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38 ■ Release me 02 ■
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※※※
「やあ! プラム!!! 早速会いに来たよ!!!」
リンデンが私の部屋を訪ねてきた。
また来る、とは言ったけど、まさか翌日くるとはおもわなかった。
ちなみに、ギンコが連れてきた。
私が戸惑いがちにギンコを見ると
「リンデン殿に頼まれてお前のスケジュールが空いてる時間を確認した。責任上、私も同席する」
と言われた。
好きで連れてきたわけじゃないってことね。
私がカーテシーをしてリンデン様、と呼ぼうとしたら
「いいのいいの! リンデンで! 様いらないいらない! プラム平民出身なんだから。めんどくさいでしょ? あ、でももし舞踏会とか公式の場で会うことあったら、その時だけは様はつけてね!!」
ようは公式の場でなければ無礼講でよろしいと。
「は、はい」
「いいのいいの、前みたいに喋って」
「……うん」
ちょっと心が温かくなった。
怒られないかなって離れた場所で座ってるギンコを見たけど、頷いた。良いって事ね。
……あ、なんか嬉しい。
嬉しいって気持ち、しばらく忘れてたな……。
「あ、そうだ前に突き飛ばした事、ごめんね。……どうもココリーネの事になるとおかしくなるんだよ」
「? ……ううん、もう気にしてないよ。頭下げないで」
こっちこそ邪険にしててごめんね。
ああ……久しぶりに普通に喋れる。
呼吸が楽になった気がする。……あれ、私、呼吸がしんどかったのかな。
それにしても、おかしくなるほど好きなのかぁ。
まあ私もブラウニーのことは気がおかしく成程好きだと言っても過言ではないしね。
むしろこれ以上に好きのレベルを上げるにはどうしたらいいのかと考えているくらい……あ、なるほど、頭おかしいわ。
でもブラウニーに関してはそれでいいの。
「僕、実は身体が弱いところがあって、レインツリーで養生してたんだ。
その他にも、ちょっと立ち直れないことがあって、王都から逃げてたっていうか……」
え、全然そんな風に見えなかった。
「二年くらい前に大好きな妹が死んじゃって……」
リンデンはそこで紅茶を一口飲んだ。
「え……」
「そこで君に会ったんだ、髪色で最初はびっくりしたんだけど、顔を良く見たら、顔つきとか……とくに目の形と色が妹にそっくりでさ」
……ああ、だから妹にならない?って言ってたんだ。
私に妹を重ねてたんだね。
「君を戸籍上引き取ったところで、妹が帰ってきた事になるわけでもないのにね」
リンデンは苦笑した。
「君を身代わりにしようとしてたんだね、僕。ごめんね」
誠意ある真摯な瞳で謝った。
「ううん、いいの。私も話し聞こうとしなかったし。あなたは別に悪いことしてないよ」
なんだか意外なイメージだ。……人ってよく話ししてみないとわからないものなんだね。
リンデンの心象がかなり変わった。
「ココリーネは、去年の冬、僕の屋敷に泊めてくれないかって、やってきたんだよね。
そしたらココリーネがね。水辺のほとりで、僕に言ってくれたんだよね。
あなたの気持ちはわかるわ。……辛かったわよねって。
僕それで何故かほだされちゃったんだよね。たった一言なのにね。自分でも変だと思うんだけど。
ココリーネとは幼馴染で……ちょこちょこ昔から遊んではいたけど……正直あんな気持ちになる相手とは思ってなかったんだ。今でも好きなんだけど、なんか違和感があるんだよね。……なんで好きなんだろうってね」
そういえばココリーネが言ってた気がする。
