だからだ。
奏とのセット品ではないと世間に示していく! 今日からの私は!
「きつねうどんおいしい」
「それだけで足りるのか?」
「帰ったらおやつでも食べるから」
「太るぞ」
「その分勉強して脳でカロリー消費するから」
「はは。なるほど」
吉崎くんは剣道部だっけ。
ガッツリA定食だな。
男の子は皆、だいたいそうだけど。
そしてこの吉崎くんは、花音ルートの当て馬くんだ。
そうか、主人公がいないからやってきたんだな。
主人公がヒロインを放置すると吉崎君がやってきて、花音の好感度を奪っていく。
これはゲームの難易度を上げている要素の一つ。
他のヒロイン目的でも、花音の好感度上げはしないといけないからな。
私は生前のプレイで、主人公より吉崎くんのほうが好きだったな。
ヒロインなんで吉崎選ばない! とかたまに思ってた。
「今日は奏と喧嘩でもしたのか?」
また奏の話にもどされる。
「ううん。ぜんぜん違うよ」
「でもいつもは…」
「いつもがおかしかったんだって気がついた。世話焼きすぎだったかなって」
吉崎くんは、フッと笑った。
「確かに。やっと気がついたか」
「変だったよね、吉崎くんもそう思ってたんだ」
「変とまでは思わなかったが、聞いたら付き合っているわけもないのに、まるで夫婦みたいだったからな」
苦笑気味に言う。
「まあ、幼馴染だからね。当たり前になってたから、気が付かなかっただけだよ」
「ところで。オレは今日部活休みなんだが。奏と帰らないなら、たまにはオレと帰らないか?」
おお。さすが当て馬。主人公の隙を逃さない仕事をしますね。
しかし、これは奏と離れたい私には嬉しい提案だ。
今のとこ恋愛ってほどじゃないけど、吉崎くん好きだし。
お互いカレカノいないし。
「いいよ」
「駄目だ」
えっ。
目の前に奏が座ってきた!
いつの間に。
「……はい?」
「花音はオレと帰るから、駄目だ」
「え、でも私は奏と一緒に帰るって約束してないよ?」
「……」
奏が傷ついた顔をする。
……さすがに言い過ぎたか。
でもどうして? 広美ルートじゃないの?
あ、そうか。
私の好感度も上げないと、トゥルーエンドに行けないんだ。
そんな事を計算して動いてるかどうかはわからないけれど。
危ない、絆されるとこだった……。
「お前たち、本当にどうしたんだ?」
さすがに心配になったのか、気遣って私達に声をかけてくれる吉崎くん。
当て馬なのに、この対応。
君は、人が出来てるよ……。
「だが奏、悪いが約束はオレが先だ」
「……わかったよ」
奏が元気なさそうに立ち上がった。
……さすがに胸が痛んだ。
ごめんよ、奏。命がかかっているんだ……。
でもこれでフォローしたら、元の木阿弥だ。
これ結構辛いな。
いっそのこと転校でもできたらいいのになぁ……。
「奏を行かせてしまったが、良かったか?」
気づかう吉崎くん。なんて良い人なんだ。
こういうシーンって、私がプレイヤーなら、
"ここはもう吉崎でいくっきゃないでしょ!"
"なんでヒロイン吉崎へ行かない!!"とか思って、ヒロインの煮えきらない態度にイライラするような場面だ。
だがしかし…。
前世を思い出したのは数日前だけれど、ゲーム開始前の奏との幼少時代からの記憶とか、いっぱいある。
ゲーム中には表現されてなかったけれど、幼馴染キャラの花音はこういう思いを抱えて複雑なのかもしれない。
実際今、私は複雑だ。
「気持ちの良い会話ではなかったけど、仕方の無いことだと思う。実際、割り込んできたのは奏だし。大丈夫。気を取直して食べよう! ご飯冷めちゃうし、お昼休み終わっちゃう!」
私は吉崎くんの背中をポンポン、とした。
吉崎くんは、そうだな、と言って再び食べ始めた。
……お箸の持ち方、きれい。
こういうちょっとしたところ……やっぱり良いな、吉崎くん。
この幼馴染への気持ちと思い出がなければ、即落ちしそうなくらい好感持てる。
奏は少し離れた席で食事してる。
広美と。
……ふーーん。まあ、お金貸してもらってるし、当然っちゃ当然。
たしか広美ルートだと、広美と私を同時攻略の上で、途中で私は交通事故で死ぬんだったかな。
それで親友を失った広美が落ち込んで、それを奏が慰めて……みたいなルートだった気がする。
奏、それは嘘泣きだ。
そいつは私が死んでも、そこまで悲しまないぞ。親友じゃないからな!
