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29■ Surprise Attack 01 ■――奇襲

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 次の朝、目が冷めたら目の前にブラウニーの顔があった。
 まだよく寝てる。
 起こさないようにベッドを抜け出して、朝の支度をした。

 うーん、お城の朝って冷えるなぁ……。寒い寒い。

 朝ご飯の支度をしようと思ったけど、そういえば厨房どこだ……。
 昨日はお弁当買ってきて庭で晩ごはんを食べたんだった。

 アドルフさんも、久々に自分の家に帰ってきて、熟睡してるかもしんない。
 起こさないようにそーっと探そう。

 しかしお城なだけあって、部屋数多すぎる……。
 でも、改築したってとこだけ回ればいつかは見つかるだろう。
 ガーゴイルさん、私は泥棒じゃありませんよ~~。

 カチャ、と目についた部屋を開けた。

「あ」

 失礼しました。
 アドルフさんがベッドに突っ伏すように寝てました。頭にモチが乗ってます。上半身裸です、風邪ひきますよ。おつかれです。
 起こさないようにそーっと布団かけてあげようか。

「う……」

 アドルフさんが苦しそうに顔を歪めて、まるで悪夢でも見ているかのようにうめき声を上げた。

 念のため熱があるか見ようとしたら、ああー! バンダナと眼帯したまま寝てるよこの人!!
 こういうのって家で寝る時もするもんなの?

 ……そういえば、この眼帯、なんでしてるのかな?
 私が治せるようなものなら治してあげたいけど……。

 そう思いながら、アドルフさんが一番疲労溜まってるだろうし、とりあえず癒やしを……と手をかざしたら、ハッとした感じで私の手をギュッと握って飛び起きた。

「みっ」
「わっ」

 モチがベッドの上に転がって、片手を取られた私はバランスを崩して、アドルフさんの胸元に倒れ込んだ。

 のわー!

 上に何も着てない男性の胸に飛び込むのはさすがに心臓に悪い!

「はっ…、は………。あ…プラムか。うわ…最悪だ、これは、すまん……。腕は平気か?」
 アドルフさんはすぐに私を立たせてくれた。

「あ、腕は全然平気。私もごめんなさい、勝手に部屋はいって。ちょっと間違えちゃって。すぐ出ようと思ったんだけど、アドルフさんがうなされてたから心配になって、癒やしかけようと……」

「いや、全然構わないぞ。すまんな、心配かけて。おじさんは大丈夫だぞ」
 自分の髪をくしゃっとして微笑んだ。

 私はちょっとドキっとした。
 朝日の逆光に照らされたアドルフさんは、なんていうか…ちょっと魅せられる。
 改めて目に入ったアドルフさんの引き締まった身体には古傷でいっぱいだった。
 ……この人、かっこいいな。

 ブラウニー以外の異性にドキッとしたのは初めてかも知れない。
 これは勘違いしないでほしいから言うんですけどね、郡をぬいて美しく咲いた花を見たって感覚なんですよね。
 ついなんとなくエセ神父のマネしてしまった。

 それにしても、自分ではおじさんってよく言うけど、何歳なのかしら。どちらかっていうとまだお兄さん寄りだよね、この人。
 ホントになんで彼女できなry

「で、どした?どこ行きたかったんだ?」
「厨房に行きたかったんですけど」
「おう、飯作ってくれんのかな。オレも作ろう。一緒に行くわ。…顔だけ洗うからちょっと待っててくれ……あ、眼帯したまま寝てたのかオレ……」
 成る程、外し忘れだったのね……。お疲れ様です。

 眼帯とバンダナを外すと、すぐにさらりと銀髪が落ちて右目が隠れる。
 ……そういえば、ブラウニーの目の色とアドルフさんの左目の色、そっくりだな……。

 目の形も似てる気がする……とか思ったら、顔も喋り方も似ている気がしてきた。
 ブラウニーが大人になったらこんな感じ? まさか血繋がってたりしないよね。
 ……アドルフさんに妙に親近感湧くのって、これが原因かしら。

「そういえば、アドルフさん、右目はどうしたの?」
「ん? ああ、オレも知らないんだよ。子供の頃、このヒースで保護された時には既に無かったんだよ」

「な、ない?怪我とかじゃなくて?」
「おう。今は義眼いれてる。肩凝るんだよなぁ」
 あとで肩もみますね。

「『絶対圏』を使わずに欠損の怪我とか失った記憶とか……いつか治せるかなぁ」

『絶対圏』はきっと思うままに色々できる。
 けど、それを使わずに普通の聖魔法だけで色々しよう、となると勉強がかなり必要そうだ……。

「はは、親孝行してくれるつもり満々だな。別にこのままでいいから気にしないでくれ。
それに欠損や記憶の再生は結構難しいらしいぞ。えーっと……確か欠損の方は基本的には失った部分が必要だったような。……あまり魔法使おうとすると、厄介な奴らに見つかるぞ」
 頭をポンポンされた。

「う、うん」
 そうだった。……でも、恩返しとかしたいんだけどな。
 でも当人が必要ないっていうなら、他のことで何かするしかないなぁ。

「厨房はここだ」
 アドルフさんに連れられて、厨房へやってきた。
 うわ、広い。
 キッチン部分とカウンター挟んだ向こうは、壊れまくったイーティングスペースが見えた。
 昔はたくさんの人がここで食事したんだろうな……。

「っと、昨日食料ここに放り込んだままだったな。ちょっとパントリーに並べるわ」
見ると、床の上に昨日買った食料が無造作に置かれてる。

「あ、私やります」
「……」
 アドルフさんがこっちをじっと見た。
「?」
「昨日ブラウニーにも言ったから、おじさん察してくれたと思ってたんだけど、プラム、お前も敬語やめていけよ」
 デコピンされた。痛っ。

「お、おおおう」
「すまん、ちょっと強かったか」
「ひ、酷いよ、お、おとうさん……!」
「お父さんは禁止だ!!」
 私とアドルフさんはそこでひとしきり笑った――ところで。

 リーンリーン……


「え、なんの音?」
「うお、珍しい。来客だ。てか、昨日の今日とか、確実にお前関連だろうなぁ。やべ、オレいま丸腰だわ」

 ええ……。

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