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第八話 星の下で君の名を~エピローグに代えて
星の下で君の名を(10)
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「えっ、何か言ったかい?」
小さな声が聞こえた気がして、蓮は己の耳に手のひらをかざした。
「その、床上浸水のことなんですけど……」
「ええっ、俺のボロ屋が何だっていうんだい?」
せっかく芋けんぴのおかげで元気を取り戻したところなのにと、蓮の声がまた沈みかける。
梗一郎はまた台風被害の話題を持ち出そうとしているのだろうか。
不意にスマートフォンのライトが灯った。
「……家、狭いですけど」
「えっ、何?」
問い直すと、またライトが消える。
「僕の家に来たらいいじゃないですか」
「何が?」
点いたり消えたり。
ライトは落ち着きない。
「先生が。僕の家に。避難して来られたらいいかなって。あっ、もちろんアパートの修繕が終わるまでの話ですよ」
もちろん、修繕が終わってからもずっといてもらっても──ゴニョゴニョと歯切れ悪い呟きを、蓮が「わあっ!」と遮った。
「ダメだよ。学生さんのおうちにご厄介になるなんて」
「先生の好きなオムレツ作れるように練習しますよ?」
「オムレツ? いや、だからと言って……」
「お付き合いしてるのに?」
「おつき……ダ、ダメだよ! 余計ダメだって」
「キスもしてるのに?」
「キッ……?」
声を詰まらせ、それから蓮は大きく息を吸う。吐く。
「あれは……君が、その……何て言うか、その……強引に?」
「すみません……」
「あ、謝らなくていいから! その、俺もドキドキしたし。嬉しかっ……たし?」
チラと見上げたものの、暗くて梗一郎の表情は分からない。
スマートフォンのライトは消えていた。
「それなら、先生……」
「な、何だい?」
蓮は両手で頬を覆った。
熱い。
多分、真っ赤になっているに違いない。
キャンプ場の夜の暗さが幸いだ。
相手の顔が見えないということは、こちらの顔も見られていないということなのだから。
小さな声が聞こえた気がして、蓮は己の耳に手のひらをかざした。
「その、床上浸水のことなんですけど……」
「ええっ、俺のボロ屋が何だっていうんだい?」
せっかく芋けんぴのおかげで元気を取り戻したところなのにと、蓮の声がまた沈みかける。
梗一郎はまた台風被害の話題を持ち出そうとしているのだろうか。
不意にスマートフォンのライトが灯った。
「……家、狭いですけど」
「えっ、何?」
問い直すと、またライトが消える。
「僕の家に来たらいいじゃないですか」
「何が?」
点いたり消えたり。
ライトは落ち着きない。
「先生が。僕の家に。避難して来られたらいいかなって。あっ、もちろんアパートの修繕が終わるまでの話ですよ」
もちろん、修繕が終わってからもずっといてもらっても──ゴニョゴニョと歯切れ悪い呟きを、蓮が「わあっ!」と遮った。
「ダメだよ。学生さんのおうちにご厄介になるなんて」
「先生の好きなオムレツ作れるように練習しますよ?」
「オムレツ? いや、だからと言って……」
「お付き合いしてるのに?」
「おつき……ダ、ダメだよ! 余計ダメだって」
「キスもしてるのに?」
「キッ……?」
声を詰まらせ、それから蓮は大きく息を吸う。吐く。
「あれは……君が、その……何て言うか、その……強引に?」
「すみません……」
「あ、謝らなくていいから! その、俺もドキドキしたし。嬉しかっ……たし?」
チラと見上げたものの、暗くて梗一郎の表情は分からない。
スマートフォンのライトは消えていた。
「それなら、先生……」
「な、何だい?」
蓮は両手で頬を覆った。
熱い。
多分、真っ赤になっているに違いない。
キャンプ場の夜の暗さが幸いだ。
相手の顔が見えないということは、こちらの顔も見られていないということなのだから。
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