っと、私には関係ない、関係ない。
前世も交通事故だったし、気をつけよう。
私は二人の思いを盛り上げる材料となって死ぬなんて嫌だ。
……あ。
茶髪のドジっ子キャラが通りかかって転んだ。
奏が助け起こした。
イベント起きてますねー。
広美がちょっとおもしろくなさそうな顔してる。
やはり、ちょっかいかけてる辺り、奏が好きなんだろう。
親友の幼馴染を。
まあ、恋愛は自由であって、私がとやかく言う問題ではないんで関係ないんですけど。ないんですけど。
「なんだかんだ、奏の事を見てるんだな」
「え」
「……オレのことも、見てくれないか?」
「……」
吉崎くん……!
あの、これ乙女ゲームでしたっけ?
心臓がバクバクした。
口もパクパクした。
「これやるよ」
皿の端にあったさくらんぼの茎をとって、それを私の口に放り込む。
あの、これ乙女ゲームでしたっけ?(二回目)
「ごちそうさまでした」
きれいに手を合わせて拝む。
手が…きれい。
「じゃあ、また教室でな。帰りの約束忘れるなよ」
私はコクコク頷いた。多分顔赤い。
い、いけない、しっかりしなければ、チョロインにされてしまう!!
私は気分を落ち着けるために、またしばらく窓の外を眺めた。
そんな様子を、奏が複雑そうに見ている事には気が付かなかった。
※※※
帰りは吉崎くんと、好きな番組の話とか、ゲームアプリの話をしながら帰った。
少しファーストフードとか寄ったりして、プチデートみたいだった。
楽しかった。
このまま吉崎くんと関係が発展すると嬉しいかもしれない。
しかし、青春したい……とか思うのに、奏の顔がちらつく。
気にするな私、奏は、ただの幼馴染なのだ。
私が誰と付き合おうと、奏が誰と付き合おうとも、幼馴染という関係は変わらないはずだ。
そういえば、明日から奏にお弁当作らない&起こしにもいかない宣言したから、それをやらなくてもよくなった事に気が軽くなる。
軽くなるけど……気になる。
明日から、朝にゆっくり眠れる。……でも気になる。
本当に朝起こしにいかなくて大丈夫だろうか。
いや、今日もギリギリ間に合ったし大丈夫だ、うん。
お弁当作らなくても大丈夫だろうか。
いや、きっと他のヒロインが面倒みてくれる…うん。
私はヒロインレースからは降りたいのだ。
短命はいやだし、避けられない死亡フラグはできるだけ絞りたい。
なのに、なんでこんなに心が揺れている。
夕焼けの中、自宅へ歩みをすすめる。
「……あ。奏」
自宅の前に、制服のままの奏が立ってる。
「おかえり。遅かったな」
「ああ、うん、ちょっと。どうしたの?」
制服のままってことは、家に帰らないでずっとここで待ってたのかな。
……私を、待ってたのか。
「……謝ろうと思って。今までの事」
「え、なんで? 確かにきっちりした生活をしてたってわけじゃないけど、私も善意でやってた事だから、謝るってのもおかしな話だよ。私も塩対応でごめん。きちんと話せばよかったね」
聞いてくれたかどうかはわからないけど。
けっこう私に対してぞんざいな態度だったし。
でもこんな傷ついた顔されたら、そう言わざるを得ない。
「いや、その善意にオレは、甘えてたなって思う。おまけに、幼馴染で付き合い長いからって、ぞんざいな態度でお前に接してた事を改めて反省した」
えええ、どうした…。
今までそんな事言ったことないのに。
「これからは、朝ちゃんと自分で起きるよ。ちゃんと自立して生活するから。
朝一緒に登校してほしい。帰りも一緒に帰ってほしい。昼飯も前みたいに一緒がいい!」
奏が抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと」
幼馴染でも抱きつくのは、ちょっとどうだろうか!
