そのヒロインが選んだのはモブでした。

ぷり

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82 ■ The Contents of the Box 01 ■ ―Brownie― ――箱のなかみ

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 ――魔の口に飲み込まれた後、オレはプラムとアドルフさんを探して中を跳び回った。
 いない! いない……!!

「どこにも……」
 気がつくと、薄暗い、赤い土地が広がる世界にいた。
 太陽はなく、空もなく。

「……なんだここは、ダンジョンか……?」
 でも、そんな事はどうでもいい。二人がいない。
 すぐに追いかけたはずだ。
 なのにどうして見失った。

 『絶対圏』を使って探しても、プラムとアドルフさんの存在を感じない。見つからない。
 アカシアは魔の口を使用した時、人間のいない世界に行ってしまえ、と言っていた。
 視ていると、魔族だったり魔物だったりがチラホラ見つかった。

「ここは……異界か……?」
 せめて二人共一緒にいてくれ……。

「オレは……一体……」
 髪をぐしゃ、とすると、べっとりとプラムの血が手についた。
「……プラム……あんな……」
 プラムは接続が切れたオレを守ろうと飛び出していた。

 なんでお前が身体を張るんだ。
 馬鹿野郎……いや、馬鹿はオレだ。
 こんな事になったのは、明らかに暴走したオレが原因だ。

 言い訳をするつもりはない。
 後戻りもするつもりもない。
 ――だが、悪いのは完全にオレだ。

 プラム……早く会って謝りたい。
 アドルフさんもだ……心配だ。

「くそ……」
 考えてる暇はない。
 二人を探し出さなくては。

 プラムは大怪我しているし、アドルフさんは冒険者で荒事には慣れているだろうが、こんな場所は常識外だ。

 オレはテレポートしながら、世界を見て回った。
 そして元の世界にはテレポートできないのを知った。
 神と対峙する魔王の世界だからか。
 先程から瘴気に触れる。

 たしか『ゲーム』だと魔王を倒しに行くのがエンディングだったか。
 ついでに倒すか、などとふと思ってその場に少し座り込んだ。

 ……いや、オレは一体何を考えている。
 なんでこんなに思考に至る。落ち着け。おかしいだろ。
 こんな事を考える人間じゃなかったはずだ。

 ……いや、もう人間じゃないだろう、これ。
 皇太子にも自分で言い放った。自分はバケモノだと。

「……」
 オレは頭を抱え込んだ。

「オレは…」
 『絶対圏』の接続を切りそうになったが、持ち直す。
 だめだ、この場所で切るのは絶対にだめだ。

 ああ、そういえば…皇太子から奪った光…あれを霧散させてしまわないと。

「……あれ」

 皇太子から奪った銀の光塊は既に身体に馴染んでしまったようだった。
 皇太子から引きずり出せたのに、何故かオレからは取り出せない。

 というか、掴むことはできるし、一部ちぎることは可能だが、核になっている部分が張り付いたように取れない。

「困ったな」
 破壊するつもりだったのに、盗品になってしまった。

 ある意味、これがあるならプラムの攻略対象とやらにはなるんだろうが。
 こんなものなくても、オレはとっくの昔にプラムに攻略されている、その逆もしかりだ。
 必要ない。
 てか、ホントなんだよ、攻略って。ふざけんな。

 ――しかし、銀の光塊。
 アカシアが、オレには耐えられないとか言ってたし…それは嘘には聞こえなかった。
 ひょっとして、リンデンみたいな感じになるのか?
 それは困る。破壊したい。

 立ち上がろうとしたら、身体がふらついた。
 さっきから、ところどころ身体にダメージがある。
 オレは崩れそうな所を包帯で巻き付けた。

「……崩れるものか」

 自動回復をパッシブ構築していなかったら、オレはもう人の形を失っているかもしれない。
 昨日から『絶対圏』に接続しすぎたせいか。またはその力を使いすぎたせいか。
 自動回復が追いつかなくなったら……。

 ……一度心を折ったら終わりだ。考えない。
 思考をプラムとアドルフさんに集中させる。

 その時、ふと、足元の地面が動いた気がした。
「……なんだここは……。」
 顔を上げると、目の前に森があった。
 アドルフさんが作ったヒースの蒼い森にそっくりだ。

「こんな世界にも森はあるのか。……結構でかいな」
 ……アドルフさんやプラムがこの森を見つけたら必ず入るだろう。
 あっちの荒野のような赤い土地は魔物からも丸見えだし、食べ物もなさそうだ。