攻略対象は好感度上げるイベントを模倣したらホイホイ落とせるって。
私にも皇太子殿下に関するその情報を最近レクチャーしにくる。
ココリーネは攻略対象寄って来ちゃう~うざーとかいいつつ、自分も彼らを落とそうと行動をしている。
『ある程度好感度上げとかねーと、殺されるんだよ!』
……とかなんとか。
それで結局ハーレムが出来上がってるなら、それってやっぱ私のせいじゃないよね……。
「ねえ、プラム。ギンコに聞いたんだけど……君、ココリーネに無理矢理ここに連れて来られたって本当?」
「え」
私はまたギンコの方を見た。
ギンコはこっちに興味ないかのように窓の外を見ている。
「う……うん」
「……将来的に身代わりでルーカス……えっと第一王子殿下の婚約者になるように教育されてるって本当?」
リンデンがじっと私の目をみてくる。
私は動揺した。
「どうして、それを…」
「僕は聞いてなかったんだけど、ギンコは聞かされたらしい。君が王妃になればココリーネの命が安泰だって。逆にこのまま君を放置したら私を追い詰め殺しにくるかもしれないって……夢で見たらしいんだけどね。彼女の夢見は昔からよく当たるんだ」
ココリーネは前世の記憶とやらを夢見として語ってるだけなんですけどね……。
「……そうらしいね」
「そっか! ……ねえ、ここを出たい?」
「……っ」
私は言いあぐねる。
どうして? 二人共ココリーネ至上主義じゃないの?
リンデンだってレインツリーで、見境なく私の事突き飛ばしてたのに。
ギンコに至っては言わずもがなだ。
それとも私を試してる? チャンスがあったら逃げ出そうとしないか……とか。
でもそれにしては……リンデンの瞳は優しい。
リンデンがそういう嘘をつくような人間には感じない……。
「疑っちゃうよね? でも大丈夫、約束するよ。ココリーネには言わないから、言ってごらん」
「で、でも……」
ギンコが聞いてるし……。
「少し席を外す」
ギンコがいきなり席をたち、部屋を出ていった。
何その気の利かせよう……。どうしちゃったの!?
「……どうして」
「プラム、ギンコもね。なんか違和感を感じてるみたい」
「プラム……それでどうしたい?」
「……私」
「私……! …ヒース領に帰りたい! もう、こんな所、一秒だっていたくない!」
「……助けて!!」
私は膝の上で拳をぎゅっと握って、叫ぶように言った。
ずっと言いたかった言葉を。
「そっか! 良く言えたね! そうだと思ったんだ。プラム。いい子だ!」
リンデンはニコッと笑って私の頭を撫でた。
「……いくら夢見でみたからといって、本人の意思に反してこんなやり方をするのは間違ってると僕は思う。 ……こんなのは犯罪だ。大丈夫、僕は君の味方になってあげる」
「リンデン……」
「あまり口にしたくないんだけど、貴族がたまに気に入った平民を力任せに囲っちゃうことって、ないわけじゃないんだよね……でも貴族の家で暮らすと生活レベルが上がっちゃうじゃない?
公爵家の生活なんてまさにトップランクの水準だしね。
中には開放されるチャンスがあっても帰らないっていう一般人もいるわけ。
……だから一応聞いたんだ。一応ね!」
……そっか。そういう人もいるんだ。
確かにご飯もお茶菓子も味は美味しいと思う。材料は同じものは手に入らなくても、レシピ知りたいとは思ってた。ブラウニーに作ってあげたいとか思ってた。帰るアテもないのに。
「でもね。昨日から思ってたんだ。君、死にそうな顔してる」
「……」
「……ね、思いきり泣いても大丈夫だよ。実はギンコが風の魔法を使って、外に音がもれないようにしてくれてるから」
え?! ギンコが!?
嘘でしょう!?どうして!?
