そのヒロインが選んだのはモブでした。

ぷり

文字の大きさ
上 下
28 / 149

28■ A new chapter 05 ■

しおりを挟む

 食堂を出た後はバタバタと買い物して、荷物にトロッコつめて、おうちに帰ってきた。
 ……もう教会、じゃなくて『おうち』なんだ。寂しさと嬉しさが心に同居してる。

 アドルフさんに1Fはアドルフさんの寝室やら仕事部屋その他色々で埋まってるから、2Fを掃除して使うようにと言われた。
 さらにいうと、ブラウニーとの同室は却下された。

「お前らそろそろ年齡考えろよ……? 結婚しても15歳まではお父さんは許しませんよ」
 自分ではお父さん言うし!!!

「ちっ」
「そこ! 舌打ちしない! 小さくやっても聞こえたぞ!?」
 敬語はともかく、態度は完全に家族だな、うん。

 というか、アドルフさんのさりげなさというか、ちょうどいい距離感が居心地良い。

 私達の部屋は廊下を挟んで向かい同士になった。

 そこからはバタバタ掃除して、とりあえずの掃除……寝れる場所だけは確保した。
 本格的な掃除は明日からだ。
 掃除が一段落した頃、アドルフさんがお風呂を沸かしてくれていたので、順番に入って、各自就寝した。

 ここ数日、寝不足で移動してきて、今日も早朝から王都の城下町に行ったりして、自動回復があるとはいえ、流石に疲労が溜まってる。精神的なものかもしれないけど。
 他の二人は今頃、熟睡してるかもしれない。

 疲れているのに、目を開けると暗い一人きりの部屋。
 旅の間は野宿でキャンプしてるみたいだったから気にならなかったけど……。
 ……あれ、一人で寝るなんて初めてじゃない?

 子供部屋が恋しい。

 いつもブラウニーのベッドが隣にあって、眠れない時はブラウニーの方を見たり、 他の子たちの寝息を聞いてた。
 今は無音。

 ……こ、子供っぽいかもしれないけど、ぬいぐるみとか欲しい。

 ブラウニーはマロという癒やしがそばにいるから……っていいなマロ! ブラウニーと寝れて!
 しかもゼロ距離じゃない……、ああ、よく考えたら日中もゼロ距離じゃないの……なんてうらやま…
 ……いや、私は何にやきもちを焼いているの。

 うわーん、やましい関係にはなりませんからとお願いしてブラウニーと同室にしてもらえないかなホント。
 さびしいよ~…。

「ふう……」
 ため息をついて起き上がった。

 月明かりでうっすら部屋の荷物が浮かび上がって見える。
 アドルフさんが女物がわからないからと洋服屋さんのおばさんに大量に選ばせた服がまだ荷ほどきしないで転がってる。

 その他、靴とか身の回り品を、そんなにいらないよ、と言ったのに。たくさん買ってくれた。
「オレが! 娘に買い与えたいだけだ!」

 ……とか言ってたけど……お金結構使わせちゃったなぁ。
 お仕事がんばろう……。

 月明かりに誘われて、バルコニーにでた。
 真正面の景色は、遠くまで山も川もなにもない雪つもる荒野が広がってる。

 あるのは瓦礫とたまに吹く風と大きな月。そして満点の星空。
 美しさと滅びが一つの風景に収まっている…ここはそんな……一つの滅んだ世界なんだな……。
 気分転換できるかと思ったけど、寂しさが増した。

「プラム?寝れないのか?」

「あ」
 ……隣の廊下のバルコニーにブラウニーがいて、そこにおいてある椅子に座ってた。
「まだ起きてる?私もそこ行く」

 返事を聞く前に小走りに廊下にでて、ブラウニーがいるバルコニーへ。
 さっき別れたばっかりなのに、とても恋しかった。会いたかった。

「起きてたんだね」
 テーブルを挟んで、ブラウニーの向かいに椅子があったのでそこに座った。

「おう。……実はお前が出てこないかなって少し待ってた。夜にお前の部屋入るのは禁止されちまったからな」
 ブラウニーは苦笑した。

「教会では寝る前に、たまにお前と話してただろ。環境ががわりと変わって少し寝れなくて、な」
 そういってブラウニーは月を眺めた。月明かりに照らされたその顔は少し寂しそうにも見えた。

 ブラウニーも教会が恋しいのかもしれない。
 私はテーブルに頬杖をついた。

「うん。私もブラウニーがいつも隣のベッドだったから、落ち着かなくて。……良いね、ここ、これからは寝る前に話したい時はここで会おうか」
「そうだな……よ、っと」

 ブラウニーが椅子を近づけて横に来た。
 そして、自分の頭をコツン、と私の頭にくっつけて目を閉じた。

「少し……こうさせてくれ。
 なんかやっと落ち着いた感じがして」
「色々ありすぎてちょっと疲れたよね。きっとこれからはもうこんなに忙しないなんて事ないよ、きっと」

「部屋が分かれちゃったのは残念だね。ちっちゃな頃からずっとベッドが隣だったから、なんだか寂しいよ。チビたちももういないし」
 私はブラウニーの手を取って、すこし癒やしの光を流した。

「サンキュ……しかし、部屋は分かれて良かったかも知れない、オレは」
 え。どうして。
「私は寂しいよー。ブラウニーの姿が見えないし、皆の寝息ももう聞こえないし、まったく無音で……」
「うん、まあそれはそうなんだけどな……オレさ」