それを言いたくて口を開こうとしたが、奏の腕が震えてる事に気がついた。
え? 顔みたら少し泣いてる?
「ちゃんとするって約束するから、オレに…もう一度だけチャンスを下さい。
今までの朝だって、ホントは起きてたんだ。寝ぼけてるフリしてた。
……お前に起こしに来てもらいたくて、わざとやってた。弁当も、お前の味が好きだったから……金の件はちゃんとする、本当に悪かった。そうだよな、弁当作ってもらったら費用はかかる。あまりにも酷かった。負担をかけて…ごめんなさい」
主人公、こんなにちゃんと謝れるんだ!?
自分(わたし)が操作してた時、こんなにしっかり考えてなかったと思うんだけど。
「オレ、お前を他の誰かに盗られたくない。いやなんだ。お前が他の男(やつ)といるなんて」
しかもこれって、告られてます!?
まるで今まではっきりさせてこなかった幼馴染の関係を終わらせに来ている気がする。
好感度上げにしては、内容が濃すぎる!
奏よ、正ヒロインルートなの!?
と、言うか。こんなイベントあったっけ?
……悩ましい。
私は、幼馴染としては普通に大事なんだよ、彼が。
だいたい、私は彼を本当に、ただの幼馴染としか見てな……
「幼馴染としてじゃなくて、好きなんだ」
うっ……! はっきり言われた! 退路を絶たれた気分だ。
「今までオレを大事にしてくれてありがとう。
これからはむしろオレのほうが大事にするから、オレの傍からいなくならないで欲しい」
少し涙をこぼして言う。慰めたくなってしまう。
心の臓にガンガン来る。
さすがに心が揺れる!
……ひょっとして塩対応したせいで、逆に火がついてしまったヤツですか。
どうしよう。
ここはギャルゲーの世界だけれども、今喋っている奏のセリフはゲームでは見たことがない。
いや、実際生きてる人間と、ゲームキャラクターでのデータ量はそりゃ、全く違うけれども。
ゲームならこういう時選択肢でるんだろう。
困った……選択肢ぷりーーず!!
……と言いたいところだけれど、奏は真剣だ。
ちゃんと答えなくては。
「あのね、奏。そんな気持ちでいてくれたんだね。でも、そんなに反省もしなくていいよ。…ただね、私達今まで近すぎたんだと思う。私はね、奏のこと、幼馴染と思ってる。だから…少しだけ距離をおかせて」
よし、ちゃんと言えた。
「だめだ……」
え?
「そんなの絶対駄目だ。ずっと一緒だったじゃないか」
えっ
「……どうして急にそんな事を言うんだよ!」
……執着が! すごい!
夕焼けが真っ赤で、そろそろ帰宅する人たちがこの辺りを通ってもいいはずなのに、そういえばさっきから人がまったく通らない……。
ひょっとして、主人公補正とかで、邪魔が入らないようにとかなってんの!?
そして、抱きしめられ過ぎて、身体が痛い!
「奏! 痛いよ!」
奏は、ハッとして私を放した。
「ごめん」
「そ、それじゃ、そういう事だから…っ」
私は奏から逃げるように、自宅へ駆け込んだ。
心臓がバクバクしてる。
完全に執着されてる…!!
今までこんなにグイグイきたことなかった!
……も、もし。
もしも、奏が幼馴染ヒロインルートに入ったのだとしたら……
このままでは、死亡フラグが…いっぱい立ってしまう!!
