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28■ A new chapter 05 ■
しおりを挟む食堂を出た後はバタバタと買い物して、荷物にトロッコつめて、おうちに帰ってきた。
……もう教会、じゃなくて『おうち』なんだ。寂しさと嬉しさが心に同居してる。
アドルフさんに1Fはアドルフさんの寝室やら仕事部屋その他色々で埋まってるから、2Fを掃除して使うようにと言われた。
さらにいうと、ブラウニーとの同室は却下された。
「お前らそろそろ年齡考えろよ……? 結婚しても15歳まではお父さんは許しませんよ」
自分ではお父さん言うし!!!
「ちっ」
「そこ! 舌打ちしない! 小さくやっても聞こえたぞ!?」
敬語はともかく、態度は完全に家族だな、うん。
というか、アドルフさんのさりげなさというか、ちょうどいい距離感が居心地良い。
私達の部屋は廊下を挟んで向かい同士になった。
そこからはバタバタ掃除して、とりあえずの掃除……寝れる場所だけは確保した。
本格的な掃除は明日からだ。
掃除が一段落した頃、アドルフさんがお風呂を沸かしてくれていたので、順番に入って、各自就寝した。
ここ数日、寝不足で移動してきて、今日も早朝から王都の城下町に行ったりして、自動回復があるとはいえ、流石に疲労が溜まってる。精神的なものかもしれないけど。
他の二人は今頃、熟睡してるかもしれない。
疲れているのに、目を開けると暗い一人きりの部屋。
旅の間は野宿でキャンプしてるみたいだったから気にならなかったけど……。
……あれ、一人で寝るなんて初めてじゃない?
子供部屋が恋しい。
いつもブラウニーのベッドが隣にあって、眠れない時はブラウニーの方を見たり、 他の子たちの寝息を聞いてた。
今は無音。
……こ、子供っぽいかもしれないけど、ぬいぐるみとか欲しい。
ブラウニーはマロという癒やしがそばにいるから……っていいなマロ! ブラウニーと寝れて!
しかもゼロ距離じゃない……、ああ、よく考えたら日中もゼロ距離じゃないの……なんてうらやま…
……いや、私は何にやきもちを焼いているの。
うわーん、やましい関係にはなりませんからとお願いしてブラウニーと同室にしてもらえないかなホント。
さびしいよ~…。
「ふう……」
ため息をついて起き上がった。
月明かりでうっすら部屋の荷物が浮かび上がって見える。
アドルフさんが女物がわからないからと洋服屋さんのおばさんに大量に選ばせた服がまだ荷ほどきしないで転がってる。
その他、靴とか身の回り品を、そんなにいらないよ、と言ったのに。たくさん買ってくれた。
「オレが! 娘に買い与えたいだけだ!」
……とか言ってたけど……お金結構使わせちゃったなぁ。
お仕事がんばろう……。
月明かりに誘われて、バルコニーにでた。
真正面の景色は、遠くまで山も川もなにもない雪つもる荒野が広がってる。
あるのは瓦礫とたまに吹く風と大きな月。そして満点の星空。
美しさと滅びが一つの風景に収まっている…ここはそんな……一つの滅んだ世界なんだな……。
気分転換できるかと思ったけど、寂しさが増した。
「プラム?寝れないのか?」
「あ」
……隣の廊下のバルコニーにブラウニーがいて、そこにおいてある椅子に座ってた。
「まだ起きてる?私もそこ行く」
返事を聞く前に小走りに廊下にでて、ブラウニーがいるバルコニーへ。
さっき別れたばっかりなのに、とても恋しかった。会いたかった。
「起きてたんだね」
テーブルを挟んで、ブラウニーの向かいに椅子があったのでそこに座った。
「おう。……実はお前が出てこないかなって少し待ってた。夜にお前の部屋入るのは禁止されちまったからな」
ブラウニーは苦笑した。
「教会では寝る前に、たまにお前と話してただろ。環境ががわりと変わって少し寝れなくて、な」
そういってブラウニーは月を眺めた。月明かりに照らされたその顔は少し寂しそうにも見えた。
ブラウニーも教会が恋しいのかもしれない。
私はテーブルに頬杖をついた。
「うん。私もブラウニーがいつも隣のベッドだったから、落ち着かなくて。……良いね、ここ、これからは寝る前に話したい時はここで会おうか」
「そうだな……よ、っと」
ブラウニーが椅子を近づけて横に来た。
そして、自分の頭をコツン、と私の頭にくっつけて目を閉じた。
「少し……こうさせてくれ。
なんかやっと落ち着いた感じがして」
「色々ありすぎてちょっと疲れたよね。きっとこれからはもうこんなに忙しないなんて事ないよ、きっと」
「部屋が分かれちゃったのは残念だね。ちっちゃな頃からずっとベッドが隣だったから、なんだか寂しいよ。チビたちももういないし」
私はブラウニーの手を取って、すこし癒やしの光を流した。
「サンキュ……しかし、部屋は分かれて良かったかも知れない、オレは」
え。どうして。
「私は寂しいよー。ブラウニーの姿が見えないし、皆の寝息ももう聞こえないし、まったく無音で……」
「うん、まあそれはそうなんだけどな……オレさ」
ブラウニーは私の手をとって、手のひらにキスした。
ちょっと、寝れなくなりますからやめてください。いや、やっぱりお願いします。
そのまま彼は目を閉じて、私の手を頬に当てた。
「……プラム。オレ多分、我慢できないから」
「え、何が?どうしたの?」
「……15歳までは多分我慢できない」
………えっ…と?
