そのヒロインが選んだのはモブでした。

ぷり

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102 ■ Trick Of Chronus 02 ■

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 アドルフさんとブラウニーが、帰るための装置を修理している間、私は一人で要塞を散歩してた。

 結局アドルフさんがひこずってでも、外套きてろ命令を受けたので、ちょっとたくし上げながら、歩く。
 うさ耳は外して、罰としてブラウニーにつけた。

「オレが、悪かった。許してくれ」

 青い顔で謝られた。うん、反省しなさい。……あれ? でも可愛いな。猫耳の方をつけたいかも?

 なるほど、ちょっとブラウニーの気持ちがわかった。
 本気でこれが好きっていうより、ちょっとした見た目の変化が楽しかったんだね。

 広間の玉座に腰掛けて考えてみる。
 地母神はアカシアを選んだ。私の分霊としての仕事の一つ、『天空神の選択』は終了したと言うことだ。
 別に倒すつもりもなかったけど成り行き上、魔王も片付けた。

 ココリーネの言っていた『ゲーム』で言えば、この後は〆のエンディングってやつだよね。
 でも、私達の生活は普通に続いていくわけなんだけど……『ゲーム』の最後では、攻略して一緒に幸せになる相手とのエンディングイラスト、というものが最後に出てくるらしい。

 地母神はアカシアを選んだ。間違いない、わかる。
 だって彼女は私だもの。
 そして、私自身はブラウニーを選んだ。

 この場合、どっちがヒロインで、どっちがヒーローなんだろう。
 そしてどっちの絵が物語の最後に飾られるのだろうか、と暇つぶしに考えた。

「そんなの、なんだっていいけど……でも、これで。これで、もうブラウニーと……」

 普通に一緒にいられるよね?
 だって反対する人も運命ももうないはず。
 アカシアとの最後の会話からしてもきっとそうだ。

「……本当に」

 そう考えると涙がでてきた。嬉しくて。
 人間界に帰ったら、まだ殿下の私への興味は続いてるかもしれないし、また誰かが私達の邪魔をするかもしれない……でも今までとは、違う。

 運命という重圧はなくなった。
 もう攻略対象を選ばなくていいから、少なくとも運命がブラウニーを殺しにくる事はなくなるはずだ。
 私達を引き裂く必要ももうないのだ。

 その時、背後から手で目を塞がれた。

「ブラウニー……何、悪戯してるの?」

 手を取って振り返ると、『絶対圏』に接続したままのブラウニーがいた。
 彼は『絶対圏』に接続しても、もう平気だ。

 装置の修理をする前に、アドルフさんがもう少し長居する羽目になるなら、先にオレたちの修復をしちまおう、と賢者の石を使って魂の欠損を補い、また身体を補強してくれたのだ。
 賢者の石を使った補強は、『絶対圏』への接続の負担をものともしなかった。

 アドルフさんはまだ魂が半分のままだ。
『絶対圏』がヒースに帰るまでは使えないと困るかもしれない、と帰ってからにするらしい。

「お前が泣いてたから、なんとなく。あとそろそろ寝る時間だから向えにきた」
 私の頬にキスをする。

 私達は、アドルフさんが持ってる時計を見て、人間界と同じ生活サイクルを送るようにしている。
 帰った時に時差ボケしそうだからなーって、アドルフさんはそう言ってた。

「そっか、もうそんな時間なんだ。……あ、悲しくて泣いてたんじゃないよ」

 私は先程考えていた内容を笑顔でブラウニーに語った。

「そうだな。オレもそう思う。これからは今までのような悩みはなくなるって。普通に暮らせるって。
そんな予感がしている」
「……帰るのが楽しみだね。そうだ、ブラウニー」
「ん?」
「殿下のアレ、伸ばし伸ばしになってたけど、今、取り出しちゃおう」
「……ああ、そうだったな」

 広間は地母神が一部をふっとばしたせいで、風がスースーしてる。
 殿下の神性は散らしたら、きっとこの異界のあちこちに四散するだろう。

 殿下、本当にごめんなさい。
 私はブラウニーから神性を取り出して、掲げた。

「……ああ、これってそうか」
「どうした?」

『絶対圏』に私は接続して、殿下の神性をバラバラにした。

「どうせなら、せめて、その恵みを異界に」
 恐らくこれは、国造りに使われるべき力だったはずだ。

 私は、異界じゅうにそれをばらまき、その恵みにより、自然を形成させていく。
 ブラウニーが手を握った。

「オレも手伝おう」
「……うん」

 赤土荒野は一部残して、二人で自然を作っていく。
 そして空がなかった異界に無限の虹色の空を創った。

 ……恩寵を最後の一粒まで使い切ると、異界は半分くらい生まれ変わったような美しい世界となった。

 『絶対圏』も本来はこういう使い方が正しいんだろうって気がした。

「異界の人たちの意見そういえば聞いてなかった」
「……まあいいだろ。空以外は半分くらいは元の形残したし」
「そうかな。まあやっちゃったものはしょうがないか」

 怒られたらその時考えよう。

「……プラム。えっと……」
「ん?」

 どうした? なにか言いにくそうにしてる。

「魔王のコレクションなんだが。アドルフさんが珍しいからって色々包んで持って帰ろうとしてただろ?」
「ああ、うん。メイドの土産ですって、ダミアンが洒落てたね」

 余談ではあるが、ダミアンはあの後、メイド服をやめて、タキシードを来たイケメンになった。
 前の魔王に比べると華奢な感じでは在るけど、美少女から美少年に変わっていた。