空いている席に座って、ちゅるちゅるする。
窓側に座ったので外が見える。
中庭で食べてる子たちが見える。
昨日までは奏と中庭だったり屋上だったりで食べてたっけ。
そこへクラスの子やら、奏狙い(狙ってるわけじゃないけどヒロインだから現れる)がやってきたりで騒がしい昼だった。
ゲームは既に始まっているんだよね。
私は今日からは静かにすごす。
スマホがある世界でよかった。
生まれ変わったのが異世界ファンタジーだったら、スマホがなくてつらい思いをしたと思う。
異世界ファンタジーに生まれ変わった人ってスマホ中毒はどうやって克服してるんだろう。
慣れるもんなのかな。などと、くだらないことを考えながら、うどんをすすっていると。
「今日は、一人なんだな。音鳴」
となりに誰かが座ってきた。
見ると、クラス委員の吉崎君だった。
そういえば私はクラス副委員だった。
この人とは作中で絡みが多い。
私はそれには答えなかった。
一人なのは当たり前だからだ。
奏とのセット品ではないと世間に示していく! 今日からの私は!
「きつねうどんおいしい」
「それだけで足りるのか?」
「帰ったらおやつでも食べるから」
「太るぞ」
「その分勉強して脳でカロリー消費するから」
「はは。なるほど」
吉崎くんは剣道部だっけ。
ガッツリA定食だな。
男の子は皆、だいたいそうだけど。
そしてこの吉崎くんは、花音ルートの当て馬くんだ。
そうか、主人公がいないからやってきたんだな。
主人公がヒロインを放置すると吉崎君がやってきて、花音の好感度を奪っていく。
これはゲームの難易度を上げている要素の一つ。
他のヒロイン目的でも、花音の好感度上げはしないといけないからな。
私は生前のプレイで、主人公より吉崎くんのほうが好きだったな。
ヒロインなんで吉崎選ばない! とかたまに思ってた。
「今日は奏と喧嘩でもしたのか?」
また奏の話にもどされる。
「ううん。ぜんぜん違うよ」
「でもいつもは…」
「いつもがおかしかったんだって気がついた。世話焼きすぎだったかなって」
吉崎くんは、フッと笑った。
「確かに。やっと気がついたか」
「変だったよね、吉崎くんもそう思ってたんだ」
「変とまでは思わなかったが、聞いたら付き合っているわけもないのに、まるで夫婦みたいだったからな」
苦笑気味に言う。
「まあ、幼馴染だからね。当たり前になってたから、気が付かなかっただけだよ」
「ところで。オレは今日部活休みなんだが。奏と帰らないなら、たまにはオレと帰らないか?」
おお。さすが当て馬。主人公の隙を逃さない仕事をしますね。
しかし、これは奏と離れたい私には嬉しい提案だ。
今のとこ恋愛ってほどじゃないけど、吉崎くん好きだし。
お互いカレカノいないし。
「いいよ」
「駄目だ」
えっ。
目の前に奏が座ってきた!
いつの間に。
「……はい?」
「花音はオレと帰るから、駄目だ」
「え、でも私は奏と一緒に帰るって約束してないよ?」
「……」
奏が傷ついた顔をする。
……さすがに言い過ぎたか。
でもどうして? 広美ルートじゃないの?
あ、そうか。
私の好感度も上げないと、トゥルーエンドに行けないんだ。
そんな事を計算して動いてるかどうかはわからないけれど。
危ない、絆されるとこだった……。
「お前たち、本当にどうしたんだ?」
さすがに心配になったのか、気遣って私達に声をかけてくれる吉崎くん。
当て馬なのに、この対応。
君は、人が出来てるよ……。
「だが奏、悪いが約束はオレが先だ」
「……わかったよ」
奏が元気なさそうに立ち上がった。
……さすがに胸が痛んだ。
ごめんよ、奏。命がかかっているんだ……。
でもこれでフォローしたら、元の木阿弥だ。
これ結構辛いな。
いっそのこと転校でもできたらいいのになぁ……。
「奏を行かせてしまったが、良かったか?」
気づかう吉崎くん。なんて良い人なんだ。
こういうシーンって、私がプレイヤーなら、
"ここはもう吉崎でいくっきゃないでしょ!"
