83 / 149
83 ■ The Contents of the Box 02 ■
しおりを挟む「ついて来るな!?」
全裸に布一枚の男が後をついてくる……そして顔がオレだ!!
「いや、手伝うって。オレが困ってるのにオレが助けないなんてありえないだろ?」
「そもそも困ってる原因の一つがお前だ!?」
「はは、違いないな!それは解決してやれんが」
茶番が続く。シリアスを返せ。
「なんぢゃ、騒がしいのう……」
「!」
突如現れた魔族の爺にオレはダガーを構えた。
しかし。
「爺さん、だれだ?」
背後から屈託ない声が…気が抜ける!
「ワシはこの辺を根城にしとる、終活歴50年の爺じゃよ……」
そのセリフに更に気が抜ける!
プラム、お前がいないとこいつらのボケに付き合うヤツがいない!
早く戻ってこい!!!
オレはもう耐えられなくなって、その場で突っ伏した。
「ああ、泣いちまった」
「坊主、腹でも痛いんかー?」
「泣いてねえ!?腹も痛くねえ!」
「思春期かの……」
「思春期だな……」
「お前らのせいだよ!!」
何故会ったばかりの奴らにこんなにいじられてるんだオレは。
こんな所はプラムには見せられない。
「……というか、お前らそっくりじゃな。そして人間も久しぶりじゃ。…あ? 一体はドッペルゲンガーか?」
「おー。そうだぞ。こいつの魂半分もらったばっかりだ。よろしくな爺さん」
返せ!
「そうか、ああ、あそこの館で眠ってた子じゃな。良かったな、やっと目覚める事ができたんじゃな。……で、いつ殺すんじゃ?この人間」
「は?」
殺すだと?
「あー、それは。まだその時ではない……って感じだ」
こいつ俺を殺すつもりなのか!
屈託ない顔しやがってめちゃくちゃ邪悪じゃねえか!
「おい……。どういう事だ」
「どういう事もなにも。さっきも言ったけど、そういう生態だから、としか」
「まあまあ、落ち着きんさい、人間よ。殺すだけじゃない、お前に魂を返すこともある」
「なに?」
「ドッペルゲンガーは魔族じゃが、寿命はそんなに長くない。人間より短いんじゃないかのう。
その時がくればお前を殺すかお前に還るか決めるじゃろう」
「もう人間になったよ。元魔族だ。最後の仕上げにお前を殺す作業は残ってるけど」
「……なんで俺を殺す」
「オレがお前になるために」
つまり、オレを乗っ取るってことか。
「オレが今お前を殺してもいいよな?」
オレはダガーを手に迫った。
「やめとけ。オレが納得して魂を返す、としないと魂半分なくなったままになるぞ」
「それが何か問題あるのか」
特に今、何も不自由を感じていない。
オレはダガーを抜いた。
「ストップストップ人間! 問題おおありじゃ! 寿命が減っておるんじゃ! 減ったままになるんじゃ!」
小さい爺が言い放った。
なんだこの妙に親切な魔族は。
「あんた、妙に親切で怪しい爺さんだな」
「ああ~ワシ、魔族付き合い合わないんじゃよ。聞いてよ、心は人間なんじゃよ。この世界の人間じゃないんじゃが……人間が懐かしいんじゃよ。モリヤマさんとでも呼んでくれかの」
ダガー持ったオレにストップストップとジェスチャーするモリヤマじいさん。
オレは察した。
「……地球からの転生者か?」
「地球知ってるの!?」
「ちょっとだけな」
「え、嬉しい、ちょっとうちでゆっくり……」
「オレ急いでるんだよ!!!!」
「そう……カリカリすんなよ、オレ」
オレがオレに肩ぽんしてきた。血管が切れそうだ。
「いけず……ワシ寂しい……」
「じいさん、オレでよかったら話きくぜ?」
よし、まかせたドッペル。
「じゃあオレは行く。……ちなみに桃色の髪の少女と背の高い隻眼で銀髪の男は見なかったか?」
「知らないな……」
ドッペルが答えた。
「お前に聞いてない!」
ん? 二人を知らない? 記憶はコピーできないのか?