 オレは森に入った。

「……きれいだな」

 この土地特有の魔物を見かけたが、襲ってこない。
 凶暴性がないな。

 足元にうさぎみたいな魔物が数匹はねていった。
 一匹つまみ上げてみた。足をジタジタしている。

「……可愛いな」
 プラムが喜びそうだ。だが。

「こんな事してる場合じゃないな」
 オレはうさぎを放した。

 しばらく歩くと、建物があった。
 ボロボロだ。

 建物は二階建てだったが、二階は潰れてしまって使い物にならない。
 階段も途中で崩れている。
 誰か住んでいたかのような様子はあるが……魔族でも住んでたのか?

 ひょっとしたら、ここにプラム達がくるかもしれない。
 少し探索していくか。

 広間みたいな部屋に出た。
 部屋の中はシンメトリーだ。

 装飾品、絵画、彫刻……どれも同じものが左右に並んでいる。
 眺めながら歩いていくと、部屋の一番奥にぼんやり布をかけられた光る置物があった。

 オレはなんとなく、布を取ってしまった。――鏡だった。
 銀髪の自分が映る。血に塗れている。
 ああ、プラムの血を被ったままだった。

 オレは、ハンカチを取り出して、乾きかけている血を拭った。

「……この鏡は左右対称じゃなんだな」

 ふと背後に鏡があるのかと、鏡に背を向けた時、鏡が光った。
 そして何かが、吸い取られるような感じがした。

「!?」

 振り返ると、鏡の中の自分が微笑んでいる。
 鏡から手がでてくる、足が歩みをすすめて――鏡からヤツが出てくる!

 オレは間合いを取ってダガーを抜いた。

「なんだお前は……!!」

 銀髪で全裸のオレが、鏡から出てくると、鏡にかかっていた布を自分にかぶせて服にした。

「……なんだって言われても」
 こっちを振り返って喋って微笑んだ。

「オレはおまえだよ」

 そいつがそう言うと、鏡が力を失ったように輝きを失い、そして消えた。

「は?」
「……」
 ……静かに屈託なく微笑んでいる。

「……み」
 マロが出てきた。

「みっ」
 マロがそいつの肩に飛び乗って頬ずりした。

 マロ!?
 どうしてだよ!

「可愛いな…」
 嬉しそうにする……オレが。

「マロ、戻ってこい」
「みっ」
「ああ……」

 ヤツが寂しそうにしたが、良かった、マロはちゃんと戻ってきた。

「オレの真似するな。そこの鏡がなんだか知らないが、普通の鏡にもどってろ。
オレはお前と遊んでいる暇はない」

「……もう戻れないよ。忙しいのか?手伝ってやろうか」
「は!?」
「?(キョトン)なんで怒ってるんだ?」

 ……なんだこの無垢さは。

「お前なんなんだ? ……どういう魔物なんだよ」
「……ドッペルゲンガーだ…と言ってももう、半分のお前だけど」
「は?」

「さっきお前の魂の半分をもらった。オレはここでずっと誰かの半分になるのを待っていたからな。ありがとう」
「なんだと!?」
 さっき吸い取られた感じがしたのはそれか!

「何が目的だ……」
「いや、誰かの半分になりたくて。そしてもうお前の半分だぞ」
「意味がわからない!」
「そういう生態としか」

「白髪が生えそうだ……」
「もう白髪じゃないか」
「銀髪だ!!」
「オレもだよ。お揃いだな!」

 茶番する状況じゃねえんだよ!!
 あと、前にこの会話どっかでした!

「というか、オレの魂盗んだとかいったな」
「半分だけな」
「返せ」
「え……まだいやだぞ。生まれたばかりだし、オレだって生きたいぞ」
 頭をかきむしりたくなった。

「鏡にもどって誰か別のヤツに取り憑けよ!」
「無理だ、これ、オレの存在を賭けて一生に一回しかできねえ技だし」
「なんでオレだよ!?」
「なんかお前がいいなーって思った!」
 ほわ、と微笑んだ。気が抜ける!

「……もういい」
「いいのか」
「良くないが、オレは今ほかにやるべき事がある」

 オレは一旦落ち着きたいと思って、館を出ていった。


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