"なんでヒロイン吉崎へ行かない!!"とか思って、ヒロインの煮えきらない態度にイライラするような場面だ。
だがしかし…。
前世を思い出したのは数日前だけれど、ゲーム開始前の奏との幼少時代からの記憶とか、いっぱいある。
ゲーム中には表現されてなかったけれど、幼馴染キャラの花音はこういう思いを抱えて複雑なのかもしれない。
実際今、私は複雑だ。
「気持ちの良い会話ではなかったけど、仕方の無いことだと思う。実際、割り込んできたのは奏だし。大丈夫。気を取直して食べよう! ご飯冷めちゃうし、お昼休み終わっちゃう!」
私は吉崎くんの背中をポンポン、とした。
吉崎くんは、そうだな、と言って再び食べ始めた。
……お箸の持ち方、きれい。
こういうちょっとしたところ……やっぱり良いな、吉崎くん。
この幼馴染への気持ちと思い出がなければ、即落ちしそうなくらい好感持てる。
奏は少し離れた席で食事してる。
広美と。
……ふーーん。まあ、お金貸してもらってるし、当然っちゃ当然。
たしか広美ルートだと、広美と私を同時攻略の上で、途中で私は交通事故で死ぬんだったかな。
それで親友を失った広美が落ち込んで、それを奏が慰めて……みたいなルートだった気がする。
奏、それは嘘泣きだ。
そいつは私が死んでも、そこまで悲しまないぞ。親友じゃないからな!
っと、私には関係ない、関係ない。
前世も交通事故だったし、気をつけよう。
私は二人の思いを盛り上げる材料となって死ぬなんて嫌だ。
……あ。
茶髪のドジっ子キャラが通りかかって転んだ。
奏が助け起こした。
イベント起きてますねー。
広美がちょっとおもしろくなさそうな顔してる。
やはり、ちょっかいかけてる辺り、奏が好きなんだろう。
親友の幼馴染を。
まあ、恋愛は自由であって、私がとやかく言う問題ではないんで関係ないんですけど。ないんですけど。
「なんだかんだ、奏の事を見てるんだな」
「え」
「……オレのことも、見てくれないか?」
「……」
吉崎くん……!
あの、これ乙女ゲームでしたっけ?
心臓がバクバクした。
口もパクパクした。
「これやるよ」
皿の端にあったさくらんぼの茎をとって、それを私の口に放り込む。
あの、これ乙女ゲームでしたっけ?(二回目)
「ごちそうさまでした」
きれいに手を合わせて拝む。
手が…きれい。
「じゃあ、また教室でな。帰りの約束忘れるなよ」
私はコクコク頷いた。多分顔赤い。
い、いけない、しっかりしなければ、チョロインにされてしまう!!
私は気分を落ち着けるために、またしばらく窓の外を眺めた。
そんな様子を、奏が複雑そうに見ている事には気が付かなかった。
※※※
帰りは吉崎くんと、好きな番組の話とか、ゲームアプリの話をしながら帰った。
少しファーストフードとか寄ったりして、プチデートみたいだった。
楽しかった。
このまま吉崎くんと関係が発展すると嬉しいかもしれない。
しかし、青春したい……とか思うのに、奏の顔がちらつく。
気にするな私、奏は、ただの幼馴染なのだ。
私が誰と付き合おうと、奏が誰と付き合おうとも、幼馴染という関係は変わらないはずだ。
そういえば、明日から奏にお弁当作らない&起こしにもいかない宣言したから、それをやらなくてもよくなった事に気が軽くなる。
軽くなるけど……気になる。
明日から、朝にゆっくり眠れる。……でも気になる。
本当に朝起こしにいかなくて大丈夫だろうか。
いや、今日もギリギリ間に合ったし大丈夫だ、うん。
お弁当作らなくても大丈夫だろうか。
いや、きっと他のヒロインが面倒みてくれる…うん。
私はヒロインレースからは降りたいのだ。
短命はいやだし、避けられない死亡フラグはできるだけ絞りたい。
なのに、なんでこんなに心が揺れている。
夕焼けの中、自宅へ歩みをすすめる。
「……あ。奏」
自宅の前に、制服のままの奏が立ってる。
「おかえり。遅かったな」
「ああ、うん、ちょっと。どうしたの?」
制服のままってことは、家に帰らないでずっとここで待ってたのかな。
……私を、待ってたのか。
「……謝ろうと思って。今までの事」
「え、なんで? 確かにきっちりした生活をしてたってわけじゃないけど、私も善意でやってた事だから、謝るってのもおかしな話だよ。私も塩対応でごめん。きちんと話せばよかったね」
聞いてくれたかどうかはわからないけど。
けっこう私に対してぞんざいな態度だったし。
でもこんな傷ついた顔されたら、そう言わざるを得ない。
「いや、その善意にオレは、甘えてたなって思う。おまけに、幼馴染で付き合い長いからって、ぞんざいな態度でお前に接してた事を改めて反省した」
えええ、どうした…。
今までそんな事言ったことないのに。
「これからは、朝ちゃんと自分で起きるよ。ちゃんと自立して生活するから。
朝一緒に登校してほしい。帰りも一緒に帰ってほしい。昼飯も前みたいに一緒がいい!」
奏が抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと」
幼馴染でも抱きつくのは、ちょっとどうだろうか!