 ブラウニーは私の手をとって、手のひらにキスした。
 ちょっと、寝れなくなりますからやめてください。いや、やっぱりお願いします。
 そのまま彼は目を閉じて、私の手を頬に当てた。

「……プラム。オレ多分、我慢できないから」
「え、何が?どうしたの?」

「……15歳までは多分我慢できない」

 ………えっ…と?
 …………あ!!!
 いや、たまに天然が入る私でも何を仰ってるかわかります……。わかりますとも。わかるんですけども…。

「……」
 ブラウニーは目を開けて、真剣な瞳をこっちにまっすぐ向けた。

「ブラウニー…えっと」
「15歳までは何もない、とか思うなよ。……覚悟はしといてくれ」
 ブラウニーが私の息の根を止めに来ている……!!!
 ひょっとして昼間のあれ、弱冠本気入ってたんですかね!?

「た、タイム……私達はまだこど」
「(遮った)タイムなし。そうだ、子供だからな。当分はさすがにオレも誘わないから。だが、それはそれこれはこれだ。そこは心の準備期間に当てておくように」
 す、スパダリ神からの厳しいお達しがきた!

 ど、動揺しかない。
 そして私はほんとに馬鹿だ。
 考えてみたら15歳までまだまだ長い。

 ……ああ、なにもないことを維持できるわけがない、我々。
 私だって、今は動揺しているけど、触れ合いたくない訳では無い。
 ただ、ずっとまだ子供だから、まだ子供だから、とひたすら思い込んでいたから……
 まだ遠い未来の話しだと……

 ブラウニーが顔を近づけてきた。……口づけするのかと思って目を閉じたら、スルーされて耳をカプッと噛まれた。
「ふぇぁ!?」
「プッ、変な声」
 わあ、そこで喋られたら息がかかるよ!
 そのまま首筋を何回かキスされた。

「く、くすぐったいんですけ…んん」
 そう言いかけたら、今度は口づけされて言葉を奪われた。

 わかった、OK、疲れて私は夢を見ているんだ、なんて夢見てるのプラム。
 ていうか教会を恋しく思ってた癖にこんな夢みてんの私? とか現実逃避しようと考えていたら

「いいか、これは夢じゃないからな……逃げるなよ」
 わかられてる!? そして退路を絶たれた!

「……その時が来たら、絶対逃さないからな」
 そういって抱きよせて耳元で囁かれた。
「うん、わかった、わかったよ……わからされましたよ……。うう、ブラウニーの摂取しすぎで私死ぬかもしれない」
「なんだよそれ」
 ブラウニーが優しく笑った。

 そして私はしん、とした一人の部屋に帰るのが、さっきよりもっと嫌になった。

「ブラウニー……今日だけ、一緒に寝ていい? 一人になりたくない」
「……そうだな。オレも同じ気持ちだ。今日くらいいいだろ。オレたちまだ子供なんだし、な?」

 二人で少し笑った。
 明日からは大人になるためにがんばろう。

 私達はアドルフさんとの約束を破って、二人で一緒のベッドで眠った。
 アドルフさん、ごめんなさい。今日だけ許して。

 でもそこれは恋人同士というよりも、『二人きりになってしまった、きょうだい』としての気持ちがお互い強かったと思う。
 ブラウニーは先に眠ってしまったけれど、その寝息が、私を落ち着かせた。

 恋しいのはブラウニーだけじゃなかった。

 先に卒業していった兄弟たちを思う。残してきたチビ達を思う。
 ちょっとしか会えなかったケイリー神父を思う。
 シスター・イラを思う。

 少し涙がでた。

 ああ、これは多分ホームシックってやつなんだね、きっと……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

紀尾井坂ノスタルジック

涼寺みすゞ
恋愛
士農工商の身分制度は、御一新により変化した。 元公家出身の堂上華族、大名家の大名華族、勲功から身分を得た新華族。 明治25年4月、英国視察を終えた官の一行が帰国した。その中には1年前、初恋を成就させる為に宮家との縁談を断った子爵家の従五位、田中光留がいた。 日本に帰ったら1番に、あの方に逢いに行くと断言していた光留の耳に入ってきた噂は、恋い焦がれた尾井坂男爵家の晃子の婚約が整ったというものだった。

災難続きのその後で

MOMO-tank
恋愛
それは母が執事と財産を持っての駆け落ちから始まった。 長年の婚約者との婚約解消。 騙され、残りの財産を失い、騎士団長だった父は病に倒れた。 私を売ろうとする次期当主となった、きな臭い父の義弟から逃げたものの、一文なし。 『上手い話には裏がある』誰かが言ってたっけ。 高待遇に目が眩んだ私は自分と同じオッドアイの持ち主、今をときめく舞台役者アントニオの影武者を演じることになるが、災難はなおも・・・? ミステリアスな舞台役者アントニオ、元婚約者ハーバード伯爵令息、そして、第一騎士団ブラッドリー・マイヤーズ隊長。 私を取り巻く環境は変化して行く。 ジュリアナ・アッシュフィールド。 一応伯爵令嬢。 災難続きの私に平穏な日々は、幸せは訪れるのか。 ご都合主義、作者の想像上、軽いタッチのお話となります。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ
恋愛
彼とは長年付き合っていた。もうすぐ薬指に指輪をはめると思っていたけれど、久しぶりに呼び出された寒い日、思いもしないことを言われ、季節外れの寒波の中、帰途につく。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

処理中です...