そのヒロインが選んだのはモブでした。

ぷり

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45 ■ Let's go home 02 ■

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「…ぶ、ぶらうにー…」
 その場にへたり込むように、座り込んでいる私。

「ブラウニー……嘘だろ…やっちまった…」
 おそらく『絶対圏』の発動の勢いで後方に飛ばされたアドルフさんが、額に手をあてて天を仰ぐ。

「……なんだその姿は」
 驚愕して立ち尽くしているギンコ。

 部屋の鏡に映る自分の姿を見た。私も、銀髪になっていた。あああ……。

「あ、アドルフさぁん、『絶対圏』が発動しちゃったよ! 私やってないよ!?」
 私は混乱してアドルフさんに助けを求めた。
 アドルフさんはしばらく呆然としてたけど、私の声にハッとした。

「やめろブラウニー! いくらなんでも世の中殺していい相手と悪い相手が……いや、そいつはオレも許せないタイプだけ……いや! そうじゃなくて! 殺生はだめだ! てか、とにかく相手は第二王子だ!! やめるんだ! ……もう遅いけど!!!」

アドルフさんが駄目元な駄目説得を試みた!

「krs…」
ブラウニーには効果がなかった! うわああん!

ブラウニーは、止めるアドルフさんを引きずりながら、ぽっかり空いた壁穴のほうへ近づいていく。

「うわ、なんだこの力……プラム止めろ! これはお前しか止めれん! 説得するなり魔力変質するなりなんなりで止めろ!……ギンコ、殿下を保護してくれ! このままだとホントに殺しちまう!」

「わかった……!」
 ギンコが走るのと、私が叫ぶのが同時だった。

「ブラウニーやめて!! 正気に戻って!!」
 私は魔力変質した腕でブラウニーに抱きついた。
 わあん、私から発生してる力なのにブラウニーのほうが使い方上手だから負ける!ズルズル……。

「プラム、大丈夫だ。オレがあんなゴミ……この世から消してやる……!」
 ブラウニーがなんかおかしい! なんかぶっとんでる!
 そうだ、『絶対圏』はちょっとハイテンションになりやすいんだった。

「だめだ、こいつ……もしココリーネが男だって事も知ったらもう手がつけ……あっ」
 口元を抑えるアドルフさん……
 アドルフさあああああん!?

「……あ?」
 ブラウニーがピタ、と止まった。

「なんだ……?どういうことだ……?」
 ギンコも足をとめた。
 あああああ!!! ギンコに知られた!!

「……ふすーふすー」
 アドルフさんが口笛吹くふりしてそっぽ向いてる。 音出てない! 口笛下手くそか!
 今そんなおちゃめポイント披露しなくていいから! 責任とってよ!!!

 ブラウニーがこっち見た……ひっ。
「……プラム、オレに隠している事がないか……?」

 にっこり微笑む。微笑んでるのに顔は怖い。声は妙に優しい……ガタガタ。
「怒らないから言ってみろ……」

 スッと笑みが消えた。怖いしかない!!!

「ぶ、ぶらうにーさん、ぢつわ……えっと、その……話す暇がなかっただけで、隠してたわけでわ……」

「……私も詳しく聞きたい。ライラックのことはその後で良い」
 ギンコおおおおお!!
 ブラウニーよりむしろ、ギンコに聞かせたくなかった!!

「アドルフさん、責任とってよ!!」
 私はアドルフさんを涙目で睨んだ。

「おお、娘よすまない……。だがもうこうなった以上、説明してやるといい。……特にギンコにはな」

 あ~。アドルフさん、これはわざと口滑らせたわね……。
 ……そうか、この人、ギンコさんに教えてあげるべきだと思っててタイミングはかったんだな……。
 おまけにとりあえずブラウニーの足止まったし……。

 でもこの話はブラウニーいない時にしようよ!、と思ってたら、それを察したのか、
「娘。ブラウニーには隠せない……知ってるだろ(フッ)」
 あああああ、黄昏れた!!
 そうですね!どうせバレばれますね!!
 なんでバレるのかいまだにわからないけど!

