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72 ■ FIRE 04 ■
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「……ほら、もう少し飲め」
アドルフさんが水をコップに注いでくれた。
「ブラウニーから、最近の学院の様子は聞いてたんだけどな。何もしてやれなくて、すまんかった」
「なんでアドルフさんが謝るの?」
「保護者……だからな」
アドルフさんも落ち込んでるのがわかる。
心配かけてごめんなさい。
「あとで学校側から事情徴収されるとは思うが。何があったんだ?」
「子猫が落ちてたの。親猫探してあげようと思って、うろついてたら、罠だった。
子猫は一緒に倒れてた男の子が化けてたもので、ジャスミンと組んでた。納屋に閉じ込められて……その後は……」
「……そうか、なんとなくわかったよ。怖かったな。まさか学校でそんな目に合うなんて思わないものな」
アドルフさんは、また私を抱き寄せた。
ブラウニーに似た匂い。安心する。
「また大事な人間がいなくなるかと思った。助かってくれてありがとう、プラム」
「……」
急に涙が止まらなくなって、私はアドルフさんに抱きついた。
アドルフさんは、私の涙跡にキスを落とした。
「……愛してる。絶対死ぬな」
ブラウニーと同じ瞳で。優しく言う。
「……わ」
「わたしもだよ!」
アドルフさんの愛情が身体に染み渡るようだ。
アドルフさんは私が涙を流すたびに拭ってくれた。
アドルフさんはその後、侍女さんを呼んでくれて、私はお風呂含めて身なりを整えてもらった。
侍女さんたちも目が腫れてて、中には泣きっぱなしの人もいて、心配かけてしまったことが申し訳なかった。
風呂場の鏡で気がついたけれど、長くなっていた髪が焼け焦げて失くなっていた。
そういえば欠損って普通の回復じゃ治らないんだったっけ…。
ショートヘアが好きでもこれはちょっとまずい、こんな姿をブラウニーやアドルフさんに見られてたのかと思うと恥ずかしい…というよりつらい。
「…御髪(おぐし)を整えますね」
侍女さんが優しい声で言う。
「お願いします」
私はまたショートヘアに戻った。
ショートヘアに戻ってみると、教会にいた頃の自分よりは顔が大人びたかも、と思った。
身綺麗になって落ち着いた。
バルコニーから夕日が見えた。
お兄様は大丈夫かな……。
かなりの雨を降らせてくれてたように思う。
私のせいで、ひどいことに巻き込まれた。
治しに行きたいけど、お父様とお母様はリンデンお兄様をそんな風に巻き込んでしまった私を許してくれるだろうか。治療させてくれるだろうか。
――バン!
「プラムちゃああああああん!!」
「プラムううううううううう!!」
そんな事を思ってた時、リーブス夫妻が走って飛び込んできた。
「まああああ!!! 髪が!!!! こんなに短くなって!!!!」
「うおおおお!!!! 生きていた!! 生きていてくれた!!!!」
え……。
私はポカンとした。
「あの、私のせいで、お兄様が……その…なのに…」
「まあ、あなたのせいじゃないじゃない!! 何を言ってるの!!」
お母様……。
「そうだ! 何を気にしているんだ!!! リンデンなら大丈夫だ! 死んだら許さん、情けなくも死ぬようならその前に僕が殺す!!」
お父様!? どういうこと!?
「……だって、私は本当の子じゃないし…」
言わないようにしてたことを言ってしまう。
でも本当にそう思うんだ。
彼らにとって私なんてふってわいた慈善事業みたいなものだよね、と。
なのにここまでしてもらえる謂(いわ)れはないんだよ。
「馬鹿をいうんじゃないよ。お前はうちの子だ」
「そうよ。私達の愛をなめるんじゃないのよ、この子は!」
お母様に鼻をプッと押された。
「それを言うならね、僕が中途半端にグランディフローラを追い詰めたせいだ!! もっと徹底的にやるべきだった!!」
「ホントよ! あなたが悪いわ! 領地内に両親残すのは許すし、ジャスミンもまだ子供だし……みたいなかんじで王都にいるの許すから!!」
「とりあえずフリージアさえ助けたらいいかなって思ってしまったんだ!」
「ツメが甘いのよ! あなたは!!」
……賑やかだ。
私は少し頬が緩んだ。
「……私も、あなた達を愛していいのですか」
それを言うのはちょっと勇気が必要で。声が震えた。
「……何をいってるの?いいのよ! 私達を信じて頂戴!!」
「そうだよ、プラム。可愛い私の娘」
お母様に抱きしめられて、その向こうの扉にアドルフさんが立って微笑んでた。
アドルフさんが頷く。
「……」
私は初日に言われた事を思い出して言った。
「パパ、ママ。ありがとう……」
「おお……」
「まあ!」
二人はそう呼んでほしい、と言っていたはずだ。
二人はニコニコしてくれた。
アドルフさんにもう一度目をやると、隻眼の彼がウインクしていた。
「そういえば、まだ詳しい事情聴取のまとめを聞いてないのよね。
ジャスミンは現場を抑えたから何してたか知ってるけれど、あのブッドなんとかってガキはうちの子に何したのかしら?」
ママ、お言葉が汚く……!?
