そのヒロインが選んだのはモブでした。

ぷり

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50 ■ What are you? 03 ■(※閲覧注意)

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 私はその後、うっかり馬車で眠ってしまった。
 そして、ココリーネの夢を見た。


 ――――少し成長したココリーネがシスター服を着て。
    不満そうな顔。質素なベッドでゴロゴロしている。
 ――――いきなりその部屋の扉が開かれる。
 ――――無数の闇の手がそこから溢れ出て、
    ココリーネを捕まえる。
 ――――その手の狭間にライラック殿下の狂ったような笑顔があった。

    『む か え に き た よ』 



「おっと、これ以上は刺激が強すぎるね」
いきなり後ろから目隠しされた。

「……またあなたですか」
 エセ神父。


 ――――布を引き裂くような音が聞こえた。
 ――――ココリーネの悲鳴と罵倒が聞こえる。


「耳は塞いであげられなくて残念」

「何故ここに?」
「未成年の君の心を守りにきたよ?」
 クスクスと笑う。
「なかなかおもしろい半年を過ごしたみたいだね。髪がこんなに伸びて……綺麗になったね。
もうすぐ12歳だ」
 片手で私の目を塞ぎ、片手で私の髪を撫でる。

「触らないでくれます? あなたってこんなに馴れ馴れしかったですっけ?」
「こんなくだらない光景を視たいのかい? ……嫌いだろ?こいつら」

 ――――誰かが殴られるような音がした。


 確かに……実際の映像でなかったとしても、視たいものじゃない。

「自分で目を閉じておくから結構です。……ねえ。あなたは何なの?」
「おや、僕に興味でた?」
 エセ神父は手を離さない。

「ひょっとしてあなたって魔王なの?」
「聞いてくれるなんて嬉しいけど……えぇー。……どうかな? ふふ」


 ――――ココリーネの罵倒が何故か謝罪に変わっていく。


「この悪役令嬢も馬鹿だねぇ……。欲張って色々やろうとするからこんな目にあうんだよねぇ。
確かこれって『ゲーム』のライラックルートのバッドエンドだったかなぁ……。フフ」

「ば、ばっどえんど……??」
「そ。ハッピーエンドもあれば、バッドエンドもあるのさ。全部ハッピーエンドなら『ゲーム』の意味がないもんねぇ」

「…――――この世界は『ゲーム』と同じ運命の道筋を持っていても、『ゲーム』じゃないからねぇ。
『ゲーム』的にライラックなんて中途半端にしておくと、改心しないし……ちゃんとバッドエンドに向かったんだね。ココリーネ。まあ、自分の責任だよね!

 ある程度運命のシナリオは知ってたくせに、この現実世界で活かせないでいるから、もう~。
 ……何がオトメゲームなんだか。笑っちゃうよね」

 エセ神父が、私の長くなった髪を手ですく。
 やめてほしい。

 手を振り払いたいが、この場所で反撃にあった場合どうなるのかもわからないから、大人しくすることにした。

「ココリーネのことバカにしてるけれど。あなただってルートとか攻略対象とかしょっちゅう言ってるじゃない。転生者なんでしょ?教会スタートにしたいとか、『ゲーム』をやった事ある人みたいな言い方してたじゃない。とんにゅら」

「とんにゅらで僕を試そうとするのやめてくれる!?」
「ホントに転生者ではないようね……」
「さては、とんにゅら気に入ってるね……?」

 エセ神父は、しょうがない子だね、と言ってくすっと笑った。
 ふん、あなたとまともに話す気がないだけですよ~だ。

「あのね、僕は違うよ? ……僕はね。転生者達の言葉を借りてるだけだよ。
なんか便利だったし面白いなーって思ったから。
ココリーネなんかはこの世界が『ゲーム』の世界のリアルバージョンに転生したと思いこんでて、ホント、バカみたいだよ。
 ……教会スタートにこだわっていたのは、王立学院に行かせたかったからだよ。
ホントはね、どっかの貴族の家に引き取らせるつもりだったんだよねぇ。
まったくブラウニーったらその前にプラムを教会から連れ出そうとするんだから」

「なんで学院に行かせたかったのよ」
「皇太子に出会うための運命が開くからかな……。でも、別に教会スタートじゃなくてもよかったみたいだ。なんだかんだ君は学院に行く。
運命の筋を読むのって結構大変なんだよ~。君はどの道、皇太子に出会う。
あんなに意固地になって僕は馬鹿みたいだった」

 エセ神父は、髪にキスすると、髪を触るのをやめた。髪洗いたい。
 そういえば、なんで皇太子と会わせたいんだろう、と思って聞こうとした所、


 ――――ココリーネの悲鳴が聞こえなくなり、弱冠静かになったが、二人分の荒い息遣いが聞こえてきた。


 それがなんだか不快だった。
 なんか吐きそう。

「おやおや、大丈夫かい? ああー……酷い顔色だ。吐くかい?たらい持ってこようか?夢の中だけど」
 エセ神父が私の背中をさする。やめてほしい。
 たらいだけちょうだい。夢の中だとしても。


「気分転換に昔の話をしてあげよう。
昔、神の未来過去現在の記録を書き綴る書記官が一人死んでしまってね……聖書の授業でも教えたよね?
神のしもべに書記官が数人いて世界の記録をつけているって」