 私は渋々説明した。ブラウニー(爆発危険物)に抱きついたまま。
「ココリーネは…その、前世の記憶があるんだけど……。彼女の前世の世界では、この世界が物語として存在していて…その物語の主人公が私らしいの」

「物語……? この世界が?」
「少なくとも彼女はそう思ってる」

「そして彼女は、私の行動次第で将来皇太子殿下と私、その他の私が懇意にしてる男性達によって罪をでっちあげられて、死刑もしくはその他の不幸にさらされると思ってるの。それは知ってるよね?多分夢でみたってあなたにも伝えてると思うけど」

「確かに……彼女は夢で見たと……」
「ある意味夢と言ってもいいかもしれないね。……で、その彼女は前世で、男性だったと言うのよ。……だから、彼女は私のことを異性として見ているの」

「な……まさか……」

「うん、信じられる話しじゃないと思うけど、とりあえず私側の事情を話すね。……ギンコやライラック殿下には皇太子殿下と婚約破棄をして私を婚約者にすえる計画を話してると思う。それが皆幸せになるとか言って……。」
「ああ、そのように聞いている」

「……でも、私は、それと同時にもう一つ彼女には選択肢を用意されたの。
それが……まあ、最終的には性転換したココリーネと夫婦になること……」

「――」
 ギンコは口元をおさえた。

 そして、また私の身体にがくん、と力を吸い取られるような衝撃が走った。

「う!? ……ブ、ブラウニーだめだよ……!」
 ブラウニーの方に、『絶対圏』の力が流れ出て、彼はその恐ろしいほどのエネルギーを纏う。

 ば、爆発しないでー!

 私(爆発処理班)はブラウニーを落ち着けようと、手をギュッと握った。

「プラム……何もされてないだろうな」
 お疑いだ…!!!

 ……ほっぺに一回キスされたかも……まあ友人同士でもあることだからノーカンだ…よね。
てか思い出したくなかったよ!!
「な、何もないよ」

「………隠してもわかるって何回言えばわかる?洗いざらい吐け」
 わ、私、ブラウニーの恋人ですよね!? おかしいな!? なんかライスものの出前を頼みたい!!

「頬に一度キスされました!!! なんか匂い嗅がれたりもしましたー!!!(泣)」
「…………」

「で、でも女性同士ですので、取り返しのつかないことにわ、いたっておりませ……」

 怖い! 顔が!

「……………………」
 うああああああ!! 何か言ってええええええ!!

「おいブラウニー、プラムが怖がってるぞ。プラムを怖がらせてどうすんだ。だいたい、そんな事思い出させてやるなよ……」

 アドルフさんにそう言われて、さすがにブラウニーはあって顔した。

「プラムごめん……オレちょっと今、おかしいかもしれない」
「『絶対圏』使うとハイテンションなるからね、うん、大丈夫だよ……ちょっと怖かったけど……」

 本音がボソッと出たら、ブラウニーがガーン、て顔した。

 ギンコがその横で壁に手をついてうつむく。

「……私の5年間はなんだったのだ…求めていた番(つがい)をようやく見つけたと思っていたのに……」

 うああああああ……。

 5年も教師やって愛が芽生えてたらそうなるよね……。一方通行だけど……。

 ギンコは何歳なんだろう。エルフの恋愛観念とかさっぱりわからないし、年齡がこの人の性格考えてちょっとどうかなって思うけど、多分ココリーネが言ってた、攻略対象へのセリフとやらで騙されたんだね……。
 ほんとにこの世界がゲームならば、だけど。

「そして許せない……男とか女とか以前に……無害な他人を巻き込んでそんな計画を立てている…そんな歪な性格と、それに気が付かなかった私自身がまず許せない……」
 なんだこの人格者!
 ますますココリーネを愛してるのが違和感あるよ!

「突拍子もない話だけど…私の話しを信じていいの?」
「……確かにそうだが、状況的に私にはおまえたちの話が嘘だと思うことはできない。……まいった」
 そういったギンコは、寂しそうな顔をしていた。

 その時、ライラック殿下の声がした。
「あー……いたたた……。」

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