そのヒロインが選んだのはモブでした。

ぷり

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46 ■ Let's go home 03 ■

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 瓦礫の中からガラガラと音を立てて、立ち上がるライラック殿下。
 生きてた!良かった。

「まさか、この僕に歯向かふ下僕がいるとは(HA)ね……」
 そう言って、顔を上げたライラックの殿下の顔は……

「いつかどっかで見たやつー!」
 私は泣いた。
 かつてエセ神父……もといケイリー神父様を殴り飛ばした時と同じ顔……つまりお歪みになっています!
 美少年が台無しだ……!!

でも『絶対圏』の力で殴られてこの程度ですむあたり、やはり攻略対象と称される何かがあるんだろうな……。

「これはただでは済ませな」
「……っ」
 ブラウニーは、私を引き剥がして、また殴った。王子を。
「こら! ブラウニー!!」
「もうやめてブラウニー!」

 ライラック殿下が闇をまとって何重にも闇の防御膜を展開するも、簡単に『絶対圏』はそれを貫き、折れ曲がった防御膜に包まれるように殿下は吹っ飛ぶ。

 まるで地震のように、東棟が揺れた。
 ドォン……、と大きな音を立てて東棟が傾くのを感じた。

「……あ」
 傾きに少しよろめいた。
「プラム、大丈夫か」
 アドルフさんが後ろから支えてくれた。

「ありがとう……そしてごめんなさい止めれなくて……」
「いや、しょうがないわ、……オレは昔、プラムがブラウニーのためならこういう事やりかねないって思ってたんだけど、それブラウニーの方だったわ……」

「あ…でもそれ否定できませんね。私も立場が逆ならやるかも……」
「プラムちゃん!? 否定して!?」

 そうだとしても、ブラウニー飛ばしすぎじゃない?もうこれ以上は……。
「ブラウニー、どうしちゃったの…?」
 私は悲しくなった。

 『絶対圏』のせいでテンションがおかしいのかもしれない。
 それなら『絶対圏』の接続を切りたいけれど、何故か今は主導を握っているのはブラウニーで、私に切ることができない。
 ココリーネが言ってた『鍵』ってこういうこと?

「ブラウニー、ね、待って。約束したよね、この力は使っちゃいけないって。二人で約束した……」

 ブラウニーが、ピクリ、と肩を揺らした。
「……プラム。約束はもう一つある。
使えるものは使う。頼れるものは頼る。そしてお前は…俺を助けてくれる約束を…してくれたはずだ」

 彼はこちらを見ないで言った。
 その様子に私は不安でドキリとした。

「そう、だけど……」
さっきから『絶対圏』を通じて、ブラウニーの怒りと困惑と悲痛な心の痛み、その限界が伝わってくる。
彼は今、荒ぶっている。

「そこのエルフがヒースに来た時、この力を使えば、お前は攫われることはなかった」
「でもそれは……」

「オレは、お前と離れてる間、自分だけでもこの力にアクセスできる事を知った。
 ……この力を使えば、簡単にお前を迎えにいけるかもしれないって思ってた…けど…使おうとはしなかった。この力じゃ解決できない事がわかっていたし……なによりも、お前とその約束をしてたからだ……!」
 ブラウニーが涙目になってこっちを振り返る。

『ブラウニーを解放してあげれば?』『ブラウニーには耐えられないよ』『がんばってても普通の男の子なんだよ』
 エセ神父の言葉が、私の心に蘇る。
 考えないようにしていたけれど……それは真実なんだ。

 思えばブラウニーはずっと、私を守ろうとしてきた。

 魔力もない、ただの孤児で、普通の男の子。他の子よりちょっと優秀なだけ。
 ずっと限界ギリギリに自分を高めて保ってきたんだ。

 『絶対圏』を通じて伝わってくる、彼の血のにじむような努力。
 ……私と一緒にいてくれるために。

 それは私が聖属性保持者だとわかる前からそうだと。伝わってくる。
 彼は、小さな頃から私の傍にいて、私とずっと一緒にいたくて、勉強もインターンも何もかも、優秀であろうとした。
 そんなにずっと思っていてくれたんだ……。