「………」
「あ……」
パタパタと涙があふれる。
「大丈夫」
魔力が全て封じられた私にエセ神父が悪戯して何か幸福な夢を見せてから突き落とすつもりなんじゃないだろうか。
やっぱりリンデンやギンコが私をハメようとしてるんじゃないだろうか。
そんな捨てきれない疑いを突き破るように、湧き上がってくる気持ちがあった。
「――――――ブラウニーに会いたいよおおおおおおおおおお!!!!」
私はずっと叫びたかった名前を叫んで泣いた。
「うん、うん。わかったよ。僕がヒース領に行って、会ってきてあげるよ。だからもう少し頑張ろうね」
リンデンは、私が落ち着くまで頭をなでてくれていた。
――まるで妹をあやすように。
※※※
リンデンが訪ねてきた次の日。
散歩の時間。
今日も夏まっさかりで、青空が広がっている。
ギンコが今日は違うコースに連れてってやろう、と言った。
ついていくと、庭園というより、野原だった。
一面にシロツメ草とクローバーが広がっている。
「こんな場所があったんですね」
「単なる空き地だがな」
私はギンコにお礼を言う事にし、またどうして私に助け船を出すつもりになったのか聞くことにした。
「……庭園もいいけど、故郷の景色を思い出して落ち着きますね。ありがとうございます、連れてきて頂いて……あと、昨日はありがとうございました。どうしてあんな事を?」
「私はココリーネの夢見より、自分の勘を信じたくなっただけだ。無論、ココリーネの事は信じていたい。……だが、私には、普段か様々な精霊たちが見える……お前を連れてきた日から、お前の周りから生命の精霊や精神の精霊が消えていくのが私には視えていた」
精霊。なんかこの間、図書室で本で読んだな。
「精霊……あなたがヒースで最初に魔法を振るった時、チラっと視えたの、あれシルフだったんですね」
「……シルフが視えたのか?人間が、訓練もなしに?」
「一瞬でしたけど」
「ほう。それは大したものだ」
褒められるような事だったのか。
ギンコのこと嫌いだし苦手だったけど、この人もココリーネに騙されてる被害者なのよね……。
ココリーネの本音を教えたらどう転ぶかわからないから怖くて言えないけど。
「……このままでは、ココリーネの言う学園生活や卒業パーティでのイベントやらまでに、お前が壊れるか死ぬかすると思えた。……そんな無気力な人間がココリーネをどうやって殺す算段をたてる?、と。
……私はただの無害な少女を攫ってきただけではないのかと、迷いができた」
その通り無害ですよ!!! しっかりしてください!!! 犯罪ですよ!!!
「ご心配頂いたようでありがとうございます。……でも、元気になったら何か計画して殺すのかもしれませんよ? そもそも私がこのまま死んでしまえば、ココリーネ様は安泰ですしそれならこれはこれで正解と言えません?」
「それもそうだ」
ギンコがフ…、と小さく笑った。この人も笑うんだね。
「それにしても、大丈夫なんですか? ココリーネ様に嫌われません?」
「人のことを心配する余裕あるのか? 私はそれだけのことをお前にしている。私もリスクを負うべきだ」
「うわ、生真面目………」
「良く言われる」
また少し笑った。
この人、ココリーネの真実は知らなくても、もう本当に色々わかっちゃってるんだな。彼女が何かがおかしいって。
ひょっとしたらココリーネに変な精霊とかついてて視えてるのかもしんない。
ココリーネ、攻略対象を馬鹿にしてる節があるけど、この人たち、優秀だよ?
「そうだ、手を出せ」
「なんです?」
ギンコは私の手を取って、そこに――
「あ…!!!」
ブラウニーがくれた髪留め!!!
「ど、どうして……」
「……捨てられるのを見たが、思わず拾ってしまった。大切にされている物にも精霊が宿る。私にはそれに宿っている精霊を見捨てることができなかった」
「あ、ありがとう!! ギンコさん、ありがとう!!!」
私は髪留めを手で包み込んで胸に抱いた。
嘘みたい……。嬉しい……!!