…………あ!!!
いや、たまに天然が入る私でも何を仰ってるかわかります……。わかりますとも。わかるんですけども…。
「……」
ブラウニーは目を開けて、真剣な瞳をこっちにまっすぐ向けた。
「ブラウニー…えっと」
「15歳までは何もない、とか思うなよ。……覚悟はしといてくれ」
ブラウニーが私の息の根を止めに来ている……!!!
ひょっとして昼間のあれ、弱冠本気入ってたんですかね!?
「た、タイム……私達はまだこど」
「(遮った)タイムなし。そうだ、子供だからな。当分はさすがにオレも誘わないから。だが、それはそれこれはこれだ。そこは心の準備期間に当てておくように」
す、スパダリ神からの厳しいお達しがきた!
ど、動揺しかない。
そして私はほんとに馬鹿だ。
考えてみたら15歳までまだまだ長い。
……ああ、なにもないことを維持できるわけがない、我々。
私だって、今は動揺しているけど、触れ合いたくない訳では無い。
ただ、ずっとまだ子供だから、まだ子供だから、とひたすら思い込んでいたから……
まだ遠い未来の話しだと……
ブラウニーが顔を近づけてきた。……口づけするのかと思って目を閉じたら、スルーされて耳をカプッと噛まれた。
「ふぇぁ!?」
「プッ、変な声」
わあ、そこで喋られたら息がかかるよ!
そのまま首筋を何回かキスされた。
「く、くすぐったいんですけ…んん」
そう言いかけたら、今度は口づけされて言葉を奪われた。
わかった、OK、疲れて私は夢を見ているんだ、なんて夢見てるのプラム。
ていうか教会を恋しく思ってた癖にこんな夢みてんの私? とか現実逃避しようと考えていたら
「いいか、これは夢じゃないからな……逃げるなよ」
わかられてる!? そして退路を絶たれた!
「……その時が来たら、絶対逃さないからな」
そういって抱きよせて耳元で囁かれた。
「うん、わかった、わかったよ……わからされましたよ……。うう、ブラウニーの摂取しすぎで私死ぬかもしれない」
「なんだよそれ」
ブラウニーが優しく笑った。
そして私はしん、とした一人の部屋に帰るのが、さっきよりもっと嫌になった。
「ブラウニー……今日だけ、一緒に寝ていい? 一人になりたくない」
「……そうだな。オレも同じ気持ちだ。今日くらいいいだろ。オレたちまだ子供なんだし、な?」
二人で少し笑った。
明日からは大人になるためにがんばろう。
私達はアドルフさんとの約束を破って、二人で一緒のベッドで眠った。
アドルフさん、ごめんなさい。今日だけ許して。
でもそこれは恋人同士というよりも、『二人きりになってしまった、きょうだい』としての気持ちがお互い強かったと思う。
ブラウニーは先に眠ってしまったけれど、その寝息が、私を落ち着かせた。
恋しいのはブラウニーだけじゃなかった。
先に卒業していった兄弟たちを思う。残してきたチビ達を思う。
ちょっとしか会えなかったケイリー神父を思う。
シスター・イラを思う。
少し涙がでた。
ああ、これは多分ホームシックってやつなんだね、きっと……。
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