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第七話 あなたとともに、ずっと
あなたとともに、ずっと(3)
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その時だ。
蓮の額を頬を、水飛沫が叩いた。
同時にひょろりと頼りない体躯がその場で泳ぐ。
口は大きく開いていた。
おそらく悲鳴をあげているのだろうが、風の唸り声がその声を消してしまう。
暴風に押されるように窓枠が外れたのだ。
ゴウと凄まじい音をたてて突風が吹きこんできた。
ガラスが割れなかったのは幸いである。
風に乗って破片が飛んできたら下手をすれば大怪我をしていただろう。
「あ……わ、わ、わ……」
声にならない悲鳴が微かに聞こえた。
わずか一秒で蓮の全身は濡れそぼる。
狭い部屋はたちまちのうちにシャワールームと化した。
「ハンカチ……いや、バスタオル。いや、それよりも」
──逃げよう!
蓮がそう決意したのは、おたおたする彼の足元で水がチャプチャプと音をたてはじめたからだ。
窓から吹き込む雨だけではない。
浸水しているのだ。
あまりの雨量に、排水が間に合わなかったのだろう。
土の色をした水がくるぶしのあたりにせり上がってきて、蓮は初めて恐怖を覚える。
「に、逃げよう!」
叫んだのは、ともすれば恐怖に竦みそうになる自分を奮い立たせるためだ。
──でも、逃げるってどこに?
二階のおばあさんのところ?
いや、このアパート自体が危ない気がする。
だからって雨風きつい外へ飛び出すのも……。
玄関に向かって足を一歩踏み出しては戻り、躊躇は次第に恐怖に塗り替えられていく。
「せ、せめて……」
逃げるなら手ぶらで行くのは勿体ないと、貧乏性な思考が混乱に拍車をかけた。
蓮の額を頬を、水飛沫が叩いた。
同時にひょろりと頼りない体躯がその場で泳ぐ。
口は大きく開いていた。
おそらく悲鳴をあげているのだろうが、風の唸り声がその声を消してしまう。
暴風に押されるように窓枠が外れたのだ。
ゴウと凄まじい音をたてて突風が吹きこんできた。
ガラスが割れなかったのは幸いである。
風に乗って破片が飛んできたら下手をすれば大怪我をしていただろう。
「あ……わ、わ、わ……」
声にならない悲鳴が微かに聞こえた。
わずか一秒で蓮の全身は濡れそぼる。
狭い部屋はたちまちのうちにシャワールームと化した。
「ハンカチ……いや、バスタオル。いや、それよりも」
──逃げよう!
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窓から吹き込む雨だけではない。
浸水しているのだ。
あまりの雨量に、排水が間に合わなかったのだろう。
土の色をした水がくるぶしのあたりにせり上がってきて、蓮は初めて恐怖を覚える。
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叫んだのは、ともすれば恐怖に竦みそうになる自分を奮い立たせるためだ。
──でも、逃げるってどこに?
二階のおばあさんのところ?
いや、このアパート自体が危ない気がする。
だからって雨風きつい外へ飛び出すのも……。
玄関に向かって足を一歩踏み出しては戻り、躊躇は次第に恐怖に塗り替えられていく。
「せ、せめて……」
逃げるなら手ぶらで行くのは勿体ないと、貧乏性な思考が混乱に拍車をかけた。
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