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24 ■ A new chapter 01 ■――新生活

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 まんじゅうちゃん達のおかげで、ヒースへは普通なら10日近くかかる所を5日でついた。
 すっごく早いね。

 ヒース領は、アドルフさんの言った通り、おそらく荒野。
 今は雪が積もっているから一面真っ白だ。
 まんじゅう達に乗ってなければ足跡がついちまうとこだったなー、とのんきそうにアドルフさんが言ってた。

 まんじゅうちゃん達は作物等にわずかに混じってる魔力で飛んだりできるらしい。
 でも空気抵抗や風も利用するので微々たる魔力で事足りるらしい。
 なんという良コスパ。

 道中、彼らの名前で少々トラブルがあった。

「商品化しようかと思ったんだけどなあ。多分新しい法整備とか王宮が考えないといけなくなりそうだし、それに関わるとなると自由がなくなりそうだから……。あとこいつら悪用されたくないし……」
 とアドルフさんはブツブツ言ってた。

 そんなに可愛がってるなら名前ちゃんと考えてあげてくださいよ!
 ブラウニーもアドルフさんもまんじゅうまんじゅうって! 言いにくいし!

「うーん、モチ……とかか?」
「そうだなぁ……マシュマロっぽいから、マロ……とか」

 食べ物からはなれて!? なんでみんな食べ物からつけようとするの!?
 特にブラウニー、あなたエセ神父に名付けの話聞いてちょっと怒ってたことあったでしょうに!

 ああでも、マロは可愛いかも。ブラウニーの方の子はマロちゃんで決まり。
 しかしモチはないモチは。
 私の独断と偏見ですがね。

「マロ採用。モチは要再考です」
「なんだと……じゃあ、モッチ」
「駄目です」
「ブラウニー……」
ブラウニーに助けを求める視線を送るが、目を逸らされる。
うん、ブラウニーもあまり変わらないものね。

 結局、アドルフさんにはそれ以上のインスピレーションは降りてこず、結局『モチ』になった。
 本人たちが決めた名前じゃないと意味ないと思ったので、それ以上の介入はやめた。


「ところでアドルフさん。広いとは聞いてましたが……」
「うん、広いだろ」
「城クラスのでかさとは聞いてないです!!!」
「いや、だって王宮に比べたら小さな屋敷だし……」

 魔王軍に破壊されたのか、ボロボロの城。それが眼前に広がっていた。でかい。

「……そういえば設備が整ってるっていってましたけど」
「おう、さすがに一部は改築してるぞ。屋敷に入って、すぐのところを改築してるから、運の良い泥棒でも入って荒らされて無きゃ、すぐ住めるぞ。カビは生えてるかもしれんが」
「運の良い泥棒!?」
「てっきり全部掃除しないといけないかと……」

 ブラウニーと私の反応が違った。
 えっ…。

「まさか。暇があれば探検してみるといいさ。壊されてても色々見どころはあると思うぞ。えっとなプラム、セキュリティかねて留守番させてたキメラやガーゴイルがいるんだ。だからそんじょそこらの泥棒は撃退する。あ、ガーゴイルっていうのはうちの家が代々作ってる石像の魔物で、家を守らせるに向いててな」

「……そ、そうですか」
「あとでお前ら『登録』するからな。しないと、この家の番人に殺されるからな」

 ひぃ……。

「さてとまずは、プラムのアミュレットだ」
 アドルフさんは屋敷の扉に鍵を差し込んで、扉についている手形の絵が描かれた額縁に手を合わせた。

「おまえらも、これ。手を合わせてくれ。とりあえず客人として通す」
 どういう仕組なんだろう……。
 言われた通りにして、中に入る。びくびく。ちゃんと認証されたかな。泥棒じゃないですょー……。

「そんな状態悪くなってないな。えっと研究室はあっちだったな」
 踏みしめる絨毯は、ところどころ血が染みている……。
 泣きそうな顔してたからか、ブラウニーが手を引いてくれた。うわーん、大好き。

 アドルフさんが研究室の部屋を開けた。薬っぽい匂いが流れでてきた。

「えーっと、在庫関係はこっちだったかな。よし、荒らされてない。泥棒はいった形跡ないな」
「ここに来るまでに稼働してるガーゴイル10体はいたじゃないですか。泥棒入れませんよ」
「そんなにいたの!?」

 いたっけ、石像……わからなかった。心強いような、怖いような。

「あったあった。ペンダントが失くさなくていいな。隠せるし。プラム、ほら、つけてみろ」
 アドルフさんが、アミュレットをくれた。

「プラム、つけてやるよ」
 ブラウニーが私の手のひらのアミュレットをひょいっと持ち上げた。
「う、うん」
 ……つけて、ブラウニーやアドルフさんの態度が変わったらどうしよう、と不安になった。

「プラム、大丈夫だ。言ったろ、オレを信じろ」
 つけながらブラウニーが耳元で囁いた。
 ブラウニーはきっと何回も言ってくれるんだろうな……優しい。

「できた。アドルフさん、数値はどうですか」
「おう、ばっちし。プラム、これからは変なやつに絡まれる回数減ると思うぞ。良かったな」
「はい……! ありがとうございます!」
「これで余計な虫が減るのか……」
 なにやらちょっとごきげんそうなブラウニー。

