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17 ■ LOVE IS POWER 02 ■

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「……よ、よし。私も」
 私はその場に膝をついて、手を組んだ。
 魔物の気配に気を配りながら、回復を。難しいけど頑張る。

 祈るように目を閉じて魔力を高めて範囲を広げる。
 その時。

「プラ、ム……」
 その声に振り返ると、ブラウニーがいつの間にか目を覚ましていた。

「ブラウニー! 目がさめたの?大丈夫?」
「問題ない… …っ」
 ブラウニーが胸を抑えて立ち上がろうとする。

「ちょっと、寝てなきゃ……」
「神父は……あいつ……はオレが責任もって殺す… …うっ」
 ブラウニーが転んでベンチから落ちた。

「無茶しないで! 責任って、ブラウニーのせいじゃないでしょ……?」

 ブラウニーが衰弱してる。
 辛いのはブラウニーなのに私が泣きたい……速攻で回復したい衝動にかられるけど、今は全員を癒やさなきゃならない。

「いや……教会がこんな事になったのはオレのせいだ……オレがあいつに、神父に……、余計な事をしたから……! まさか、皆を巻き込んで、こんな……!! 今になってわかった、あいつ、オレを殺さなかったのは、これがやりたかったんだ。オレにこの光景を見せようと……っ」

 ――雪の上にパタパタとブラウニーの涙が落ちた。

「――――」
 ブラウニーが泣いてる……。
 ……胸がザワついた。

「ブラウニー。 何があったかは詳しくしらないけど、絶対ブラウニーのせいじゃないよ! ……こんな事する神父が全部悪い!」

 私は心の底から腹が立ってきた。
 あのブラウニーが弱って泣いてる。

 私の大事なブラウニーを泣かせた。傷つけた。許せない。
 私はブラウニーにぎゅっと抱きしめた。

「ブラウニーをいっぱい傷つけた事、許せない……絶対絶対、許せないよ」

「絶対……!」

 そう思った瞬間、何かが『視える』と思った。
 目を伏せると――

 ―― connected connected connected connected ―――

 眼裏に知らない文字模様が浮かび上がる。


 ――― the Sacred  ―――

 ――― the Absolute ―――

 よくわからない文字模様が鎖になっている。
 ――これが必要だ。

 私は衝動に駆られて、それらに手を伸ばし引きちぎり、その向こうにある白く大きな光に触れた。

 身体の中から何やら強い魔力が湧き上がってきた。

「……プラム?! どうした?!」

 ブラウニーの声に開眼する。
 それが引き金となって莫大な聖光への塊となった。

「――う――」
 ブラウニーのうめき声が聞こえた。ごめん、ちょっと眩しかったかも。すぐなんとかするね。

 私はそれを操って、身体の中から一気に教会周辺に解き放った。光が四散する。夕暮れに真昼のような光をもたらし塗り替える。

 ――ここはもう聖光秘めたる地。
 もうこの辺り一体、一匹たりとも魔物も魔族も入れやしない。

 教会の敷地内に白い花が咲き誇る。
 教会にある木すべてが満開になり全て同じ白い花が咲いては散り花びらが、瘴気を埋め尽くす。
 教会の屋根にも、廊下にも、みんなの部屋も聖堂もみんなみんな、花が生まれては瘴気に触れて消していく。
 それが私の頭の中にはくっきり視えている。

 教会の中でアドルフさんがあんぐりした口を開けてるのも視えた。
 そしてシスター・イラやチビたちが倒れてるのも視えた。

 許せない。

 ――絶対治す。治してやる! 嫌だって言っても治す、死んでたって生き返らせてやる!!!
 ここにある私の大事なものすべて!!

 私は、誰一人残さず淡い光で包み込んだ。
 チビたちも、シスター・イラも、そこで倒れてるロベリオも、抱きついてるブラウニーも。
 全部元通りにして……ブラウニーをこれ以上泣かせるもんか……!

 ――そして、視つけた。

 神父。
 自室で、楽しそうにこの状況を視て笑ってる。

 ――許さない。

「ブラウニー……」
 ……私は全身を光り輝かせながら、ブラウニーの頬に手を伸ばし、涙跡を拭いた。
 
 ブラウニーは私の様子に目を見開き続けている。
 そんな彼に、私の聖光が伝播する。

 ――ブラウニーの髪が銀色に染まった。
 あら、こんな事になるなんて。やだブラウニー、ダークブラウンの方が私は好きだけど、その髪色も似合うわ。


 ブラウニーには今、私の『力』が伝播している。

 ――私が許可した。

 賢しい彼はきっともう理解してるはずだ。
 自分に今何ができるのかを。

 私の力をその身に降ろすといい。
 私の力を存分に使ってほしい。
 愛する君に。

「プラム、お前……。大丈夫、なのか? ……髪色が変わって違う人間みたいだぞ」
 ブラウニーは目を見開いて私を見ている。ああ、そうか私もそうなってるんだ。

「何が?や だ、そんなじっと見ないで……は、恥ずかしいよ」

 私は照れた。
 だってブラウニーにそんなに見られるなんて。
 見てほしいけど見てほしくない。いや、やっぱ見て欲しい。

「……大丈夫そうだな。なんか肩の力抜けたわ」
「そう? それは良かった」

 私はクスっと笑って、軽くブラウニーにキスをした後、彼の手を引いた。

「……行こう、あいつ一緒に殴りに行こう。というか私は殴り方わからないから、ブラウニーに殴ってほしい」
 ホントはブラウニーの視界にもうアイツ入れたくないけどしょうがない。
 ブラウニーはここでアイツを一発でも殴れないと、いつまでも重い責任背負い込むだろうから。