「その中に、……生物の時を進めたり戻したりするアイテムがあった。まあ一時的なもんなんだけど」
「へえ? この異界ってホント時間に関係する物事が多いね」

 そういえば魔王自身にも髪の毛伸ばされたなぁ。
 人間界に帰ったら切らなきゃおかしいよね。
 火事で短くなってたんだから。

 そんな事を考えてた横で、すこしブラウニーが言いにくそうに。
 でも、両手で私の肩に手を乗せて言ってきた。


「プラム、今夜だけオレたちの時を進めないか」

「え? どういうこと?」
「15歳になって、今夜ずっとお前と過ごしたい」
「え、なんでそんな事」
 そう言った後、私の言葉を待たずに、そのアイテムらしき指輪を私と自分にはめた。

「調整は、もうしてきたから――」
 ブラウニーの見た目が変化していく。
 成長していく。
 多分私もしてる。

 あ……。
 あああああああ!!!
 わかった! ブラウニーがどうしたいのか!

「え、えっとブラウニー、その……」

 私は真っ赤になった。
 そしてブラウニーは、私を抱きかかえて、自分が泊まっている部屋にテレポートした。
 問答無用だ!?

「朝の時刻になるまでは、オレたちは15歳だ」
「……」
「嫌なら今のうちに言えよ?」

 そう言ってブラウニーはアドルフさんの外套を私から取り上げた上で、抱きしめた。

 う、うわあああああ。

 ブラウニーの体つきが違う。抱きしめられる感覚が、違う。
 ブラウニーが私の頬を撫でて言う。

「……綺麗だ」

 あわわ。
 じっと見られている!
 わかるよ! そりゃ見るよ!
 私だってブラウニーをじっと見ちゃう。ずっとずっと大人だよ!
 なんだかとっても恥ずかしい!

「ブラウニーが、かっこよくて、私はどうにかなりそう……」

 私は改めてブラウニーを見た。
 きっと本当の15歳になるころには、髪は全部、ダークブラウンに戻ってるだろう。
 私の愛しい色。

「そうか? アドルフさんとそっくりになったんじゃないか?」
「……確かに似てるけど、違うよ。わかる。他の人はどうかわからないけど……私には全然ちがう」

 私はブラウニーの前髪をすこしかきあげて、額に変わらずあるその古傷にキスをした。

「ブラウニー、大好き。ずっと大好き」

 また少し涙が出そうになった。前にしたいってねだった時にあんな気持ちでしなくてよかった。
 今はとても幸せな気分だ。

「そうだな」
 ブラウニーが私を抱きしめてキスした。

「……悪い、もう、待ちきれない」
「……うん」
 私も、ギュッと彼に抱きついた。


 ――そして、私達はベッドに倒れ込んだ。



※※※



 数日後。
 朝食の席で、アドルフさんが肩を回しながら言った。

「やーーーーーっと直った。おじさんもう肩がゴリゴリだよ」
「肩もむよ」

 ブラウニーがアドルフさんの肩を揉んだ。

「お? サンキュ。……なんか、お前落ち着いたな。ブラウニー」
「……オレだってストレスがなきゃ、普通の人間だって」
 ……ペケの力は偉大である。

「アドルフさん、直してくれてありがとう。これで帰れるね」
「おう、娘よ。お父さんはがんばったぞ。何気に楽しかったしな。オレはこういう作業はもとから好きだからな」
 頭をわしわしされた。

「じゃあ、朝食食べ終わったら荷物まとめるね」
 ブラウニーが言った。

「おう。帰ろう帰ろう」
「うん!」
「みっ」
「みっ」

 そう、皆で一緒に。帰ろう。


 ダミアンが、寂しくなります、とお見送りに来てくれた。
 ちなみに異界に対して行った国造りは、とくに怒られることもなかった。

「いえ、とても素敵です。ありがとうございます」

 逆にお礼を言われて、前々から前の魔王とは方向性が違いまして……とか言ってた。
 何気に苦労してたのかな、ダミアンも。
 楽しそうにメイドやってたけど。

 ゲートの向こうには以前見た時と同じ星空が広がっている。
「じゃあ、行こうか」
 アドルフさんが言った。

 私はふと、振り返って、アカシアの姿を探した。

 異界を出るのを助けたら、もう会わないって言ってた。
 特別な夢にも、もう現れないのだろう。

 ……そっか。そうだよね。
 すこし後ろ髪をひかれるのは、きっと付き合いが長かった……からだよね。

 ……さようなら。アカシア。

「プラム行こう」
 ブラウニーとアドルフさんが私の手を取った。
「うん」

 私達は3人で手を繫いで、ゲートをくぐった。
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