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74 ■ Unconditional Love 02 ■
しおりを挟む「ああああ、聖女! 聖女の誕生ですううう」
医者うるさい!!
「寝ててください!」
私は問答無用で医者を寝かせた!
スリープの魔法を久しぶりに使った!!
「……どういうこと」
リンデンお兄様が起き上がった。
「そこのお嬢さんは、リンデン坊っちゃんを治そうとずっと傍についていた。
そしてその思いの強さから、聖属性としての枠を突破した。――それはつまり、聖女だ。
……そこの医者がもってた計測値も、オレの計測値も、同じ結果だ。
それに多分、今のはちゃんと観測所に観測されただろう」
アドルフさんが、伏し目がちに言った。
「え、それじゃ……フリージア様は……」
二人はこれからなのに。
フリージア様がそっと……いいのです、と言った。
「昔から、リンデン様のご病気を治すには聖女の力が必要と存じ上げておりました。
そしてそれができるのはわたくしだけ……と。
それがやっと叶いました。ああ、嬉しゅうございます。やっとリンデン様を治す事ができました」
潤んだ瞳でニコリと笑った。
「……フリージア、君は僕のためにそこまで……僕は、今まで君を疎んで、避けて……」
「いいえ。幼い頃、あなたは私を助けてくださいました。
あの日からわたくしは、そのご恩に報いること……貴方のお役に立つことだけを考えて参りました。
例え貴方が、わたくしをどう思おうとです。
それほどわたくしはあの時……嬉しかったのです」
うわ……これは本物だ。
本物の聖女だ……! なんて聖人!!
「本当に同一人物なのか……」
ギンコ!? 今ここでそれ言う!?
「でも……それも本日この時を持って終わりです。
わたくしは聖女となりました。
これからは国のために勤めて行かなくてはなりません。
ダンスパーティで一緒に踊れて夢のようでした。わたくしはもうあの思い出だけで満足にございます。
今まで本当に、ありがとうございました……リンデン様」
微笑み続けるフリージア様。
でも、それはどこか諦めたような微笑みだ。
なんだか……かなわないな、と思った。
国に連れて行かれてでもリンデンを治す方を優先されたフリージア様。
こういうのを無償の愛、っていうのだろうか。
私なんて、ずっと国に連れて行かれる事を怖がって、隠すことばかり考えてる。
「ブラウニー…私が『絶対圏』をさっさと使っていれば、フリージア様は国に連れて行かれること……」
「プラム。それは違う。確かにそうは考えたくはなる。だいたいオレだって『絶対圏』を使えるし、もともとそのつもりもあったはずだろ。フリージア様が先に治療してしまったんだ。仕方のないことだ。
だから、それは考えるな」
リンデンが大きな声を出した。
「……いやだ! 僕は嫌だよフリージア!! 君とこれから、話したいことがいっぱいある!!」
「リンデン様、嬉しいことを仰ってくださいますね。では、聖女になってもたまにはお会いして頂けますか? 面会することなら叶いましょう、あなたにそう言って頂けて……わたくしは……」
フリージア様の精一杯の仮面が崩れそうだ……。
どうしよう、どうしたらこの二人を救えるの?
その時ブラウニーが
「リンデン、ちょっと」
リンデンのベッドに腰掛け、リンデンに何かを耳打ちした。
リンデンが、えって顔した。
「……」
「……わかった、ありがとう」
リンデンの顔がキリっとした。
?
一瞬、ギンコが耳をピン、とはねた気がした。……聞こえたの?何?
「プラム、行くぞ。二人にしてやれ。あ、出ていく前にリンデンにありったけ回復かけてやれ」
ブラウニーは医者をずるずるとひこずると、外へ出ていこうとする。
「へっ?」
「そっちの大人共も、ほら」
大人二人にも促す。
「ん? おう」
ああ、確かにって感じでアドルフさんが続く。
「……ブラウニー、おまえ……いや、しかし……うむ……」
ギンコがブラウニーに何か言いながらでていく。
「お兄様、じゃあまたあとで。雨降らせてくれてありがとう!」
「ああ、プラム、またあとでね」
私はブラウニーに言われた通り、リンデンに思い切り回復をかけて、部屋をでた。
部屋を出る時に、リンデンお兄様の声が聞こえた。
「ねえ、フリージア。僕のお嫁さんになる気はある……?」
え、プロポーズ??
※※※
その後、私とブラウニーは、私の部屋のバルコニーでお茶してた。
リンデンの部屋から帰ると、改めてブラウニーは不機嫌になった。
リンデンの話をしようとしたら、リンデンはもう大丈夫だ。フリージア含めて、とあっさり言われた。
一体どういう事なのか聞こうとしたけど、あまりにも不機嫌だったから……私は言葉を飲み込んだ。
これは後で怒るって決めて我慢してたのね……。
「すいません、本当にすいません……」
「絶対に許さない」
「ゆ、許さないってどうなるの」
「……それはもう少し大人になったら教えてやる」
「時限式断罪……!?」
「なんだよ! それは!?」
困ったな、今回はとても怒ってる。不機嫌だ。
ブラウニーがこんなに不機嫌続くのって珍しい。
よく見るとまだ目が腫れてるし……って……あ。
私は手をブラウニーの顔にかざして、回復した。
「サンキュ。だけど……ごまかされないからな」
はう。そんなつもりは……。
「……死ぬ所だったじゃないか」
「うん」
「オレがどんな気持ちだったかわかるか……?」
ブラウニーの瞳にまたじわりと涙が浮かぶ。
「……うん」
「言っただろ、お前がいなくなったら、オレは生きてる意味がないって。
しかも……おまえ、オレのいない所であんな……あんな目にあって……。」
「うん……」
ブラウニーの言葉が痛く突き刺さる。
ブラウニーはあちこち焼け焦げた私を見てしまったのだから。
相当ショックだったろう。
「私ね、ブラウニーの髪がこんなになって、ずっと気にしてたの。
だから、『絶対圏』使いたくなくて……。
ブラウニーが生きる意味がなくなるとか、知ってても。
私だってブラウニーが死んだら生きてけないんだもの……」
「だからって……いや、堂々めぐりだな、これ……」
ブラウニーはため息をついて夜空を眺めた。
お互いを大事にしたいだけなのに。
うまく擦り合わない。
「……悪かった。怖い思いしたのはお前なのにな」
「ううん。言いたいだけ言って。悪くなんかない。
それだけ、私を大切にしてくれてるってことだから。
……ありがとう、ブラウニー」
……抱きついてもいいのかな。今日は少し迷う。
そんな風に悩んでたら、ブラウニーが私の手を引っ張って、膝にのせた。
とりあえず……許してはくれたのかな。
ブラウニーの顔を見る。
ブラウニーは辛そうにこっちを見たあと、ぎゅっと抱きしめた。
ごめん、こんな顔させて、本当にごめん。
彼の気持ちを今癒せるのが私ではなく、時間だけ……というのが口惜しい。
「トラブルだらけで、疲れるよね」
「ああ、とくに今日みたいなのは絶対ごめんだ」
「私だって思ってるよ、いつになったら……昔見たいに。小さな子供の頃みたいに……ブラウニーと楽しく生きられるのかって。ずっと思ってる」
「プラム……」
そしてその後、ブラウニーは何かを考えるかのように、しばらく空中を見据えていた。
私は彼の何かが、いつもと違う気がして、聞いた。
「ブラウニー、どうかした?」
「いや、なんでもない」
どうしたんだろう……?
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