二度と返ってくるなんて思ってなかった。
「……別にお前のためではない。精霊を助けたかっただけだ」
ギンコはそういうとツンとそっぽを向いた。
「やあ! プラム!!! 早速会いに来たよ!!!」
リンデンが私の部屋を訪ねてきた。
また来る、とは言ったけど、まさか翌日くるとはおもわなかった。
ちなみに、ギンコが連れてきた。
私が戸惑いがちにギンコを見ると
「リンデン殿に頼まれてお前のスケジュールが空いてる時間を確認した。責任上、私も同席する」
と言われた。
好きで連れてきたわけじゃないってことね。
私がカーテシーをしてリンデン様、と呼ぼうとしたら
「いいのいいの! リンデンで! 様いらないいらない! プラム平民出身なんだから。めんどくさいでしょ? あ、でももし舞踏会とか公式の場で会うことあったら、その時だけは様はつけてね!!」
ようは公式の場でなければ無礼講でよろしいと。
「は、はい」
「いいのいいの、前みたいに喋って」
「……うん」
ちょっと心が温かくなった。
怒られないかなって離れた場所で座ってるギンコを見たけど、頷いた。良いって事ね。
……あ、なんか嬉しい。
嬉しいって気持ち、しばらく忘れてたな……。
「あ、そうだ前に突き飛ばした事、ごめんね。……どうもココリーネの事になるとおかしくなるんだよ」
「? ……ううん、もう気にしてないよ。頭下げないで」
こっちこそ邪険にしててごめんね。
ああ……久しぶりに普通に喋れる。
呼吸が楽になった気がする。……あれ、私、呼吸がしんどかったのかな。
それにしても、おかしくなるほど好きなのかぁ。
まあ私もブラウニーのことは気がおかしく成程好きだと言っても過言ではないしね。
むしろこれ以上に好きのレベルを上げるにはどうしたらいいのかと考えているくらい……あ、なるほど、頭おかしいわ。
でもブラウニーに関してはそれでいいの。
「僕、実は身体が弱いところがあって、レインツリーで養生してたんだ。
その他にも、ちょっと立ち直れないことがあって、王都から逃げてたっていうか……」
え、全然そんな風に見えなかった。
「二年くらい前に大好きな妹が死んじゃって……」
リンデンはそこで紅茶を一口飲んだ。
「え……」
「そこで君に会ったんだ、髪色で最初はびっくりしたんだけど、顔を良く見たら、顔つきとか……とくに目の形と色が妹にそっくりでさ」
……ああ、だから妹にならない?って言ってたんだ。
私に妹を重ねてたんだね。
「君を戸籍上引き取ったところで、妹が帰ってきた事になるわけでもないのにね」
リンデンは苦笑した。
「君を身代わりにしようとしてたんだね、僕。ごめんね」
誠意ある真摯な瞳で謝った。
「ううん、いいの。私も話し聞こうとしなかったし。あなたは別に悪いことしてないよ」
なんだか意外なイメージだ。……人ってよく話ししてみないとわからないものなんだね。
リンデンの心象がかなり変わった。
「ココリーネは、去年の冬、僕の屋敷に泊めてくれないかって、やってきたんだよね。
そしたらココリーネがね。水辺のほとりで、僕に言ってくれたんだよね。
あなたの気持ちはわかるわ。……辛かったわよねって。
僕それで何故かほだされちゃったんだよね。たった一言なのにね。自分でも変だと思うんだけど。
ココリーネとは幼馴染で……ちょこちょこ昔から遊んではいたけど……正直あんな気持ちになる相手とは思ってなかったんだ。今でも好きなんだけど、なんか違和感があるんだよね。……なんで好きなんだろうってね」
そういえばココリーネが言ってた気がする。
攻略対象は好感度上げるイベントを模倣したらホイホイ落とせるって。