「そうだね、ジャスミンと仲間かと思ったのだが。君と一緒に倒れていたし。仲間割れでもしたのかい? 詳しく言いなさい」
「えっと……。ジャスミンは、私をどこかに誘い込む役どころだったって言ってました。
……これはあんまり言いたくなかったんだけど、子猫に化けて私の胸を触りました。
あと、納屋で押し倒されました。愛し合おうって」
セクハラは許せなかったので素直に詳しく伝えた。
「なんだって……」
誰が言うより早く。
アドルフさんの背後で。
黒いオーラを発するタオルを首にかけたスパダリが立っていた……。
ひぃ! いつのまに!?
しかし、黒いオーラは一つだけではなかった。
アドルフさんからもパパママからも、そこにちょうどいた侍女さんたちからも発生していた。
「あなた、確か良い炭鉱がありましたよね」
「優しいですね、生かしておくんですか」
「今すぐトドメを刺しにいっていいか。そいつが生まれてこなかった事にしたい」
「いや、死ぬ前に生きるってことがどれだけ素晴らしいか教えてあげないと」
「発言してよろしいですか? その前にその少年の男の子をオペされるのは如何でしょうか?」
私の部屋に殺意しかない!!!
ジャスミンに対してより怒ってない!?
ブッドなんとかよ……永遠なれ……。
アドルフさんが水をコップに注いでくれた。
「ブラウニーから、最近の学院の様子は聞いてたんだけどな。何もしてやれなくて、すまんかった」
「なんでアドルフさんが謝るの?」
「保護者……だからな」
アドルフさんも落ち込んでるのがわかる。
心配かけてごめんなさい。
「あとで学校側から事情徴収されるとは思うが。何があったんだ?」
「子猫が落ちてたの。親猫探してあげようと思って、うろついてたら、罠だった。
子猫は一緒に倒れてた男の子が化けてたもので、ジャスミンと組んでた。納屋に閉じ込められて……その後は……」
「……そうか、なんとなくわかったよ。怖かったな。まさか学校でそんな目に合うなんて思わないものな」
アドルフさんは、また私を抱き寄せた。
ブラウニーに似た匂い。安心する。
「また大事な人間がいなくなるかと思った。助かってくれてありがとう、プラム」
「……」
急に涙が止まらなくなって、私はアドルフさんに抱きついた。
アドルフさんは、私の涙跡にキスを落とした。
「……愛してる。絶対死ぬな」
ブラウニーと同じ瞳で。優しく言う。
「……わ」
「わたしもだよ!」
アドルフさんの愛情が身体に染み渡るようだ。
アドルフさんは私が涙を流すたびに拭ってくれた。
アドルフさんはその後、侍女さんを呼んでくれて、私はお風呂含めて身なりを整えてもらった。
侍女さんたちも目が腫れてて、中には泣きっぱなしの人もいて、心配かけてしまったことが申し訳なかった。
風呂場の鏡で気がついたけれど、長くなっていた髪が焼け焦げて失くなっていた。
そういえば欠損って普通の回復じゃ治らないんだったっけ…。
ショートヘアが好きでもこれはちょっとまずい、こんな姿をブラウニーやアドルフさんに見られてたのかと思うと恥ずかしい…というよりつらい。
「…御髪(おぐし)を整えますね」
侍女さんが優しい声で言う。
「お願いします」
私はまたショートヘアに戻った。
ショートヘアに戻ってみると、教会にいた頃の自分よりは顔が大人びたかも、と思った。
身綺麗になって落ち着いた。
バルコニーから夕日が見えた。
お兄様は大丈夫かな……。
かなりの雨を降らせてくれてたように思う。
私のせいで、ひどいことに巻き込まれた。
治しに行きたいけど、お父様とお母様はリンデンお兄様をそんな風に巻き込んでしまった私を許してくれるだろうか。治療させてくれるだろうか。
――バン!
