そのヒロインが選んだのはモブでした。

ぷり

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片思いだと思っていたらエルフのつがいでした。

16■ 誠実だけど天然な人

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 今、私はヒースの人工森の中にある、ギンコの家でお茶を頂いている。
 ただ、とても口をつける気分にならず、ガチガチに緊張して座っている。

 ギンコも、どこか緊張した顔をしている。
 しばし無言でそのまま二人で座っていた。

「その……何から話そうか」
 ギンコが口を開いた。

「まずは、あんな形で伝えてしまったことをもう一度謝りたい」
「ううん、大丈夫……」

 それは別に大丈夫だけど、内容は大丈夫じゃない。

「おまえのような若い生命(いのち)が、私のような年月を重ねた者に番(つがい)だと伝えられた事は、ひょっとしたら今後、気に病むかもしれないが――」

「私、そういうのは気にしないけど……。そういえば、ギンコって何歳なの?」

 今までは、気になってはいたけど知らなくてもいいか……みたいなゆるい感じだったけど、さすがにこういう話しになるなら聞いておきたい。

「ああ、そうだな。私はエルフの中でいえばまだまだ若輩者だ。まだ100歳を超えていない。
お前たちの年齢で言えば、だいたい20歳過ぎ……だろうか。というかあと何十年か何百年かはだいたいそのままだが」
 それって、そのうち、私が先におばあさんに……落ちこんだ。

「どうして、私が番(つがい)だと思ったの?」

「……説明が難しいのだが、お前がプラムの中に生まれた時から感じていた。だが、さすがに勘違いだろう……とは思ってはいたのだが。おまえが大きくになるにつれて、確信が強くなっていった」

 確かに、まさかお腹の中の子供が自分の番(つがい)だとか思わないよね……。

「ずっと黙っているかどうか悩んでいた」
「どうして?」

「前にも言った通り、私はココリーネを番(つがい)だと誤認していた時期があった。当時彼女も小さい少女で、愛を語るには、無理を感じていた。
なのに今度は、胎児に番(つがい)を感じ取るなど、私は一体、どうなっているのだと、自分で自分を責めていたこともある。……そんなある日、アドルフに声をかけられた。何か悩んでいるのか、と」

「じぃじはなんて?」
「人格の問題じゃないから、気にするのはやめろ、と。おまえには時間があるのだから、子供の時から大人になるまで傍にいて守ってやってくれと言われた。そして大人に成る頃におまえに他にかけがえのない相手ができたり、やはり罪悪感を感じるなら諦めろ、と」

 なるほど。
 なんとなく小さな頃からギンコは他の子より私の面倒みてくれるな、とは思ってたけど、そっか、そうだったんだね。

「だが、今日。お前が攫われて、私は非常に焦った。そして、諦めることはできないと感じた」

 ギンコがまっすぐこっちを見た。

 う……。

 私はようやく手にもったカップをゆっくりソーサーの上に戻してそのまま固まった。

「でも、私、ギンコと比べたら、寿命が……」

「それは大丈夫だ。番(つがい)の儀式がある。私の命を分け与えて、共に生きることが叶う。お前が望む間は」
 そ、そうだったんだ。そういうのがあるんだ……。

「それで……わ、私はどうしたら……」

「特になにも。今まで通りで良い。……私が勝手にお前を私の相手だと感じているだけで、お前の気持ちは自由だ。私も当分は今までと同じ関係がよい。子供のお前に気持ちを求めたりしない。……が、お前が正式に成人を迎える頃にお前の気持ちを改めて聞きたいと思っているが、どうだろう……む」

「?」

 ギンコが立ち上がって、家のドアを開けた。

 ドサッと倒れる、母さんと妹。

「……」

「母さん、ルクリア……なにやってんの!?」
「あはは……」
「いや、だって気になって」

「そうか。家族のことだ、気になっても仕方あるまい」

 ギンコ……! こういう話はデリケートに私達二人で話す事では!?
 その外野二人にはお帰り頂くのが筋かと思うんだけど!?

 あんぐりした顔をしてギンコを見た。
 ……と思ったら、母さんと妹も同じ顔でギンコを見てた。

「……どうしたのだ、お前たち。同じような表情をして。まるで三つ子のようだ。私はなにかおかしい事を言ってしまっただろうか」

「ちょっとズレてる気はするけど、誠意は感じるので良しとします」
「よしとします」
「そうか」

 盗み聞き隊が、偉そうだ……。そしてギンコ!! なんでそんなに素直に言う事聞いてるの!?

「そしてギンコ、話は外で聞かせてもらったけどね……? 納得がいかないのよ」
「そうだよ、納得いかないよ」

 どこから聞いてたの……?

 てか納得いかないって母さん、ルクリア。
 あなた達の問題じゃないでしょう!?

「どうして」
 母さんが言いかけた先を
「今の気持ちを聞かないの?」
 妹が言う。
 そして母さんが頷く。

 あなた達はクローンですか!?

 ……というか、この人たち、まさか。
 私の隠していた気持ちに気づいて……ありえる!
 そういう事には鋭いのよ、この人たち!!

「今の気持ち……? いや、しかし。今聞いても、私の番(つがい)だと彼女も聞かされたばかりで戸惑っているだろうし、第一こど」
「子供扱いするんじゃないわよ……!」

 ルクリアー!! 顔が怖い!! 顔怖い時だけなんで顔が父さん似なの!?

「まあ、たしかに子供だけれど、籍入れられる年齢だよね……」

 一方。ふふって感じに幸せそうに、頬に手をあてて眉間にシワをよせる母親。
 ……あなた、自分の12歳頃を思い出して幸せにひたってるでしょう、それ。

「姉さんもね、大人しくかしこまってないで、ちゃんと言いなさいよ。ネタは上がってるのよ」

 ね、ネタ……!?
 ルクリアが私の左横にぴったりくっついて、ジト目で見てきた。

「そうだよ、私達が気が付かないとでも思っていたのリア」

 そして右横に母さんがくっついてきて、ジト目ry

 そして左右からヒソヒソ声で言われる。

「それとも15歳まで焦らしたいの……?」

 焦ら……!?

 そんな訳ないでしょ!?
 そのニヤニヤ顔やめて!!
 ヒソヒソしたってギンコには聞こえるよ! やめて!!

「焦らし……?」

 怪訝な顔をするギンコ。
 うあ……!

「や、やめて!! も、もうやめて、ちゃんと言うから! 言えばいいんでしょう!」

 私は顔が真っ赤になった。

「リア、どうした、顔が赤いぞ。熱でもあるのか」

 ギンコが私の額に手をあてる。

 ギンコー!

「ギンコー!」
「ギンコー!」

「な、なんだ……?」
 三人共同時に、違う! そうじゃない! と思っている。多分。

 ギンコが戸惑っている。無理もない。だけどギンコの誠意の末のその天然はもう少しどうにかしたほうがいいよ!!

「とりあえず、ちゃんと言うならお母さんは何も言わない。帰るよ、ルクリア」
「ちぇ~。仕方ない。外で全部聞きたかったのに。……わかった。じゃあ、あとはお若いお二人でどうぞ」

 盗み聞きしにきたくせに、上から目線だ……!
 何故言う言わないの選択権があなた達にあるの!?
 おかしいよ!

 かき回すだけかき回して、桃髪隊は帰っていった……。
 疲れた……。

 私は椅子に座り直し、机に手をついて顔を覆っていた。

「その……大丈夫か、リア。話はこのあたりにして、また後日にするか? 日を改めるより今日の方が良いかと思ったのだが、さすがに落ち着かなかったか。すまない」

 ギンコ、ちがう。私は桃どもに疲れただけだから。


「大丈夫……」

 私は、軽く息を吸って吐いた。
 仕方ない、白状……じゃなくて、伝えよう。

 結果を出さないと、どうせ後でまた桃髪隊がう、うるさいし…。

 ただ、ギンコも今のままが当分良いって言ってるから、言うのも悩ましいけども……。
 私も当分今のままでいいし……。でも……。

 でも、もうそろそろ前に進みたい気持ちがある。
 頑張ろう。
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