私にも皇太子殿下に関するその情報を最近レクチャーしにくる。
ココリーネは攻略対象寄って来ちゃう~うざーとかいいつつ、自分も彼らを落とそうと行動をしている。
『ある程度好感度上げとかねーと、殺されるんだよ!』
……とかなんとか。
それで結局ハーレムが出来上がってるなら、それってやっぱ私のせいじゃないよね……。
「ねえ、プラム。ギンコに聞いたんだけど……君、ココリーネに無理矢理ここに連れて来られたって本当?」
「え」
私はまたギンコの方を見た。
ギンコはこっちに興味ないかのように窓の外を見ている。
「う……うん」
「……将来的に身代わりでルーカス……えっと第一王子殿下の婚約者になるように教育されてるって本当?」
リンデンがじっと私の目をみてくる。
私は動揺した。
「どうして、それを…」
「僕は聞いてなかったんだけど、ギンコは聞かされたらしい。君が王妃になればココリーネの命が安泰だって。逆にこのまま君を放置したら私を追い詰め殺しにくるかもしれないって……夢で見たらしいんだけどね。彼女の夢見は昔からよく当たるんだ」
ココリーネは前世の記憶とやらを夢見として語ってるだけなんですけどね……。
「……そうらしいね」
「そっか! ……ねえ、ここを出たい?」
「……っ」
私は言いあぐねる。
どうして? 二人共ココリーネ至上主義じゃないの?
リンデンだってレインツリーで、見境なく私の事突き飛ばしてたのに。
ギンコに至っては言わずもがなだ。
それとも私を試してる? チャンスがあったら逃げ出そうとしないか……とか。
でもそれにしては……リンデンの瞳は優しい。
リンデンがそういう嘘をつくような人間には感じない……。
「疑っちゃうよね? でも大丈夫、約束するよ。ココリーネには言わないから、言ってごらん」
「で、でも……」
ギンコが聞いてるし……。
「少し席を外す」
ギンコがいきなり席をたち、部屋を出ていった。
何その気の利かせよう……。どうしちゃったの!?
「……どうして」
「プラム、ギンコもね。なんか違和感を感じてるみたい」
「プラム……それでどうしたい?」
「……私」
「私……! …ヒース領に帰りたい! もう、こんな所、一秒だっていたくない!」
「……助けて!!」
私は膝の上で拳をぎゅっと握って、叫ぶように言った。
ずっと言いたかった言葉を。
「そっか! 良く言えたね! そうだと思ったんだ。プラム。いい子だ!」
リンデンはニコッと笑って私の頭を撫でた。
「……いくら夢見でみたからといって、本人の意思に反してこんなやり方をするのは間違ってると僕は思う。 ……こんなのは犯罪だ。大丈夫、僕は君の味方になってあげる」
「リンデン……」
「あまり口にしたくないんだけど、貴族がたまに気に入った平民を力任せに囲っちゃうことって、ないわけじゃないんだよね……でも貴族の家で暮らすと生活レベルが上がっちゃうじゃない?
公爵家の生活なんてまさにトップランクの水準だしね。
中には開放されるチャンスがあっても帰らないっていう一般人もいるわけ。
……だから一応聞いたんだ。一応ね!」
……そっか。そういう人もいるんだ。
確かにご飯もお茶菓子も味は美味しいと思う。材料は同じものは手に入らなくても、レシピ知りたいとは思ってた。ブラウニーに作ってあげたいとか思ってた。帰るアテもないのに。
「でもね。昨日から思ってたんだ。君、死にそうな顔してる」
「……」
「……ね、思いきり泣いても大丈夫だよ。実はギンコが風の魔法を使って、外に音がもれないようにしてくれてるから」
え?! ギンコが!?
嘘でしょう!?どうして!?
