10 / 10
最終話 ロミオメールが届かなくなりましたが、それはさておき、リア充します!
しおりを挟む
「すばらしい歌劇だったわ」
「僕も久しぶりに、こんなに完成度の高い舞台を見たよ」
アレクシアとアレックスは予約したレストランで向かい合わせに座り、料理が届くまでの間、観劇の余韻に浸りながら談笑していた。
故郷の劇場で、役者達の美しい歌声と熱演に魅せられたアレクシアは、心から感動していた。
「(……アレックスが隣にいたから、余計に楽しかったのかもしれないわ)」
グラスの水を一口したあと、チラ、と上目遣いでアレックスを見ると、彼もまた優しい瞳でこちらを見つめていた。
その視線に心がじんわりと温まった。
「(彼とのこんな優しい時間がずっと続くといいのに)」
アレクシアはふと目を伏せ、店内に響くピアノの旋律に耳を傾けた。
「アレクシア、お願いがあるんだけど」
彼女がグラスに触れていた手を、アレックスの手がそっと包んだ。
その温もりに思わず視線を上げると、彼の表情はどこか真剣だった。
「え……な、なにかしら」
――テーブルにはいつの間にか、開かれた指輪ケースが置かれていた。
「この指に、この指輪をはめても……いいだろうか」
指輪は、バラを模した繊細な装飾に、サファイアがきらめく美しい一品だった。
「と、とても綺麗な指輪だわ……」
アレクシアは、心臓が高鳴る音が相手に聞こえそうで、思わず息を飲む。
「君は、田舎での暮らしを大切にしているから、告白するか悩んだ。けれど、もし良ければ僕と共に暮らす未来を考えてはくれないだろうか? 僕は君に会ううちに、友達以上の感情を抱いてしまった。好きだ――アリス。良ければ婚約を前提に今後は会って欲しい」
アレクシアは、レストラン内の音すべてが聞こえなくなった気がした。
「(告白されるって……こんなに緊張するものなのね)」
アレックスは、アレクシアが自由に暮らしたいという気持ちを尊重してくれているのだろう、遠慮がちだ。
「(この人は、私を尊重してくれる……)」
たしかに、領主の息子に嫁いだら今のような気ままな暮らしは無理だろう。
けれどそれは公爵令嬢や、王太子の婚約者であった時との不自由さとはきっと違う。
なにより、アレクシアも、アレックスのことが大好きだ。
彼とずっといたい。
――今、そうはっきりと自覚した。
「嬉しいわ、アレックス。こんなにも私のことを考えてくれて。私もあなたが大好きです。……指輪をはめて頂けますか?」
気がつけば、お互い、すこし手が震えていた。
それに同時に気がついて、顔を見合わせて吹き出した。
翌日、二人はアレクシアの実家へそのまま婚約の報告を行った。
アレックスは身分的に問題はなく、何より婚約破棄にあった経歴に傷あるアレクシアが隣国辺境伯の跡取りに嫁ぐことは、公爵家としても歓迎できる事柄だった。
アレックスの両親へもベルクホルトへ帰ったあとに報告したが、大歓迎され、二人はその後、1年も経たずに結婚した。
◆
「……あれ?」
「どうしたの? アリス」
結婚して数ヶ月たった頃。
執務室で、手紙を仕分けしていたアレクシアは、ふと気づいたように顔を上げた。
「そういえば、ロミオットからの手紙が来なくなったと思って」
「ああ、あれね」
「そう、あれ。あ、そういえばジュリエティからも届かないわ」
そう言いながら、デスクで書類仕事をしているアレックスへ仕分けた手紙を手渡す。
手紙を受け取りながらアレックスは、ウインクした。
「ジュリエティなら、施設で出会った男性と結婚したみたいだよ」
「えっ」
「それなりに幸せだと報告を受けているから、おそらくジュリエティからの手紙はもう届かないと思う。それとロミオット殿下……いや、もうただのロミオットだね。彼のほうは推測なんだけど――君の次に婚約していたマーキュリア公爵令嬢が我が国の第一王子と婚約することになったらしくて。なんとなくだけど……手紙の宛先がマーキュリア令嬢になってるんじゃないかな?」
「まあ!? そんなこと知ってたなら教えてほしかったわ!?」
ぷん、と頬を膨らませるアレクシアを、アレックスは優しく引き寄せた。
「――彼らからの手紙を見るたびに君がイライラしていたからね。忘れているならそれでいいかと思ったんだ」
抱き寄せられたアレクシアは、赤くなりながら視線をそらす。
「そ、それなら仕方ないですわね」
確かに、最初に知り合った頃から、あの手紙を見て癇癪する姿をアレックスに見せていた。
それにしても、あんな癇癪を起こす私を見てよく好きになってくれたわ、とアレクシアは不思議に思ってアレックスに聞いた。
すると、アレックスは、
「だってそんな姿も、可愛かったから」
とにっこりわらって、彼女の頬にキスをするのだった。
【君はオレのDeathティニー】元婚約者からロミオメールが届きますがそれはともかくリア充します! ー終わりー
「僕も久しぶりに、こんなに完成度の高い舞台を見たよ」
アレクシアとアレックスは予約したレストランで向かい合わせに座り、料理が届くまでの間、観劇の余韻に浸りながら談笑していた。
故郷の劇場で、役者達の美しい歌声と熱演に魅せられたアレクシアは、心から感動していた。
「(……アレックスが隣にいたから、余計に楽しかったのかもしれないわ)」
グラスの水を一口したあと、チラ、と上目遣いでアレックスを見ると、彼もまた優しい瞳でこちらを見つめていた。
その視線に心がじんわりと温まった。
「(彼とのこんな優しい時間がずっと続くといいのに)」
アレクシアはふと目を伏せ、店内に響くピアノの旋律に耳を傾けた。
「アレクシア、お願いがあるんだけど」
彼女がグラスに触れていた手を、アレックスの手がそっと包んだ。
その温もりに思わず視線を上げると、彼の表情はどこか真剣だった。
「え……な、なにかしら」
――テーブルにはいつの間にか、開かれた指輪ケースが置かれていた。
「この指に、この指輪をはめても……いいだろうか」
指輪は、バラを模した繊細な装飾に、サファイアがきらめく美しい一品だった。
「と、とても綺麗な指輪だわ……」
アレクシアは、心臓が高鳴る音が相手に聞こえそうで、思わず息を飲む。
「君は、田舎での暮らしを大切にしているから、告白するか悩んだ。けれど、もし良ければ僕と共に暮らす未来を考えてはくれないだろうか? 僕は君に会ううちに、友達以上の感情を抱いてしまった。好きだ――アリス。良ければ婚約を前提に今後は会って欲しい」
アレクシアは、レストラン内の音すべてが聞こえなくなった気がした。
「(告白されるって……こんなに緊張するものなのね)」
アレックスは、アレクシアが自由に暮らしたいという気持ちを尊重してくれているのだろう、遠慮がちだ。
「(この人は、私を尊重してくれる……)」
たしかに、領主の息子に嫁いだら今のような気ままな暮らしは無理だろう。
けれどそれは公爵令嬢や、王太子の婚約者であった時との不自由さとはきっと違う。
なにより、アレクシアも、アレックスのことが大好きだ。
彼とずっといたい。
――今、そうはっきりと自覚した。
「嬉しいわ、アレックス。こんなにも私のことを考えてくれて。私もあなたが大好きです。……指輪をはめて頂けますか?」
気がつけば、お互い、すこし手が震えていた。
それに同時に気がついて、顔を見合わせて吹き出した。
翌日、二人はアレクシアの実家へそのまま婚約の報告を行った。
アレックスは身分的に問題はなく、何より婚約破棄にあった経歴に傷あるアレクシアが隣国辺境伯の跡取りに嫁ぐことは、公爵家としても歓迎できる事柄だった。
アレックスの両親へもベルクホルトへ帰ったあとに報告したが、大歓迎され、二人はその後、1年も経たずに結婚した。
◆
「……あれ?」
「どうしたの? アリス」
結婚して数ヶ月たった頃。
執務室で、手紙を仕分けしていたアレクシアは、ふと気づいたように顔を上げた。
「そういえば、ロミオットからの手紙が来なくなったと思って」
「ああ、あれね」
「そう、あれ。あ、そういえばジュリエティからも届かないわ」
そう言いながら、デスクで書類仕事をしているアレックスへ仕分けた手紙を手渡す。
手紙を受け取りながらアレックスは、ウインクした。
「ジュリエティなら、施設で出会った男性と結婚したみたいだよ」
「えっ」
「それなりに幸せだと報告を受けているから、おそらくジュリエティからの手紙はもう届かないと思う。それとロミオット殿下……いや、もうただのロミオットだね。彼のほうは推測なんだけど――君の次に婚約していたマーキュリア公爵令嬢が我が国の第一王子と婚約することになったらしくて。なんとなくだけど……手紙の宛先がマーキュリア令嬢になってるんじゃないかな?」
「まあ!? そんなこと知ってたなら教えてほしかったわ!?」
ぷん、と頬を膨らませるアレクシアを、アレックスは優しく引き寄せた。
「――彼らからの手紙を見るたびに君がイライラしていたからね。忘れているならそれでいいかと思ったんだ」
抱き寄せられたアレクシアは、赤くなりながら視線をそらす。
「そ、それなら仕方ないですわね」
確かに、最初に知り合った頃から、あの手紙を見て癇癪する姿をアレックスに見せていた。
それにしても、あんな癇癪を起こす私を見てよく好きになってくれたわ、とアレクシアは不思議に思ってアレックスに聞いた。
すると、アレックスは、
「だってそんな姿も、可愛かったから」
とにっこりわらって、彼女の頬にキスをするのだった。
【君はオレのDeathティニー】元婚約者からロミオメールが届きますがそれはともかくリア充します! ー終わりー
15
お気に入りに追加
12
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください
楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。
ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。
ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……!
「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」
「エリサ、愛してる!」
ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

夫の書斎から渡されなかった恋文を見つけた話
束原ミヤコ
恋愛
フリージアはある日、夫であるエルバ公爵クライヴの書斎の机から、渡されなかった恋文を見つけた。
クライヴには想い人がいるという噂があった。
それは、隣国に嫁いだ姫サフィアである。
晩餐会で親し気に話す二人の様子を見たフリージアは、妻でいることが耐えられなくなり離縁してもらうことを決めるが――。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

夫が愛していたのは別の女性でした~堂々と不倫をする夫は断罪致します~
空野はる
恋愛
愛のある結婚は偽りでした。
夫は別の女性と堂々と不倫をして、挙句の果てには家に帰ってこなくなりました。
そんなある日、不倫相手の一人が家を訪ねてきて……

【完結】あわよくば好きになって欲しい(短編集)
野村にれ
恋愛
番(つがい)の物語。
※短編集となります。時代背景や国が違うこともあります。
※定期的に番(つがい)の話を書きたくなるのですが、
どうしても溺愛ハッピーエンドにはならないことが多いです。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる