87 / 149
87 ■ Invitation 02 ■
しおりを挟むゲートを再びくぐると――ダンスホールのように広く、豪華な場所へ――私達は落下した。
床に打ち付けられる。
「…っ」
「痛っ!!」
すぐに上体を起こして周りを見ると、奥には玉座のようなものがある。
謁見の間か何かですか。
自分はゆっくりと降下してきた魔王は言った。
「その手錠を外せ、ドッペル」
「オレの名前はドッペルじゃない、アドルフだ。そしてこの娘の保護者だ。外すわけにはいかない」
「腕を切り落とすぞ」
「そんな事しても私が治すし」
私は必死にアドルフさんに抱きついた。
その刹那、ゴウ!と昨日死ぬほど聞いた炎の音がした。
「みーーっ!?」
「モチ!!」
魔王が黒い火を飛ばして、モチが焼かれた!
真っ黒になったモチは元の姿にもどってポトン、と落ちた。
「モチ! モチ…!」
私は回復をかけた。
しかし、回復が不十分なうちに、私はアドルフさんから引き剥がされて、魔王に抱き抱えられた。
「地母神のまだ幼き分霊よ。これからは我がしっかりと教育してくれる。地母神にしっかり情報を送ってやるといい」
「何が目的!?」
「決まっている。オレは地母神を殺すか、地母神を堕落させるかだ」
「なにそれ!? 意味わかんない!!」
「モチ、【Glider】【FlY、Y5Z、FREE】!!」
アドルフさんが、回復しきってないモチを働かせて、魔王から私を奪い取り、後方にあった大きな扉へと飛び、手を伸ばす。
逃げられないとわかっていても、とにかく距離を取りたいのだろう。
私がアドルフさんを連れてどこかへテレポートすれば良かったかな?
でもどこにいても見つかるだろう、とか思ってた……!
アドルフさんを守らなきゃとか思いながら、アドルフさんに全部負担させてる……!
「……!」
私はギュッと捕まって集中する。
そうだ、アドルフさんの記憶を! 取り戻さなきゃ!
しかし、分が悪かった。
黒く大きな炎が、私達の背後からかなりの衝撃をもって襲った。
「う……っ!」
「きゃあっ」
「みーっ……」
モチが転がり、私とアドルフさんは床に打ち付けられる。
「ぐ……」
アドルフさんとモチが黒い炎に焼かれている!
いやだ!
私はとっさに念じて炎を振り払った後、アドルフさんとモチに拡張回復をかける。
魔王がゆっくりとアドルフさんに歩み寄る。
「……ハア、我から逃げられるとでも思っているのか? ここは異界で。ここは我の城で。我は魔王だ。神と対なる存在。オレはその気になれば地母神も殺せる存在だ。敬意を払え。元異界の民よ」
「アドルフだ……! ……そういえば、お前に聞きたいことがある。……ヒースを何故滅ぼした!!」
「あ? 何の話だ。いきなり」
「オレの故郷を、ヒース領を! 10年前、滅ぼしただろう!」
……アドルフさん。
「10年前……ああ。あそこの時間軸か。……おまえ、あそこに住んでたのか。根絶やしにしたと思ったが、よく生きてたな。偉い偉い。何、あそこの領主がオレが差し出せっつったものを、ひた隠しして、献上しなかったからな。そういうことだ」
「……!」
アドルフさんがギリ、歯を噛んで魔王を睨みつける。
あそこの領主って……アドルフさんのご両親だよね?
「そうだ、お前はありか知ってたか?」
魔王はアドルフさんの顎を持って、顔を近づける。
「――賢者の石」
アドルフさんが目を見開く。
なんだろう、賢者の石って。
「知らんな」
「はは、それは知ってる顔だ。嘘が下手だな、ドッペル。おい、誰か!」
魔王はアドルフさんを床に投げ捨てた。
「ぐっ…」
うめき声を上げるアドルフさん。
なんてことするの……!! ひどい!!
魔王が呼んで、数人の魔族が現れる。
「そいつを牢に放り込んでおけ。あとでオレが直接出向く」
「アドルフさんに酷いことしないで!!」
「分霊(わけみたま)よ。それは取引か?」
「え?」
「お前は地母神の分霊だ。お前はオレと対話する価値はある。そして、もう一度聞く。それは取引か?」
魔王は薄ら笑いを浮かべている。……こ、怖い、でもアドルフさんを守らなきゃ!
「と、取引って……何!」
「プラム、そんなヤツの取引を信用するな! 絶対に裏切……がっ」
アドルフさんが配下の魔族に殴られる。
「やめて!! だから! 取引ってなにすればいいの!?」
「そうだな……とりあえず、おとなしく、オレとお茶でもしろ。口に合う菓子を用意してやる。簡単だろう? そもそも、まずはその為にお前を連れてきたのだから。招待したのはこちらだし、これは破格の取引としてやる」
「……わかった。それで酷いことはしない?」
「プラム、やめろ。取引自体するな。絶対ろくなことにならな」
アドルフさんが腹を蹴られて、血を吐いた。
「やめてって! お茶するから!!」
私はアドルフさんに回復飛ばし続けながら叫ぶ。
アドルフさん、無理だよ! 取引するなって言っても、しない方法が思いつかないよ!
魔王が手を上げて配下を止める。
「よし、いいだろう。分霊(わけみたま)――プラムか。付いてこい。」
「……」
私はこく、と頷いた。
モチがこっそり、アドルフさんのフードに入り込むのが見えた。
あちこち焦げててかわいそう!
モチへも回復を飛ばす。
うう……、モチ……。
絶対許さないんだから!
「ああ、あとその『絶対圏』の接続は切れ。うざいからな。どうせ繋がっていたところで、お前は我になにもできやしない」
……しかたない。
私はブラウニーほど上手に扱えないし、使えた所で確かに、この人相手には何も出来ないだろう。
ブラウニーの接続が気になるけれど、もう私だけ切っても大丈夫だろう……。
接続のあやふやさは感じたけれど、多分ペアでなければ繋げないってことはないとおもう。絶対圏の接続レベルが上がった、というか……いや、彼はもう絶対圏の住人として認められた……あえて言うならそんな感じがする。
それに従わなかったら、またアドルフさんに何されるかわからない。
もう一歩早くアドルフさんの記憶を治せてれば、アドルフさんに『絶対圏』に接続してもらえて、二人でここを逃げ出せたか、そもそも連れてこられなかったかもしれないのに。
今更そんな事思ってもしょうがないって思っても悔しくて思ってしまう。
「プラム!!!」
魔族に囲まれて叫ぶアドルフさんをたまに振り返りながら、私は魔王に付いて行った。
……うう、もし、アドルフさんを万が一殺したら、絶対に許さない。
0
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
紀尾井坂ノスタルジック
涼寺みすゞ
恋愛
士農工商の身分制度は、御一新により変化した。
元公家出身の堂上華族、大名家の大名華族、勲功から身分を得た新華族。
明治25年4月、英国視察を終えた官の一行が帰国した。その中には1年前、初恋を成就させる為に宮家との縁談を断った子爵家の従五位、田中光留がいた。
日本に帰ったら1番に、あの方に逢いに行くと断言していた光留の耳に入ってきた噂は、恋い焦がれた尾井坂男爵家の晃子の婚約が整ったというものだった。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる