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第七話 あなたとともに、ずっと
あなたとともに、ずっと(5)
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「……待ってよ」
突如、恐怖が全身を包んだ。
何かをつかもうにも、冷えた手足は言うことを聞いてくれない。
──このまま死ぬなんてことあるのかな?
実感など沸かない。
だが、危機感だけは募った。
つい二か月ほど前だったか、梗一郎やモブ子らと、ここでちゃぶ台を囲んでアンケート集計をやったのが遠い昔のことのようだ。
そのあと梗一郎の社員割引きを当てにして食器を買いに行って。
ああ、風邪気味だった自分は倒れてしまって彼にここまで送ってもらったのだ。
好きと言われてキスをされ……。
──待って。俺、なんでこの局面でこんなこと思い出してるんだい? これって何なんだい? まさか、走馬燈ってやつ……?
目の前が真っ白になった瞬間。
気のせいだろうか。
声が聞こえた。
誰かがの自分の名を呼んだ気がしたのだ。
「だれ……?」
返事はない。
そのかわり、ぐいと腕をつかまれた。
足元に溜まる泥水のなかに座り込んでいたのを引き上げられる。
泳ぐ視線が一点で止まったのは、そこに会いたかったその人を認めたから。
「……きょういちろう?」
薄茶色の髪は濡れて、額に貼りついている。
同じ色をした双眸は驚きと焦燥に細められていた。
唇が動いて何かを紡いでいる。
「おかしいなぁ、おかしいなぁ……」
蓮の呟きに、握る腕の力は強くなった。
「おかしいなぁ。君のことばかり考えちゃうんだ。何でだろうね……」
頬に触れた指が、そっと目元を拭ってくれた。
「おかしいなぁ。君に会いたくて、うーばーいーつを頼んでみたんだよ。全然別の人が来たんだけど。あの荒物屋に行ってみようかなって思ったりもして。でも迷惑かけたり、嫌がられたらどうしようって……」
間近に迫る端正な顔、ゆっくり動く口元を蓮はただぼんやりと見つめる。
やがて、その声が耳に届いた。
「それって、僕のことが好きってことですよね」
いつもの落ち着いた声は、今は少々上ずっている。
両手で蓮の頬を包んでいるのは、小野梗一郎だ。
突如、恐怖が全身を包んだ。
何かをつかもうにも、冷えた手足は言うことを聞いてくれない。
──このまま死ぬなんてことあるのかな?
実感など沸かない。
だが、危機感だけは募った。
つい二か月ほど前だったか、梗一郎やモブ子らと、ここでちゃぶ台を囲んでアンケート集計をやったのが遠い昔のことのようだ。
そのあと梗一郎の社員割引きを当てにして食器を買いに行って。
ああ、風邪気味だった自分は倒れてしまって彼にここまで送ってもらったのだ。
好きと言われてキスをされ……。
──待って。俺、なんでこの局面でこんなこと思い出してるんだい? これって何なんだい? まさか、走馬燈ってやつ……?
目の前が真っ白になった瞬間。
気のせいだろうか。
声が聞こえた。
誰かがの自分の名を呼んだ気がしたのだ。
「だれ……?」
返事はない。
そのかわり、ぐいと腕をつかまれた。
足元に溜まる泥水のなかに座り込んでいたのを引き上げられる。
泳ぐ視線が一点で止まったのは、そこに会いたかったその人を認めたから。
「……きょういちろう?」
薄茶色の髪は濡れて、額に貼りついている。
同じ色をした双眸は驚きと焦燥に細められていた。
唇が動いて何かを紡いでいる。
「おかしいなぁ、おかしいなぁ……」
蓮の呟きに、握る腕の力は強くなった。
「おかしいなぁ。君のことばかり考えちゃうんだ。何でだろうね……」
頬に触れた指が、そっと目元を拭ってくれた。
「おかしいなぁ。君に会いたくて、うーばーいーつを頼んでみたんだよ。全然別の人が来たんだけど。あの荒物屋に行ってみようかなって思ったりもして。でも迷惑かけたり、嫌がられたらどうしようって……」
間近に迫る端正な顔、ゆっくり動く口元を蓮はただぼんやりと見つめる。
やがて、その声が耳に届いた。
「それって、僕のことが好きってことですよね」
いつもの落ち着いた声は、今は少々上ずっている。
両手で蓮の頬を包んでいるのは、小野梗一郎だ。
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