上 下
94 / 115
第七話 あなたとともに、ずっと

あなたとともに、ずっと(5)

しおりを挟む
「……待ってよ」

 突如、恐怖が全身を包んだ。
 何かをつかもうにも、冷えた手足は言うことを聞いてくれない。

 ──このまま死ぬなんてことあるのかな?

 実感など沸かない。
 だが、危機感だけは募った。

 つい二か月ほど前だったか、梗一郎やモブ子らと、ここでちゃぶ台を囲んでアンケート集計をやったのが遠い昔のことのようだ。
 そのあと梗一郎の社員割引きを当てにして食器を買いに行って。
 ああ、風邪気味だった自分は倒れてしまって彼にここまで送ってもらったのだ。
 好きと言われてキスをされ……。

 ──待って。俺、なんでこの局面でこんなこと思い出してるんだい? これって何なんだい? まさか、走馬燈ってやつ……?

 目の前が真っ白になった瞬間。


 気のせいだろうか。
 声が聞こえた。
 誰かがの自分の名を呼んだ気がしたのだ。

「だれ……?」

 返事はない。
 そのかわり、ぐいと腕をつかまれた。
 足元に溜まる泥水のなかに座り込んでいたのを引き上げられる。

 泳ぐ視線が一点で止まったのは、そこに会いたかったその人を認めたから。

「……きょういちろう?」

 薄茶色の髪は濡れて、額に貼りついている。
 同じ色をした双眸は驚きと焦燥に細められていた。
 唇が動いて何かを紡いでいる。

「おかしいなぁ、おかしいなぁ……」

 蓮の呟きに、握る腕の力は強くなった。

「おかしいなぁ。君のことばかり考えちゃうんだ。何でだろうね……」

 頬に触れた指が、そっと目元を拭ってくれた。

「おかしいなぁ。君に会いたくて、うーばーいーつを頼んでみたんだよ。全然別の人が来たんだけど。あの荒物屋に行ってみようかなって思ったりもして。でも迷惑かけたり、嫌がられたらどうしようって……」

 間近に迫る端正な顔、ゆっくり動く口元を蓮はただぼんやりと見つめる。
 やがて、その声が耳に届いた。

「それって、僕のことが好きってことですよね」

 いつもの落ち着いた声は、今は少々上ずっている。
 両手で蓮の頬を包んでいるのは、小野梗一郎だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎

亜沙美多郎
BL
本編完結!番外編も無事完結しました♡ 「私立秀麗学園高校ホスト科」とは、通常の必須科目に加え、顔面偏差値やスタイルまでもが受験合格の要因となる。芸能界を目指す(もしくは既に芸能活動をしている)人が多く在籍している男子校。 そんな煌びやかな高校に、中学生まで虐められっ子だった僕が何故か合格! 更にいきなり生徒会に入るわ、両思いになるわ……一体何が起こってるんでしょう……。 これまでとは真逆の生活を送る事に戸惑いながらも、好きな人の為、自分の為に強くなろうと奮闘する毎日。 友達や恋人に守られながらも、無自覚に周りをキュンキュンさせる二階堂椿に周りもどんどん魅力されていき…… 椿の恋と友情の1年間を追ったストーリーです。 .₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇ ※R-18バージョンはムーンライトノベルズさんに投稿しています。アルファポリスは全年齢対象となっております。 ※お気に入り登録、しおり、ありがとうございます!投稿の励みになります。 楽しんで頂けると幸いです(^^) 今後ともどうぞ宜しくお願いします♪ ※誤字脱字、見つけ次第コッソリ直しております。すみません(T ^ T)

浮気な彼氏

月夜の晩に
BL
同棲する年下彼氏が別の女に気持ちが行ってるみたい…。それでも健気に奮闘する受け。なのに攻めが裏切って…?

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

【完結】もう一度恋に落ちる運命

grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。 そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…? 【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】 ※攻め視点で1話完結の短い話です。 ※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

俺のソフレは最強らしい。

深川根墨
BL
極度の不眠症である主人公、照国京は誰かに添い寝をしてもらわなければ充分な睡眠を得ることができない身体だった。京は質の良い睡眠を求め、マッチングサイトで出会った女の子と添い寝フレンド契約を結び、暮らしていた。 そんなある日ソフレを失い困り果てる京だったが、ガタイの良い泥棒──ゼロが部屋に侵入してきた!  え⁉︎ 何でベランダから⁉︎ この部屋六階なんやけど⁉︎ 紆余曲折あり、ゼロとソフレ関係になった京。生活力無しのゼロとの生活は意外に順調だったが、どうやらゼロには大きな秘密があるようで……。 ノンケ素直な関西弁 × 寡黙で屈強な泥棒(?) ※処女作です。拙い点が多いかと思いますが、よろしくお願いします。 ※エロ少しあります……ちょびっとです。 ※流血、暴力シーン有りです。お気をつけください。 2022/02/25 本編完結しました。ありがとうございました。あと番外編SS数話投稿します。 2022/03/01 完結しました。皆さんありがとうございました。

処理中です...