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第五話 ひとりよがりに走る想い
ひとりよがりに走る想い(2)
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眠気はそろそろ限界である。
バイトに明け暮れているためばかりではない。
睡眠不足の理由はほかにもあった。
「先生にもらったボールペン」である。
これが鞄の中にないことに夕べ気付いたのだ。
ウサギとカエルのヘンテコなイラストが描かれているのだが、梗一郎にとっては大切なものだ。
蓮の部屋ほどではないが、梗一郎もまめに掃除をするタイプではない。
アパートの狭い室内は鞄や本、買い置きの日用品で溢れかえっていた。
家具の隙間に入ってしまったのだろうかと、夜中に家探ししたせいで夕べは夜更かしをしてしまったのである。
外では使っていない。
だから、家のどこかにあるはずだ。
仕方がない。続きは明日にしようと諦めて布団に入ったのは三時を過ぎていたっけ。
「ふぁぁああぁ……」
噛み殺すごとに漏れ出る欠伸。
五分でも構わない。
昼寝をしなくては、とても夕方までもたないだろう。
人に見つからないように気を付けながら裏庭に転がっていようと、梗一郎はスタッフ用通路にある扉をそろりと開けた。
「………………?」
霞む視界の向こうに人影を見つけ、梗一郎は開けた扉をそっと閉める──瞬間、その
動きが止まった。
裏庭には成人男性にしては少々小柄な影が、立ったり座ったりと実に不審な動きをしていたのだ。
あちらを向いているため顔は見えない。
しかし見覚えのある姿である。
右手を振り回しているのは、空中に文字を書いているのだろうか。
そうこうするまに、左手でその空間をつまむような仕草をしては両手で口元を覆っている。
そのたびに大きなリュックが背中で激しく揺れるのだ。
「……先生?」
小さな呟きは、嬉しさよりも不信感が強いことを示していた。
梗一郎の声に、その人物は可哀想なくらいビクリと全身を震わせる。
あげくピョンと木の影に隠れてしまった。
「……花咲先生、ですよね」
返事のつもりだろうか。「はぁぁっ!」なんて叫んでいる。
蓮の声に間違いない。
どうやら、会いたいがあまりの幻ではなさそうだ。
バイトに明け暮れているためばかりではない。
睡眠不足の理由はほかにもあった。
「先生にもらったボールペン」である。
これが鞄の中にないことに夕べ気付いたのだ。
ウサギとカエルのヘンテコなイラストが描かれているのだが、梗一郎にとっては大切なものだ。
蓮の部屋ほどではないが、梗一郎もまめに掃除をするタイプではない。
アパートの狭い室内は鞄や本、買い置きの日用品で溢れかえっていた。
家具の隙間に入ってしまったのだろうかと、夜中に家探ししたせいで夕べは夜更かしをしてしまったのである。
外では使っていない。
だから、家のどこかにあるはずだ。
仕方がない。続きは明日にしようと諦めて布団に入ったのは三時を過ぎていたっけ。
「ふぁぁああぁ……」
噛み殺すごとに漏れ出る欠伸。
五分でも構わない。
昼寝をしなくては、とても夕方までもたないだろう。
人に見つからないように気を付けながら裏庭に転がっていようと、梗一郎はスタッフ用通路にある扉をそろりと開けた。
「………………?」
霞む視界の向こうに人影を見つけ、梗一郎は開けた扉をそっと閉める──瞬間、その
動きが止まった。
裏庭には成人男性にしては少々小柄な影が、立ったり座ったりと実に不審な動きをしていたのだ。
あちらを向いているため顔は見えない。
しかし見覚えのある姿である。
右手を振り回しているのは、空中に文字を書いているのだろうか。
そうこうするまに、左手でその空間をつまむような仕草をしては両手で口元を覆っている。
そのたびに大きなリュックが背中で激しく揺れるのだ。
「……先生?」
小さな呟きは、嬉しさよりも不信感が強いことを示していた。
梗一郎の声に、その人物は可哀想なくらいビクリと全身を震わせる。
あげくピョンと木の影に隠れてしまった。
「……花咲先生、ですよね」
返事のつもりだろうか。「はぁぁっ!」なんて叫んでいる。
蓮の声に間違いない。
どうやら、会いたいがあまりの幻ではなさそうだ。
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