上 下
69 / 149

69 ■ FIRE 01 ■――火

しおりを挟む
 次の日。
 ジャスミンが登校してきた。
 お友達二人に距離を取られて、孤立していたが、それでも彼女の態度は高圧的だった。
 顔にはまだ痛々しい包帯が巻かれている。


「ちょっと! あんた! 私の顔どうしてくれるのよ!
 治るのにまだまだ時間がかかるっていうのよ!
 入学パーティにもいけなかったし! なんてこと、私……かわいそう!」

 なぜかチェスのほうをチラチラ見ながら言う。
 あなたチェスにも気があるんですか?

 一般の聖属性の医師だと、けっこう治療に時間かかるんですね。その怪我。
 というか、あれからお父様がグランディフローラに対して報復をして、この子のお父様お母様は貴族ではなくなったはずなんだけど。

 どうしてまたこのクラスに来ているのだろう。
 フリージア様はそのままの立場で、フリージア様のお祖父様がまだ存命だったので彼が復職する形にしたらしい。
 なんと領地内経営をフリージア様がギリギリ保っていらっしゃったらしい。
 すばらしい人だなぁ。
 それなのに、この妹ときたら……男漁りに(成功してないけど)、いじめに……。

「……」
 私はガッとジャスミンの顎を掴んで包帯を取った。
「な!?」
「ふーん。でも大分よくなったじゃない」
 そう言うと私は回復魔法を一気に彼女の顔に流し込み、元の顔に戻してやった。

 鞄から手鏡を取り出して見せる。
「これでどう?元通りでしょ」

 クラスの皆が『えっ』『あんな一瞬で!?』みたいなことを口々に言ってるのが聞こえてる。
 あ、ちょっとやばかったかな。

「……わ、私の顔が元どおりに!!
 ちょっとあんた!! こんな事できるなら最初からやりなさいよ!!!」

「……ねえ、なんで私が治したとおもう?」
「償いでしょ!?」
「……また殴るために修理しただけだよ」

 冷たい視線で言い放ち、ブラウニーの顔怖い感じを演じてみた。
 うまくできたかな。

「ブハッ」
 前の席のチェスが吹き出した。
 肩を震わせてる。
 受けた。
 笑いを取ろうと思ったわけではないのだけど。

「な……! なんて人ですの!! 私が可哀想!!!」
 チェスをチラチラ。
 ……私をなじりたいのか、男の子に私可哀想アピールしたいのかどっちかにしたらいいのに……。
 見た目は可愛いのになぁ……。

「あの~ジャスミンさん~」
 ほわほわっと、オリビアが来て、ジャスミンに声をかけた。
「は!? なによ!」
「クラスが違いますよ~~」
 オリビア、教えてあげるなんて優しい。

「なんですって!?そういえばわたくしの席がない!?どういう事ですの?」
 あ、本当だ。席足りないわ。
「あなたは平民になりましたので、平民クラス所属となりました~。ご存じなかったのですかー? 移動なさってください~。もう授業も始まりますし~。」
 なるほど~(伝染った)そうなんだ~。バイバイ~。

「なんですってー!!」
「じゃあな!ジャスミン!!」
「今までありがとうジャスミン!!」
「平民クラスがかわいそー(ぼそ」
「グッバイ!!」
「がんばってね~」

 クラスの皆に盛大に送る言葉を浴びせられて、それでも居座ろうとし最終的には警備員さんに連れて行かれた。

「殴るために治すなんて鬼畜だなぁ、プラム」
 チェスは既に呼び捨てになっている。
 気楽でいいわ。

「うーん、でも、言い過ぎたかな」
「いや、面白かったぜ、オレは」
 殿下といいあなたといい、人を面白い扱いするのやめてくれないかしらね。

「あはは~。なかなか言いますよねぇ、プラム様」
 ああ、オリビア、可愛い。癒し。家に連れて帰りたい。
「オリビア、またおまえ寝癖ついてんぞ」
 チェスがオリビアの頭の飛び出た毛をつんつんと引っ張った。

「あああ~やめてください~。寝癖じゃないんですよ~~なんか飛び出ちゃう毛なんですよ~。毎日同じこと言わせないでください~」
「そうだったっけ、忘れてたわ」
 仲良しだな!

 てか毛が飛び出ちゃうオリビア可愛い。来世で結婚しよう。
 ……しっかし、こんな可愛いオリビアの婚約者、あいつオリビアの扱いひどかったなぁ。
 私が男ならぜひ奪略愛したい。
 オリビアはあいつのこと、どう思ってるんだろう。私と逃げよう、オリビア……などと妄想して遊んでいたその時。

 バン!!!