「人探しか?知らんのう……そこの赤土荒野ではぐれたんかの?」
「恐らくそうだ、モリヤマ」
「それなら多分会える確立はゼロにちかいぞい」
「は?」
「一度はぐれたら終わりじゃ。なぜなら、そこの赤土荒野は、常に時間が入れ替わっておる。
たとえばあっちの溶岩が流れとるあたり。あそこが10年前だとすると、こっちの何もないほうは、5年前とかな。それがもっと細かくてランダムなんじゃ。さっきまで隣に居たものが、違う時間帯にいきなり行ってしまったりするんじゃよ。何年経っても変わらない場所ってのもあるがの」
「……なんだそれは」
「神の世界からその眼に覗かれないために魔王様がやっとる、とか噂は聞いたの」
「探す方法はないのか」
「ないのう…そもそもお前が探しとる者達がこの時間軸におらんと思うしの」
「一旦帰るか。どっかゲートないのか」
「あるにはあるぞい。じゃが、そのゲートがお前のいた時間軸の同じ場所に出るとは限らんぞ」
「はあ!?」
「ひょっとしたら100年前にでるかもしれんし、10年前かもしれん」
「な……」
なんだよ、それ……。
「なにか方法は……」
「魔王様に頼むしかないの」
「は?」
「人間の言う事なんぞ聞いてくれはせんと思うがの~。
じゃから、あれじゃ。ワシの家で一緒に暮らさない?とりあえずこの森から出ない限りは時間はまともな流れじゃし。」
「暮らさねえよ!! てか、お前らはどうしてんだよ! 違う時間軸へ行ったら自分が二人になったりしないのかよ!!」
「ワシら? ワシらは平気よ。あれは部外者に対する仕掛けじゃから。魔族はひっかからんように術を編んでいらっしゃる。ちなみに魔物はお前らとおなじ扱いじゃ。見分けつかんが、同じ個体が同じ時間軸におるかもしれんな~」
「おー。じゃあそれ、オレもうひっかかるな。人間になっちまったから」
ドッペルの野郎、もといオレがのほほんと言う。
なんかこいつ既視感あるな。……まあ、オレの魂を使っているんだから当然か。
「魔王はどこにいる」
「え、魔王様に会いに行くつもりか?そもそも会えないと思うぞ」
「それでも行く、場所を教えてくれ、モリヤマ」
「ん~まあ、場所は教えても構わんが……地図くらいは書いてやるか……」
モリヤマは地図を描いてくれた。ついでにフルーツを少し切って食わせてくれた。
人間世界で帰れなくなるとか言われてるが、これは大丈夫だ、といって。
「なんもお礼はできないが、サンキュ」
「まあええよ。まさか地球のことを知ってるヤツに会えるとは思わんかったしの」
「……とんにゅら」
「……!!!!!!」
「お、おまえ…それ……」
「オレが育った教会のシスターが地球からの転生者だ。そいつが言ってたらしい」
「う、うおおお…ワシ以外にも…おったのか…地球からの……転生者……うおおおお!!!」
号泣している。
……すこしは礼になっただろうか。
モリヤマの地図を見て、心の眼を異界に走らせる。
……なるほど、あそこか。
オレの外套の裾をぎゅ、とドッペルが掴む。
「オレも行くぜ」
「お前なんかできんのかよ。ここにいろ」
下手に死なれて寿命が減ったらプラムが泣く。
「お前ができることは大抵できるぞ、だってオレはお前だし」
……まじか。
「……じゃあ『絶対圏』には接続できるのか」
「ああ、これそういう名前の力なんだ」
オレのツールバッグから力を使ってダガーを1本、空中に浮かせた。
「……なんだと……」
「まあ、それはともかくついて行く。なんだかお前を一人にできない」
なんだコイツは……いちいち判断に悩むな。
しかし、『絶対圏』に接続できるなら、置いて行っても付いてきちまうかもしれんな。
オレはため息をついた。
「裏切るなよ……好きにしろ」
「おう!! オレはオレの味方してやるぞー」
ホントかよ……。
「ところでお前、記憶はコピーしてるのか? プラムのこととか知らなさそうだけど」
「プラムってなんだ? 記憶は写せなかった。その、胸の銀色の光も。」
ドッペルはオレの胸元を指さした。
全てをコピーできるわけではないのか。
そして、記憶がないから、そんなに純粋そうに見えるのか。
……オレは、オレの記憶がなければ、こいつみたいに笑えるのか? ふとそう思った。
「じゃあの~いつかまた会いたいの~」
「モリヤマ、世話になった」
多分もう来ない。
そしてオレたちは魔王の拠点へと身体を跳ばした。
0
お気に入りに追加
111
あなたにおすすめの小説
【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜
まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。
【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。
三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。
目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。
私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。
ムーンライトノベルズにも投稿しています。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】没落令嬢オリビアの日常
胡暖
恋愛
没落令嬢オリビアは、その勝ち気な性格とあまり笑わない態度から、職場で「気位ばかり高い嫁き遅れ」と陰口を叩かれていた。しかし、そんなことは気にしてられない。家は貧しくとも心は誇り高く!
それなのに、ある時身に覚えのない罪を擦り付けられ、啖呵をきって職場をやめることに。
職業相談所に相談したら眉唾ものの美味しい職場を紹介された。
怪しいけれど背に腹は変えられぬ。向かった先にいたのは、学園時代の後輩アルフレッド。
いつもこちらを馬鹿にするようなことしか言わない彼が雇い主?どうしよう…!
喧嘩っ早い没落令嬢が、年下の雇い主の手のひらの上でころころ転がされ溺愛されるお話です。
※婚約者編、完結しました!
氷雨と猫と君〖完結〗
カシューナッツ
恋愛
彼とは長年付き合っていた。もうすぐ薬指に指輪をはめると思っていたけれど、久しぶりに呼び出された寒い日、思いもしないことを言われ、季節外れの寒波の中、帰途につく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる