そのヒロインが選んだのはモブでした。

ぷり

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12 ■ Who are you? 01 ■――あなたはだれ?

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「グリーズリーの指を折った!? ……プッ!!! アッハハハ!」
 ……どうしよう、神父様が壊れた。
 神父様がお腹を抱えて涙流して笑ってる。

 夕食の後。
 今日あったことをブラウニーと二人で神父様に報告へ来ているのだけど。

「……そんなに笑うことですか?」
 ブラウニーが冷めた目で神父様を見つめながら言った。

「ごめんごめん。以前プラムに屈強なおじさんくらい、ひとひねりにできるようになりなさいって言ったんだけど、まさか熊の指をひとひねりしてくるとは思わなかったからね……わあ、面白……じゃなかった、がんばったね」

 今、面白いって言おうとした!!!
 なんだか、神父様の私の中の評価がダダ下がってくんだけど……。

「全く面白くないです。とっても怖かったんですから」
「まあ、そりゃそうだよね。今まで稽古だけでいきなり実戦になっちゃったんだから。
ブラウニー、ご苦労さまだよ」

「オレは戦わせるつもりまったくなかったんですけどね」
 少しそっぽむいたブラウニー。

 やっぱりまだ気にしてる。
 でも、守ってくれようとする気持ちが嬉しくて、
 なんとなく私はブラウニーの袖口をきゅ、と掴んだ。

 ブラウニーがそれに気づいて、そっぽ向くのをやめて私の方に微笑んでくれた。
 あああ、ほんわかする。

「……。まあ、作戦通りにはいかないものだよ。大丈夫だよ、そのうちプラムはもっと強くなるから。
そしたら――うん、まあいいや。ところで、冒険者の人に君たちの保護者になってもらうことにしたんだよね」
 神父様が何故か不機嫌な顔になりながら言った。

「あ、その件なんですが。アドルフさんから聞きました。熊倒したあとにちょうど会ったので。
神父様、いくらなんでも勝手に決めないでください」
 ブラウニーも不機嫌な顔になった。

「ほんとですよ、神父様。アドルフさんはブラウニーから良い人だって前から話しには聞いていたし、実際アドルフさんの印象は悪くなかったけど……私達の意見を聞いてくれても良かったんじゃないです?」

 私もそれは言いたかったので言う。
 いくら神父様でもルールってもんがあるでしょう、と。

 すると神父様は深いため息をついて言った。
「……あのね、君たち。お手々繋がないと話しできないの?」

 はっ。

 気がついたらブラウニーと手つないでた!
 私達はバっと同時に手を放した。

「こ、これは……その、無意識に……その」
 私は真っ赤になってしどろもどろ。

「失礼しました」
 ブラウニーはしれっと答えた。

 神父様の顔が怖くなった。

「そんなだから、君たちには保護者が必要だって事だよ。あーリア充やだやだ。
今日だってどうせイチャついて初動失敗したんだろう?」

 それは痛い所を突かれた……でも、それより神父様の喋り方が辛辣なのが気になる。
 神父様、ホント最近どうしちゃったの……。

「これからは気をつけます。ただプラムと二人で話し合った結果、アドルフさんが保護者になるのは了承しました。オレもまだ彼について学びたかったし、なにより信用してます」

 ブラウニーが無表情になった。
 ――なにか、彼の中で区切りをつけたような印象を感じる。

「そ、そうだね。アドルフさんがお父さんになってくれるなら、私も嬉しい。……仮だけどね」
 二人きりの旅じゃないのは残念だけど、それは15歳になってからでもいいや。

 神父様は教会の子、みんなのお父さんだけど、アドルフさんは私達だけのお父さんになるんだって思ったら、三人家族の旅も楽しみになってきた。

「そう……、なら良かったよ。じゃあ話しはこれでおしまいだ。二人共怪我がなくてよかったよ」

「はい、おやすみなさい、神父様」
 私は挨拶して、ブラウニーは無言でペコリと頭を下げて退出しようとした時、

「あ、そうだ。神父様。街への道ですが。できたらお祓いを新しくしてください。チビたちもあそこ通るんで」
 ブラウニーが足を止めて言った。

「うん、いいよ。そうだね。そうしよう。でもね。…これは本当の事なんだけどね。つい最近お祓いしたばっかりなんだよね。もちろん手は抜いてないよ。不思議だね」
 神父様は口元だけで微笑んだ。

 ぞくり。

 背筋に鳥肌が立った。
 神父様はあの威圧っぽい事は今してない。なのに肌寒い。

「不思議だね、偶然だね。……そういう運命だったんだろうね」
 ――どうして。どうしてそんな言い方。

 私が神父様を見て固まっていると、
「失礼します」
 ブラウニーが、さっと私の手を引っ張って、退出した。


※※※

 二人でなんとなく歩いて、教会で飼ってる鶏小屋の前まで来た。
 寒い夜の星空の下、二人きり。
 ……普段ならロマンチック、とかって思うのだけど……神父様との話しでテンションが上がらないでいた。

 近くの柵に並んで腰掛ける。息が白い。
 神父様の部屋を出てから無表情で無言だったブラウニーが口を開いた。

「なあ、プラム。神父様はここのところ……オレへの態度、変わったよな」
 ブラウニーは少し俯いた。
「うん……どうしちゃったんだろう」
 私は肯定した。

「実は……」
 珍しく言いにくそうにしてる。
「ん?」
「……敵意を感じるんだ」

 敵意。

 確かにそうだ。あれは敵意が含ふくまれてる態度だ。

 なんで…?
 赤ちゃんのころからブラウニーのこと育ててきてくれたのに。
 神父様も人だから、なにかがブラウニーとそりが合わない事がでてきたのかな…。

「父親だと思って……慕ってた」
「……ブラウニー」
 ブラウニーが、俯いたまま私の肩に頭を預けてきた。
 そりゃ傷つくよね……。

 昔の神父様なら、今日の私達を、抱きしめて怖かったね、よくできたね……とか。
 優しく包んでくれたと思う。
 ブラウニーにとっても私にとっても、今まで心の拠り所だった。

「私にも喋り方が段々と雑になってる気がするのよね……」
「……。プラムに対して雑になってるのは……」
 なにかわかってそうな顔をしたけど口ごもるブラウニー。

「え、なに? 思い当たるなら教えてよ」
「いや、わからん」
 ごまかした! 私にはなんでも話せって言うくせに!

「プラム。アドルフさんに早めに引き取ってもらわないか? 保護者ができたなら、12歳にならなくてもここを出れるだろ」
「え?」
「……アドルフさんが了承してくれるなら、オレはもう教会を出たいと思う。……お前は神父様に色々習ってるから難しいか?」

「えっと…不安は残らないわけじゃないけど、多分大丈夫。いずれは新しい師を得るか、自分で勝手に強くなって、とか言われてるし……」

「適当だな!」
「だよね……。うん、いいんじゃないかな。アドルフさんに相談してみよ?」
 ブラウニーのこんな落ち込んだ顔見たくないし。

「そう考えたらすっごく楽しみ、三人で暮らしてみたい。普通の家族みたいじゃない?」
「おう。そうだな。……サンキュ、プラム」
 よかった、まだちょっと元気ないけど、ブラウニーが笑顔になった。

 私達はその後、しばらく星を眺めた後、子供部屋に戻った。
 消灯時間過ぎてたのにチビたちが私達を待ってて起きてて、私達の顔を見たら安心したように寝た。

 ……さっきの自分の発言を少し後悔した。
 いずれバラバラになるとはいえ、皆、大切な家族なのにね。
 新しい未来のことばかり考えてた。
 でも。

 私も……ベッキーみたいに今まで年長さんを送り出した時は、いつも寂しかったけど
 いつまでも皆一緒ではいられないんだってその度に悟った。

 それは必要なことだったと思う。
 今度はそれがこの子たちの番なんだね。

 ――神様。
 どうかこの子達の将来に幸がありますように。

 懺悔も兼ねて、そう祈りながらその日は寝た。
 でも神様は聞いてくれなかったようだ。

 その日の夢見は最悪だった。


※※※


 ――明かりの消えた暗い部屋。その窓際に座っている神父様。
 ――グラスを口に運びながら満月を眺めている。

 ――呟く。
「ああ、ブラウニー…」

 ――歪んだ笑顔を浮かべる。
「できることなら早く消されてくれないかなぁ……消えるよね?」

 こっちを見て、笑った気がした。
 ――その瞳は赤かった。

「……っ!」
 私は真っ青になって飛び起きた。
「はあっ……はあ、はあ……」

 子ども部屋の窓にはさっき夢で見たのと同じ満月が見える。
 隣のベッドのブラウニーに目をやる。
 疲れてるのか、ぐっすり寝てる。

 ――いまの……夢は、何。

 ……だ、だめ、だめ。約束したから。気にしない!

 私はガバっと布団を被って自分に眠れる魔法をかけた。
 朝になったらこんな夢忘れてますように!



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