「でもオレは……もう無理だ……プラム、オレは…」
ブラウニーが心の苦痛に顔を歪める。

「……!」
 何? 何いうの……?
 その先を言わないでほしい。やめて。

 心の痛み絶え間なく伝播してきた。

 アドルフさんが口を開く。

「ブラウニー。あれだけ取り戻したかったプラムが目の前にいるだろ。それにプラムは無事だ。落ち着いて……そろそろ鉾を納めろ」

「ごめん、私、ブラウニーに無理させてた……」
 私はブラウニーに謝って抱きついて、ブラウニーを見た。
 ブラウニーも私を見た。

「多分、これからも無理がいっぱいあるかもしれない、一緒にいたいだけなのに、平穏はないかもしれない。……エセ神父もまだ、たまに夢にくるし。ココリーネだってまだ何かしてくるかもしれない。
だけど、それでも私はブラウニーを諦めたくないの。一緒にいたいの。……だから」

「……」
「だから、私を捨てないでほしい……」
 それは、私が一番恐れている事。私の奥底にある本音。
「……っ」

「ブラウニーの事、放してあげられないの……許してほしい。
アイツに……ブラウニーを解放してあげろって言われて、実は少し考えたけど、やっぱり無理なの」

「か」
「勘違いするな! 捨てるわけないだろ!!!」
 ブラウニーが吐き捨てるように言って、私を抱きしめた。

「ちがうんだ……ごめん。プラム、愛してるんだ、ごめん……許せないことが多くて……お前に寄ってくるおかしな奴らが許せなくて、力が足りない自分が許せなくて、お前と静かに暮らしたいのにうまくいかなくて、頭がおかしくなりそうだった。
お前を捨てたいとかじゃない、絶対にない!」

「前も言っただろ……こじらせてるのはオレのほうだ。オレのほうがプラムが好きだって!」
「ブラウニー!!」
私はギュッと抱きつき返した。

「……ん?」
「……あれ? ……じゃあ、結局さっきは……何を言おうとしたの?」
「ん? ああ。いや……散々自分の実力考えたら『絶対圏』使うしかないと思ったから、これからは今回みたいな事あったら使うからなって……言おうと思っただけだ……です……」

 意外と冷静な答えが帰ってきた。
 ……あれ?

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「みっ」
「み?」

 沈黙が流れた。

 いやああああああ!
 恥ずか死ぬ!!!
 私がナイーブになってただけでした!!!!!

 真っ赤になった私の肩に、ぽん……とアドルフさんが手を置いた。
「いや、オレもブラウニーの言う感じのことかなーって思ってたし……? ははは」
 いやああああ! なにその乾いた笑い!!

「……ブラウニーの精神の精霊は怒り狂ってはいるが、弱ってはいなかった……な」
 ギンコ!! 
 フォローしようと、言いにくそうに言うのが余計に気を使われてて恥ずかしさが増す!!!
 やめて!

「とりあえずプラム、でかした、ブラウニーが止まったぞ。さすが息子の嫁。てか人前でいちゃつくのはもう今更感よ……? 娘。そんなに恥ずかしがるくらいならどうしてTPO分け前られないの……?」

「別にそんなつもりはないのよ! たまたまそうなっちゃってるだけ! いつも! なんていうか、うっかりっていうか……!!!」
「うんうん、そっかー」
 アドルフさあああん!!! もう慣れたわって感じで生温かい目で微笑むのやめて!!

「だからといって、あの紫頭は許さん……」
 ブラウニー! あなたはもう、おとなしくして!?

「いや、ブラウニー! あのクズは王子様だから!?」

「プラム、お前もなにげに口が悪いな……。"クズ…じゃなかった王子殿下"って言いなさい。ブラウニー。とりあえず2回も殴ったんだから、そろそろ我慢しろ。それにしてもこれ、不敬罪まっしぐらみんなで死刑コースだな」

 耳をほじほじしながらアドルフさんが言った。

「しけい」

「そ、死刑。王子あれだけボコボコにしたんだからしょうがないだろ」
 アドルフさん!? さらっと……

「……だから、とりあえずプラム、あのクソ…いや、王子殿下を治療してきなさい。
オレ達はプラムを連れ去ろうとして、ギンコと戦闘になった。そして何故かこんな夜遅くに単独プラムの部屋に潜んでいた殿下が巻き込まれた……。
ココリーネに執着してんだろ?クズ殿下は。それを考えると夜這いをかけようとしたことはバレたくないはずだ。おまけに綺麗さっぱり怪我は治っている。ブラウニーに殴られたなんて……夢だよ。ハハハ」

「そんなにうまくいく!?」
「ゴリ押しする! いかなかったらもう国外脱出だ!」
「わかったよ~。じゃあ、殿下治しとく」

 私は近寄りたくなかったので、その場から適当に王子に回復を飛ばした。
 できたらこの一件、すべて記憶喪失になってしまえ~と念じながら。

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