そのヒロインが選んだのはモブでした。

ぷり

文字の大きさ
上 下
90 / 149

90 ■ Akashic Records 03 ■

しおりを挟む
「こちらです」
 魔族のメイドに連れられて、私は用意された部屋に入った。

 うわ!

 なんか……なんていうか、これは…きれいなお化け屋敷……とでも言えばいいのか!
 物語の吸血鬼? とかの屋敷内部っぽい!色合いとか!
 それが女の子が好きそうな仕様に改変されているというか、なんというか!

「魔王様がお洋服がボロボロで見ていられないとのことで、こちらお着替え下さい」

 そういって渡された服は可愛いけど、なんか人間界の服とは違うなーってデザインで。
 え? なにこれ。ヘアバンド?  猫耳? ん? スカートに尻尾?

 そして突如、
「優しくします」
 メイドがそうのたまった。

「なにを!?」
「脱衣を」
「優しい脱衣って何!?」
 シャキーン!

 メイドのツメがいきなり鋭利に長く伸び、それで私の服を切り裂いた!

「いやああああああああああ!?」

 ブルボンス家でもこんな事されたことない!!
 さっきまで来てた服がビリビリのバラバラになって散らばる。
 全裸だ!?

 私はその場にうずくまった。
 か、髪の毛が伸びててよかった…。

 だがしかし!
「優しいとか優しくないとかの問題じゃなくない!?」
「傷ひとつ付けずに脱がせました。成功です」
 メイドから満足げな鼻息がでた。どこか誇らしげだ!?

「失敗あるの!?」
「髪をついでに整えます」
「まさか、そのツメで!?」

 シャキーン!!

「きゃあああ!」
 問答無用で切られた。
 前髪はちょうど良い長さに、髪は腰くらいの長さになった。

「優しくしました」
「怖かったよ!?」

「次は入浴を」
「あ、そういえば結構血だらけだった」
「優しくします」
「また!? いいよ! 自分で入るから…っていやああ!」

 メイドは私を抱えあげ、浴室まで運び、バスタブに漬け込んだ。
 くっ……! ちょうどいい温度だ! 悔しい!!

 そして風呂上がり。
「着せます」
「いやああああ!!!」
 ほぼ負けの格闘をしながら、私は、与えられた服を着せられた……。
 ふ……ふつうの服はないのか!!

「スカートが短い!!」
「お可愛いです」
「お願いだから何か下ばきを頂戴!! お願いだから!!」
 メイドはムスっとしたが、ひらっひらのフリルのついたパニエを持ってきた。
 ……とりあえずは良しとしよう。

 私は鏡を見た。

「……なんで、これ、猫耳は…なんの、ために…」
「お可愛いです」
「これ、魔王の趣味なの?」
「……」

 何故答えない!!

「この尻尾は」
「お可愛いです」
「魔王のしゅ」
「こちらにお飲み物を色々御用意してあります、ご自由にお飲みください」

 答えてよ!?

「髪を結い忘れました」
 話題を変えられた。

「あ、それはお願い。邪魔だから。短くしてくれてもいいよ」
「ツインテール可愛いです」
 OKわかった、会話通じない。もういいです……。
 私は諦めた。

 そうだ、こいつらは文化も話し方も違うのだ。
 いちいち疲れていては身が持たない。
 平常心平常心……。

「ぴっくぴっくにしてあげる♪」
「なんの歌!?」

 悔しい! 諦めたばかりなのに反応してしまった!
 しかも無表情で歌っている! 今更だけど怖い!
 髪にリボンとか付けられて、彼女的に完成したのか、満足そうにため息をついた。

「フゥ……」
 ふう、はこっちだよ!!

「そういえば魔王って名前あるの?」
「……私の真名で良ければお教えできますが」
「いや、あなたの事は聞いてない!」
「私と契約して魔法少女に」
「契約しない!! てか魔法少女ってなに!? 魔法を使える女の子っていう意味なら既にもうそうですけど!?」
「魔法のステッキもマスコットキャラもないのに魔法少女を名乗るなど笑止です」
「別に名乗るつもりはありませんが!? そろそろまともに会話してくれません!?」

「フゥ。さて。では、失礼致します。御用の際は、こちらのベルをお鳴らし下さい。なお、勝手にお部屋の外には出られませんよう」
 完全にスルー!!

「……」

 メイドさん変えてもらえないかな……。マジでチェンジ希望。
 メイドさんは出ていった。

「つ……疲れた…」
 私はベッドに腰掛けた。

 しかしどうしよう……。

 とにかく一番はアドルフさんを助けたい。
 でも……。彼を助けて記憶を戻して、アドルフさんが『絶対圏』を使える事に賭けたかったけど、アドルフさんは寿命がもう来ているとかって怖い話をしてたはず。
 だめだ、絶対使わせられない!

 あ、そうだ。
 さっきのクレープ食べなかったから、面会すらさせてもらえない!
 面会さえできれば、記憶をもどす機会が得られるかもしれないのに…。

 ああ、お願いだから無事でいて、アドルフさん……。


「……」

 ……ブラウニーどうしてるかな。
 怒ってたよね。
 さらにあんな戦いの中に飛び込んで怪我したからまた怒られるかもしれない。

 正直、ブラウニーを諦めるという選択肢は彼を愛しているなら、有りだとは思う。

 愛しているからこそ、相手を思うからこそ、相手の無事を願うからこそ手放す愛。
 世の中にはそんな愛情もあるんだろう。
 けれど、それは私達には当てはまらないと思…う。

 私達はそれを選ば…ない。
 選びたくもない…けど。

 実は、自信がなくなってきた。
 例えば、もしも私が彼を諦めることによって、彼が安泰な人生を送れるなら……。
 そして他の誰かと。

 ブラウニーならすぐに素敵な子が見つかるだろう。
 考えただけで吐き気がする。そんなの。でも。……いやだ、いやだけど。
 ブラウニーはそれを言ったら怒ると思うけど……。

 ブラウニーがその怒りを経ても、幸せになれるなら……と
 頭の片隅にそんな事が浮かんでしまうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

紀尾井坂ノスタルジック

涼寺みすゞ
恋愛
士農工商の身分制度は、御一新により変化した。 元公家出身の堂上華族、大名家の大名華族、勲功から身分を得た新華族。 明治25年4月、英国視察を終えた官の一行が帰国した。その中には1年前、初恋を成就させる為に宮家との縁談を断った子爵家の従五位、田中光留がいた。 日本に帰ったら1番に、あの方に逢いに行くと断言していた光留の耳に入ってきた噂は、恋い焦がれた尾井坂男爵家の晃子の婚約が整ったというものだった。

【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜

まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。 【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。 三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。 目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。 私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。 ムーンライトノベルズにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...