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片思いだと思っていたらエルフのつがいでした。

17■ 君の未来に誓う ―Last Chapter―

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 私は、思い切って切り出した。

「前に、ギンコが私に避けれられてる気がするって言ってたでしょ。ごめんなさい、その通りなの」
「なんだと……私は一体お前に何をしてしまったのだ」
「その、一緒にいるのが辛くなってしまって……」
「だからそれは何故……」

「ある日突然、自分の気持ちに気がついたのだけど……ギンコは大人だし、番(つがい)を探してる人だから……その……どうしていいか、わからなくて」
 顔がカーッと熱くなってくのを感じる。肝心なところが言えない。

 たった二文字なのに言うのが難しい。
 短いのに非常に強力な力をもつ言葉。
 まるで昔小説で読んだ、国を一言で破壊する魔法の言葉のようだ。

 まさか今日、自分の気持ちを伝えることになるなんて、思いもしなかった。
 朝起きて目玉焼きトーストをのんきに食べてた頃の私に誰か戻してほしい。

「リア。ひょっとして、私のことを想ってくれているのか?」
 ……目が見れない。情けない。どういう態度を取っていいのかわからなくて、私はうつむいたまま。
「……(コク)」
 とりあえず頷いた。

 ギンコが無言になった。
 どんな顔してるのか怖くて見れない。
 私はうつむいたまま、言う事にした。

「それからずっとギンコのことが頭に浮かぶようになってしまって…。
でも、ギンコは年齢が離れているし、番(つがい)を探しているから、この思いは無意味だと思ってたの。そうでなくても恥ずかしくて言えなかったと思う。でも、今までと違う態度が出たら気づかれちゃうかと思って避けようとしてた。ギンコはすぐにそういうの気がつくかと思って……。と、とにかく恥ずかしくて。」

 ギンコが立ち上がって、私の真横に来るのを感じた。
「心配かけてごめんね。でもどうしたらいいか、本当にわからなくて悩んでたの」
「ひょっとしてその想いを捨てようとしていたのか?」

 声が近い。
 なんで傍に来るんですか…。
 心臓に悪いです…。

「最初は捨てなきゃって思ってたけど、抱えることに慣れてきて、最近は自然に消えていくのを待ってた」
ギンコが私の両手を取って、床に膝をついた。

「良かった。君のその気持が流れて行く前に拾い上げることができて」
 声がとても優しい。
 そして君、と初めて呼ばれた。

 私は、チラ、とギンコを見た。
「私は、君が大人になるのを待っていて良いのだな?」
「……(コク)」
 頷くと、ギンコは私の震えている手にキスをした。

「アルメリア、ずっと愛おしかった。その時が来たら生涯に渡って愛する相手として――その誓いを君にたてよう」
 ギンコが微笑んでいる。
 言葉を発すると、言葉にできなくなるくらい泣いてしまいそうだったので、私はギンコに抱きついた。
 もう避けなくていいんだっていう事に安心した。
 しばらくは、恥ずかしくてギクシャクしてしまうかもしれないけれど、でも。

 私はこの人の傍にいていい存在なのだ、と失くしていた自分の居場所を見つけた気がした。


※※※

 その後。

 ボコボコになっていた顔のライラック元殿下こと、エルム侯爵を母さんが治療した次の日、リンネさんことココリーネさんが目を覚ました。

 ココリーネさんは、何も知らない幼女のようになっていた。
 どうしてそうなっているのかは、子どもたちの中で、ヴァレン兄さんと私だけが教えてもらった。
 母さんが元の女性に戻して、記憶を真っ白にしたらしい。

「母さん、怖」
 ヴァレン兄さんが母さんに怯えた。
 多分、自分が性転換させられたら、とか想像してしまったんだろうな……。
 たしかに、いつものほほんとしている母さんが、そんな事できる人だなんて思いもしなかった。

 そして父さんが銀髪になっていた理由も教えてもらった。
 両親がそんな恐ろしい力を使える人たちだとは……。

 昨日、父さんが人間の世界でその力を使ってしまったことは観測所に計測されているけれど、
ギンコも昨日本来の風属性魔力を使って暴れたので、ギンコの力、ということでこじつける事にしたらしい。
 昨日のあのギンコの力は凄まじかった……。

 あれはもう神様の領域では、と呟いたら、母親が
「彼も昔神様になる資格をもってたんだけどね」
 とよくわからないことを言われた。
 ……うちの家庭ってどうなってるの!?