「……」
 私はブラウニーとアドルフさんをじっと見た。

「ん?」
 ブラウニーが優しく微笑んだ。
「どうした? なんか気分悪くなったりしたか?」
 アドルフさんは屈託ない笑顔だ。

「……ううん。なんでもないの、大丈夫です」
 私はアミュレットをぎゅっと握った。
 よかった……何も変わってない。

「よしよし。さてと、今まだ早朝だし。早速王都へいこう。役所に報告をしちまいたい。モチたちに乗ってけばすぐだしな」
 い、いよいよだ。

「王都は賑やかで楽しいぞ。市場もあの田舎町より断然規模がでかいしな。役所報告が問題なく終わったら、昼飯食って。お前らの寝具やらなんやら買い出しして。夕飯買って屋敷に帰ろうぜ」
「はい!!」

 役所は怖いけど、買い物っていわれるとウキウキする。



 ヒース城の周りにはアドルフさんが再生させた森がある。
 不思議な感じのする蒼い森。たまに蛍のような光が飛んでる。
 葉の色や雰囲気が普通の森とはなんだか違う。

 アドルフさん曰く、錬金術で無理やり再生したから、アドルフさんの好みが入ったりして、
 人工チックになるんだそうだ。
 神秘的に感じるようで、これって人工的なんだ。

「外に線路あったの見たか? 王都に続く道にトロッコ作ってんのよ。ガラガラ~っと乗ってくからな」
「見ましたけど、アレ、自分一人で作ったんすか……?」
 ブラウニーが感嘆まじりの声で言った。

「おう、頑張っただろう、オレ」
「すご!?」

 アドルフさんのDIY力がすごい……割とすんなり王都との国境についた。




 ヒース領と、王都の間には高くメッシュフェンスで区切りがされていた。
 ところどころ看板があり、立入禁止と書かれている。
 フェンスの扉をくぐり抜けながら、それを眺めていたらアドルフさんが看板のホコリを払いながら言った。

「たまに侵入してきて中に住もうとするやついるんだけどな。そういうヤツは大抵訳ありだからオレは放置してたんだけど、たまに国の治安部隊の見回りで連れ戻されるな。一応不法侵入だから。この扉、一応関所な。見張りもいないけど」
 アドルフさんは苦笑した。

「オレん家以外は本当に何もない死んだ土地だから。作物も育たないし。水もない。動物も虫もいない。さらに悪い噂も流れてな。異界のゲートがまだ開いてるとか瘴気だらけだとか……まあそんな感じで人が寄り付かない。稀にもの好きが瓦礫の山に宝探しにくる連中もいるけどな。そういう奴らは排除するようにガーゴイルやゴーレムに命令してる。……できるだけ骨は拾ったが、ようは瓦礫すべてが墓みたいなもんだからな」

「……どうしてそんな事に」
 アドルフさんは飄々と語っているが、聞いていて胸が痛い。
 おそらく教会での出来事の何倍もの酷いことがここであったんだろう。

 どれだけの方が亡くなられたのだろう。
 落ち着いたら、瓦礫の街へお祈りへ行こう……。

「正直言ってわからない。たまたま目についたのか、魔王が住む異界からの出入り口(ゲート)がここに偶然開いただけかもしれないし……ヒース領に何か気に入らないものがあったのかもしれない、とかオレも散々考えたけどな。魔王にしかわからんことだな、それは」

「魔王軍がヒース領に来たのって、何年前でしたっけ」
 ブラウニーが聞いた。

「ん~…もう10年くらいにはなるかな」
「アドルフさんだけ生き残ったんですか?」

「いや、ヒース領にその時いなかった奴らはオレ含めて生きてたよ。
 でもまあ、こんな事になったら土地を離れざるを得ないよなっていう」

「最初はオレも復興がんばったのよ? でも途中でやめたな。キリがなくてな。こんなとこじゃ嫁もこないし、それじゃ後継者も作れない。親戚全滅だからヒース家の血を継ぐ養子も得られなかったしな。それならオレの代で終わりでいいや、とも思って、引越し先探してのんびり旅してたんだよな」

「てっきりレインツリーの出身かと思ってました」
「そういやあの街には長い間居たなぁ。途中からお前のインターン引き受けて……だらだらと居着いた。レインツリーは良い街だった」
 ブラウニーの頭をぽんぽんとした。
 ブラウニーがうれしそうな顔をした。
 仲良いなぁ。

「こんな領地でも爵位返上しないで置いといてよかったよ。とりあえずお前らの役に立ちそうだし」
 柔和に微笑むアドルフさん。

「……できるかわからないけど、私、土地の浄化やってみましょうか?」
 って私が言うと、アドルフさんが首を横に振った。

「ありがたい話だがやめておこう。強い力は観測所に感知される。……それに豊かな土地になってみろ、あちこちのお偉いさんが搾取しようとやってきてめんどくさいぞ。豊かになったら様々な人間が流入して賑やかになるかもしれんが…それはうちの領地の復興ではなくて、ただの新しい街の誕生だからな。そうなるなら、オレが領地を手放してからが良い。それともお前ら、オレの後継ぐか?」

「それも悪くないですね」
 ブラウニーが言った。私も横で頷いた。

「まじか。いや、冗談だ、やめとけ。……ほとぼり冷めたら、どこか暮らしやすい街探して引っ越そうぜ」
 アドルフさんは手をひらひら。

「それでもいいです、アドルフさんとこれからも仕事できるなら」
「私もアドルフさんと一緒がいいです」

 ブラウニーのアドルフさん大好きっぷりが伝わってくる。
 私もアドルフさん好きだなぁ。

「嬉しいこといってくれるな、お前ら」
 アドルフさんが照れくさそうに、私達の頭をワシャワシャした。

「ちょっとやめてくださいよ」
 ブラウニーが笑って帽子を抑える。
 ああ、これからこんな風に三人で笑い合って生きていきたい。幸せだ。



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