そのヒロインが選んだのはモブでした。

ぷり

文字の大きさ
上 下
31 / 149

31■ Surprise Attack 03 ■

しおりを挟む

 ――エントランスのほうで何かが爆発する音がした。

 そして、その後続いて爆音が、ドン、ドン! と正確に厨房の方へ近づいてくる。
 うわあ! すごい音してる!

「あいつ! 応接室のドア壊しやがったな! 返事くらい待てないのかよ! おうち壊したらおじさん泣いちゃうぞ!」
「こ、この連続してるこの音なに!?」
「ガーゴイルが追跡して攻撃してる音だ! 早い! 来るぞ!」
「アドルフさん、やっぱりオレこいつつれて2Fへ退避します」
「プラム、ブラウニー、パントリーに隠し階段が――」


バン!!!!!


 厨房の扉が開いて、制服姿の長身の男が滑るように侵入してきた。
 室内なのに、ざあっと風が吹き込む。
 何!? この人、宙に浮いてる!

「――見つけた」

 男はそう言うと私を冷たい瞳で見据え、被っていた郵便局員の帽子を投げ捨てた。
 薄黄緑色の長い髪が広がる。

 ……うっわ、顔が綺麗……というか、整いすぎて逆に怖い!!
 そして耳長い!?

「な……エルフ!?」
 ブラウニーが驚愕する。

「は……? 来るの早すぎだろ! くそ、風の精霊……厄介な!」

 エルフ! 最近なんか聞いたやつ! ……か、風の精霊!?なにそれ!!!
 ああああ、専門用語(実はかつて習った事がある)についていけない!
 かつての船こいでた自分を殴りたい。いやだって田舎の日常生活には関係なかったし!!!

「シルフ、巻き起こせ」
 男が冷酷な口調でそう言うと、厨房の中に風が吹き荒れた。
 ――空中に何かいる、風の精霊ってやつなのかな――私がそれを目で追った次の瞬間、

「ああっ?」

 私は体がふわっと浮かびあがった。

「プラム!」
 ブラウニーが私の手を掴んだ。
 エルフがその掴んだ手に風をまとった手刀をおろして、私達を分断した。

「うぁっ!!」
 ブラウニーが痛みに顔を歪めた。

「みーっ」
 ブラウニーが風に吹き飛ばされて、厨房の壁に衝突――するかと思った時、
「ブラウニー!!!」
 アドルフさんがブラウニーを受け止め、身を挺してその衝撃から庇った。

「みッ! みっ!」
 マロがポロッとブラウニーから落ちて、厨房の床に転々と転がる。

「……ぐ…ッッ!」
「アドルフさん……!」
 アドルフさんが、すばやく身を起こそうとして、脇腹の上を抑えた。

 肋(あばら)をやられてる!?
 だめ、ちょっと距離がある。

 回復魔法を拡張して、癒そうとした時、私は風にあっというまに攫われてエルフに抱き抱えられた。

「ちょっと!?」
「手紙は読んだな? ――ココリーネがお前を待っている」
「プラム! 触んなこの野郎!」
「プラム……!!」
 二人が叫ぶ。

 ブラウニーがダガーを投げようとしたところ、アドルフさんが止める。
「こら……っブラウニー!! プラムに当たったらどうすんだ!!」
「そんなドジしない……ッ」
「冷静になれ! ここじゃ投擲は駄目だ、風で命中が逸らされる!」

 何かあっても魔力変換で受けるから、気にしないで!!!と言おうとした所、エルフを追ってきたガーゴイルが一匹こちらに向かってきて、口を開いた。中に無数の鉄のつぶてが見える。

 あ、こっちに発射する!
 私は魔力変換で身を守ろうとしたけど――

「【Parking】、ガーゴイル!」
 アドルフさんが叫ぶと、ガーゴイルは飛行をやめて、部屋の隅にとどまって石化した。

 そのままアドルフさんは、すぐさま次の行動に移る。
 懐から小瓶と紫色に光る小石を出して床に投げた。土と雑草が広範囲に散らばる。……土!?

「〚プラントバインド 02〛!!!」

 アドルフさんはその上に手をついて命令するように叫んだ。
 アドルフさんの指の隙間から――紫色の光が浮かび上がったかと思うと、雑草が起き上がり、またたく間に蔦となってエルフと私に絡みつかせた。
 そして、私をエルフから引き剥がした。

 アドルフさんすご!?

「なっ……。ドライアドとノームに錬金術で細かなオーダーを……邪道な。シルフ、切れ!」
 エルフがまた風を起こす。
 蔦は細かく裁断されてく。

「あっ」
 私の蔦も切られた。落ちる……かと思ったら、風で浮かされてるから落ちない。
 落ちたほうがマシだった! 地に足がつかないって何もできない!
 エルフがこっち見た……いやだ!!

「……くそ、風は相性最悪だ…!」
 アドルフさんが、痛みに顔を歪めながら、私のところへ走る。
 エルフとアドルフさんが同時に私に手を伸ばす。

「マロ!!【Glider】【Fly】!……くそ、ここじゃ場所が狭い!!」
「みっ」
 突如、ブラウニーとマロの声がして、ブラウニーが私を攫うように二人の間を飛び抜けた。

片腕で私をギュッと抱き寄せられる。手がわずかに震えてる。ああ、さっき風の手刀を落とされたから……。見なくてもわかる、きっとすごく腫れてる。……そうだ、アドルフさんはもっとひどい!

 私はハッとして拡張回復をかけた。
 ああ、なんでもっと早く気が付かないの。

「サンキュ」
 少し笑顔してブラウニーが言った。
 アドルフさんは、目が合うと笑顔で頷いた。

「ブラウニー、外にはでるなよ。ここは場所が悪いが、外に逃げたら風属性の思うつぼだ。秒でプラムを連れてかれるぞ」
「わかってます……!」
 マロは、さすが飛竜の要素がある、といった感じで、私達をのせても風にうまく対応して、マロが跳ぶには狭い食堂をけっこうな速度で旋回する。

 心臓が早鐘を打って身体が震えるつもりないのに震えてる。
 私、この中で一番強い力を持ってるはずなのに……この間の教会みたいにまた動けないでいる。
 どうやったらアドルフさんやブラウニーみたいに機転を効かせて動けるの。

「邪悪な……なんだそのキメラは。これだから錬金術師は」
 エルフの顔が憎悪を浮かべる。
 マロを邪悪扱い!? この人ひどい!

「はいはい、ナチュラル派のエルフさんに嫌われてるのは知ってますよ! ……だが、奇襲は失敗のようだな? 今日のところは帰ったらどうだ。ちゃんと玄関から出てけよー!」
 ダメージから回復したアドルフさんは、小指で耳の穴をほじって、フッとエルフの方へ向けて息を拭いた。

「そういう訳にもいかない。私はその少女を連れて帰らないといけない。しかも、このような私に有利な土地で逃げ帰るなどココリーネに顔向けができない」
「確かに、ここはシルフが大量に吹き抜けてんな。だが大地も広がってんだ……」
「死んだ大地だがな」
「うっせーよ」
 何の話してるんだろう。
 ただ、ヒースがとぼされているのはわかって、ますます嫌な感じだ、と思った。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...