 両親の話は簡単に話すには難しいらしい、でも秘密を守れてかつ、聞きたければおいおい話してくれるらしい。

 エルム侯爵は、ココリーネさんを自分の領地に連れて行ってくれるらしい。
「今の彼女なら、さほど抵抗なく愛せそうだし……とりあえず監督する意味も含めて僕の領地に連れて帰るよ。ブルボンス家に置いといても厄介者にしかならないだろうし、ブルボンス公爵閣下も扱いに困るだろう。そのあたりは僕から連絡しておくよ。」

 エルム侯爵も色々と複雑らしい。

 昔、彼はどうしようもない性格だったらしいのだけれど、ココリーネさんを愛した事により改心したらしい。
 けれど、それなのに、すぐに彼女は性転換してしまったとか。
 それでも愛情がまるで呪いのように捨てられず、苦しんでいたらしい。

「地球からの呪い怖い」
 母さんがまた謎の言葉を呟いていた。

 エルム侯爵を見送る時、父さんは来なかった。
 何があっても許せないことが、父さんの中にはあるらしい。

 エルム侯爵とギンコは、一瞬目を合わせたけれど、すぐにお互い目を逸して、挨拶だけした。

「元気で」
「ああ」

 短い挨拶だった。


※※※


 ――数日後。
 父さんから、マロの子供?、を貰って、私はその子の名前に悩んでいた。
 マロとその子達は何故かたまにキラキラしている。謎だ。
 モチがたまにその様子に首を傾げている。

 もらった子の名前がなかなか決まらなくて、自宅の庭でのベンチで、その子とにらめっこしてたら、ギンコが来た。
 隣に座る。

 ま、前までは正面とか、一つおきとかじゃなかったっけ……?
 なんか近くない……?
 緊張してしまう。
 こ、これは当分慣れない…!

「名前は決まったのか?」
「う、うーん、難しくてなかなか。他のきょうだいの子と名前かぶらないかなーとも思って」
そう。一度に5匹増えたのだ。
「み」(きらきら)
「……また光った」
「……なんだろう、少々親近感を…感じるな」
「え」

 どうみてもギンコとマロに似たところは無いけれど…。
 母さんが、マロがココリーネの神性食べちゃって……と言った瞬間、ギンコが少し気分悪そうにしてた。
 なんなんだろう。

「ナギ、というのはどうだろう」

「ナギ…凪のこと?」

「そうだ。風がない状態を指すらしいが……平和な暮らしや、穏やかな生活を子に望む時につける名前らしい。……ヒースは時に騒がしいからな」

 ギンコが苦笑しながら言った。

「それ良い案だね。うん、それがいいな。そうする……ありがとう、ギンコ」
「ああ」

 そして、あなたの名前はナギだよ、と目の前の白くて丸い子に伝える。

「みっ」

 手をパタパタして嬉しそう。


「いつか君を連れて、旅に出たい」
「え?」
「そして私の生まれた国にも一度来てほしい」
「…うん、いいよ。行ってみたい」
「そこに住むつもりはないがな。私はヒースが好きだから、ここへは戻ってきたい」
「じぃじもいるし?」
「そうだ。できるならアドルフにも私と同じくらい生きてもらいたい」

 私はクス、と笑った。

「かなりじぃじが好きだね、ギンコ」
「そうだな。でも、初対面は最悪だった。おもに向こうが」
「母さんを攫ったときの話し?」
「そうだ」

 その話は前聞いてびっくりした。

 ギンコが家の中を壊していったなんて、想像が……ああ、でもその時はココリーネさんを番(つがい)だと思っていたのだっけ。

 それとこの間のブルボンス更地事件を思い出したら、ギンコも割りと歯止めがきかない時があるんだなぁと感じた。

「思えば今、よく私はここで許されて暮らしているものだと思う」
「みんなギンコが好きなんだよ。じぃじは勿論、父さんや母さんにも。私達きょうだいだってみんなギンコが好きだよ」

「とても嬉しい話だ。……だが、リア。私はもう少し欲張りたいのだ」
「?」
「できるなら……いずれ、その言葉を君だけの私への気持ちとして受け取ってみたい、と思っている」

 う。

 わかりづらいけど、好きって言ってくれと言われてるのだつまり。

「……(コクコク)」

 私は真っ赤になって、ナギをムニムニした。
 わかりました、了承しました。でも。
 私にはまだそういうの語るの早いと思うよ! ギンコ…!

 ギンコはそんな私の様子を嬉しそうに見ている。

「言葉はなくとも、伝わるものはあるがな」

 これ、本当に15歳まで待ってもらえるんですか?

 私は結構、のんきに構えてたんですけど……あと3年はある、みたいな。
 急速に距離を縮めてこられてる気がするんですよ。
 こんなの聞いてないんですけど……。

「み……みみ……」
「ナギをそんなに握ったら、ちぎれてまた増えてしまうぞ」
「あ……ナギ、ご。ごめんね…」

「ところで、そろそろアドルフと約束の時間だ。出かける準備はできているか?」
「あ、うん。大丈夫だよ」

 そう、ダンジョンに素材集めに行く約束してたのだ。
 私は頬をぺちぺちしながら立ち上がって走った。




 ギンコはその後、他の人がいる時は今まで通りだったけど、二人の時は時折こうやって距離の近い会話をしてくるようになり、じょじょにそれに慣らされていった私ではあったけれど、私もけっこう頑なな性格だったので、なかなかその言葉を口にできず。

「す、すきです……」

 ――そう、やっと言えたのは、私の15歳の誕生日。
 ギンコが私の気持ちを改めて聞きたいと言っていた日だった。

 ギンコは余程その言葉を聞きたかったらしく、少し涙を浮かべて――ありがとう、と言って私を抱きしめたのだった。
         

        

             『片思いだと思ったらエルフの番(つがい)でした』FIN
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