「……そか」
 ブラウニーは困ったような顔で微笑んだ。
「……よし、わかった、行こう!」
 ブラウニーは一度だけ深呼吸して、繋いだ私の手をギュッと握り返した。

「うん、じゃあ『跳ぶ』ね」
 私はニコリと微笑むと、一気に神父の部屋へテレポートした。
「なっ!?」
 ブラウニーと神父が同時に驚嘆の声を上げる。

 びっくりさせてごめん。
 ブラウニー。私ね。今は君が望む事なら全て出来る気がするの。

「びっくりしたあ。プラム、今度からはドアから入ってくるんだよ? そしておかえりブラウニー。
そんなに血相かえて、何かあったのかな?相談の……っ!?」

 ブラウニーは、魔力変質し、無言でいきなり殴り飛ばした。
 神父は吹っ飛んで、壁を突き抜けて教会の庭へと転がった。

 ブラウニーと私はあいつを追って、庭へ出た。
 私は、聖光輝く壁を出現させて、私達の3人の周りを取り囲んだ。

 教会に被害を出さないように。
 もとい、神父を逃さないために。

「もうあんたに用はないって思ってたんだけどな……」

「よくもチビ達まで巻き込んだな……!」
 ブラウニーの怒りが伝わってくる。

 ブラウニーは、淡々としてるようで愛情深い人だから。
 チビたちの面倒もいっぱい見てた。めちゃめちゃ好かれて頼られてた。
 たまに怖いけどみんなの大好きなお兄ちゃんなのだ。

 ヤツにはそれがよくわかっているのだ。
 ブラウニー自身を直接傷つけるよりも、周りの人間を危機に晒したほうがブラウニーに効くってことが。
 まったくとんでもない事してくれる。

「チビ達だってあんたを慕ってたのに……」
 ブラウニーは侮蔑の表情で神父を見下ろす。

「ガハッ……これは、なかなかきついね。ブラウニー? 今更何を言ってるの? そんなに僕のことが好きだったのかなー?」
 顔が曲がった神父は、それでもクスクス笑っている。

 あの力で殴り飛ばして顔曲がるだけなんて計算違いだわ。
 一撃で頭吹っ飛ばせるとおもったのに。しかもまだ話せるんだ。

「ブラウニー…一発じゃ終わらなかったね。……こいつどうしようか。どうしたい?」
「あまり長引かせたくない。できれば次で終わりにしたい。プラムはそれでいいか?」
「もちろん」

「僕を殺す気なんだね。まさかプラム、『絶対圏』にアクセスするとはね…。ハア……、ハア……
それ、シスター・イラの言うゲームで言えば終了間近でやること……だよ?あははは……さすがに『絶対圏』から出力された魔力で迫られたら僕はやられる一方だね……残念だね……」

 なるほど、さっきのあれってそういう場所なんだ。
 なんだったんだろ、とは思ってた。別にそんな情報いらないけど。

 ブラウニーが、また無言で神父を蹴り飛ばし、神父が聖光壁に衝突する。
 すかさずダガーをすべて、宙に浮かせた。

 そう、できるよ。すべてブラウニーの望みのままに。
 私がやらせてあげる。
 ダガーは聖光を帯びると、そのまま光の槍になり、全て神父に突き刺さった。

「ア”ア”ッ…」
 私もブラウニーもあんたからはもう一言も言葉を聞かされたくない。
 断末魔すら、聞きたくない。
 さあ、消そう、そう思った時に神父が吠えた。

「う、、うふふふ……。嬉しいなぁ。プラムが成長してくれて僕は嬉しいよ!ホントにね! でも残念なのは、やっぱりブラウニーを選んだことだよ? これはね、絶対惜しかった!って思うから言うんだけどね。
これがブラウニーじゃなくて! 攻略対象だったら! ゲームの最終段階なら!! ――僕は最初の一撃で死んでる!!!」

 まるで殺される事が嬉しい、と告白された気分だ。
 そしてこんな最後までブラウニーを軽んずる言葉を吐いてきた。

「だから」

「……だからなんだってんだよ!!!」

 次の瞬間、ブラウニーはショートソードを引き抜いて、迷いなく神父の額に突き刺した。

「――――」

 ――最後に歪んだ顔でニコリと笑って、その体からは大量の黒い瘴気が爆発するかのように四散した。そして神父はピクリとも動かなくなった。
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