それを言いたくて口を開こうとしたが、奏の腕が震えてる事に気がついた。
え? 顔みたら少し泣いてる?
「ちゃんとするって約束するから、オレに…もう一度だけチャンスを下さい。
今までの朝だって、ホントは起きてたんだ。寝ぼけてるフリしてた。
……お前に起こしに来てもらいたくて、わざとやってた。弁当も、お前の味が好きだったから……金の件はちゃんとする、本当に悪かった。そうだよな、弁当作ってもらったら費用はかかる。あまりにも酷かった。負担をかけて…ごめんなさい」
主人公、こんなにちゃんと謝れるんだ!?
自分(わたし)が操作してた時、こんなにしっかり考えてなかったと思うんだけど。
「オレ、お前を他の誰かに盗られたくない。いやなんだ。お前が他の男(やつ)といるなんて」
しかもこれって、告られてます!?
まるで今まではっきりさせてこなかった幼馴染の関係を終わらせに来ている気がする。
好感度上げにしては、内容が濃すぎる!
奏よ、正ヒロインルートなの!?
と、言うか。こんなイベントあったっけ?
……悩ましい。
私は、幼馴染としては普通に大事なんだよ、彼が。
だいたい、私は彼を本当に、ただの幼馴染としか見てな……
「幼馴染としてじゃなくて、好きなんだ」
うっ……! はっきり言われた! 退路を絶たれた気分だ。
「今までオレを大事にしてくれてありがとう。
これからはむしろオレのほうが大事にするから、オレの傍からいなくならないで欲しい」
少し涙をこぼして言う。慰めたくなってしまう。
心の臓にガンガン来る。
さすがに心が揺れる!
……ひょっとして塩対応したせいで、逆に火がついてしまったヤツですか。
どうしよう。
ここはギャルゲーの世界だけれども、今喋っている奏のセリフはゲームでは見たことがない。
いや、実際生きてる人間と、ゲームキャラクターでのデータ量はそりゃ、全く違うけれども。
ゲームならこういう時選択肢でるんだろう。
困った……選択肢ぷりーーず!!
……と言いたいところだけれど、奏は真剣だ。
ちゃんと答えなくては。
「あのね、奏。そんな気持ちでいてくれたんだね。でも、そんなに反省もしなくていいよ。…ただね、私達今まで近すぎたんだと思う。私はね、奏のこと、幼馴染と思ってる。だから…少しだけ距離をおかせて」
よし、ちゃんと言えた。
「だめだ……」
え?
「そんなの絶対駄目だ。ずっと一緒だったじゃないか」
えっ
「……どうして急にそんな事を言うんだよ!」
……執着が! すごい!
夕焼けが真っ赤で、そろそろ帰宅する人たちがこの辺りを通ってもいいはずなのに、そういえばさっきから人がまったく通らない……。
ひょっとして、主人公補正とかで、邪魔が入らないようにとかなってんの!?
そして、抱きしめられ過ぎて、身体が痛い!
「奏! 痛いよ!」
奏は、ハッとして私を放した。
「ごめん」
「そ、それじゃ、そういう事だから…っ」
私は奏から逃げるように、自宅へ駆け込んだ。
心臓がバクバクしてる。
完全に執着されてる…!!
今までこんなにグイグイきたことなかった!
……も、もし。
もしも、奏が幼馴染ヒロインルートに入ったのだとしたら……
このままでは、死亡フラグが…いっぱい立ってしまう!!
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