「プラムちゃああああああん!!」
「プラムううううううううう!!」
そんな事を思ってた時、リーブス夫妻が走って飛び込んできた。
「まああああ!!! 髪が!!!! こんなに短くなって!!!!」
「うおおおお!!!! 生きていた!! 生きていてくれた!!!!」
え……。
私はポカンとした。
「あの、私のせいで、お兄様が……その…なのに…」
「まあ、あなたのせいじゃないじゃない!! 何を言ってるの!!」
お母様……。
「そうだ! 何を気にしているんだ!!! リンデンなら大丈夫だ! 死んだら許さん、情けなくも死ぬようならその前に僕が殺す!!」
お父様!? どういうこと!?
「……だって、私は本当の子じゃないし…」
言わないようにしてたことを言ってしまう。
でも本当にそう思うんだ。
彼らにとって私なんてふってわいた慈善事業みたいなものだよね、と。
なのにここまでしてもらえる謂(いわ)れはないんだよ。
「馬鹿をいうんじゃないよ。お前はうちの子だ」
「そうよ。私達の愛をなめるんじゃないのよ、この子は!」
お母様に鼻をプッと押された。
「それを言うならね、僕が中途半端にグランディフローラを追い詰めたせいだ!! もっと徹底的にやるべきだった!!」
「ホントよ! あなたが悪いわ! 領地内に両親残すのは許すし、ジャスミンもまだ子供だし……みたいなかんじで王都にいるの許すから!!」
「とりあえずフリージアさえ助けたらいいかなって思ってしまったんだ!」
「ツメが甘いのよ! あなたは!!」
……賑やかだ。
私は少し頬が緩んだ。
「……私も、あなた達を愛していいのですか」
それを言うのはちょっと勇気が必要で。声が震えた。
「……何をいってるの?いいのよ! 私達を信じて頂戴!!」
「そうだよ、プラム。可愛い私の娘」
お母様に抱きしめられて、その向こうの扉にアドルフさんが立って微笑んでた。
アドルフさんが頷く。
「……」
私は初日に言われた事を思い出して言った。
「パパ、ママ。ありがとう……」
「おお……」
「まあ!」
二人はそう呼んでほしい、と言っていたはずだ。
二人はニコニコしてくれた。
アドルフさんにもう一度目をやると、隻眼の彼がウインクしていた。
「そういえば、まだ詳しい事情聴取のまとめを聞いてないのよね。
ジャスミンは現場を抑えたから何してたか知ってるけれど、あのブッドなんとかってガキはうちの子に何したのかしら?」
ママ、お言葉が汚く……!?
「そうだね、ジャスミンと仲間かと思ったのだが。君と一緒に倒れていたし。仲間割れでもしたのかい? 詳しく言いなさい」
「えっと……。ジャスミンは、私をどこかに誘い込む役どころだったって言ってました。
……これはあんまり言いたくなかったんだけど、子猫に化けて私の胸を触りました。
あと、納屋で押し倒されました。愛し合おうって」
セクハラは許せなかったので素直に詳しく伝えた。
「なんだって……」
誰が言うより早く。
アドルフさんの背後で。
黒いオーラを発するタオルを首にかけたスパダリが立っていた……。
ひぃ! いつのまに!?
しかし、黒いオーラは一つだけではなかった。
アドルフさんからもパパママからも、そこにちょうどいた侍女さんたちからも発生していた。
「あなた、確か良い炭鉱がありましたよね」
「優しいですね、生かしておくんですか」
「今すぐトドメを刺しにいっていいか。そいつが生まれてこなかった事にしたい」
「いや、死ぬ前に生きるってことがどれだけ素晴らしいか教えてあげないと」
「発言してよろしいですか? その前にその少年の男の子をオペされるのは如何でしょうか?」
私の部屋に殺意しかない!!!
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