そのヒロインが選んだのはモブでした。

ぷり

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49■ What are you? 02 ■

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「迎えに来たよ☆妹よ!!!!」

 庭のテーブルで朝ご飯中に、リンデンが迎えに来た。
 朝ごはんもゆっくり食べれないの? 泣くよ!?

 私の寝不足をよそに、回復をかけたのがよかったのか、ブラウニーとアドルフさんは体調ばっちりそうだった。
 身体は問題ないんだけど、寝不足だと眠気は取れにくいんだよね。

「いいよいいよ! ご飯食べ終わるまでは待ってるから!!」
 リンデンは応接室で待っている、と言って屋敷に入っていった。

「騒がしいな……あいつ」

 ブラウニーが荒野を眺めながらコーヒーを口にしている。

「坊っちゃんは身体弱いんだっけ? 元気そうだけどなぁ」
 アドルフさんはもぐもぐと、サンドイッチを食べている。

 ……実は親子、とかなら納得行くんだけど、親子以上の一致を突如見つけてしまった私は悶々としている。
 さらにリンデンが迎えに来たせいでさらに沈んだ。

「「……プラム」」
 二人が同時に私の頭を撫でた

「「絶対に会いに行くから」」
「……うん」
 それはともかく……行きたくないな……。


「とりあえずボクの妹に夜這いかけようとしたクソ……じゃなかったライラックはkrsね!☆」
 リンデーーーーーン!!

「それで良いと思う」
 ブラウニー!!

「良いんじゃないかな」
 アドルフさん!?

「父上喜ぶなぁ。第二王子派を排除する材料の一つになるからね~。うちは皇太子派だからねぇ。
がんばって醜聞ひろげてもらおっと。表沙汰だーいすき。ついでに他にも色々弱点見つけてあったらしいから、王位継承権剥奪できるかも。秘密だよ?」
リンデン!?

「あ、そうだ。ちなみにうちが潜ませてた間者によると、ライラックね、昨日殴られたこと覚えてないってさ。良かったね」

 親子3人でホッとしました。

 ひょっとして記憶消えろ~って念じながら回復したのが良かったのかしらね……。
 あの時は『絶対圏』接続してたし。
 そしてココリーネが前世男だってことを、リンデンにも洗いざらい説明した。
 そして今までの私達の抱えてる事情も。

「なんて事だ……ココリーネ! ……おかしいと思ってたら!!
さすがに父上には前世云々は言えないけど、皇太子殿下の婚約者はもう続けられないね。
そんな子をルーカスの傍にはおけないよ。未来の王妃にはふさわしくない」

 ……リンデンはやっぱり貴族の子なんだな。
 なんていうか、まだ成人してないだろうに、政治意識が高いっていうか。

「ココリーネの両親は……ココリーネを愛してると思うけど、同時に厳しいからね……。
ひょっとしたら修道院に入れるかも知れない。
聖属性のリーブス家の令嬢、ならびにヒース男爵家の婚約済み令嬢を拉致監禁したのがこれから公になるからね。もう公爵令嬢としての価値はだだ下がり。ああ、でもココリーネの王妃になりたくないっていう望みは叶ってるね」

 価値……貴族って大変だな……。
 ココリーネ、おめでとう。
 後日、私の写真は載らなかったけれど、本当にニュースにはなった。

「えーっと確か跡継ぎは別にいるんだよな?」
 アドルフさんが尋ねた。

「うん。だからブルボンス公爵もココリーネをぜひとも手元に置いておく必要もないんだよね。
シビアだけど。犯罪が表沙汰になったら、ブルボンス公爵家の顔にドロがべったりだしなぁ。ふふ☆」

 リンデン……意外と腹黒いの?

「そういえば婚約済みってさっき言ったか?」
 ブラウニーが聞いた。

「あ、ごめん、言ってなかった。昨日アドルフさんとやり取りした時に、ついでに書類作って既に婚約状態にしておいた! ……別の日取りで婚約式はちゃんとしようね」

「え、嬉しい」
「……そ、そうか」
 ブラウニーと婚約済み………。

 ……ふふ。

 ふふふふふふふふふ!

「……リンデン坊っちゃん、謝る必要なさそうだぞ」
 アドルフさんが私達を指さした。

 私はブラウニーに抱きついて幸せを噛み締め、ブラウニーは赤くなって硬直気味だった。

「君たち……まあいいか。ずっと会えなかったんだもんね」
 リンデンやっさし!

「そういえばリンデンは、ココリーネの事は……もういいの?ギンコさんはものすごく落ち込んでたけど」

「多分ライラックやギンコほど入れ込んでないんだよ、僕は。
彼女からのアプローチも彼ら程されなかったと思うしね。それに彼女は皇太子の婚約者だし、周りにも色んな強い男性が彼女を囲ってた。僕の入る隙はないってね。僕身体弱いところあるし……ていうかプラム」

「ん?」

「お兄様、だよ」
 リンデンはニッコリして自分を指差した。

「あ……そか、そうだった……」
 なんか、変な感じ。


「さてと、そろそろプラム、着替えて僕の家に行こうか。好きな服は着せて上げたいけど、僕の家にもやっぱり格式ってものがあってね。……公爵令嬢なりの装いで、父上母上に挨拶しないとね!」
いよいよ、この時が来てしまった。


「そっか……わかったよ」
 私はブラウニーから離れて、立ち上がった。
「……行ってくるね」
「ああ…」

 リンデンが連れてきた侍女さんが、2階の私の部屋で身なりを整えるのを手伝ってくれた。

 リンデンが用意してくれたドレスは、ココリーネが用意したものとはちがって、とても着やすかった。
 ドレスといってもワンピースに近いかも。靴もヒールなのに履きやすかった。

 リンデンがかなり気を配ってくれたんだろうなって感じた。
 侍女さんも優しくて、ニコニコしながらメイクや髪を整えてくれた。

 すごい、同じ公爵家なのに全然違う。
 不安が少し、和らいだ。

 支度が終わると、侍女さんがリンデンを呼んで、リンデンが私をエスコートして、玄関へ向かう。
 ……なんだか泣きそう。

「出入り自由だから、必要な荷物があれば、落ち着いた後に引き取りに来るといい。
いくらでも馬車使っていいからね」
「……ありがとう」

「また泣きそうな顔してるね。でも頑張って。君はもうブラウニーとは婚約してる。それを思い出して」
「そうだった……ありがとう、リ……お兄様」
 うんうん、とリンデンは頷いて。

 階下で待っていたブラウニーとアドルフさんが、
「ブラウニー。ここから馬車までは君がエスコートしてあげて……あはは、なにカチコチになってんの弟くん。じゃあ、僕は馬車のとこで待ってるからね」

 師匠から弟に変わった。
 そして、私の手をブラウニーに渡した。

「プラム、その……信じられないくらい綺麗だ」

 ブラウニーは私の手の甲にキスした。
 あっ、私死ぬ。
 そんなことブラウニーにされたり、言われたら心臓止まる。搬送される。私聖属性だけどー。

「そ、そうかな……」
「ほんとに綺麗だ。お父さんは泣いちゃいそうだよ」
 アドルフさんは本当に目に涙を浮かべてた。

 ……アドルフさん、あなたが一体何者なのか……ってすごく気にはなるんだけど。

 そんな事より、私はそれでもあなたが大好きですよ。……だから、正体とか考えるのやめるね。
 あなたは私の大事なお父さんです。

「ん……」
 私はちょっと照れながら、空いてるほうの手をアドルフさんに差し出した。
 アドルフさんとも手をつなぎたい。

「はい、リーブス公爵令嬢」
 アドルフさんは微笑んで手を取ってくれた。

「ブラウニー、アドルフさんに苦労かけちゃだめだよ」
「おう、気をつける。本当に」
「頼むぜ、ブラウニー」

「まあ、介護までちゃんとするつもりだから任せてくれよ」
「介護のことかんがえてたの!?はや!?」
「……あはは」

 リンデンお兄様のところへついた。
「おいでプラム」
 お化粧ってすごいな。崩れるから泣いちゃだめ、とかちょっとしたストッパーになる。

 私は二人の手を放して、リンデンの手を取り、馬車に乗り込んだ。

「……また帰って来るね。二人共大好き、愛してる」
「ああ、待ってる。オレもそっちへ行くから。愛してる」
「お父さんも愛してるぞ!いつでも待ってるからな」
 二人共、私の手の甲にキスしてくれた。

 そして馬車が出た後。
「プラム」
「なに?」
「泣いていいよ。メイクならまた直せばいいから」

「……リ、……お兄様、なんでそんなに優しくしてくれるの?」

「そりゃ……お兄様だから。ありがとう、こんな形とはいえ、ホントにプラムが妹になってくれるなんて思わなかったよ。これからよろしくね。ふふ、ちょっと貰い涙」

 リンデンはハンカチで少し自分の涙を拭いた。
 そんな姿に、ほわっと胸が温かくなって、私の涙は引っ込んでしまった。

 人に泣かれると、自分の涙って止まったりすることあるよね。

「これから3年……僕はね、多分やっぱり妹重ねちゃって色々おせっかいなほど世話焼いちゃうかも。
先に謝っとくね、ごめん」

「あはは、……よろしく、お兄様」
 私は微笑んで返した。

 うん、大丈夫。
 ブルボンスに比べたら、環境がとても良い。
 きっとやっていける。

 ブラウニーとも婚約したし、3年後には結婚できるはず。
 ……だから、今は頑張ろう。

 荒野を抜けて、城下町を抜け――馬車道を通り――
 私はリーブス公爵家へと旅立った。

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