「……」
 初耳だなぁ…その時は寝てたかもね!
 だが、敵に隙を見せるわけにはいかない。私はポーカーフェイスを貫き頷いた。

「嘘つき。寝てた癖に」
「わかってたなら聞かないでよ!?」

「あはは……。まあ、それでね。そいつが、何故か地球とかいう別の世界に転生するという事故が起こった。
そいつはね。そっちでの『転生者』となって。――厄介なことに、こっちの世界を思い出した。
そこまではいい。ただ黙ってその人生を送ってくれればよかったんだけど。
その地球の俗世に堕ちた書記官は、こちらでの記憶を、この世界の運命をネタにしてあちらの世界で『ゲーム』を作った。
それを遊んだ子たちがココリーネとかシスター・イラとかね。転生者」

「盗作ってこと?」
「ああ、その言い方良いね。盗人たけだけしい。
世界が違えばこの世界の記録を盗んで発表してもいいのかってね。
わざわざあっちの世界に出向いて殺してやったよ。
びびってたね。まさか僕がそっちの世界にアクセスできるとは思わなかったんだろうね。ふふ」

「ゲーム作者を殺した? え、じゃあ追加ディスクのブラウニールートは……!」
「気にするところが相変わらずブラウニー関連だな! 君は!」
 何か悪いこといいましたかー?

「フフ。ところでブラウニールートあったら偽物プラムたちにブラウニー攻略されるよ?
ハピエンだよ?他の女と」
「……殺してくれてありがとうございます」

「お礼言われた!? ブラウニーのことになると、とことん物騒になるね!?」
 当たり前でしょう。

「コホン。そしてね、沢山の……偽プラムが生まれた、というかプラムになったつもりの魂の欲望があふれた。
本物のプラムになりたい、攻略対象と恋愛したい。この世界に生きたい。その思いは純粋なものもあったけれど、この世界を傷つける穢れとなった。
 その穢れが膨れ上がって、地球からこちらの世界の記録を傷つけた。……そして攻略対象の魂にいわゆる『ゲーム』での攻略ポイント、みたいなのが焼き付いてしまった。
一種の呪いみたいなもんだと思って。
だから、ココリーネはゲームのようにライラック達を懐柔できたんだよね」

「……なるほどね。だからギンコさんがあんなちいさな少女に懸想してたってわけね。それって治るの?」
「……そうだねぇ。『ゲーム』でいう好感度下がればいけるんじゃないかな。
ギンコは苦しんでたと僕も思うよ。
あんな幼い少女に慕情を向ける性格じゃない」

「よかった、ギンコさんは解放されるんだね」
「ギンコ、攻略してみる?ギンコはホントはもっと大人になってから出会うルートなんだけどね」
「冗談でもやめて。ギンコさんにも失礼だよ」

「じゃあ、僕は?」
「天地がひっくり返ってもない。てかあなたも攻略対象なの?」
「ははは。さあ。でも資格はあるとおもうよ」

 なんなの、そのちょっと寂しそうな笑い声。

「……ねえ? プラム。僕の名前、憶えてないでしょ」
「……」
「やっぱり。……生まれる前には知ってたのに、忘れちゃったの? うっかりさんなんだから、僕のプラムちゃんは」

生まれる前……。
「そんな頃から私につきまとってるの?!」
「そんな迷惑そうな顔で!ひどい!?」

 迷惑だし。……ていうか、生まれる前からの知り合いって訳わからない。

「もう忘れないでね」
「僕の名前は――アカシアだよ」
 忘れたい。

「僕は君が人の形をしてない頃から君を知っているんだよ」
「……ええ。えっとね。私ってひょっとして人間じゃないの?」
「特別な人間だよ」

「…そうだね――神の愛娘の話をしよう」
 ……何。
 なんだか、聞きたくない話をされる気がする。

「聖女の力の源。神の愛娘。それは別の世界の神から生み出された新たな存在。
 そしてその愛娘は桃色の髪の女神だ。
さて、『絶対圏』みたいな壮絶な力に接続できる同じ髪色の君はどういう存在だと思う……?」

「……聞きたくない。ただの孤児だよ」
「残念だな、聞きたくなくとも耳は塞いであげられない。フフ。
ただの孤児になんでそんな力があるのかな?」

「偶然でしょ」
「粘るね。でも、言っちゃおう」
 私は耳を手でふさいだ。

「だぁめ」
 アカシアが私の両手を掴んだ。

 ―――アカシアの手が目から離れた。
 思わず目を開けてしまい、シスター服を乱されたココリーネが一人すすり泣く姿を視てしまった。

「……う!」
「――君はね」
 アカシアが耳元で囁く。


「この世界の……神の愛娘である地母神の――『分霊(わけみたま)』なんだよ」


 ……聞かされた! やめて! 知らないそんなの!!
 ……でも知らないのになんだかストンと心が納得する。怖い。

 ―――泣き声が消えた。
 ―――ココリーネの映像は喪失し、辺りは暗闇になった。

 暗い世界に――アカシアと世界で二人きりになった気がした。

「……終わったね」
 アカシアは私の目から手を放した。
 ……目を開けたけど、真っ暗だ。

「これは本当のことだから言うんだけどね?
この夢はまだ起こってない未来だから安心しなさい。……そして回避してあげたいなら、がんばってみたら?」

「……ココリーネにそんな事してあげる義理はないよ! ……それより分霊(わけみたま)ってなに!?」
「うーん、そろそろ夢はおしまいだから」

「え、ちょっと待って!!!」
「ううーん、いつもそれくらい僕を求めて? ……じゃあね」

 背中をトンっと押されて―――私はその夢から追い出された。
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