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第二話 あなたのぜんぶ

あなたのぜんぶ(5)

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 ヤレヤレとため息をつきながら広げたアンケート回答用紙は、ひとつひとつがかなり分厚い冊子になっている。

「日本史の用語認知度のアンケートなんだ。五十問からなる問いを集計していくんだよ」

「これは……蓮ちんよ、かなり面倒なお仕事のようですな」

「ごめんよ。俺もエクセルに打ちこんでいくだけだと思ってたんだけど、まず分類がややこしくて。しかも回答が記述式だから手間で……」

 蓮と梗一郎のノートパソコンだけで、座卓の上はいっぱいだ。
 湯呑代わりの茶碗と芋けんぴを畳に避難させて、モブ子らは回答用紙をパラパラめくっていた。

「蓮ちん、何でこんなの押しつけられてんの。そもそもBL学とは関係ないアンケじゃないか。やんわり断るとかできなかったのか?」

「うん……。学生のときからお世話になってる先生だから」

「人が好いな、蓮ちんは」

「ごめん……」

 好き放題言うモブ子らには、梗一郎の咳払いなど聞こえるはずもない。
 カタカタとキーボードを叩きながら猛スピードでアンケート用紙を繰っているのは、この空間で彼だけであった。

「ねぇ、蓮ちんがBL学に目覚めたきっかけは何だ? アタシらは、それがすごく気になっている」

 君たち、仕事してよね──なんて言いながら、蓮自身アンケート冊子の端を折りながら窓の外を彩るピンク色の花に視線をさまよわせている。

「大学のときに日本史を勉強してたんだけど。権力が武士に移っていく時代が興味深くて、卒論では保元の乱を取り上げようかなと思ってたんだよ。史学科の君たちなら、当然知ってるよね、保元の乱」

「あー、うん。まぁ?」
「薄々は……。なぁ?」
「まぁ、一応は。薄々」

「お、俺は今、君たちのことが心配になったよ!」

 まぁいいじゃないかなんて、あっさり丸め込まれるのは蓮の良いところといえるのだろうか。
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