 もうすぐ先生が来る時間だというのに、その時、ちょうどその婚約者が教室に飛び込んできた。
 ズンズンと歩いてくる。私とオリビアの方に。
 手には花束を持っていた。
 あ、いやな予感。

「プラム様!! 私は真実の愛に目覚めてしまいました!!! どうぞこの私と結婚してください!!!」

「……」
 いや、あなた目の前に婚約者いますよ?
「あら~」
 オリビア!!頬に手を当てて困った顔してる!!

「えっと……」
「はい!!」

「カエレ」
 私は真顔で言い放った。ほんと、思わず。
 チェスが吹き出した。
 オリビアも多分吹き出してる。口元抑えて隠してるけど。
 笑い取ろうとしたんじゃないよ!?

「そんな!? ……照れているんですね、わかります。ではまた誰もいない時に愛を語りましょう…。 フフフフフ!」
 謎の変なポーズを取られた。
 何その関節。どうなってるの。

「あの~ブッドレア様、それでしたらわたくしとの婚約は~」
 オリビアが挙手して問う。
 そうだよ!! あなたこんな可愛いオリビア捨てるの!?
 彼女は多分そのほうが幸せになれるとは思うけども!

「あ!? お前いたのかよ!!! そんなもの破棄だ! 破棄!!」
「そうですか~」
 ほわ、と花がふわふわ舞ってるような笑顔。
 嬉しいのね……! オリビア!! 良かったね!!

「ブッドレア先輩。プラム様は既に婚約者がいますよ」
 チェスが口を挟んだ。

「は!? 嘘でしょう! 私というものがありながら!! ああ! そうか! 無理矢理婚約されているんですね! お可哀想に……!」
 どうして盛り上がってるのこの人。
 この人の中では私は既にこの人と付き合ってんの?
 理解に苦しむ。

「頭に回復魔法かけたほうがいいのかな……」
 思わず口にした。
「ぶっ」
 チェスとオリビアが吹いた。

「オリビア、てめぇ、何笑ってんだよ!!」
「ブッドレアさん、婚約破棄されたのでしたら~他人になりますし私のほうが身分が上になりますので~その~敬意を払って頂きたいです~」
 オリビア! ほわほわとしてるのに、結構言うな! かっこいい! 結婚しよう。

「なんだと!!」
 ブッドレアがオリビアに平手打ちしようとした!
「ちょ!」
「おい!!」

 間一髪、チェスがそれを止めた。
 おお!少女を庇う少年萌え!
「あ…チェスさん、ありがとうございます~」

 オリビアの頬が少し赤い。……おやおや?
「あんた、前からオリビアに暴力振るってただろ。何様なんだよ」
 チェスが凄む。
 ブラウニー程、顔は怖くないけど。
 やっぱブラウニーって怖いんだ……。
 おかしいな、昔はもっと穏やかな顔してたはずなのに。

 それにしても明らかではあるけれど、ブッドレアの負け確だなー。
 そして私の中の男の私(謎)もチェスに敗北した。
 くっ、オレではその男に敵わない! オリビアどうか幸せにな……っ。

「うるさい、だまれメガネ!!」
「……お前、先輩かもしれんが、オレの身分知らねーみたいだな。たかが子爵家の跡取りが」
「う……っ」
 チェスが格好良いところだったけれど、私は廊下に出て警備員さんを呼んだ。
 いい加減うざいしね、喧嘩になりそうだし。

 いやーしかし良いもの見せて頂きました。
 この二人を物語にして誰か読ませてくれませんかね。
 私も参加したい。
 私の役はヒーローより読者人気高くなりそうな、かっこいい当て馬役を希望します(謎)

「警備員さーん。自分の教室に戻らない生徒がいまーす」
 警備員さんがまた!? とか言った。

 実は、昨日から婚約を申し込んでくる令息がチラホラやってくるのだ。
 何故だ。
 婚約してるのに婚約を申し込まれる。

 ひょっとしてブラウニーが男爵家だから、舐められてるのかな。
 私がジャスミン殴った噂で私が甘くない子って、結構広まってるはずなのに、それでも来るっていうのはリーブス家つながり狙いなんだろうなぁ…。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

~まるまる 町ごと ほのぼの 異世界生活~

クラゲ散歩
ファンタジー
よく 1人か2人で 異世界に召喚や転生者とか 本やゲームにあるけど、実際どうなのよ・・・ それに 町ごとってあり? みんな仲良く 町ごと クリーン国に転移してきた話。 夢の中 白猫?の人物も出てきます。 。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地! 恋に仕事に事件に忙しい! カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m

処理中です...