「………」
「あ……」
パタパタと涙があふれる。
「大丈夫」
魔力が全て封じられた私にエセ神父が悪戯して何か幸福な夢を見せてから突き落とすつもりなんじゃないだろうか。
やっぱりリンデンやギンコが私をハメようとしてるんじゃないだろうか。
そんな捨てきれない疑いを突き破るように、湧き上がってくる気持ちがあった。
「――――――ブラウニーに会いたいよおおおおおおおおおお!!!!」
私はずっと叫びたかった名前を叫んで泣いた。
「うん、うん。わかったよ。僕がヒース領に行って、会ってきてあげるよ。だからもう少し頑張ろうね」
リンデンは、私が落ち着くまで頭をなでてくれていた。
――まるで妹をあやすように。
※※※
リンデンが訪ねてきた次の日。
散歩の時間。
今日も夏まっさかりで、青空が広がっている。
ギンコが今日は違うコースに連れてってやろう、と言った。
ついていくと、庭園というより、野原だった。
一面にシロツメ草とクローバーが広がっている。
「こんな場所があったんですね」
「単なる空き地だがな」
私はギンコにお礼を言う事にし、またどうして私に助け船を出すつもりになったのか聞くことにした。
「……庭園もいいけど、故郷の景色を思い出して落ち着きますね。ありがとうございます、連れてきて頂いて……あと、昨日はありがとうございました。どうしてあんな事を?」
「私はココリーネの夢見より、自分の勘を信じたくなっただけだ。無論、ココリーネの事は信じていたい。……だが、私には、普段か様々な精霊たちが見える……お前を連れてきた日から、お前の周りから生命の精霊や精神の精霊が消えていくのが私には視えていた」
精霊。なんかこの間、図書室で本で読んだな。
「精霊……あなたがヒースで最初に魔法を振るった時、チラっと視えたの、あれシルフだったんですね」
「……シルフが視えたのか?人間が、訓練もなしに?」
「一瞬でしたけど」
「ほう。それは大したものだ」
褒められるような事だったのか。
ギンコのこと嫌いだし苦手だったけど、この人もココリーネに騙されてる被害者なのよね……。
ココリーネの本音を教えたらどう転ぶかわからないから怖くて言えないけど。
「……このままでは、ココリーネの言う学園生活や卒業パーティでのイベントやらまでに、お前が壊れるか死ぬかすると思えた。……そんな無気力な人間がココリーネをどうやって殺す算段をたてる?、と。
……私はただの無害な少女を攫ってきただけではないのかと、迷いができた」
その通り無害ですよ!!! しっかりしてください!!! 犯罪ですよ!!!
「ご心配頂いたようでありがとうございます。……でも、元気になったら何か計画して殺すのかもしれませんよ? そもそも私がこのまま死んでしまえば、ココリーネ様は安泰ですしそれならこれはこれで正解と言えません?」
「それもそうだ」
ギンコがフ…、と小さく笑った。この人も笑うんだね。
「それにしても、大丈夫なんですか? ココリーネ様に嫌われません?」
「人のことを心配する余裕あるのか? 私はそれだけのことをお前にしている。私もリスクを負うべきだ」
「うわ、生真面目………」
「良く言われる」
また少し笑った。
この人、ココリーネの真実は知らなくても、もう本当に色々わかっちゃってるんだな。彼女が何かがおかしいって。
ひょっとしたらココリーネに変な精霊とかついてて視えてるのかもしんない。
ココリーネ、攻略対象を馬鹿にしてる節があるけど、この人たち、優秀だよ?
「そうだ、手を出せ」
「なんです?」
ギンコは私の手を取って、そこに――
「あ…!!!」
ブラウニーがくれた髪留め!!!
「ど、どうして……」
「……捨てられるのを見たが、思わず拾ってしまった。大切にされている物にも精霊が宿る。私にはそれに宿っている精霊を見捨てることができなかった」
「あ、ありがとう!! ギンコさん、ありがとう!!!」
私は髪留めを手で包み込んで胸に抱いた。
嘘みたい……。嬉しい……!!
二度と返ってくるなんて思ってなかった。
「……別にお前のためではない。精霊を助けたかっただけだ」
ギンコはそういうとツンとそっぽを向いた。
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