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31■ Surprise Attack 03 ■
しおりを挟む――エントランスのほうで何かが爆発する音がした。
そして、その後続いて爆音が、ドン、ドン! と正確に厨房の方へ近づいてくる。
うわあ! すごい音してる!
「あいつ! 応接室のドア壊しやがったな! 返事くらい待てないのかよ! おうち壊したらおじさん泣いちゃうぞ!」
「こ、この連続してるこの音なに!?」
「ガーゴイルが追跡して攻撃してる音だ! 早い! 来るぞ!」
「アドルフさん、やっぱりオレこいつつれて2Fへ退避します」
「プラム、ブラウニー、パントリーに隠し階段が――」
バン!!!!!
厨房の扉が開いて、制服姿の長身の男が滑るように侵入してきた。
室内なのに、ざあっと風が吹き込む。
何!? この人、宙に浮いてる!
「――見つけた」
男はそう言うと私を冷たい瞳で見据え、被っていた郵便局員の帽子を投げ捨てた。
薄黄緑色の長い髪が広がる。
……うっわ、顔が綺麗……というか、整いすぎて逆に怖い!!
そして耳長い!?
「な……エルフ!?」
ブラウニーが驚愕する。
「は……? 来るの早すぎだろ! くそ、風の精霊……厄介な!」
エルフ! 最近なんか聞いたやつ! ……か、風の精霊!?なにそれ!!!
ああああ、専門用語(実はかつて習った事がある)についていけない!
かつての船こいでた自分を殴りたい。いやだって田舎の日常生活には関係なかったし!!!
「シルフ、巻き起こせ」
男が冷酷な口調でそう言うと、厨房の中に風が吹き荒れた。
――空中に何かいる、風の精霊ってやつなのかな――私がそれを目で追った次の瞬間、
「ああっ?」
私は体がふわっと浮かびあがった。
「プラム!」
ブラウニーが私の手を掴んだ。
エルフがその掴んだ手に風をまとった手刀をおろして、私達を分断した。
「うぁっ!!」
ブラウニーが痛みに顔を歪めた。
「みーっ」
ブラウニーが風に吹き飛ばされて、厨房の壁に衝突――するかと思った時、
「ブラウニー!!!」
アドルフさんがブラウニーを受け止め、身を挺してその衝撃から庇った。
「みッ! みっ!」
マロがポロッとブラウニーから落ちて、厨房の床に転々と転がる。
「……ぐ…ッッ!」
「アドルフさん……!」
アドルフさんが、すばやく身を起こそうとして、脇腹の上を抑えた。
肋(あばら)をやられてる!?
だめ、ちょっと距離がある。
回復魔法を拡張して、癒そうとした時、私は風にあっというまに攫われてエルフに抱き抱えられた。
「ちょっと!?」
「手紙は読んだな? ――ココリーネがお前を待っている」
「プラム! 触んなこの野郎!」
「プラム……!!」
二人が叫ぶ。
ブラウニーがダガーを投げようとしたところ、アドルフさんが止める。
「こら……っブラウニー!! プラムに当たったらどうすんだ!!」
「そんなドジしない……ッ」
「冷静になれ! ここじゃ投擲は駄目だ、風で命中が逸らされる!」
何かあっても魔力変換で受けるから、気にしないで!!!と言おうとした所、エルフを追ってきたガーゴイルが一匹こちらに向かってきて、口を開いた。中に無数の鉄のつぶてが見える。
あ、こっちに発射する!
私は魔力変換で身を守ろうとしたけど――
「【Parking】、ガーゴイル!」
アドルフさんが叫ぶと、ガーゴイルは飛行をやめて、部屋の隅にとどまって石化した。
そのままアドルフさんは、すぐさま次の行動に移る。
懐から小瓶と紫色に光る小石を出して床に投げた。土と雑草が広範囲に散らばる。……土!?
「〚プラントバインド 02〛!!!」
アドルフさんはその上に手をついて命令するように叫んだ。
アドルフさんの指の隙間から――紫色の光が浮かび上がったかと思うと、雑草が起き上がり、またたく間に蔦となってエルフと私に絡みつかせた。
そして、私をエルフから引き剥がした。
アドルフさんすご!?
「なっ……。ドライアドとノームに錬金術で細かなオーダーを……邪道な。シルフ、切れ!」
エルフがまた風を起こす。
蔦は細かく裁断されてく。
「あっ」
私の蔦も切られた。落ちる……かと思ったら、風で浮かされてるから落ちない。
落ちたほうがマシだった! 地に足がつかないって何もできない!
エルフがこっち見た……いやだ!!
「……くそ、風は相性最悪だ…!」
アドルフさんが、痛みに顔を歪めながら、私のところへ走る。
エルフとアドルフさんが同時に私に手を伸ばす。
「マロ!!【Glider】【Fly】!……くそ、ここじゃ場所が狭い!!」
「みっ」
突如、ブラウニーとマロの声がして、ブラウニーが私を攫うように二人の間を飛び抜けた。
片腕で私をギュッと抱き寄せられる。手がわずかに震えてる。ああ、さっき風の手刀を落とされたから……。見なくてもわかる、きっとすごく腫れてる。……そうだ、アドルフさんはもっとひどい!
私はハッとして拡張回復をかけた。
ああ、なんでもっと早く気が付かないの。
「サンキュ」
少し笑顔してブラウニーが言った。
アドルフさんは、目が合うと笑顔で頷いた。
「ブラウニー、外にはでるなよ。ここは場所が悪いが、外に逃げたら風属性の思うつぼだ。秒でプラムを連れてかれるぞ」
「わかってます……!」
マロは、さすが飛竜の要素がある、といった感じで、私達をのせても風にうまく対応して、マロが跳ぶには狭い食堂をけっこうな速度で旋回する。
心臓が早鐘を打って身体が震えるつもりないのに震えてる。
私、この中で一番強い力を持ってるはずなのに……この間の教会みたいにまた動けないでいる。
どうやったらアドルフさんやブラウニーみたいに機転を効かせて動けるの。
「邪悪な……なんだそのキメラは。これだから錬金術師は」
エルフの顔が憎悪を浮かべる。
マロを邪悪扱い!? この人ひどい!
「はいはい、ナチュラル派のエルフさんに嫌われてるのは知ってますよ! ……だが、奇襲は失敗のようだな? 今日のところは帰ったらどうだ。ちゃんと玄関から出てけよー!」
ダメージから回復したアドルフさんは、小指で耳の穴をほじって、フッとエルフの方へ向けて息を拭いた。
「そういう訳にもいかない。私はその少女を連れて帰らないといけない。しかも、このような私に有利な土地で逃げ帰るなどココリーネに顔向けができない」
「確かに、ここはシルフが大量に吹き抜けてんな。だが大地も広がってんだ……」
「死んだ大地だがな」
「うっせーよ」
何の話してるんだろう。
ただ、ヒースがとぼされているのはわかって、ますます嫌な感じだ、と思った。
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