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87 ■ Invitation 02 ■
しおりを挟むゲートを再びくぐると――ダンスホールのように広く、豪華な場所へ――私達は落下した。
床に打ち付けられる。
「…っ」
「痛っ!!」
すぐに上体を起こして周りを見ると、奥には玉座のようなものがある。
謁見の間か何かですか。
自分はゆっくりと降下してきた魔王は言った。
「その手錠を外せ、ドッペル」
「オレの名前はドッペルじゃない、アドルフだ。そしてこの娘の保護者だ。外すわけにはいかない」
「腕を切り落とすぞ」
「そんな事しても私が治すし」
私は必死にアドルフさんに抱きついた。
その刹那、ゴウ!と昨日死ぬほど聞いた炎の音がした。
「みーーっ!?」
「モチ!!」
魔王が黒い火を飛ばして、モチが焼かれた!
真っ黒になったモチは元の姿にもどってポトン、と落ちた。
「モチ! モチ…!」
私は回復をかけた。
しかし、回復が不十分なうちに、私はアドルフさんから引き剥がされて、魔王に抱き抱えられた。
「地母神のまだ幼き分霊よ。これからは我がしっかりと教育してくれる。地母神にしっかり情報を送ってやるといい」
「何が目的!?」
「決まっている。オレは地母神を殺すか、地母神を堕落させるかだ」
「なにそれ!? 意味わかんない!!」
「モチ、【Glider】【FlY、Y5Z、FREE】!!」
アドルフさんが、回復しきってないモチを働かせて、魔王から私を奪い取り、後方にあった大きな扉へと飛び、手を伸ばす。
逃げられないとわかっていても、とにかく距離を取りたいのだろう。
私がアドルフさんを連れてどこかへテレポートすれば良かったかな?
でもどこにいても見つかるだろう、とか思ってた……!
アドルフさんを守らなきゃとか思いながら、アドルフさんに全部負担させてる……!
「……!」
私はギュッと捕まって集中する。
そうだ、アドルフさんの記憶を! 取り戻さなきゃ!
しかし、分が悪かった。
黒く大きな炎が、私達の背後からかなりの衝撃をもって襲った。
「う……っ!」
「きゃあっ」
「みーっ……」
モチが転がり、私とアドルフさんは床に打ち付けられる。
「ぐ……」
アドルフさんとモチが黒い炎に焼かれている!
いやだ!
私はとっさに念じて炎を振り払った後、アドルフさんとモチに拡張回復をかける。
魔王がゆっくりとアドルフさんに歩み寄る。
「……ハア、我から逃げられるとでも思っているのか? ここは異界で。ここは我の城で。我は魔王だ。神と対なる存在。オレはその気になれば地母神も殺せる存在だ。敬意を払え。元異界の民よ」
「アドルフだ……! ……そういえば、お前に聞きたいことがある。……ヒースを何故滅ぼした!!」
「あ? 何の話だ。いきなり」
「オレの故郷を、ヒース領を! 10年前、滅ぼしただろう!」
……アドルフさん。
「10年前……ああ。あそこの時間軸か。……おまえ、あそこに住んでたのか。根絶やしにしたと思ったが、よく生きてたな。偉い偉い。何、あそこの領主がオレが差し出せっつったものを、ひた隠しして、献上しなかったからな。そういうことだ」
「……!」
アドルフさんがギリ、歯を噛んで魔王を睨みつける。
あそこの領主って……アドルフさんのご両親だよね?
「そうだ、お前はありか知ってたか?」
魔王はアドルフさんの顎を持って、顔を近づける。
「――賢者の石」
アドルフさんが目を見開く。
なんだろう、賢者の石って。
「知らんな」
「はは、それは知ってる顔だ。嘘が下手だな、ドッペル。おい、誰か!」
魔王はアドルフさんを床に投げ捨てた。
「ぐっ…」
うめき声を上げるアドルフさん。
なんてことするの……!! ひどい!!
魔王が呼んで、数人の魔族が現れる。
「そいつを牢に放り込んでおけ。あとでオレが直接出向く」
「アドルフさんに酷いことしないで!!」
「分霊(わけみたま)よ。それは取引か?」
「え?」
「お前は地母神の分霊だ。お前はオレと対話する価値はある。そして、もう一度聞く。それは取引か?」
魔王は薄ら笑いを浮かべている。……こ、怖い、でもアドルフさんを守らなきゃ!
「と、取引って……何!」
「プラム、そんなヤツの取引を信用するな! 絶対に裏切……がっ」
アドルフさんが配下の魔族に殴られる。
「やめて!! だから! 取引ってなにすればいいの!?」
「そうだな……とりあえず、おとなしく、オレとお茶でもしろ。口に合う菓子を用意してやる。簡単だろう? そもそも、まずはその為にお前を連れてきたのだから。招待したのはこちらだし、これは破格の取引としてやる」
「……わかった。それで酷いことはしない?」
「プラム、やめろ。取引自体するな。絶対ろくなことにならな」
アドルフさんが腹を蹴られて、血を吐いた。
「やめてって! お茶するから!!」
私はアドルフさんに回復飛ばし続けながら叫ぶ。
アドルフさん、無理だよ! 取引するなって言っても、しない方法が思いつかないよ!
魔王が手を上げて配下を止める。
「よし、いいだろう。分霊(わけみたま)――プラムか。付いてこい。」
「……」
私はこく、と頷いた。
モチがこっそり、アドルフさんのフードに入り込むのが見えた。
あちこち焦げててかわいそう!
モチへも回復を飛ばす。
うう……、モチ……。
絶対許さないんだから!
「ああ、あとその『絶対圏』の接続は切れ。うざいからな。どうせ繋がっていたところで、お前は我になにもできやしない」
……しかたない。
私はブラウニーほど上手に扱えないし、使えた所で確かに、この人相手には何も出来ないだろう。
ブラウニーの接続が気になるけれど、もう私だけ切っても大丈夫だろう……。
接続のあやふやさは感じたけれど、多分ペアでなければ繋げないってことはないとおもう。絶対圏の接続レベルが上がった、というか……いや、彼はもう絶対圏の住人として認められた……あえて言うならそんな感じがする。
それに従わなかったら、またアドルフさんに何されるかわからない。
もう一歩早くアドルフさんの記憶を治せてれば、アドルフさんに『絶対圏』に接続してもらえて、二人でここを逃げ出せたか、そもそも連れてこられなかったかもしれないのに。
今更そんな事思ってもしょうがないって思っても悔しくて思ってしまう。
「プラム!!!」
魔族に囲まれて叫ぶアドルフさんをたまに振り返りながら、私は魔王に付いて行った。
……うう、もし、アドルフさんを万が一殺したら、絶対に許さない。
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